198 本当にやっちゃうのですか?
僕はケンおじちゃんの王宮の執事さん、プライムさんに父様と相談したいことがあることを伝え、お祖父様の王宮の方へお伺いを立てに行ってくれた。
さてさてどうしますかね。レシピだけでは確かに分かりにくいところがあるが、そこは料理人の腕と言ってしまえばいいのだが、どんな味かもわからずに作るのは大変なことだよね。
「どうしたのだ、ケビン?」
父様が慌ててやってきたが、その後ろになぜかなぜかみんながいる。なんでだ!
そこはフィルズ様が僕に代わり説明をしてくれた。父上も絶対好きな味です、という一言でまたこのお方が動いたのだ。ジェラルディン様だ!
「まずはどんな味か知りたいわ。私にもいただけるかしら?」
「母上には辛いと思います。これは男性の方が好きな味だと思うのです」
「食べてみないとわからないではないの。私は辛いものも好きよ。あの人も辛いものが好きよね、ふふふ」
ふと父様がうちの料理長のトーマス、ランドルがいることに驚いていた。そして俺をギロリと睨む。ごめんなさい。ヒー。
「ケビン、お前、転移を使ってトーマス達を連れてきたのか!」
「ごめんなさい。僕が教えるのはめんど、いえ、素人が教えるのは料理人さんに失礼だと思ったので連れてきました。うちの料理長は王宮の料理人だったのですね、びっくりです」
ケンおじちゃんがうちの料理長トーマスに近づいて行った。
「元気だったか、トーマス」
「ケンドリック様。はい、日々楽しく過ごしております。新しい食材や料理方法などをケビン様に教えていただき、ケビン様の要望に応えるために日夜、腕を磨く毎日です」
やめてよ。僕は何もしていないから。まぁ、魚介を求めて東地域に行ったけど。
「ふふっ、楽しそうでよかった。うちの料理人にいろいろ教えてやって欲しい」
いえいえ、うちのは庶民の料理ですから王宮で出すものではないんですって。おやつ程度です。
それからなぜかみんなで昼食を食べた。いいのか、これで?普通に王宮の昼食も出たのでよかったが、トルティーヤ、肉まん、ピザまんはみんなペロリと食べられてしまった。
「確かにこのソースは辛いがうまい。トーマス、これらをいつも作っているのか?」
「いえ、この辛いソースは初めてです。今回は王宮なので料理を作らないだろうと思って同行しませんでしたが、ケビン様は私がいない時に新しい料理をお作りになってしまうので、やはり私も同行すればよかったと後悔しております」
トーマスの意気込みにケンドリック様がひいている。
「辛いソースもうまいがこのオレンジ色のソースとうまい。同じ料理でもソースが違うと違ったものに感じる。子供達はそっちの白っぽいソースが好きなのか!私もそちらをもらおう。肉と千切りにした野菜に白っぽいソースを頼む」
子供達はマヨラーだ。マヨネーズはうまいよね。
「ねぇ、クルちゃん。さっきの話だけど、隣国にも本当に行けるの?大丈夫なの?」
ジェラルディン様が猫に猫撫で声でさっきの隣国への転移のことを聞いていた。実施しようとしないで!ケーキとお肉を食べている猫。顔をあげ口をぺろりと舐めてから言った。クルさん、猫そのものだよ。
「大丈夫よ。心配ならケビンと1人だけ誰か説明する人を連れて行けばいいのではないの?」
「私が行くわ!行きたいわ。あの人に会いたいわ」
ジェラルディン様はお転婆な方なのだろう。そしてのろけをぶっ込みやがる。僕の周りはみんなリア充なんだよ。俺はキューピッドか!まさかの恋のキューピッドだったのか?羽がないぞ。もしかして羽があるのか?
「ケビン、そんなのないわよ!あるわけないでしょ。馬鹿なこと考えてないでよ、笑ってしまうからやめてよ」
ないのかよ!単なるのろけを聞くだけなのかよ〈ご注意:言葉が荒れてくるのは見逃してください〉
「試験実施をしていただける方、いませんか?」
「母上、できるかどうかわからないので、私が行きます」
フィルズ様だ。かっこいい。お母様を心配して自分が行こうとしているのだ!
「ケビン、一緒に行こう」
いや、単なるこの方も好奇心だ。とても嬉しそうに笑っている。ワクワク感が溢れ出ているよ。
「いいのですか?隣国に不法侵入で、僕、即逮捕されませんか?大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。ケビンちゃん。魔鳥で知らせておいたわ。希望する料理人を選定してあると思うわ、私が迎えに行きたいのだけど」
「母上、ダメです。おとなしくしてください。では、クル様お願いいたします。ケビン、行こう」
もう行くの?それからクルは本来のピンクの姿になった。本来の姿を初めて見る人たちはびっくりしていた。ピンクル(ピンクのクルを略してピンクル)を抱っこして、フィルズ様と手を繋ぎ転移した。あっという間にたぶん隣国に着いたのかな?
ぎゃー、目の前に剣を持った騎士がいるんですけど!
「父上、転移してきました!すごい、早い。本当に本当に転移できたんだ!」
フィルズ様のお父様らしい。背が高く、黒髪のイケメンが目の前にいる。マジ、かっこいいのですが。ジェラルディン様が惚れてしまうのもうなずける。言うて、ハーレクインのシーク系な感じと言っても想像つかないかな?非常に非常にイケメンだ。
「本当にフィルズ、転移してきたのだな。まさか本当に転移してくるとは。はっ、これは失礼いたしました。剣を下げろ!」
ザザッと、目の前に最高礼をとったフィルズ様のお父様と思しき人と騎士達、そしてメイド達は平伏。クルは僕の腕に抱き抱えられている状態。
「カーバンクル様、大変不快なことをいたしまして申し訳ございません。私はアルスファーン王国、宰相並びに公爵の位を賜っておりますフェルナンド スカイプ フォン アルスファインでございます」
「堅苦しいことはいいわよ。皆、立ち上がってちょうだい。あとは準備が整ったら、戻るわよ」
「かしこまりました。その際はお声がけいたします。どうぞ、こちらのお菓子と飲み物でお寛ぎください」
そんなに恭しくしなくていいのに。ギロリと僕を睨むクルさん。崇められるのが満更でもないのだな。
「君がケビンくんか?ケビン様と言った方がいいですかね?カーバンクル様と契約されていらっしゃる方ですから」
「やめてください、僕は一伯爵の三男です。それだけですので」
「それにしても、転移できてしまうなんて、カーバンクル様はすごい。フィルズ、体調は大丈夫か?」
「大丈夫です。あっという間にここに来てしまったのです。料理人は不安がっていませんか?すみません、わたしが料理人に覚えてもらいたくて行った言葉がこれほど大ごとになりました。料理人達は転移することを怖がっていないですか?大丈夫ですか?」
「ああ、転移と聞いてびっくりしているが、逆に楽しんでいるよ。ふーむ」
何か考えているようだが俺からは何も言わない。それこそ猫を被ったケビン君だ。静かにクルさんと待っていた。フィルズ様が一緒に座り話をした。
「なぁ。ケビン。アルバートのところにあった冷蔵庫をここに設置できないか?あれは便利だ。それからドライヤーや電動アシスト付き自転車?など売ってくれるのか?母上は買う気だけど持ってくる時や壊れた時のメンテナンスをどうしようかと考えているんだ」
メンテナンスか。ジェラルディン様は魔力量は多いのだろうか。魔石に魔力補完が出来るだろうか?帰ったらやってもらおうかな。
「フィルズ様は魔力が多いのですか?こんなことを聞いていいなかな?」
「ケビン、従兄弟同士だから敬語はいらないよ。魔力はあるよ。父上がこの国の王族の血を引いているし、母様もそっちの国の王族だから必然的に俺も魔力はある。ただイザークは魔力が少ないんだ。それを気に病んでいる。それにあいつは騎士や文官ではなく、音楽をしたいのだと思う。スキルが芸術なんだ。しかし芸術は何の役にも立たない。だから出来損ないと表立っていうやつらがいるのだ。いつもイザークが一人の時に必ず言うやつらがいるのだ。いつも一緒に居られないもどかしさを感じるんだ」
なんですと!スキル芸術。見つけた!
「ケビン、何喜んでいるんだ?」
「えっ、イザークはうちの国に留学しないかなと思ったまでです。僕が全面協力します。今度、音楽と絵師の面談をするのですよ。やってほしいことがあって。イザークにも協力してもらおうか。でも帰ってしまうのか。うわーどうしよう。うちにホームステイすればいいのか」
「あははは、ケビンって本当に突拍子もないよな。イザークに直接ケビンから言ってほしい。あいつは内に籠って自分の意見を言わないから。それじゃあ、冷蔵庫などとイザークを頼む」
冷蔵庫は欲しいんだ。暑いしね。




