147 アンジュ様に連行される
朝、目覚めたと同時にアンジュ様が部屋にやってきて、甲斐甲斐しく支度と朝の世話をされ、そしてアンジュ様のお母様、侯爵夫人で在らせられるリディアーナ様が先にいらっしゃっていた。妖艶に微笑えまれ、リディアーナ様の前に座るように促された。僕は静かに従った。
「ケビンちゃん、昨夜のお話をもう一度教えて欲しいの。アセロラ?赤い実は美肌効果、老化防止に役立つ素材ですの?」
なぜ2対1なのだ?フレッド様はどこにいる?
「あ、あの、フレッド様はどちらに?」
僕は恐る恐る聞いた。どうしていないのだ。女性二人に対峙できないよぉ。
「あの人はこの手の話は苦手なので退出してもらったわ。男どもは全く役に立たないわ。その点ケビンちゃんは美容などに精通するものがあるわ。詳しく教えていただかないとねっ」
アンジュ様、フレッド様はとても頼りになる男性なのよ、アンジュ様とリディアーナ様にとってはダメですか、そうですか。
「あの、そこまで僕は精通はしていません。ご期待に添えるかどうかは、あっ、はい、すみません」
目力が強いのですが、アンジュさまぁ。
「アンジュ、ケビンちゃんが怯えているではないの。落ち着きなさい。フォーゲリア領で作っているお化粧品は素晴らしいわ。私もアンジュにいつも融通してもらっているのよ。ごめんなさいね、家族割?をしていただいてありがたいわ。このあせろら?という実も美肌にいいのね?」
「はい、美肌、老化、しみなどに効きますが、化粧品としてもいいですし、食品として摂取した方もいいのです。ジュース、スムージー、お菓子、デザートなどです。ですが、錠剤、サプリにしてもいいですね。ポーションの錠剤バージョンです。ただし、デメリットは摂取しすぎると体重増加や下痢になるので、効果があるからと大量摂取はダメです」
「まぁ、化粧品の他に食品で効果が得られるの?その錠剤?サプリ?というのは何かしら?」
「成分を粉末にして凝縮したものです。水で粒を飲めばいいのです。ポーションも水分ではなく粒をにした方が飲みやすいし持ち運びが楽だと思うのですけど。アセロラの実自体が酸っぱいので、甘めに飲みやすくする努力が必要です。ゼリーとかでつるんと飲めてもいいですね」
「?ゼリーってなぁに?」
「アンジュ様、ミルク寒天を作ったと思うのですが、あれのアセロラ版です」
「あれならつるんといけるわね」
「アンジュ、ケビンちゃん、2人だけで話を進めるなんて、私は全くわからなかったわ。みんくかんてん?ってなにかしら」
僕はバッグからミルク寒天みかんシロップ漬入りを出して渡した。
「どうぞ、ミルクのアレルギーはないですか?えーと、痒くなったり、ボツボツができたりしたことはないですか?」
「ないわ、では食べてみるわね」
ニコニコしながら食べているので、お口にあったかな。
「つるんとして美味しいわ。これをあせろらで作るのかしら?」
「そうですね、ゼラチンを作ってもいいですね。動物の骨や皮にあるコラーゲンで出来るはず。ゼラチンを作ってゼリーにした方がおいしいですね。作りましょう」
よくわからないながらも作りましょうという言葉で2人の顔がパーッと明るくなった。
「えぇ、作りましょう。新しいお菓子も作るのよね。楽しみだわ」
「あ、あの、リディアーナ様、アンジュ様、まだゼリーはできるかどうかわからないのでまずは寒天で味を調えます。フルーツ寒天など作れば暑い時などさっぱりすると思います」
「ふふふっ、また新たなお菓子が出来そうね」
やっと解放された。化粧品とお菓子。今度は厨房に連行された。
「ケビン坊ちゃん、さあ、栗の下ごしらえをしてあります。何を作りましょうか?」
栗の中には虫はいなかったよ。いないようにできているのか、でも自然の原理があるからこればかりはわからない。
定番のモンブラン、マロングラッセ、栗羊羹、栗入りパウンドケーキやロールケーキ、タルト、何でもできる。フルーツが豊富にあればお菓子は見栄えもいい。森の精霊様ありがとう。
「ルガリオ、森の精霊達に料理を持っていってね。おいしい食材ありがとうって。梅酒を異所に持っていってね。あんずはまだあんず酒を作っていないから無理だけど、作ったら持っていってあげて」
「ケビン、待て待て、このあんずというものでお酒を造れるのか?うめで作った酒はあるがそのうめがオルコット侯爵の領地で自生していたことに驚いていた。このあんずもお酒になるにか」
フレッド様がお酒という言葉に即座に反応したよ。化粧品、お菓子、そしてお酒。うちはこのパターンだね。イーサン兄様は魔道具一辺倒だけど、商会を運営する人達は大変だ。
「ブルーーベリーもお酒にできますし、目にいいのでポーションにもなると思います。眼精疲労に役立つと思います。あんず酒は梅酒と甘いので女性に人気が出ると思います。色をつけてカクテルにして出せばデートなどに花が咲くと思います」
「かくてる?それはお酒なのか?」
「あの、うちではジンやウオッカも作っているので、それをベースに味を組み合わせて色をつければ綺麗なお酒になると思うのです。こう、シェイカーでシャカシャカしてカクテルを作り、頼んだ人の前でグラスに注ぐ、そしてチェリーのシロップ漬けを乗せれば大人かわいい、お酒の完成です」
「ケビン、色々説明してくれているが全く意味がわからない。あとでいい、教えてくれ。今はお菓子の方に力を入れよう。オルコット侯爵領にも追い風になればありがたい」
アンジュ様のご実家ですからね。アンジュ様には美容部門で本当にお世話になっているので頑張らせていただきます。
「ところで、森の精霊様達に挨拶と食材の融通をお願いしたほうがいいですよね」
皆が落胆している顔をしている。そう、まずは森の精霊様に使用許可をいただかなければ始まらない。ルガリオ達に案内してもらわないといけないな、これは。




