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「恋をしても賢くいるなんて、不可能だ」—フランシス・ベーコン

☆☆ 

 夜空に浮かぶ満月をベランダから見上げながら、ルナ・デカルトは物思いにふけった。

 兄の事を思い出していた。

 

 小さい頃から次期王様として扱われていたルナにとって、友人と呼べる存在は幼少期から小学校、現在に至るまで一人もいなかった。

 ……いいや、「次期王様だから友達がいなかった」というのはルナ自身の言い訳なのかもしれない。 

 本当の理由は、ルナが常にクラスメイトの誰かと誰かの仲を裂く原因足り得たからだ。

 女の子の友達を二人作れば、その友達は最終的に仲違いしてしまう。ルナのせいで。

 片方が本気でルナを好きになってしまうのだ。ルナの為にお菓子をプレゼントし、ルナの為に勉強を教えてくれて、ルナの為に、ルナの荷物を持つ。

 これは女の子男の子、両方に見られる現象だった。男の子がその状態となれば、彼を好きな女の子の敵意がルナに向く。女の子がその状態となれば、その女の子の親友の敵意がルナに向く。

 フラン曰く、「天性の魔性」——それがルナに備わっているのだと。

 その「天性の魔性」に翻弄され、ルナはこれまで友人を作る事が出来なかった。

 もし友人がいた時期があるとすれば、それは兄だけだった。

 男として産まれてしまった兄は、決して王になる事が叶わなかった。

 だがその運命を恨みに思うでもなく、兄はルナを沢山笑わせてくれた。

 母……レナ・デカルトが二年前に亡くなってしまってからは、より一層ルナをフランと共にサポートしてくれる存在となった。

 一年前、殺されるまでは。 

 ……あるいは、殺してしまうまでは。

 今思い返すに、兄がルナに優しかったのはクラスメイト達と同じく、ただルナの持つ「天性の魔性」の影響によるものだったのかもしれない。

 誰かがルナを本気で大切にしてくれるとしたら、全て「天性の魔性」……自分の異能染みた才能によるものなのかもしれない。

 それにもう一つ事情を思い返すと母……レナがルナに異常に厳しかった事も考えられる。

俗に言うスパルタ教育。幼稚園、小学校の頃は放課後友達と遊ぶ時間等与えてくれなかった。

そんな暇があるならば母親の作り上げた哲学理論「方法的懐疑」の概念を学ぶ時間に充てなければならなかった。

 王様である彼女が寿命で死んでしまう前に、娘に異能を継承する必要があった。その為のスパルタ教育だったのだと、それはルナ自身理解はしていた。

 この「合理の国」を守る為に異能を手にするには、友達と遊ぶ時間等無いのだと、頭では分かっていた。

 けれどやっぱり……本当は遊ぶ友達が欲しかった。

 そんなスパルタ教育の合間を見て、兄がルナの遊び相手になってくれた。

 おままごと、トランプ、球技……ルナのやってみたい事全てに、兄は応えてくれた。

 あの頃兄は、ルナをどんな目で見ていたのだろう?

 友達として? 妹として? ……女性として?

 ではルナにとっての、兄は?

 友達として? 兄として? ……男性として?

 答えは……全てだ。

 あの人……「ミヤモト・テッシン」と名乗るあの人は、あまりに兄に似ていた。

 内面が、という意味ではない。外面……容姿がだ。

 兄が生きていて成長していたら、彼のような姿になっていたと思う程に、似ている。

「お兄ちゃん……」——夜空に向かって、呟いてみる。

 今日テッシンに自分の秘密を打ち明けたのは……彼の容姿があまりに兄に似ているから……だろうか?

 けれど仮にテッシンがルナを好きになったとしても、それはルナの持つ「天性の魔性」によるものであって、本当の意味での「好き」では無いのではないだろうか?

 ルナには分からない。誰かの自分への好意が「天性の魔性」による効果なのか? 本物の「好き」なのか? その区別の仕方が、分からない。 

 愛にまみれると、本物の愛が何なのか分からなくなっていく……。  



☆☆

 彼女と指切りした時、俺の胸は確かにドキッと高鳴った。

 12歳の、年端もいかぬ少女に22歳の男が心ときめかせたのだ。

 多くの人間はその感情を「気持ち悪い」と両断する事だろう。

 それは許されない感情だと。普通の成人男性ならばあり得ない感情だと。

 俺はそんな世間の皆様に対し謝る事しか出来ない。

 俺は小学生の頃、確かに海月みづきと恋人になりたかった。

 手を繋ぎたかった。キスをしてみたかった。

 あの頃は、キスのその先が何なのか知らなかった。コウノトリが子供を運んでくると勘違いするような純朴な少年だった。

 否定しきれない、彼女ルナへの肉欲。

 俺はルナが好きだ。

 では、彼女が大人になったら?

 彼女が大人になったら、今ある彼女への恋心は冷めてしまうのだろうか?

 ……そんな事は無いと、俺は信じたいのだ。

 彼女が大人になったって、彼女を愛せると信じたいのだ。

 少女であれば誰でも良いワケじゃない。ルナだったから、良かったのだと。

 生物学的常識で見れば、手を繋ぎたいとかキスをしたいとかという感情も、所詮生殖行為に至るまでの感情に過ぎないと、一刀両断されてしまうだろう。

 

 常識なんてクソくらえだ。

 俺はロリコンだが、常識の範囲外のロリコンだ。犯罪者予備軍であっても犯罪者じゃない。


 恋は生殖の為にあるんじゃない。もっと言葉に出来ない……この世で最も美しい感情であるべきだ。

 

 俺は決してルナに触れない。彼女に手を繋ごうとかキスをしようとか言うつもりは無い。

 彼女が大人になるまでは、決して。 


 俺はロリコンだが、大人になるまでロリを愛し続けようと心に誓ったロリコンだ。


 誰かに、問いたい。頼むから、教えてくれ。

それでも俺の彼女への恋心は、そんなにも許されざる感情なのだろうか?

 22歳の男が12歳の少女と結ばれたいと思う感情は、そんなにも許されざる感情なのだろうか?



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