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1.魔女の森へ

暗い夜道を、一台の馬車が疾走していた。


マリアンヌ王国の現王アルバートは、薄闇に沈みつつある街道を、

焦りを隠せぬまま馬車を急がせていた。


護衛として同行しているのは、わずかな騎馬隊のみ。

王の護衛としては明らかに少ない。

それでも彼は、迷うことなく城を飛び出したのだ。


理由はただ一つ。

愛娘フィオナが危篤に陥ったからである。


フィオナは今年で四歳。

目に入れても痛くないほどの愛しい娘だが、

生まれつき身体が弱く、ほとんど部屋から出られない生活が続いていた。


そのフィオナが今日、大きな発作に襲われた。

主治医の懸命な治療も効果はなく、

ついには「危険な状態です」と告げられてしまった。


その知らせを聞いた瞬間、アルバートは城を飛び出した。

王妃――フィオナの母は、出産後まもなく亡くなっている。

娘の弱さは、血筋ゆえなのかもしれない。


王族付きの名医が匙を投げた以上、

王国内にさらに頼れる医者などいるはずもない。

それでもアルバートには、ひとつだけ心当たりがあった。


南の森に“魔女”がいるという噂だ。


藁にもすがる思いで、アルバートは馬車を南へと走らせていた。





魔女の森の近くに着く頃には、辺りはすっかり闇に包まれていた。

高台から森を見下ろすと、奥の方に小さな灯りが見える。

あれが魔女の住処なのだろうか。


「アルバート様、ここから先は馬車では入れません」


従者が、道が狭く馬車では進めないことを告げる。


「ここからは徒歩で行く。数名だけ付いて来い。他は待機だ」


アルバートは松明を手に取り、森の中へと踏み込んだ。

護衛たちが慌てて後に続く。


森の道は獣道で、人が通った形跡はない。

それでも、奥に見える灯りだけを頼りに進んでいく。


やがて、灯りの元へ辿り着いた。

そこには丸太を組んだ小さな家があり、

窓から温かな光が漏れていた。


アルバートは恐る恐る扉を叩く。


しばらくして、扉が開いた。


現れたのは、奇妙な狐面をつけた女性だった。

顔は見えないが、黒髪の長髪と体つきから、若い女性であることが分かる。


護衛が警戒してアルバートの前に出ようとするが、

アルバートは手で制した。

突然の訪問である以上、礼を尽くすべきは自分だ。


「夜分遅く恐れ入る。私はマリアンヌ王国のアルバート王だ。

 こちらは……魔女殿のお宅で間違いないだろうか?」


狐面の女は驚く様子もなく、


「王様が、儂に何用か」


と静かに言った。

古めかしい口調だが、声は若々しい。


「娘のフィオナが重篤なのだ。主治医も匙を投げた。

 どうか……助けてもらえないだろうか」


フィオナは生まれつき弱く、発熱と呼吸困難を繰り返していた。

アルバートは国中の名医を探し、薬を集めたが、

症状は良くなるどころか、年々悪化しているように思えた。


焦る気持ちを必死に抑えながら、症状を伝える。


魔女はしばらく黙って聞いていたが、

やがて家の中に戻り、鞄を手に再び現れた。


「案内せい。急ぐぞ」


その言葉に、アルバートは深く頭を下げ、

魔女を伴って馬車へと急いだ。

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