220 歌って踊れるステージ、朝のあれですね?
僕は今何をしているかというというと、おっちゃんとおばちゃんが芸術スキルを持つ人達を連れてきたんだ。その人達を僕の喫茶店に案内しているところなのだ。
「おっちゃん、おばちゃん、僕ね、コーヒーや軽食を取りながら音楽を聴く喫茶店を作ったの。君たちも今日はここでゆったりと演奏を聞いて。演奏時間のスケジュールが決まっているんだよ。おっちゃん、プリンアラモード食べる?おっちゃんの息子っちのお店はプリンだけ提供しているじゃないか。僕のお店はそれにアイスクリームとフルーツのせなんだ。皆も何がいい?ってメニュー見てもわからないかな?絵付きでメニューを作ったけどどうかな?今日はこの喫茶店がどういうものかを知ってほしいから何でも食べていいよ、というか全部提供しちゃおう」
「おいおい、ケビン、そんな大判振る舞いでいいのか?」
「うん、大丈夫。まずは知ってほしいだけだから」
喫茶店の後ろの方を陣取り、パーテーションで遮り見えないように、そして演奏の時は椅子だけ用意し聞いてもらうようにした。
「自分にできそうか考えながら聞いて欲しい。その他に考えているのが隣に併設された施設でリサイタルなどをしてほしい」
僕の言葉でポカーンとするみんな。ポカーン顔はみんな一緒。リサイタルって何?隣の施設って何?とりあえずゆっくり食べて。
演奏前のイザークがやってきた。
「ケビン、この人達が芸術スキルがある人達なの?僕もだよ。よろしくね。ケビンに音楽を教えてもらって、弾ける曲がいっぱい出来たよ。皆も自分の好きな曲が出来るといいね。じゃあ、弾いてくるね。聴いててね」
「みんな聴いて、自分で弾けるかどうか、頭に音楽が浮かび上がるか、音楽を感じてほしいんだ。さあ、イザークの聴こう」
おっちゃん達が連れてきた芸術スキルを持つ人達。役に立たずと言われてきたスキルだ。この世界には音楽がない。あるのは吟遊詩人。楽器は小さいハープみたいなものとウクレレのようなギターのようなものはある。それだけなんだ。だからトランペットやヴァイオリンなど新しい試みは芸術スキルを持つ人達の転機になってくれればいいなと思っているんだ。
イザークはセレナーデを弾こうとしているみたいだ。一緒にヴァイオリンを披露しようかな。
「みんな聴いていてね。僕も弾いてくる」
「ケ、ケビン?ケビンが弾くのか?え?」
僕はステージの方へ行き、イザークと打ち合わせをした。
「ケビンがピアノで、僕がヴァイオリン?この前練習したものだね。分かったよ」
ピアノとヴァイオリンの演奏。イザークはすべての楽器を奏でることが出来る。音楽スキルってすごいと思う。
哀愁漂うヴァイオリンの音色。それに合わせてピアノで伴奏。あれ?立ち見客がいるの?座席がいっぱいだ。フェルおじちゃんやアルお兄ちゃんがせわしなく椅子などを用意している。おっちゃんやおばちゃんまで手伝っているよ。焦るな、焦るな。今は音楽に集中。
終わった瞬間の静寂の後の拍手。小さい2人がステージでペコリ。
「イザーク、すごくよかったぞ」
フェルおじちゃんがイザークを抱っこして褒めていた。
「父上、今日はここでお仕事なのですね」
「ああ、コーヒーの淹れ方を教わっているのだが、お前の演奏が聴けるからここにしたのだ」
「えへへへっ、父上が聞いてくださるならもっと頑張らないと。でも父上、コーヒーマイスターを目指していたのですね。ふふふ」
「い、いや、コーヒーマイスターになろうとは・・・」
先ほどの余韻冷めやらぬ雰囲気だが次はメメルさんの番だ。
「もうケビン様、やり過ぎです。私のピアノが霞んでしまいますよ」
「メメルさんの”ラブ オブ ドリーム”は美しい音色で皆さんを魅了させられちゃいますよ」
「もう、ケビンさまったら」
この世界は英語もないので、ラブ オブ ドリーム、まんまな題名をつけだのだ。またクルさんに安直な、と呆れられたは通常営業。
楽しそうな音楽は、”リルさんのワルツ”。リルを歩かせてイザークがピアノを弾く。リルも芸達者でその音楽に合わせて歩くのでうまいものである。人の心をわしづかみである。そこへクルまで私の曲は?というので、言わずもがな、”クルさんふんじゃった”、を披露したら猫パンチの応酬。ショパンの猫のワルツを弾いたが猫ふんじゃったの方が楽しいので、それを”クルさんがふんじゃった”にしたよ。わがままな。
その2曲を演奏し終了。リル、クルお疲れ様。今日も芸達者でした。
「ケビン、この2曲は子供ルームでもした方がいいのではないか?ピアノを設置して子供達に音楽を親しませるのはどうだ?」
フェルおじちゃんが提案してきた。確かに子供達に人気が出そうだな。一緒に踊るパフォーマンスを加えればみんなで歌って踊れるステージ。うん、いいかも。
「フェルおじちゃん、いいですね。みんなで歌って踊れるステージを作りましょうか」
歌のお兄さん、お姉さん、体操のお兄さんか!ふふふふ、朝のあれだな。
「ん?歌って踊れるステージ?また新たなことを考えたのか?お前は全くよく考えるよ」
いえいえ、前世のパクリですからー。
今度は子供ルームの方で考えなくては。また改修だな。少し高いステージにピアノを設置しよう。歌のお兄さんたちは、今日の芸術スキルを持っている人な中に歌が上手い人がいるかもしれない。着ぐるみはどうする?どうする?まだ早いか?着ぐるみを作れば、マスコットを作り、パペットを作ることが出来る。あっ、パペットで人形劇をするのもいいかも。紙芝居をしてもいい。芸術スキル様様だ。紙芝居を書いてもらえばいいのだから。
「フェルおじちゃん、ありがとう、良いことを思いついたよ」
「待て待て待て、またケビン暴走している。まずは報告、連絡、相談だ。いったん落ち着け。まだ早い。相談してから考えよう」
あぶないあぶない、もう子供ルームを改修しようとしていた。父様達に相談だ。でも、今日芸術スキルを持つ人達が来てくれてよかった。音楽と絵を描ける人を確認して進めるぞ、オー。
高らかに腕を上げていた僕をあきれ顔で見るフェルおじちゃん。気にしないで下さい。




