154 契約しちゃったの、これって?
さぁ、とうとう海に行くんだ。イーサン兄様、ロナウド兄様、アルバート様、レオン、あと今まで存在が忘れられていたかもしてれないが、従者ディーン、コルティ、ルーアン、事務官ブラッドが同行する。ブラッドには実家に挨拶に行くので先ぶれをお願いしておいた。
「ケビン様、私の生家に挨拶なんて不要です。いかなくてもいいのです」
ブラッドは行きたくないようだが挨拶は大事だよ。
「ブラッド、挨拶に行くからね。ずっと帰っていないし、手紙も書いていないのでしょう?親御さんも心配していると思うから、雇い主として挨拶をしておかなければいけないと思うんだ」
「いえ、そこまでうちの両親が私に対して心配していることはないと思うのですが。逆になぜ帰って来た、と怒られるかもしれないです。王都から仕事を辞めて帰った時には怒られたので」
それは仕事を辞めたことに対して怒ったのでは?でも仕事はやってみて自分が思っていた仕事ではない、やりがいが感じられない、人間関係が悪いなど様々な要因があるので、そこでずっと仕事を続けることが果たしていいかといえば否である。精神を壊す前に逃げた方がいいのだ。それを良しとしない人がいるけど、壊して大変な思いをするのは結局自分だから、転職してもいいと思うよ。だから今のブラッドを親御さんに見て欲しいのだ。
って、あれ?ブラッドを見るとやつれている?
「ブラッド、やつれている?大丈夫?親御さんに今のブラットを見せてあげようとしていたのに、あれ?」
「仕事が増えたのです!どれだけ増やすのか!だから海側に行く前に昨夜仕事を片付けたのです。それに仕事は楽しいので前とは違います!」
ブラッドが眩しい。かっこよく見えるぞ。そ、そうか、楽しいならまぁいいか。
ところで君達、ルガリオ達はいつものことながら、フェンリル様とカーバンクル様、あなた方はなぜいるのでしょうか?
「我々も行くことにした。森に魔力が戻ったので我々も自由に行き来できるようになったのだ。ケビンとレオンハルトと一緒に行くぞ!」
レオンは一緒に行くことをものすごく喜んでいるが、アルバート様にどうするのか投げかけたが首を振られた。イーサン兄様、ロナウド兄様、も首を振っている。
名前が長いんだよな。
「リルとクルは粗相をしないようにするんだよ!大人しく犬と猫になっていてね」
「何が犬と猫だ!我は犬ではない!」
「そうよ、猫ではないわよ。本当にケビンは失礼ね!」
リル?クル?短縮したけどわかるよね。
「わー、リルかわいいね。フェンリル様だと長いからね、リルでいいよね」
レオンが言ってしまった。そしてレオンとフェンリル様が光輝きだした。これはテイマーか従魔契約したのか?みんな目を見開いている。どうしよう。
「ねぇ、ケビン、あなたは私をクルと言わないの?ねぇ?ねぇ言ってよ!」
僕に振らないでくれ!
「たまとかみーとかは?それとも黒猫だからタンゴ?」
うちの猫は代々みーちゃんなんだよ。茶トラだったけど。黒猫はいなかったよ。そういえば今は黒猫だけどそれは仮の姿らしい。魔力が漲ったら本当の姿を見せるわね、超絶可愛いわよ!と自慢げに言われたがカーバンクルって額にガーネットの宝石をつけている以外詳細が分からない。まあ、今は黒猫だから、名前はタンゴやみーちゃんやたまでいいのではないか?
「何が!」
腕を組んで怒っている。尻尾も地面をバンバンしている。女性は歳をとると怒りっ、ゲフンゲフン。ものすごい目で睨まれた。見送りに来ている父様に投げかけても目を逸らされ、イーサン兄様とロナウド兄様は頷いている。
「いえ、間違えました。クルでいいの?名前」
「いいじゃないの、安直だけど」
「じゃー、クル、一緒に海に行こう。魚が食べられるよ」
「だから猫じゃないわよ!もう」
プリプリしながら光輝いた。従魔か。"ケビンの従魔"になっている。名前は"クル"。
でも、レオン、大丈夫なのか?勝手に従魔契約してしまったよ。
「ははっ、父上に報告が増えたよ」
アルバート様が疲れ切っていた。かたやレオンは喜んでリルを抱っこしていた。子犬のリル。状況を説明するなら、ポメラニアンを抱っこするレオンというかんじだ。
そしてアルバート様、ボールドウエッジ公爵様、オルコット侯爵様、父様と何やらボソボソと話をしていた。どうやら後々城に戻ったらリルとクルの説明に登城をする可能性があること。その時に母様も一緒に登城すると思うので説明をして欲しいと言っていた。ううっ、王城なんて行きたくない。
「クル、君は普通の猫だ。猫にしよう。ねっ、ニャーニャー泣いていて欲しい。首に鈴付きリボンをしてあげるから」
「何言ってるのよ。本当ケビンはポンコツなんだから!ニャーニャー泣くわけないでしょ!でもリボンはいいわね」
「普通の猫になって欲しいのだけど」
ベシッ!猫パンチがきた。良いジャブをしているね。きみ!
「ケビン、諦めろ。もうクルはうちの子だ」
「さすがパパさん。パパ大好き!私もパパさんの子供ね、早く母様とジュリ、ルーナに会いたいわね、うふっ」
「では、我もレオンハルトの兄弟で良いな。アルバートは我の兄だな」
君達、歳を誤魔化しているでしょ!そして偉そうだけどね。
「やはりケビンはポンコツだな」
「そうでしょ!全く、私がしっかりしてあげないとダメみたいね!ケビンのお姉さんでいいわ」
お姉さん?おばさ、ゲフンゲフン。どっちもどっちな気がする。お互いポンコツ同士か!猫パンチ、犬パンチ炸裂!
「ケビン、戯れるのはいいがほどほどに」
こうして2匹の従魔も一緒に海沿いに行くことになった。始めはブラッドの実家に挨拶に行くよ。それから兄様達の想い人に会いに行くんだ。どうか両思いであってほしい。だめなら慰めてあげるからね。
「父様、お土産持って帰ります。楽しみにしていてくださいね」
「ケビン、くれぐれもくれぐれも問題は起こさないこと。大人しくしているんだよ」
「父様、大丈夫ですよ!」
そう言っている時が大丈夫じゃないことが多いのだけどなぁ、とつぶやいている。そしてライアン様に肩をポンポン叩かれて励まされていた。
僕は手を振って、東地域海沿いに旅立った。




