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11/11

11.運命の人からの手紙


フローラはアーネストへの気持ちを確認した夜に、机の引き出しの奥に仕舞い込んでいた手紙の束を取り出した。

一通一通が分厚いこの手紙の束は、アーネストから送られながらも、かつてのフローラが受け取れなかった手紙だ。


一度アーネストに返したこの手紙の束は、実はあの日の帰り際に、「読まなくても捨ててもいいから受け取ってもらえませんか」と再び渡された手紙だった。


「この手紙は、僕がフローラ嬢に心から届けたかった言葉なのです。あの時の僕の言葉だけは届ける事ができたと、そう思わせてはもらえませんか?」

――あの日のアーネストはそう言っていた。


あの日泣きすぎて目を赤くしたアーネストに頼まれて、フローラは断れるはずもなく受け取っていた手紙だ。




この一年間、引き出しの奥にしまいこんでいた手紙に、フローラは触れる事もしなかった。

手紙の存在を忘れていたわけではないが、絶対に読まないでおこうと決めていた。


『過去のアーネスト様の気持ちを知っても、もう共に過ごす未来は消えてしまったのだから』と考えていたからだ。


だけど私達に続く未来があると分かった今なら読む事が出来る。

本当はずっと気になっていた手紙だった。


フローラは少しの緊張と共に、一番古い日付の手紙をそっと手に取った。




アーネストからの最初の手紙は、愛の女神ララーの祝福を受けた彼の喜びと、フローラから届いた手紙への感動が、文面から溢れ出るようだった。

思わずフローラの口元が緩んでしまう。


祝福を受けて、運命の相手の髪と瞳の色を知らされただけでフローラだとすぐ分かった事、祝祭日まで会う事は出来ないが、アーネストはいつでもフローラの存在を近くに感じていると書かれている。


――フローラだってそうだった。いつだってアーネストを感じていた。



もうすぐ正式にキャロルとの婚約解消が成立するが、それは以前から決まっていたもので、愛の女神ララーの祝福が原因でない事も説明されていた。

家の事情で今はまだ公言する事はできないが、必ずこの事実は世間に公表するとも書かれている。


――アーネストのフローラへの細やかな気遣いが感じられる。



正式にキャロルとの婚約が解消されたあかつきには、すぐにでも会いに行きたいけれど、祝祭日での顔合わせの方が縁起が良いとヒルストン家が考えるならば、その考えは尊重したいとも記されていた。


――フローラだけではなく、フローラの家族までも思い遣ってくれている。



長い手紙の中に、彼の誠実な人柄が表れていた。


もし当時のフローラがこの手紙を受け取っていたら、その後に手紙の返事が届かなくなっても、彼の言葉と彼との未来を信じ続ける事が出来ただろう。

二人の未来に疑いなど持たなかったに違いない。


もしかしたら彼と初めて顔を合わせても、あんなにもゴッソリと彼への気持ちは抜け落ちる事はなかったかもしれない。


――アーネストがフローラと出会っても、フローラへの愛が完全に消える事はなかったように。



アーネストだけが、愛の女神ララーに祝福を残されたままでいたわけではなく、フローラが最初に送った手紙の中に、アーネストもフローラの人柄を見てくれていたのかもしれない。

出会ってはいなかったが、初対面以上の想いをすでに持っていてくれたのだろう。




愛の女神ララーの落とした困難は、それほど大きなものではなかった。

乗り越えるまでに一年もかかってしまったが。



読み終わった一通目の手紙を、フローラはそっと指で撫でる。

まだまだたくさんの手紙があった。



順番に。一通ずつ。

丁寧に書き綴られた手紙に、ゆっくりと目を通してゆく。


どの手紙も深い愛が綴られていた。

アーネストが毎日書いてくれたという手紙には、アーネストの日常が見えた。


美しい花や、美味しいお菓子や、お気に入りの絵画。

彼の日常の中の小さな感動を、全てフローラに伝えようとしてくれた。心惹かれるものを見る度に、フローラを思い出してくれていた。

アーネストが伝える言葉はどれも優しくて、読むほどに彼への想いが募ってゆく。




この一年間のフローラのアーネストへの想いは、友情とも言えるくらいの穏やかな愛情だったはずだ。


だけど手紙を読み進めるたびに、出会う前の時のように、また苦しいほどの想いが溢れてきた。

ドキドキして今夜はもう上手く眠れる気がしない。



『今の私のこの想いは、当時のアーネスト様が書いた手紙だから、当時の想いが蘇ったのかしら?』


フローラは自分自身に問いかける。

胸に手を当てて考えてみるが、自分の事だけど答えなんて分からない。


だけど問題はない。

明日もアーネストに会う事ができる。

明日だけではなくこれからも。


たとえフローラが今以上にアーネストに深い想いを持ったとしても、アーネストは同じ想いを返してくれるだろう。


フローラとアーネストはとても感覚が似ている。

お互いの事はなんとなく分かってしまうのだ。




『愛の女神ララー様。祝福をありがとうございます』


今日は祝祭日ではないし、ここは女神ララー像の前ではない。普段通りの日で、場所はフローラの部屋の中だ。

だけど愛の女神ララーに感謝を伝えずにはいられなかった。



『今度の愛の女神ララー様の祝祭日には、必ずアーネスト様と感謝を伝えに行きますね』


アーネストからの手紙を胸に抱えて、フローラは愛の女神ララーにそう祈った。









最後まで読んでいただいてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
元サヤかぁ〜。 前半が強烈すぎただけに、後半にもう少しインパクトの強い展開を期待してしまった。
良い!!こういうお話が読みたくてなろうをブックマークしてます。同じ世界観で別のお話を読みたくなりました。
悪女キャロルのその後が気になります…
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