119 王都〜やっと王都散策でも迷子かな?迷子だよね2
「こんにちは~、誰かいませんか?」
人の気配はするんだよなぁ。ちらっ、ちらっと小さい子と僕より上の子がチラチラ覗いているのが見える。中では、バタバタ走って、誰かを誰かを呼んでいる声が聞こえる。
バタバタと慌ただしい足音が聞こえ、ドアがバタンと開いた。
「あっ!、も、申し訳ございません。あのここは孤児院ですが、貴族様が何用でしょうか?」
若い女性が出て来た。その後ろにはコワモテダンディなおじさん。あれ?貴族とわかるの?
「すみません、道に迷ってしまって、教会かと思って来て見ました」
コワモテおじさんが不審そうに言った。
「オメェ、どこの回しもんだ?あ?」
イタイケな子供にそんな威嚇するなんて、普通泣いちゃうよ!
「すみません、本当に道に迷い、ここはどこなのでしょうか?僕、王都に出て来たのが今回が初めてで、王都の街散策は今日が初めてだったので全くわからないのです。ここはどの辺ですか?」
「オメェ、貴族ならタウンハウスがあるだろうが?」
「うちのタウンハウスはこの街の10分ぐらい、もっとかな、馬車で行ったところなので離れているのです。最近商会を立ち上げたので、そこまで帰りたいので方向を教えて欲しいです。本当にここがどこなのかわからないのです」
「お付きの者がいただろう?どうしたんだ?」
「兄様と従者はお肉と飲み物を買いに行っていて、待っている間、僕は大道芸を見ていたのです。見終わったら、人がごった返していて、人の波に乗るしかなく、あれよあれよという間にここら辺に来てしまいました。僕の周りは大人の足だらけでしたよ。踏まれるかと思って怖かったです」
「そうかい、お前ちびっ子だから、あの人混みに流されたか、全く。嘘は言ってなさそうだな」
ちびという言葉だけで信じたのか?いい人か?
「おじさん、僕、ちびっ子ではないです。ケビンと言います。9歳です」
手で9を示した。
「9歳なのか!もう少し小さく見えてしまったよ、あははは、すまんすまん」
おじさんが砕けた感じになって来たぞ。つかみはオーケーか?よしよし。
「しかし、商会を最近立ち上げたのか?そうすると確かフォーゲリア商会?フォーゲリア伯爵、ルーク殿のところか?」
「おー、父様を知っているのですか?ん?おじさんも貴族ですか?」
「ふん、昔、貴族だったということだ。今は平民だ。そこまで送っていくぞ」
「僕、疲れてしまったので中で休ませてください」
図々しく頼んだ。本当に疲れてしまっているんだよ。子供だよ、僕。子供の足でふらふらと訳もわからず歩いたんだよ。
ため息をつくおじさん。
あっ、そうだ、ルガリオ達に兄様達を連れて来て貰えばいいんだ。小声でルガリオを呼び、兄様達に俺の居場所を伝えるようお願いした。ブラッドも呼んで欲しいことも伝えた。もう再会していたのかなぁ。でも、想い人じゃなかったらどうしようかなぁ。まぁいいや。
孤児院と思われる小屋に入り椅子を勧められたので座った。
この小屋に子供達が何人いるのだろう。王都なのにボロボロの家が立ち並んでいた。多分自分たちで作った雨風を凌ぐだけの小屋なんだろう。孤児院に寄付などはないのか?この世界の貴族は本当に福祉事業を手掛けていないのか?国は保障をしていないのか?
「で、ケビン様、何しにここへ?多分引き返せばよかったのではないか?」
「様はやめてください。今は商人の子供風なので。本当に迷子なのです。でも、ここの生活がどんな感じなのか知りたいという気持ちもあったので、路地を進んでみました。裏路地でもここと東側のところは違うように感じるのですが、仕切っている人が違うのですか?」
「そこまで見ているのか。ここは女子供や体が弱い者が多い。あっちは荒くれ者ばかりが集まった地域だな。隣接していないだけ被害はない。ただ、あっちで使い物にならなくなった者がこちらにくる時もある。困ったものだ」
「ここの生活費はどうしているのですか?国や貴族は保障や寄付などないのですか?」
「ああ、国からはないな。協会がほんの少し施しをくれるだけだな。まあ、細々と商会をしているからその収入で賄っているのさ。冒険者になってここを出た者達が商会に卸した物でなんとかやっていっている状態だ。支援をしてくれるからありがたいよ。だから何とかやっていけているのさ。貴族様に出すような茶ではないがどうぞ」
黒いお茶?黒いのですが?これは、これはコーヒーか?
「すまないな、南地域で貴族をしていた時に食べるのに困って豆を煎って食べようとしたんだよ。いい匂いがしたから、擦ってお湯を入れたらこんなかんじになった。目が醒めるので俺は飲んでいるのだが、皆、苦いから嫌だと言われ、砂糖は高いから、結局自分だけが飲んでいるんだ。南地域を追われた時に、この木だけは持って来たのだ。多分あの領地は更地にしたようだから、この木が最後だろう。今、ここにはこれか水しかないので、これを勧めたまでだ、あははは」
恐る恐る僕は口をつけようとした。おおー、コーヒーの香り。マジか。荒削りだから粉というか潰した実が口に入るがコーヒーだよ。ふふふふっ。
「ここに植え直したのですか?生息しているのですか?」
「ああ、実をいっぱいつけているよ。しかしここは食べられない植物が多くてよ。腹の足しにもならない植物ばかりだ、全く」
「植物に興味があるので見せてもらいたいのですが。なにぶん、田舎の貧乏貴族だったので、食べる植物を探すのが好きなんです」
「俺も食べられる植物は探したよ。しかしこの土地は残念ながら食べられるものはなかった。豆もこれだしな」
食べたのか。そしてちょうど先ほどの娘さんが部屋に入って来た。
「娘のユリアだ。ここの孤児院の子供達に読み書きを教えている」
これがブラッドの想い人か?なかなか可愛い人ではないか。他の男に言い寄られていないか?大丈夫か?
「ケビンです。よろしくお願いします」
「ユリアです。迷子になって怖かったでしょう」
ダンディなおじさんとは対照的に僕を心配してくれる。コクンと頷き怖がってみた。おじさんは胡散臭げに俺を見ているしなぁ。
「ユリア、見た目に騙されるなよ。この子は胡散臭いぞ」
「えー、僕は可愛い9歳のイタイケな子供ですよ」
どこが幼気な、なんだと呟いていたよ。
「それでは、植物を見せてください」
僕は率先して外に出た。おじさんのため息が聞こえてきたのは気のせいだ。




