51 なかったことにしよう!
お祖父様が考え込んでいて、不意に叫んだ。
「よしっ!なかったことにしよう!」
みんなハテナマークがついているぞ。なかったことにしようって何?
「街の惨状はこれから復興していけばいい。ただ人の怪我やお前の欠損など、これらをなかったことにしよう!」
お祖父様どういうこと?
「ケビン、ポーションをいっぱい作れ。それも欠損など治るポーションだ。みんなを治してしまえば、なかったことにできる。ただ契約魔法を使うがな!」
「えーー、お祖父様。何言っているのですか!」
「ロイド、何言っているいるんだ?」
「「お祖父様」」
みんな、お祖父様を見た。何言っているの?
「ケビン、お願い。ポーションを作って。お願い、お願いします。ゼーファン様を、ゼーファン様を」
姉様が泣き崩れてしまった。
「姉様、頑張ってみますが、期待にこたえられないかもしれませんが頑張ってみます。ポーションを作る部屋を貸してもらえませんか?あまりに人に見られたくないので」
「どういうことだ?ロイド、クラウディア。ケビン君があのポーションを作ったのか?」
「まぁ、そうなんだよ。うちのケビンは色々作ることが好きでポーションやマジックバッグなどを作ってしまうんだよ、わははは」
お祖父様、何気に暴露しているのですが。いいのか?
「ケビン、部屋を用意するわ。お義母様、よろしいですか?」
「もちろんよ。部屋はここの隣の部屋でいいかしら。ここは私たちも間借りしているので、ここでどうかしら?」
「皆さん、いらっしゃいますよね?え?ここで、ですか?」
「ケビン、いいじゃないか。ここで作れば」
「お祖父様、ダメですよ。あれを出さないといけないのですから」
「ああ、あれか。そうだな、クラウディア、部屋を用意してくれるか?」
それから、僕が作っている間、何かあってはいけないと家族が部屋にいてくれることになった。ロナウド兄様は補佐だ。ただ、クラウディア姉様はゼーファン様のところへ心配だから行ってしまった。
「ではこれからポーションを作ります。まずは魔力多めで作ってみます。そして母様が作った薬草と水精霊様の水瓶の水を使います」
僕専用の錬金釜に材料を入れ、よし魔力だ。多めに流してどうなるか。
特級ポーション:高品質、全回復、欠損も治るよ
だそうだ。ははは。いいのか?できてしまったけど本当にいいのか?
「あの、できてしまいました。欠損も治るポーションです。ですが誰が試験をかってでてくれますかね?」
「わしがレオンに飲め、言ってくる」
颯爽と部屋を出て行った。欠損、どんな感じでなんだ?生えてくるのか?
そして素早く戻ってきたよ。はて?
「ケビン、最高だ!足が、足が出てきたぞ。まだ魔力は大丈夫か?次いけるか?」
出てきたって何!
イーサン兄様とロナウド兄様はレオン様のところに行った。
「お祖父様、出てきたのですか?」
「そうだ、ぐわーって出てきた」
想像するだけで恐ろしい状態だけど、喜んでいるからそこは考えないでおこう。考えてはいけない。
「そ、そうですか、それは良かったですね。辺境伯様とゼーファン様のを作らないといけないですね」
「そうだな。ただ3人だけというわけにいかない。ケビン、がんばれ」
兄様達も戻ってきた。
「ケビン、すごいぞ。元通りになっている。もうすでに歩いて、辺境伯様のところへ行っているよ」
DNAに組み込まれているのか?元通りって。
それからレオン様と奥様のナタリー様がやってきてお礼を言われた。ナタリー様は涙が止まらない。
「君がロイドの孫のケビンか!母親のメルシー様に似ているな。ありがとう。この通り、足が治ったぞ。子供が来たからなぜだと思ったが、あのポーションを作ったのはケビンか。これは何がなんでも秘匿にしなければいけないな。本当に契約魔法を使うことになるな。ロイドがなかったことにするなんて言い出して何言っているんだ?と思ったが、こういうことか、あははは」
レオン様も豪快だな。類友という。
「できるならゼーファンに次を作って欲しい。あの子が1番ひどいのだ。我々は先にポーションを飲んだから欠損以外は元気だったが、ゼーファンは瀕死だ。頼む」
今、1番やるべきことは姉様の旦那様だ。姉様が悲しんでいる。
「あの、これから作るのでこの部屋から出ていただきたいのですが、見られるのはちょっと」
「ケビン、いいじゃないか。契約魔法で契約するのだから」
イーサン兄様達を見たが、渋々頷いている。
「わかりました。それではポーションを作ります」
水瓶の水に薬草、そして多めに魔力を流す。
はい出来上がり。鑑定はというと、超高品質、全回復、欠損も治るよ、か。あははは。
「では、これをゼーファン様へお願いします」
兄様がボソボソと何ができたのだと聞いてきたので、超高品質で、全回復です、欠損も治りますと答えた。そうだよな、と苦笑いな兄様達。
僕たちも後をついて行った。姉様が祈るようにゼーファン様の手を握りしめていた。
「クラウディア、これをゼーファンに飲ませよう」
「お祖父様、足が、えっ?」
びっくりして僕たちを見回した。そして震える手でポーション瓶を持った。
「こ、これを飲ませれば、ゼーファン様は」
嗚咽と手が震えてしまっているので、イーサン兄様が飲ませることになった。
ドキドキの瞬間だよ。
「ゼーファン様、これを飲んだください。お願いします、飲んでください」
みんながゼーファン様に飲むように声をかけていた。
「飲むんだ、ゼーファン!」
ゴクリと喉が動いた。全部飲み終わったところでゼーファン義兄様の身体中光った。魔力入れすぎたかな?
そこからは、まぁ、全部治ったね。そして意識が戻られた。良かった、良かった。
「私はいったい。これは?なぜ手や足があるのだ?あの時、魔獣に、うぅ」
「ゼーファン様、あぁ、良かった、良かったわ。嬉しい。あぁぁ」
姉様がゼーファン義兄様に抱きついて泣いている。
「クラウディア」
2人は抱きしめ合いながら泣いていた。ゼーファン義兄様は死を覚悟していたのだろうか。
「ふふっ、ケビン、ありがとう、本当にありがとう。あなたが私の弟で本当に良かったわ。ありがとう」
そこに辺境伯様と辺境伯夫人がやってきた。
「ゼーファン、ゼーファン。あなたは、良かった、よかった」
声にならない声で泣いていた、辺境伯夫人。
「ゼーファン、よかった」
「父上、父上がまだ!」
「私はいいのだよ。お前が先に回復してくれることが大事なんだ」
「父上」
本当に良かった、間に合って良かった。ゼーファン義兄様が亡くなってしまったら姉様が立ち直れない。あー良かった。
「さあ、ケビン、次だ!」
僕はお祖父様に脇に抱え込まれ、ポーションを作っている部屋に来た。
「さぁ、今度はトーマスの分だ!」
お祖父様が張り切っている。そして3人分を作り終え、とりあえず辺境伯家は無事元に戻った。あとは領民だ。




