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09.運命の人との新しい関係


愛の女神ララーが教えてくれた運命だった人、アーネストはとても気が合う人だった。


友人のティナとオードリーと一緒に、ヘイマー子爵家に訪れて共に観たホリンヌの絵画、『冬の訪れ』はとても素晴らしい絵だった。

この絵に目をつけたアーネストの審美眼に、感嘆と共感しかない。


『冬の訪れ』は寒さの厳しい冬の夕暮れの絵だ。

空に浮かぶ澄みきった月が、冬の凍てつく空気の中に、くっきりと引き締まって見えている。この絵を見る者は、吸い込まれるような美しい月の光に魅了される事だろう。

寒い冬の月をテーマにした作品だが、どこかに温かみを感じる作品だった。

やはりホリンヌ画伯の絵画は素晴らしい。


『冬の訪れ』を見てフローラは息をのみ、その世界に引き込まれた。

アーネストとは絵画を前に、熱く作品について語り合った。尽きない意見で話が途切れる事がない。


「何をそんなに語り合うことがあるのか」というような目で、ティナとオードリーが呆れたように自分達を見ていた。

フローラが「この絵に特別なものを感じない?」と、二人に話を振っても、「ただの月の絵にしか見えませんわ……」と冷静な声で返してくるだけだった。


「ただの月だなんて。ティナ様もオードリー様も、お父様とお母様と同じ感想しか言わないんだから。私の持ってる『春の訪れ』も、お母様ったら「ただの草花じゃないの?」って言うのよ」


もう!と息を吐き出すと、アーネストも「僕の周りもティナ様とオードリー様と同じ事しか言いませんよ」と苦笑した。


おそらくアーネストとは感性が似ているのだろう。

アーネストと話し込むほどに、彼の意見に共感しか感じられなかった。


ヘイマー家で出された、アーネストが好んで飲んでいるというお茶も、フローラ好みの味だった。「一度食べてほしくて」と勧められるスイーツも、勧めたくなる気持ちが分かるくらいに格別な美味しさがある。


かつて抱えていた想い――あの苦しいほどの愛おしさを感じる事はもうないが、それでも彼を知るほどに好ましく思えた。


『もしも愛の女神ララーの祝福を辞退していなければ』という思いがよぎらなかったといえば嘘になる。

だけどもう終わった話だ。

終わった今だからこそ流れる穏やかな時間だということも分かっていた。


今さら元に戻るつもりはないし、戻れるはずがない。







結局私達は友人になった。

そのまま縁を切るには惜しくなるほど、私達は気が合った。

もちろんティナとオードリーを交えての友人関係であり、それ以上でもそれ以下でもない。

ごくたまにアーネストと二人で会う時もあるが、それはホリンヌ画伯の素晴らしさを語り尽くす時くらいだった。


『私とアーネスト様は友人になれても、それ以上の関係になれるわけがないわ。

もう愛の女神ララーの祝福は辞退してしまったのだもの。私達の運命は切れてしまっているのだから』


そう思いながら一年が過ぎた。







「ねえ、フローラ。今日はお昼からアーネスト様が来られるのでしょう?母様がちょっとスペシャルなゲストをお呼びしたのよ。アーネスト様と一緒に、みんなでお話をしたらどうかしら?」

「スペシャルなゲストですか?」


確かに今日の午後はアーネストと、うちでお茶を飲む約束をしている。ホリンヌ画伯の新しい絵が売り出されるという噂話を聞いたからだ。

これはもうアーネストと新しい作品について予想話をし合うしかないと、今日の午後を心待ちにしているところだった。


「ホリンヌ画伯を好まれる方がいらっしゃるのですか?」

「フローラったら、もういやだわ。そんなお話をわざわざうちに来てまで話したがる方なんているわけがないでしょう?

そうじゃなくて、かつて愛の女神ララーの祝福を受けて愛を誓った二人をお呼びしたの。ご夫婦なのよ。二人からお話を聞いてごらんなさい」

「お母様ったら……」



分かっている。

母はいつまでも誰ともお付き合いしようとしないフローラを心配しているのだ。


だけどあれほど苦しいまでの想いを経験した後では、少し好意を持つくらいの人と出会っても、あまり心は動かない。愛はもっと強く深く心を揺さぶられるものではないかと思うのだ。

中途半端な思いで誰かを選んだら、きっと後悔する。


母は、フローラとの運命は切れてしまってはいるが、アーネストを勧めたいようだった。

これだけしょっちゅうアーネストと会っていれば、私達が愛を育んでいるように周りからは見えるのだろう。


確かにアーネストは好ましい。

フローラと感性が似ているし、共に過ごす穏やかな時間は心地よい。

アーネストは仕事にもプライベートにも真面目だし、両親も彼の人柄を認めている。フローラだってアーネストのご両親との関係は良好だ。

お付き合いしても何の問題もないだろう。


だけどそれは「普通に出会っていれば」の話だ。


たとえアーネストに好感を持っているとしても、かつての強い思いが、フローラを躊躇させる。

もう一年もアーネストとは友人関係であり、彼をよく知ってはいくが、祝福の辞退前のような想いまでは至らない。あんなに苦しいほどの想いは、今のアーネストに感じる事はなかった。

アーネストに対する感情は、古くからの友人に対するような穏やかな想いでしかないのだ。


彼との運命はもう切れてしまっているのだから当然だ。


この想いは友情であり愛情ではない。

お互いに好意があるというだけで、付き合いが上手くいくものではないだろう。

愛はもっと強い想いで心動かされるもののはず。




だけど母のフローラを心配する気持ちも分かるので、母の気遣いは素直に受け入れることにした。


愛の女神ララーからの祝福を受けた者は、自分達の愛をとても大切にしていて、周りに自分達の愛を語る者は少ない。

――だから愛の女神ララーの伝説には、不確かな部分があるのだが。


きっと母はいつまでも祝福の辞退に囚われて動けないフローラのために、愛の女神ララーの祝福を知る二人を呼んでくれたのだろう。


フローラと同じように、かつて愛の女神ララーに選ばれて、愛を誓った夫婦の話を聞くのは貴重な機会だ。

この際色々と二人に話を聞けば、また新しく見えてくるものもあるかもしれない。


そう考えて、「そうね。来られるお二人にお話を聞いてみようかしら?」とフローラは母の提案に頷いた。






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