180 王都、おっちゃんのお店
僕の今日の予定はカルトレイン商会にバラを卸しに行き近況報告会と王都のおっちゃんの所に遊びに行くのだ。
なぜなら、商会王都店では今日秘密裏に王宮から使者が来て今後の段取りを話し合うと言っていたので、使者用のこじんまりとした素朴な家を作り、施設が見えないように土壁で囲ってお出迎えの準備が進められている。子供の僕がいても役立たずなので遊びに行ってしまおうと計画を立てていた。
「ルーアン、エルビス、今日はまず串肉のおっちゃんのところへ行って今の状況と串肉を食べに行くよ。数週間行ってなかったからどんな状況になったか楽しみだなぁ。カルトレイン商会も同様だけど。どうしよう、閑古鳥が鳴いていたら?」
「ケビン様、かんこどり?ってなんですか?」
「ごめん、えーと、全く繁盛していなくて暇になっているという状況のことを言うの。おっちゃんが暇そうにしていたら、何が悪かったか一緒に考えてあげないといけないでしょ!」
「そういう言葉があるのですか?串肉店もカルトレイン商会も大盛況しておりますよ。心配しなくても大丈夫だと思います」
「そうなの?よかった。おー、大盛況だね。おっちゃん!忙しい?」
なんだか従業員が増え、店構えが広くなったね?
「おお、ケビン、忙しいのなんのって。店の間取りを少し変えてみたんだ。だいぶ前に言っていただろう。持ち帰り専用を作った方がいいって。それに外で食べられる椅子やテーブルを置いたほうがいいって。少し変えてみたんだよ。どうだ!」
おっちゃん、ドヤ顔だよ。でも、いい試みだ。
「おっちゃん、いいよ。今度、僕が改装してあげるよ。もっとオシャレ感を出す?お姉ちゃんとお兄ちゃんがオシャレな店を仕切る?おばちゃんとおばあちゃんが定食屋風で、お姉ちゃん達がカフェ風。ホットドッグ以外でもサンドイッチ、フランクフルトや揚げポテト、ハンバーガーのテイクアウトをする?僕の商会のお店もそんな感じにしようとしているから、2つに分店化されていた方が混まなくていいかも。甘いものはどうしようかなぁ。ドーナツがいいかな!そうだよ、一口ドーナツと暑い時はかき氷、プリンも出そう。うん、おっちゃんのところでやってもらおう」
冷蔵庫はもうすでにできているからあとはお披露目をするだけの状態だ。ここに冷蔵庫を置いて貰えばプリンは作れる。でもかき氷は無理だよね。兄様に氷室を地下に作って貰えばいいかもしれないけど、うーん、かき氷。かき氷は公爵様のところの競馬のお祭りの時でいいかな。一口ドーナツ、プリン、パンケーキかワッフルがいい?女子受け間違いなーし。脳内フル回転して、色々考えていたらおっちゃんとルーアンの焦った声がした。どうしたの?
「「まてまて(待ってください)」」
おっちゃんとルーアンの言葉が重なった。
「ケビン様、これはルーク様に話をしないとダメな案件です」
父様は関係ないよね?冷蔵庫絡みがあるから父様に確認案件?
「え?おっちゃんのところで試験実施して、僕のところは2号店でもいいのに。そうすれば僕の店は目立たなく細々と運営していけるよ。忙しくなくて趣味でできる店にするんだ。だから、忙しくなる方をおっちゃんの方でやってほしいんだ」
「ケビン、絶対忙しくなる予感しかないが、なぜうちが1号店でケビンの方が2号店なんだ?」
「だって忙しいのヤダもん」
「ヤダもんじゃねぇよ。ケビン、そういう時だけ子供子供しやがって。可愛くないぞ」
「えー、やっぱりうちの提携店で同じものを出してますとすれば、こちらの方が人が多い中央にあるから、こっちが忙しくなるはず」
「またなんでこっちを忙しくさせるんだよ!」
「いい考えだと思うんだけどなぁ」
「いやいやいや、全部、こっちに丸投げしようとしているのがよくわかるよ」
だって、僕の店が忙しくなるのはイヤじゃないか。僕の店はのんびりとしたいんだよ。音楽を流して客も僕ものんびり。時々ピアノを弾いてもいい。自分の趣味の域の喫茶店なんだ!
「みてみろ、連日大賑わいだ。これ以上は無理だと思うが奥さんに聞いてみるがな」
そうそう奥様に相談が一番だよ。何か考えてくれるかもしれない。
「おばちゃんと僕とで考えるよ」
「いや、待て、それはダメだ。うちの母ちゃんは俺をこき使うから絶対ケビンに賛同する。あー、ちょうど人手、あーそうだな、雇用を考えると大きくした方がいいのかもしれないが、忙しくなるのがなぁ。うぉー、どうしたらいいんだ」
「あんた、何唸っているんだい?」
「か、かあちゃん。いや、その」
おっちゃんがおばちゃんの前であたふたしてある。どこの世帯も母ちゃん強しの構造なんだよなぁ。
「ケビンちゃん、いい話を持ってきたのかい?ちょうどケビンちゃんに相談したいことがあったからよかったよ。ほれ、あんた、ケビンちゃんに飲み物を出さないで立ち話させていたなんてひどい男だよ!」
「は、はい!ケビン、ジュース持ってきてやるよ。ほかに何か欲しいものはないか?」
「ふっふっふっ、味が落ちていないかみてあげるよ。ホットドッグとスープちょうだい」
「はい、ただいま」
おっちゃん、いそいそと中に入っていってしまったよ。
「ケビンちゃん、全くうちの人は気が利かなくてごめんね。でも、忙しさで味が落ちているかのチェックはありがたいよ。本当に大盛況なのよ。ありがとうね、ケビンちゃん」
おっちゃんがホットドッグとポテトとスープを持ってきた。
「このスープ美味しい。うん、大丈夫だ!今度東地域から違った出汁を取り寄せることになったからその時また一緒に違ったスープを考えようね。何種類かのスープを出してもいいよね。美味しいおつまみも考えているんだ。イカのスルメやイカの一夜干しというやつ。お酒に絶対合うよ」
「新しい出汁。いかのするめ?いちやぼし?本当にケビンちゃんは次から次へとよく考え出すよ。ところで、雇用の話なんだけど、うちも少し大きく出来て人も増やしたが、ケビンちゃんのところで雇い入れることができないかい?王都は夢見て出てくるもの達が多いが夢破れて何とやらだよ。その後、働き口がね」
「ふーん、王都に夢みる何かがあるの?」
「はーあぁ、ケビンちゃんは王都に夢は見ないよね。これだけのことを自分でできてしまうものね」
「そんなことないけど、王都に夢はないなぁ。でも、どんな人がいるの?」
「それはね、歌やピアノなど音楽系だね。あとは絵師。なかなか王都で仕事になるようなことはないよ」
「音楽が得意な人!どんな楽器でも弾けるのかなぁ?トランペット、競馬のファンファーレ。うちの喫茶店のピアノ弾き。その人達と面談したいなぁ」
「え?楽器はどんなものがあるかわからないけど音楽のスキルがあると言っていたわ。音楽なんてスキルを持っていても役に立たないのよね」
うそーん、音楽スキルいいなぁ。メメルさんもピアノが得意で一度見た楽譜は覚えるし絶対音感だし、すごいことだと思うんだよね。もう少し商業施設広げようかな。音楽や劇ができるシアター作ってみようかな。静かにバイオリンの重奏などいいよね。ピアノリサイタルもいい。声楽だっていいと思うんだ。音楽はやることいっぱいあるじゃないか!
「おばちゃん、その人達にうちの王都支店へ面談に来てと伝えておいて。僕がいないと困るから、来る日を門番に伝えて欲しいなぁ。どう?」
「やっぱりケビンちゃんは話がわかる子だね。伝えておくわ」
帰ったら商業施設の間取りを少し変えよう。音楽ができる施設、そういえば絵を描く人もいるなら絵画展?いや、Tシャツ作ろうかな。絵をTシャツに描いてもらうんだ。うちの領地のおもちゃ売り場の店員Tシャツと同じように、おっちゃんの店用のTシャツ、俺のテイクアウトコーナー用のTシャツを作ればいいんだ。あとは気軽に買い物に行くためのエコバッグやトートバッグに絵を描いてもらうんだ。
「おばちゃん、絵を描く人にもうちに来ても言っておいてね」
「あいよ!ケビンちゃんに相談すると話が進んで嬉しいよ」
「ケービーン!」
ん?遠くから名前を呼ぶ声が聞こえた。




