58 父様来たる
父様が早馬で疲れ切ってやってきた。だいぶ飛ばしてきたみたいだ。お馬さんにポーションでもあげておこう。お疲れ様。
父様には早速お風呂に入ってもらった。疲れを癒してから話をした方がいいからね。頑張れ父様。
そして、昨日は大人達で盛り上がったみたいだ。大人って!そこで僕的にはやらかしてはいないと思っているが、みんなが僕のやらかし具合を父様にチクッ、いや報告していたらしい。
朝食を食べてから父様にこってり絞られた。逃れられると思ったのにな。
「イーサン達から聞いた。母様が作った種をここに植える話。そうだな、ここは状況が壊滅的だ。母様の種を植えよう。母様のスキルは言わないまでも、種を渡して育ててもらおう。そして代々種籾を受け継いでいけば、ずっと実りあるものが作られるだろう。まぁ、怠ればそれで終わりだが、それはその時の領主の手腕だ。こればかりは何とも言えない」
そうだよな、当主次第で良くも悪くもなる。言えることは代々、この種籾を大事にしていって欲しいとだけだ。トーマス様達なら察してくれるだろうが、今後継いでいくうちに、話が薄れていくのだろうなぁ。しっかりと書物に書き留めて、家訓としてくれればいいと思う。〇〇家、家訓!とね。
「それから、ここのヒツジーゼの毛を卸して欲しいのか。快適綿と混ぜ合わせれば確かに安価で領民にも行き渡る」
「そうです。ここには羊毛を紡ぐ魔道具があるので、わざわざうちが作らなくても、魔道具を貸し出しもしくは安く売ってくれないですかね?あと草木染めで色をつければバッチリです」
「何がバッチリです、だ!紡ぐ魔道具か。そうだな、安く売ってもらえるように交渉しよう。それと靴下のことを聞いた。うちが特許を出すことにしよう。そして作るのは辺境伯で良いか?ロナウドに聞いてみよう」
「そうですね、多分、靴下は売れますよ。ただ、うちの快適綿だと高くなりすぎるので、ヒツジーゼの毛で作った糸で作る方がいいかもしれません。もしくはうちは綿花を育てているので、それを活用して何か作りたいですね」
呆れた顔で父様が僕を見る。
「また何か作るのか?ほんと手一杯なんだぞ」
「やっぱり寝具が作りたいです。毎日寝るのですから、快適に寝たい。そして貴族なら高くてもいいものを欲しいと思います」
「そうだな、それを考えていこう。まぁ、うちは酒造りで手一杯だからそこは追々考えていこう言いたいのだがケビン、頼むからやらかさないでくれ」
「ひどいです。父様、でも利権問題だけはきちんとしないといけないので、契約書はキチンとしてくださいね」
「ケビン、お前は大人顔負けの意見だな。悪どい領主、利権問題なんて言葉は普通、子供からはでない言葉だぞ」
「む?これからは子供言葉で話します」
「いやいやいや、子供言葉で話されても困る。でも、今、やってみてくれないか?そのお前が考える子供言葉を」
「えっ、父様面白がっていますよね。じゃー、今から子供言葉で話しますよ。いきまーす。父様、糸紡ぎの魔道具がここにあるんだよ。それ買ってくだしゃい?ん?違う、買ってー、とうさま、おねかい。ぼく、欲しいなぁ。あと、もう早く帰りたいよ。トーマス様が縋るような目で見るから早く帰りたいよ。かえっていい?」
「ぶふっ、ケ、ケビン。あははは。何だか、ケビンが子供言葉は合わない気がする」
「えー、とうさま、ひどーい。僕、ぷんぷんだよ。拗ねちゃうよ」
「「あははは」」
なんだか後ろから笑い声が聞こえてきた。
「ケビン、その言葉、どうしたんだ?プンプンなのか?」
笑いながらイーサン兄様達がやってきた。
「今、僕はお子ちゃまをしているの。邪魔しないで。これからはお子ちゃま言葉でずっと話すんだから」
「「「ぶふっ」」」
「とうさま達ひどーい。僕は一応、良かれと思ってやっているんだよ。あとは大人で考えてよ」
「ケビン、わかった、もうその言葉はいいよ。あはは。ケビン、なんだか、お子ちゃま言葉は合わないな」
「やだー、僕はずっとこの言葉で話すのー。これからは子供に徹するのー」
「ケビン、言葉が大人だよ。徹するって、子供は言わないよね」
「えー、やだよ。僕は子供なんだよ。大人同士で話し合ってよ。僕、しーらない」
よし、これでずっと押し倒そう。僕は子供なんだ!仕事なんてしないぞ、遊ぶんだ。
「ケビン、もう普通に戻ってくれないか?話が進まない。利権問題をどうするか、だな。やはり我々だけで行った方が安全ではあるが、羊毛がたくさん取れる辺境伯領だ。使い道に困っているというならこちらには庶民用を作ってもらおう。何かあれば、快適綿を卸さなければいいだけのことだ。そうと決まったら、イーサン、ロナウド特にロナウド、お前のこれから作る商会が窓口になる。忙しくなるぞ」
ロナウド兄様が首を振ってため息をついていた。
「そうですね、商会を立ち上げるにあたって他のことでも忙しくなりそうですが、まぁ何とかします。俺の学生時代の文官志願の奴らも別の領地で燻っているらしいので、そちらを引き抜きします。あと父様、ケビンの従者は決まったのですか?」
「ああ、トリニティーの一族のものだ。なかなかの逸材だ。それをケビンの従者にすることが決まった。帰ったら紹介する」
「えっ?僕の従者ですか?要らないですよ。僕は勝手気ままにやるので大丈夫です」
似たような顔と体格の3人がシンクロしているように首を振っている。
「ケビン、残念だが従者は必要だ。お前を抑止してくれるように伝えてあるが、抑止できるか心配だがな」
「ひどいです、父様達。脛齧り生活に従者は要らないですよ。従者になった人がかわいそうです。一緒に脛齧り生活になってしまって未来のある若者に対して失礼ですよ」
「はぁ、ケビン、未来ある若者って、お前は年寄りか!とりあえず従者をつけることは決定事項だから、帰ったら紹介する」
どんな人だろう?厳しい人じゃなければいいなぁ。できれば話のわかる人であって欲しい。




