174 アルバート、レオン帰城(王太子ケンドリック視点2)
やっと帰ってきたか。
「ケンドリック様、アルバート様とレオンハルト様がお帰りになりました」
「やっとか。アリステリアには」
「すでに伝えておりホールでお待ちです」
「はやいな。それでは出迎えよう。レオンハルトは後で説教だ」
すでにアリステリアが2人を抱擁していた。フェンリル様はどこだ?なんだ、あの馬車は?
「アルバート、レオンハルトお帰り。無事で何よりだ。その馬車は何だ?」
「これはボールドウェッジ公爵殿にお借りした馬車です。とても快適です!振動がないのです!」
アルバートがこんなに目を輝かせて言ってくるのは珍しいな。いつも死んだ魚の目のような感じなのにな。違う、違う、周囲をよく見ている洞察力と周囲に関心がないような瞳だ。
「そ、そうか公爵殿へは後で聞くとして、フェンリル様は何処に」
アルバートにフェンリル様のことは小声で聞いた。アリステリアの抱擁で逃げられないレオンハルトの腕にいるのか。アリステリア、つぶしているのではないか、大丈夫か?
「我が潰される。アル兄助けんか!」
声が聞こえる。アル兄って、アルバート、お前、兄になったのか?フェンリル様の方がだいぶ年上だよな?アルバートを見ると苦笑いしている。
「父上、私が兄という立場になってます。細かいことは気にしないでください」
「アリステリア、リル様が潰れてしまうよ」
「ウフフ、レオンハルトとモフモフ子犬が可愛かったので一緒に抱きしめていたのよ。可愛いわ」
周辺にいる状況がわかっていない者達がザワザワし出した。それはそうだ、子犬がしゃべっているからな。ここで働く者達は契約魔法をしているため、話は漏れないであろう。
「アリステリア、こちらへ来て欲しい。レオンハルト、紹介を頼む」
「はい!父上。リル、ここに下ろすよ。リル、ここは僕が家族で住んでいる所なの。みんなに紹介したい。いい?」
「我は問題ないぞ。レオンハルトのお父上とお母上か。我はフェンリル。名はレオンハルトにつけてもらいリルと申す。よろしく頼む」
ザザッと私を含め最高礼をとり挨拶をし、執事侍女メイドなどは平伏してしまった。
「良い良い、我はレオンハルトの兄であり、アルバートの弟なのだ。普通に話してくれ。ご飯とお菓子と寝るところはレオンハルトと一緒で頼むな」
やはり生まれの順序が違うような気がするがリル様がそう言っているならそのままにしておこう。
「かしこまりました。ところでリル様、本日ではありませんがこの後、国王陛下や宰相など国の中枢を仕切る方々に会っていただきたいのですがいかがでしょうか?」
「うーん、宰相とやらはあの南地域の者か。精霊達が寄り付かぬ地域だな。あの地域の者達は精霊が見えぬであろう。あまりいい魔力を持たぬ者、近づきたくはない」
まさかこんなことを言われてしまうとは。精霊様達やフェンリル様も近づきたがらない地域、それが南地域。
「そ、それは南地域の者達は皆精霊様達が見えないのですか?」
「そうじゃ、どこへ言ってもどこへ逃げても精霊達は見えぬ。そして恩恵もない。今は気候によりいい状態なのだろうが慢心していると今後悪い方向へ転落する状況だ」
「それは南地域の者達に進言した方がいいでしょうか?」
「ふん、別に言わなくてもいいのではないか?南はいつも聞かぬ。共存するために恩恵を与え、一緒により良い土地にしようと精霊達は寄り添っていた。しかしどれだけ進言しても聞かなかったと言っていた。自分達だけで全て行って発展したと思っておる土地だ。だから精霊達が寄り付かなくなった地域なのだ。自業自得なのだ。どうなろうと知ったことではないし、今後も自らの手で切り拓くじゃろ。放っておけ」
ボロレスの地域は精霊様が寄り添っていたにも関わらず、感謝もせずに自分達の利益ばかり考えていたのか。それでは精霊様達も怒り、いなくなるのも当然だ。
精霊様達は南地域を見放したのか。そうしたのはあの地域の者達だ。こればかりは我々の手に負えない事案だ。
「リル様、国王陛下に会っていただきたいです。精霊達が見えない者は見えなくて結構です。見えない者達はなぜ見えないのかと問われたら見放された地域の者だからとはっきり言ってください。そうすれば自分達の置かれた状況がそこでわかるでしょう、フフフ」
「お主も悪じゃのう、とこれはいつもケビンが言っている言葉なのだがこの言葉がしっくりくるな」
「ケビン君がそんなことを言っているのですか?それでは実行に移しましょう」
「くくくくっ、そうだな」
「父上、可愛いリルに何を教えているのですか!リルは可愛い子犬なのですよ」
あははは、プンプン怒っているレオンハルトは可愛いな。レオンハルトはまだまだ子供だ。アルバートはすでに王家として切替ができる。レオンハルトもゆくゆくは身につけて欲しいものだ。優しい子だから辛い思いをするかもしれない。その時はみんなであの子に寄り添っていこう。
さて、父上に報告せねばならないな。今の時間はまだボロレス公爵がいるがまあいい。




