68 母様出産
僕達が帰ってきたその夜に母様は産気づいた。待っていてくれたのか、えらいぞ、妹。
女性達が慌ただしく動き回っている。俺を含め男たちは、そわそわウロチョロするだけだった。
部屋の中から”逆子かもしれない”と言う声が聞こえた。
「えっ!逆子!大変じゃないか!」
僕は叫んでしまった。
「ケ、ケビン、さかごってなんだ?まずいのか?メルシーは、赤ちゃんは大丈夫なのか?」
「逆子とは本来赤ちゃんは頭から生まれてくるのだけど、足からでてくると、足が引っかかったり、赤ちゃんの息が出来なくなってしまう恐れがあるんだ。大丈夫かな?」
「メルシーーーー」
父様が部屋の中に入っていった。
部屋の中で父様と女性の声が聞こえてくるが何を話しているかわからない。姉様とお祖母様が僕たちに状況を話に来た。
「母様が、赤ちゃんが、うぅぅぅ」
お祖母様が泣いている姉様を抱きしめ、背中をさすっている。
「お祖母様、母様と赤ちゃんは?」
「今、産婆様とお父様がどうするか決めるわ」
「「「そ、そんな」」」
僕たちは何も出来ずにただ立ち尽くすだけだった。
「ケビン」
「父様?」
「お前は逆子のことを知っているのか?どうにかならないか」
僕は助産婦ではない。でもたしかハンドパワーではないが逆子をぐるっと直す神医者がいると前世の義姉が言っていたな。僕が魔力を這わせて直せるのか?
「父様、やってみます」
「ケビン?」
「とりあえずやってみます」
僕は部屋の中に入った。汗だくの母様。母様の手を取り励ました。
「母様、これから俺の魔力を這わせて、お腹の赤ちゃんに、妹に働きかけます。母様も一緒にお願いします」
「ケ、ケビン、はぁ、分かったわ。貴方に合わせればいいにね」
「はい、では、ふう、おーい、妹聞こえるか、俺が魔力を流すから一緒にその流れで動いてくれ。大丈夫か。行くぞ、妹」
僕の後ろで兄たちが、ケビンが妹って言っているよ、女なのか?ケビンは性別を分かっているのか、などごちゃごや言っている。
「おーい、妹、大丈夫か、気持ち悪くないか?母様は大丈夫ですか?」
「私は大丈夫よ。ケビンの魔力が分かるわ。流れに合わせるわ」
「おっ、妹、流れに合わせてきた。そうそううまいぞ。もう少し、もう少しだ。よし、よく頑張った。母様、母様、呼吸を合わせてこれから一緒にいきみましょう。まだですよ。妹もいいかい?一緒にヒッヒッフーだからね。フーでいきんでね。呼吸が合ってきた、それではヒッ、ヒッ、フー」
「フーー」
汗が流れる。姉様が僕を、父様が母様の汗を拭いてくれる。
「ありがとう、姉様。はい、もう一度、呼吸を合わせて、いいかい、妹、いくよー、ヒッ、ヒッ、フー」
「産婆のおばあちゃん、どう?」
「ケビン坊や、いいよ、それでもう一回」
「はい!では、みんなでヒッヒッフーだよ。いい?みんな呼吸を合わせて、それヒッ、ヒッ、フー、母様、妹、いきんで!」
ん?妹はいきまなくていいのか?間違ったー。周りのみんなも一緒に呼吸を合わせた。側から見たら面白いだろうなぁと思ってしまった。
「ふぇ、ふぇ、ふぎゃー」
元気な産声が聞こえた。あー、産まれたぁ。
「元気、女の子が産まれましたよ」
産婆さんが綺麗にしてくれ、母様に抱かせた。父様は母様にべったり。泣いている父様。
「メルシー、よく頑張った、本当によく頑張った。可愛い女の子だ。本当に可愛い女の子だ、ありがとう」
父様、大泣きしている。
「「ケビン、よく頑張ったな、よくやった」」
僕は兄様達に褒められた。
「ケビン、こっちきて、本当にありがとう。本当に妹が産まれてきたわよ」
「母様、お疲れ様です。ふふふっ、可愛いですね。俺の妹だ。ちっちゃい手。母様、俺の手を握ったよ。ほらっ!かわいい」
「ケビン!」
「ん?」
「俺ではないでしょ!さっきも俺と言っていたわね?」
しまった、俺というのを封印していたのに咄嗟に出てしまった。母様、あんな状態でも聞こえていたの?聞き逃してくれないの?
「すみません、ぼ、僕です」
みんなが笑っている。あー、でもよかった。無事生まれてきてくれてよかった。疲れた。そして、眠い。ヘナヘナって床に寝転んだ。
「「「ケ、ケビン!!」」」
みんなが駆け寄り、兄様が抱き上げてくれた。
「ねむいです。あー、今日は月が綺麗ですね。満月だ。魔力が満ち溢れている」
みんながガクッと肩を落とした瞬間だった。もう眠くて無理。今日帰ってきたばかりだよ。
「わはははは、ケビンはよく頑張ったな。そして眠いよな」
安定のお祖父様だけは元気だ。みんな帰ってきたばかりと出産の疲れでクタクタだった。
「皆さん、私がケビン君を部屋まで寝かせに行きますよ。皆さんは赤ちゃんのお世話などしてください」
ゼーファン様が俺を連れていってくれるのか。眠くて眠くて目が開けられない。
「ゼーファン義兄様、すみません。よろしくお願いします」
「フフッ、ケビン君よく頑張ったね。君の魔力はすごいよ」
そして、僕はぐっすり昼過ぎまで寝ていた。あー、よく寝た。母様と妹は元気かな。あれから体調を崩していないかな。心配だ!すぐ着替えて母様のところに向かった。
「母様!体大丈夫ですか?」
「ケビン、あなたはもう。こっちにいらっしゃい。体は大丈夫よ。あなたが用意したポーションで体力など全て回復したわよ。ありがとう。そしてこの子の肌着など用意してありがとう。可愛い刺繍ね、よくできているわ、この肌着。気持ちよさそうよ。そして、このおむつというの?産婆さんが驚いていたわよ。この子は快適に寝ているわ。ロナウドもこれは商売になるなんて言っているわよ。また忙しくなるのかしらねぇ」
「どうでしょうね?それはロナウド兄様に丸投げです」
「もうケビンは。ルーク、ケビンにこの子を抱っこさせてあげたいわ」
「あぁ、ほらケビン、お前が言っていた妹だ。抱っこしてみなさい」
さすが父様、抱っこに慣れているのか?やはりぎこちないか。
「ケビン、このベッドに上がってきて抱っこしてちょうだい」
僕は母様の隣に座り、父様から妹を受け渡された。
「うわぁ、小さい、お兄ちゃんだよ!。兄様達も抱っこしたのですか?」
「えぇ、抱っこしたわよ。ぎこちなかったけどね。ジュリも抱っこしたわよ」
みんな抱っこしたんだ。可愛いなぁ。女の子はやっぱりかわいい。みんなデレデレだよ。
それからみんなが部屋に集まり、赤ちゃんを取り囲んだ。
そういえば名前は何?




