99 公爵家一日目〜晩餐〜
カカオの実で出来るチョコレートを教え、試食した後が大変だった。女性達に先に食べたことを平謝りした。チョコレートの甘い香りが充満していて、女性陣(メイド達も含む)に冷たい目で見られたことは言うまでもない。ステファン様とフレッド様は奥様にどうして自分たちを呼ばないのかと詰め寄られ僕に助けを求める目を向けた。えぇー、困るけど。
「あ、あのステファン様、フレッド様、夕食に新しいチョコレートのデザートを出しましょうか?それとも明日がよろしいですか?」
「ケビンくん、た、助かるよ。ありがとう。ゆ、夕食に新しいデザート楽しみだな。それで紹介しよう。私の奥さんのアニーベルだ」
ステファン様の奥様を紹介された。
「ケビンくん、初めまして。お噂はかねがね聞いておりますわ。ふふふっ、可愛いわね。あっ、ごめんなさい。男の子の可愛いはないわね。シャンプーとトリートメント、化粧品を使ってますわ。何ですの、あの美容関連は。私もアンジュと一緒にお手伝いさせてください。良いかしら?」
僕はステファン様を見て、その諦めた目を見たら頷くしかないことを悟った。
「ぜひアンジュ様と一緒にお願いいたします」
「ありがとう、ケビンくん」
アニーベル様は僕の手を包み込みお礼を言ってきた。なんて柔らかい温かい手なんだろう。。そしてここでも既婚者。僕に女性運はないのかーー。神様、女神さまに会っていないけど女性運を落としてきたのかって、前世も女運はなかったな。通常営業かよ!
公爵家の応接室。まったりと紅茶とデザートを食べていると徐に公爵様が語りだした。どうしたのだ?
「ケビンくんはいろんなことを考えるのだな。少しだけ愚痴を言っていいかな。公爵当主が子供に愚痴を言うのは情けないが、ケビンくんは子供と思えないし、ここでは聞き流して欲しい」
それから、当主として愚痴を言えない立場だったが当主も一人の人間。愚痴を漏らしていいのだろう。子供の僕に言っていいのか?は別だが。
愚痴というのが、公爵領には鉄道が通っているが、王都に来て引き返す人たちが多く、こちら側に人が来ない。試行錯誤しているが、収益としてはない。馬を買いに来る人がいるがそれだけだと言うことだった。
ん?馬、お馬さん?
「馬?お馬さんがいるのですか?いっぱいいるのですか?」
「ああ、西地域は馬を育てているからな。美しい馬がいっぱいいるぞ。ケビンくんはポニーがいいかな」
みんな大笑い。ひどいよ。大きい馬は足が届かないけどさ。
「馬、競馬かぁ。あれ?この国って賭け事の規制があるのかな?」
独り言のように言っていたのに、ステファン様が聞かれていたよ。
「ケビンくん、けいば?とは何だ?」
「えーと、馬を走らせて競争させて、賭け事をすることです。走る前に、1番、2番になる馬にお金を賭けるのです。当たった人は倍率でお金が入ってくるという仕組みです。その収益で、競馬場を整備したりできます。そうすれば宿屋や酒場、食事所が増やせるかなぁ」
「ほー、なるほど。この国の賭け事は国に承認されている。違法性が見つかれば逮捕される。違法なことは八百長などでお金をせしめたり、借金地獄に合わせないこと。だから借金するようになった者は賭け事をさせないと決められている。本人がするようなら、本人が逮捕され借金を返すために強制労働することになる。けいばというものをもっとよく教えて欲しい」
今?もう、だんだん眠くなってきた。昼寝させて欲しい。眠い。
「おや、ケビンくんはお眠になってしまったか。すまんすまん、まだ子供だったな。あははは。部屋を用意してある。昼寝して、夕食後に話を詰めよう」
「え?話をつめる?ステファン様、競馬するのですか?」
「検討するだけだよ」
父様とお祖父様は今日はここに泊まってから帰るので、公爵様達と喋っている。
僕はイーサン兄様とロナウド兄様と部屋に行く。イーサン兄様に抱っこされているけどね。楽ちん。
「ケビン、また大事になったと思うよ」
「えー、馬がいるならと思ってポロリと言ったらステファン様が聞いていたんだもん。参ったよ」
「ケビン、そこでもまた魔道具が何か必要になるのか?」
「えー、ゲートがパカっと開くものと写真判定したいですね」
「は?」
よくわからないよね。とりあえず寝よう。
「三人一緒の部屋で良かったです」
で、僕は寝てしまった。
「全くケビンは今度は公爵家を巻き込むのか。お前は全く」
イーサン兄様とロナウド兄様が何か言っていたようだけど、頭を撫でられて気持ちよかった。
起きた時には薄暗くなっていた。あれ?兄様達は?
ドアが開いた。
「ケビン、起きたか?もうすぐ夕飯だ。きちんとした格好をしよう」
メイドさんが着替えさせてくれた。恥ずかしいので自分でしようとしたがダメだったら。
七五三で着るような、ブレザーに半ズボンと長い靴下。ワイシャツには何故かフリフリがついている。おぼっちゃまって感じ。蝶ネクタイじゃないだけマシか。
「ケビン、似合っているよ。可愛いよ」
「兄様、男が求める言葉は可愛いさではなくかっこ良さです」
「あははは、悪い悪い、充分かっこいいよ。では行こう」
流された感があるがいいや。
公爵家での晩餐会というのか?初めてのカトラリーでの夕食。外から使っていけばいいのだよなぁ。テーブルマナーを高校卒業前にしたんだよ。でもこんなにフォークはなかったぞ。スプーンぽいのは魚か?
隣にいる父様にコソコソと外から使っていけばいいのですか?と聞いた。
「公爵様、大変申し訳ございません。ケビンはこう言った晩餐が初めてですので、マナーに対して寛大なお心で見ていただければありがたいです。それにルガリオ達の分もありがとうございます。すみません、いつも一緒に食べているので、我が家と同じような扱いをしていただき感謝申し上げます」
そう、テーブルにルガリオ達が一緒に食べている。いいのか、ここで。別のテーブルでもいいのだけど。
「良い良い、こちらが急遽もてなす場を設けたわけだから気にするな。精霊様達もいつも通りに食べたいだろうし。そしてケビンくんは徐々にマナーを覚えていけば良い。今後こういう場に出る機会が多いかもしれないから、よく学んでいくように」
ん?今後?今後も何も領地に引きこもり生活ですよ?
父様に小声で、僕こういうところにもう出ませんよ。領地に引きこもり生活をするのですから、と言った。
「お前は脛齧り生活をずっと言っていたが他に引きこもり生活が追加されたのか?」
「そうですよ、当たり前です。あわてず、騒がず、動かずで脛を齧って、引きこもり生活でのんびり暮らすのですから」
シーンとした中で父様との会話は響いたらしい。みんなが笑っていた。
「ケ、ケビンくん、マナーを身につけることは何かあった時に役に立つから、身につけておいた方が良いぞ。なぁ、フレッド」
「ブフッ、おれ、わ、私ですか。そうだよ、ケビン、身につけた方がためになるよ」
今回は父様を見ながら食して行った。
「この柔らかいパンと外がカリカリ、中がモチモチのパンがうまい。ルーク、君が連れてきた料理人がレシピの手順を教えてくれて、ここまで美味しくできたと言っていた。ありがとう。やはりレシピ通りと言えども、実際、聞いて作った方が上手くできるということだ。レシピを見ただけでは実際うまくいかないもんだったんだよ」
「多分、他の領でもレシピを買うがうまく作れないところもあるのではないでしょうか」
公爵様とステファン様が指摘した通り、レシピだけでは発酵や二次発酵などわからないだろうなぁ。
「寄子の貴族の料理人を集めて教えてあげればいいのではないですか?すでに公爵家の料理人は理解した?と思うので、そこから広がれば、美味しいパンが焼けると思うのですが」
しまった、また言ってしまった。本当は格上の人からお許しが出たら発言ができるんだった。
「父様。発言してしまってすみません」
「ケビンくん、良いんだよ。今は貴族としてではなく友人同士の語らいの場だ、自由に発言していいぞ」
父様を見てうなづいてくれたので良かった。でも、用心しないといけない。
「なるほど、コルーダ、今から魔鳥を飛ばし、明日昼までに来られる料理人にレシピに載っている料理の作り方を教えるから来るようにと手紙を出すように」
「はっ、かしこまりました」
今から、明日昼までに来られる料理人、何という無茶振り。ここにも無茶振りする人がいるよ。
「そこでルークのところの料理人による料理指導をしてもらう」
ここでも無茶振りですが!みんな昼に来られるの?そんなにレシピ出しているの?ロナウド兄様に聞いてみたら、かなりの量のレシピ登録をしたらしい。
「うちの料理人が教えるのですか?」
「ルークのところの料理人は慣れているだろう?少し助言をしてもらいたい」
それから父様はトーマスとランドルに確認して料理を教えることになった。あれ?これはまた王都に行けないのか?公爵家に滞在日数が増えるのか?
はぁ、長い濃すぎる1日だった。部屋に戻り、そうだ、ルッツ達に水を出してもらい、火精霊アスターとガーファイアにお湯にしてもらおう。ニッヒッヒ。
公爵家は全てが大きい。部屋も大きければお風呂も大きい。
「ルーアン、一緒にお風呂に入ろうよ。これからルッツとアスター達にお湯を作ってもらうんだ。だからルーアンも疲れたでしょ、一緒に入ろうよ。このお風呂なら6人いっぺんに入れそうだから、二人でなら余裕だよ。ねっ?まだ兄様達来ないし、一緒に入ろうよ」
「いえ、私はケビン様のお世話をしますので一緒には入れません。ルーク様やイーサン様達を連れて参りますが?」
「えー、いいよ。二人で入ろうよ」
が、しかし父様達を呼びに行っちゃったよ。忠実すぎるよ。
父様と兄様達がやってきた。早いよ。
「ルーアンから聞いた。水をルッツ達に出してもらうのか?まぁ、いいのではないか。父様の部屋の方が大きい風呂だ。そちらでお湯を張ってもらおう。みんなで入ろう」
「そうですね、みんなで入りましょう」
結局、いつもと変わらず父様、お祖父様、兄様達とみんなでお風呂に入った。まぁ楽しいからいいけど、なぜこんなにお風呂が大きいのだ?これで1人用なのか?従者、メイド達も一緒に入るためなのか?
濃い一日だった。おやすみなさい。




