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「真の恋愛は、理性によってではなく心によって支配される」—ルネ・デカルト

☆☆

「……で、俺様ちゃんもルナも同時に気絶しちゃったってワケか」

 塔の最上階、会議室に戻った俺達。

 顔中に絆創膏を張って不服そうな表情を浮かべるスフレは、俺から見て奥側の席に座っている。

 ルナちゃん、フランは俺の目と鼻の先……手前に座っている。ルナちゃんも顔中絆創膏だらけだ。

「引き分け……アルなあ」と緑髪のチャイナ娘。

「この場合どうしますの? この同盟のリーダーは?」と紫髪のセクシーお姉さん。

「……いいよ、俺様ちゃんの負けで」——スフレが気恥ずかしそうに鼻を掻いた。

「やけに素直アルなあ」

「ケンカ吹っ掛けといて引き分けじゃあ、そりゃ俺様ちゃんの負けだろ。ルナの奴、昔より全然強くなってた。認めるよ」  

 スフレはボソリと「孤独って人間を強くするんだなあ」と呟いた。  

「と言いますかワタクシ達、誰かに率いられる程弱っちくありませんですわ」

「同感アル。仕切られるより仕切りたい派アルよ、ウーら」

「では、この同盟はどうなさるおつもりですか?」——フランが三人の王に、怪訝そうに尋ねる。

「一度持ち帰るアルなあ。この場で你(ニ―)の言う事全部鵜呑みする程アホじゃないアル」

「同じく、ですわ」

「え? 俺様ちゃんが負けたって言ってんのに従わねえのてめーら!?」——気の抜けた顔で二人の王の顔を見るスフレ。

 ルナちゃんに負かされたスフレだけは同盟を組んでくれるつもりだったようだが、他二人の王達は、そう簡単にはいかないようだ。

「……分かりました。一週間、お待ちします。一週間以内にご返答の手紙を下さい」

 フランは残念そうに席を立ち、俺達を率いて、会議室を後にする。

 ゆっくりと、階段を使って100階はある塔を下っていく。登りもめっちゃ大変だった。

「……テッシンさん、ありがとうございました」——隣を歩くルナちゃんが呟いた。

微笑んでくれている。

「え?」

「あの応援があったから頑張れたんです。テッシンさんがいなかったら、もっと一方的にルナが負けていました」

「……小指の合図、気づいてくれたんだ」 

「二人だけの秘密、ですからね」——フランに聞こえない程の小声で、微笑してそう言った。

 ルナちゃんが俺に笑いかけてくれているの、これが初めてかもしれないな。

「君の力になるって言ったけれど、あの場じゃあれくらいしか方法が思い浮かばなかったから」

「すごく励みになりました。本当に……本当に……」——胸に手を当てるルナちゃん。

 眩しい程の、笑顔。 

 

 ……俺はその笑顔に、罪悪感を覚えた。

 彼女を騙しているような気分になったのだ。

 たった12歳の彼女に好意を抱く俺が彼女の為に何か善意の行動してあげた所で、その善意の行動は全て下心から起因する行為にしかならない。

 彼女の笑顔が眩しければ眩しい程、その光が俺の醜さをさらけ出すようで。

 素直に、彼女の感謝の言葉を喜べないのだ。

 彼女ロリが好きな俺は……やはり醜い。 


 ——その感情を表には出さず、俺は爽やかな顔を取り繕って会話を続ける。

「よくあんな闘い方思いついたね。俺の異能のマネをするなんて」

「咄嗟に思いついたんです。でも、実戦で使える技じゃありませんね。テッシンさんの異能(イデア)と違って、理力(イド)の消費量が激し過ぎてすぐにバテちゃいます」

「透明になったり、異能打ち消したり、傷を治したり……応用力が高いね、ルナちゃんの異能(イデア)は」

「ルナ様、少し異能(イデア)の制約のタガが緩み始めていますね」

 俺とルナちゃんの会話に、先頭を歩くフランが振り向かないまま割って入った。

「異能打ち消しは、ルナ様の肉体のみに影響を与える闘い方ではなく、他者に干渉する闘い方でした。『他人の肉体に干渉しない』というレナ義母様が施した制約に、ヒビが入ったように感じました」

「それは……良くない事なのか?」

「いいえ、むしろ良い事です。今まで自分にバフをかける事しか出来なかったルナ様が、対戦相手にデバフをかける事が出来るようになったのですから」

 バフとデバフって……この時代のどこでそんな用語覚えたんだよ?

「やりすぎなければ問題にはならないんです。レナ義母様が危惧した事は、『真実の書き換え』は、一歩間違えればルナ様に触れたもの全てを皆殺しにしてしまう危険性を孕んでいる事だったのですから。容量を間違えなければ、間違えなく最強のほこです」

 皆殺し……物騒なワードだが、事実なのだろう。

「テッシン、礼を良います。ルナ様のタガが緩んだのは、アナタのお陰でしょう」

 ……なんか今日、めっちゃ褒められる日だな。嬉しいけどさ。


☆☆

 馬車の中で、スフレ・パスカルは夜空を見上げていた。

 雲一つない満天の夜空の中、今日の闘いに想いを馳せていた。

「……良い闘いだった。ようやく好敵手を見つけた……」

 そう口にしたのは、隣の席に座るスフレの従者だ。ふざけた声真似……おちょくってる感じ全開な言い方だった。

「ちょっ! てめー、俺様ちゃんの心ん中読んでるつもりか!?」 

「実際、お気に召したんじゃありませんか? ルナ様の事」

「まあ……昔みたいな乳臭さは消えたかな?」——照れ隠しで鼻を掻く。

「しかし、ルナ様の同盟に加わるとなると、この手紙はどうなさるつもりですか?」

 従者が、分厚い封筒に入った手紙を取り出した。

 差出人の名は……セイレーン・キルケゴール。差出日は一週間前。

「いやー、マジどうすっかなー。本当困ったわ~」

 温情を取るか、利を取るか。選択権はスフレにある。

 スフレは、自分が王様になる事以外に興味は無い。

『女性支配派』と『男女同権派』の揉め事等、正直他所(よそ)で勝手にやって、勝手につぶし合っていてくれれば良いのだ。

  


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