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第1章 第6話「潜入」

夜。マクス達4人は、執政長官の屋敷の裏手の近くの草むらに身を隠していた。前もってリュネが調査を重ねていたおかげで(いつでも侵入できるよう、下準備をしておいたらしい)、見張りの隙が出来る時間を把握できたのが大きい。


「さて、これから俺達は殴りこみに行くわけだが…………」


「ちょっとちょっと、侵入する、の間違いじゃないの?」


小声で切り出したマクスに、同じく小声でファインが突っ込みを入れる。


「似たようなもんだ、面倒くさい」


「そうねぇ、マクスがいたら殴りこみになっちゃうかもね、残念ながら」


「さすがだな、解ってんじゃねえか」


「はあ………。もういいや、続けてよ」


「じゃあ続けるぞ。これから俺達は殴りこみに行くわけだが、お前達は行かなくてもいいんだぞ? 戦力としてあまりあてにできるとは思えねえし、足手まといになってほしくねえからな」


「なっ………! 僕は大丈夫だよ! これでも、銃の扱いには少し自信があるんだから」


そう言って、ファインは腰のホルスターに収められた拳銃をぽん、と叩く。

それを見てマクスは、はぁ、と溜め息をついた。


「あのなぁ、仮にお前の腕がよかったとしてもだ、並の実力じゃ俺達のお荷物になるだけだぜ? 今回は大人数戦だ。少し腕がありゃ勝てるような少人数戦とは訳が違う。本当に、桁外れの体力、実力、判断力が必要になるんだよ。少なくとも、初めて会った時に襲われてた帝国兵士の連中を蹴散らせないようじゃ、今度の戦いでも足手まといにしかならねえな。これを聞いてもまだ、ついてくるなんてほざくか?」


「そ、それは…………」


ファインはマクスの言葉に力なく俯いた。彼の言うことが真理だと理解は出来るが、納得は出来ないといった様子だ。


「ま、解ったらお前は姫様の護衛でもして待ってろ。それも十分重要な役目だぜ?」


そう言って、マクスはファインの頭をぽん、と叩き、撫でる。


「マクス…………」


不思議と、嫌な感じはしなかった。それはきっと、珍しくマクスの手に優しさが入り混じっていたからかもしれない。


「じゃあな。姫様、行ってくるぜ」


「はい、マクスさん、リュネさん、お気をつけて」


「行ってらっしゃい」


二人に手を振りながら、マクスとリュネは裏口から屋敷内に潜入した。

















「無駄に豪華だな、全く」


壁に掛けられた金の調度品を手で触りながら、マクスが忌々しげに呟いた。


屋敷の中には至る所にこうした高価な調度品が飾られており、執政長官の生活レベルの高さが伺える。


「これも全部、あいつがこの町の人達から巻き上げた結果よ。許せない」


「さっさとぶっ潰して、憲兵に突き出してやろうぜ」


「ええ。………それにしても」


「ん? どうした?」


「ううん、あんたがあんなに人に優しくしてるの見たの、久しぶりだなって思って」


「俺がいつ、人に優しくしたってんだ?」


「とぼけても無駄。あの子……ファイン君、だっけ? やっぱりあれ? 弟君のこと思い出すから?」


「…………そんなんじゃねえよ」


マクスは、遠い昔を思い出すかのように目を細める。


「ま、そういうことにしといてあげる」


そんなことを話しながらも、二人は周囲の警戒を怠らず、油断なく進んでいく。


やがて、二人がレッドカーペットが敷かれた廊下を進んでいくと、曲がり角を曲がろうとしたリュネが立ち止まり、マクスを制止する。


「どうした?」


小声でマクスが訊くと、リュネは人差し指を口元に当てて同じく小声で答える。


「しっ、衛兵がいる」


壁越しに様子を伺うと、こちらに二人の衛兵が談笑しながら歩いてくるのが見えた。


「どうする? この辺りに隠れられそうなところはないけど」


「………決まってんだろ?」


マクスは笑いながら、腰の長剣を軽く小突いた。それを見て、リュネの顔にもまた笑みが浮かぶ。


「訊くまでもないか。全く、血の気が多いのは相変わらずね」


「お互い様だろ、それは」


そう言って、再び二人は笑い合った。


そして次の瞬間、風のように二つの影が衛兵達の前に躍り出た。


「な、何だお前達は!?」


一緒に歩いていた仲間を一瞬のうちに蹴散らされた衛兵が上ずった声で訊いた。


「さあ、誰でしょう?」


「俺達は急いでんだ。大人しく眠ってろ」


リュネが不敵な笑みを浮かべながら問いかけ、マクスが一睨み。ただでさえ不意打ちで仲間を一人失っているところにこれだ。これだけで、衛兵は冷静さを完全に失った。


「う、うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


衛兵は、マクスの拳をまともに腹に受け、叫び声を上げながら失神した。


「ったく、侵入者の一人や二人ぐらいでオーバーだっての。お前それでも衛兵か?」


「でもまずいわ。今ので気付かれたかも」


リュネの勘は正しく、すぐに慌ただしく足音がいくつも聞こえてくる。


「はっ、上等だ。全員まとめてぶっ倒してやる。行くぞ」


マクスが顔に笑みを浮かべながらずんずんと歩いていく。


(………本当に血の気多いなぁ。ま、今に始まったことじゃないけど)


リュネはそう思いつつ苦笑いして、マクスの後を追った。


次の曲がり角を曲がったところで、衛兵の大群が一気に押し寄せてくる。


「侵入者だ!」


「捕らえろ!」


そう叫びながら襲い掛かってくる衛兵達を、二人は素手で鮮やかな動きで捌き、気絶させていく。


「くっ、手ごわいぞ! 皆、油断す………」


「遅ぇよ」


リーダーの一人らしき男をセリフが終わるのも待たずあっさりと蹴倒し、マクスは素早く突破する。マクスが空けた陣形の穴から、リュネも続く。


「相変わらず強引ね」


「ああでもしねえと面倒だろうが」


「確かにそうかもね。あの数は正直あたしでもきついわ………」


話しながら走っていくと、前から再び複数の足音が聞こえてきた。


「ちっ、またかよ…………」


「きりがないなぁ。全く、無駄に数だけはいるのよね、この屋敷」


いちいち相対するのも面倒なので、二人は曲がり角を曲がると、同時に先手を打って攻撃を仕掛けた。二人の拳や蹴りに、次々と衛兵達は気絶に追い込まれ、あっという間に蹴散らされた。


そんなことを数回繰り返しながら屋敷の中を疾走していくと、道中で見てきたよりも格段に大きい扉に行き当たる。


「ここか?」


「ううん、まだ違う。確かここは、執政長官のいる部屋の手前の部屋だったと思う」


「ちっ、どんだけ広いんだ、この屋敷は!」


足で蹴飛ばして扉を開けると、周りはすっかり兵士達が取り囲んでいた。


「へっへっへ、もう逃げられないぜ、ネズミめ」


勝ち誇った笑みを浮かべ、衛兵の一人が言う。


「はっ、それが仮にも正規軍のやつの言うセリフかよ。まるでこの前会った山賊みてぇだぜ」


「き、貴様! 俺を山賊と同列と抜かすか!」


「じゃあ何だってんだ。あ、海賊の方がお好みか? 悪かったなぁ、気が回らなくて。そうか、そうか」


わざとらしくうんうん、と頷きながらそう言うマクスの様子に、衛兵の男はすっかり頭に血が上り、大声で喚く。


「貴様………執政長官直属の衛兵隊隊長であるこの俺をこけにしおって…………」


「肩書きなんざ関係ねえ。そんなことも解らねえから、山賊と同レベルだっつうんだよ」


「ふざけるな! もういい、捕らえるつもりでいたが、もう容赦はせん! 構え!!」


衛兵の男の号令と同時に、周囲に展開していた衛兵達がライフルを二人に向ける。


「撃てぇ!」


衛兵達のライフルの銃口が、一斉に火を吹いた。無数の銃弾が一斉に二人に襲い掛かる。だが、マクスはもちろん、リュネまでもが全く動じない。


リュネが一歩前に出、右手を前に突き出す。そして、静かに神術の詠唱呪文を唱えた。


「神の御力よ、我らを護りし羽衣となれ! ブルールレイン!」


橙色の半透明な障壁が二人の周囲を包み込んだ。銃弾はその障壁に一つ残らず阻まれ、勢いを失って床に落下する。


「ば、馬鹿な………。ええい、撃て! 撃ちまくれっ!!」


衛兵隊長の号令で、再度衛兵達が砲撃を開始する。中にはライフルだけでなく、バズーカまで持ち込んだ者もいて、建物の中であるのも構わずに打ち出す。


だが、その全ては尽くリュネの作り出した障壁に阻まれ、バズーカの砲弾が障壁に激突した衝撃で爆発が起こり、辺りを白煙が包み込む。


そして煙が晴れると、未だ無傷のままのマクス、リュネの両名の姿があった。それだけではない。マクスの右手は上に突き出されており、頭上には幾つもの雷球が渦を巻くように動いている。

にまあ、と満面の黒い笑みを浮かるマクスの様子が衛兵達に与えたのは、恐怖だけだった。


「行けえええぇぇぇぇぇぇ!」


マクスが手を振り下ろすと、雷球は彼の周囲に無差別に襲い掛かった。それらは二人の周囲にいた衛兵達に直撃、あるいはその近くに着弾し、確実に意識ある者の数を減らしていく。


そして雷球がなくなった時、マクスとリュネ、そして衛兵隊長以外に誰一人として立っている者はいなかった。


「ご苦労さん、リュネ」


「あんたもね。………ったく、相変わらず凄い威力ねぇ、シュトゥルムヴェイン」


余裕でそう話す二人とは対照的に、衛兵隊長は二人の想像以上の強さにうろたえる。


「ば、化け物…………」


「酷ぇな。俺だって人間だぜ? れっきとした」


「ひ、ヒイィ~~~~~~!!」


衛兵隊長は、なんとも情けない声を上げながら逃げ出していった。


「はっ、口ほどにもねえな」


「さ、早く次行こ?」


「おう」


マクスとリュネは、再び奥へと進むべく歩き出した。


今のでほとんどの衛兵を倒せたらしく、その後はほぼ何事もなくすんなりと進むことが出来た。


そして、再び先程と似た大きな扉に行き着く。


「おいリュネ、今度こそここなんだろうな?」


「うん、今度こそ間違いない。ここに執政長官がいるはずよ」


「よし…………行くぜ!」


マクスは勢いよく扉を開けた。

部屋の中は書斎のようになっており、壁を本で一杯になった本棚が埋め尽くしている。まるで小さな図書館であるのかのように広かった。


そして中央の奥では、一人の初老の男が椅子に座っていた。


「ほう、私のところまで辿り着いたか。なかなか骨のあるネズミのようだな」


「あんたが執政長官様とやらか?」


「いかにも。この私こそ、この町を治める任を任されし、執政長官だ」


「な~にが治める任よ。やってることは独裁でしょうが!」


「五月蝿い。お前達は私の言う事に従っておればよいのだ。私の懐を潤す道具に過ぎんのだからなぁ!」


「言ってろ。さっさとぶちのめして、刑務所送りにしてやる」


「ふん、出来るかな?」


執政長官は、机の上にあったボタンを押した。すると書斎の本棚がスライドし、隠し通路から、サイとも虎とも似つかない巨大な猛獣が姿を現す。


「どうだ? 神術の力で生み出したものだ」


執政長官が自慢げに、猛獣の巨躯を見上げる。猛獣はもはやこの世の生き物ではなく、魔物そのものだった。


「さあ、踏み潰してやれ!」


執政長官の命令と同時に、猛獣は咆哮を上げてその大きな足をマクスたちに向かって振り下ろした。素早く跳んで身をかわす。


「悪趣味なもん作りやがって…………」


「マクス!」


「解ってる! やるぞ!!」


マクスは剣を、リュネはナックルを出し、身構えた。


猛獣は、再び襲い掛かってきた。その強靭な腕が振り下ろされ、咄嗟にかわした二人がいた場所を、鋼鉄のような爪が切り裂いていく。


「くはははは、どうした、逃げてばかりではこいつは倒せんぞ!」


「はっ、誰が逃げてるだけだって?」


薄笑いを浮かべるマクス。その右手と握られた剣には、神力による光のオーラが宿っている。


マクスはこの短時間の間に、しかも猛獣の攻撃から身をかわしながら、神術の詠唱を終えていた。


「喰らいなっ! シュトゥルムヴェインっ!!」


剣を頭上に上げ、現れた雷球が次々に猛獣に直撃し爆発を起こす。しかし、目の前の巨躯には傷一つ見受けられなかった。


「何だと?」


おそらくは驚きに、マクスは眉を顰める。


「ははははは、無駄だ。こいつの皮膚は神力を弾く特殊なコーティングがなされている。神術は効かないぞぉ!」


「ちっ、ほんと面倒くさいもんを…………!」


「はっはっは、降参するというなら命まではとらんぞ? どうだ?」


「ふ~んだ、冗談でしょ? ねえ、マクス」


リュネがそう言って舌を出すと、マクスは当たり前だ、と言って剣を構える。


「大体、そんな木偶の坊が俺達に通用すると思ってやがるのが気にいらねえ。少し目に物見せてやろうぜ」


言うが早いか、マクスはだっ、と前に踏み込んだ。驚異的な速さで一気に猛獣との距離を詰める。そしてそのまま、長剣を縦横無尽に振った。猛獣の巨躯ではその速さについていけず、なす術もなく切り刻まれる。


猛獣が、血を振り撒きながら怒り狂ったように咆哮し、前足をマクスに向かって振り下ろす。マクスはそれを後ろに跳んでかわし、代わりに入れ替わるようにしてリュネが猛獣の懐に飛び込むと、思いっきり右手を振りかぶる。その拳は神力によって強化され、光のオーラのようなものが宿っている。神術士の戦闘術の中でも上位とされる、物体強化だ。神力のエネルギーを他のものに変換して直接叩き込む神術とは違い、これならコーティング加工も関係ない。


「全く、でかけりゃいいってもんじゃないんだから、ね!」


最後の『ね』と同時に、リュネは渾身の力で右ストレートを叩き込む。右拳が、深々と猛獣の体に食い込む。強烈なダメージに猛獣は大きく仰け反り、悶絶の叫びを上げた。

そして、不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりと歩いていき、ズズン、と倒れ伏した巨躯にマクスは剣を振るう。

一瞬にして、マクスの体が猛獣の背後に移動する。次の瞬間、猛獣は断末魔の叫びを上げながら血飛沫を上げ、動かなくなった。


「終わりだ」


「そ、そんな馬鹿な!」


執政長官は、有り得ないものを見たかのような絶望的な表情で喚いた。


「そんな馬鹿な、特注して作らせた秘蔵の魔物だぞ!? それを、たった二人で、こんなにあっさりと倒すだと!? そんな馬鹿なことがあってたまるか!」


「諦めなさい。あんたの負けよ」


「大人しく捕まってくれたら、手荒な真似はなるべくしないようにしてやってもいいんだぜ?」


「くうぅ、この私が情けを掛けられるなど…………!」


「素直に聞いとけ。それともまだ無駄な抵抗をして、痛い目を見ねえと気が済まねえか?」


マクスの言葉に、執政長官の顔が歪む。おそらくは、これから目の前の男から受ける苦痛を想像したのだろう。

だが、その恐怖心よりも、何としても捕まるのだけは避けねばならないという、醜い自尊心が勝ったようだ。


「くそっ、こんなことがあってたまるか!」


執政長官は、猛獣を解き放ったボタンの近くにあったもう一つのボタンを押す。すると、他の本棚がスライドし、隠し通路が現れた。執政長官は、慌ててそこに飛び込む。


「あっ、逃げた!」


「逃がしてたまるか。追うぞ!」


「うん!」


二人も、迷わず隠し通路に飛び込んだ。

















「待てコラァ!」


さほど広くない隠し通路の中を必死に逃げる執政長官を、マクスとリュネが追いかける。本来ならば、速さの上で二人が執政長官に負けるはずはないのだが、見知らぬ場所である上に、通路の暗さのおかげで思うように追跡が出来ずにいた。それでも、見失わずにここまで的確についていけているという事実はさすがとしか言いようがない。


「くっ、しぶといやつらめ…………」


執政長官の舌打ちが聞こえてくる。


「こうなったら、あれを使うか……………」


そう呟くと、執政長官は不意に道を変えた。

マクスも当然それを逃すことなく、執政長官が曲がったのと同じ道に曲がる。


すると、突然目の前に光が差し込み、二人は目を瞑った。


「何!?」


「この光………月の光?」


二人を照らしていたのは、月光だった。真っ暗な隠し通路から突然光の当たる場所に出たため、月光ほどの光でも強く感じたのだ。

通路―――――否、一つの部屋に月光が差し込んでいたのは、壁が破壊されて内部が外に露出したためであった。そして二人の目の前には、大きな翼を持つ、四足歩行の魔物と、その背中に跨る執政長官の姿があった。


「はっはっは、いくら貴様らでも、空までは追って来れまい!」


「ぬかせ、打ち落としてやる! 天の威光よ、我が力となりて降り注げ! シュトゥルムヴェイン!!」


無数の雷球が魔物に襲い掛かる。しかし、雷球は直撃するものの、魔物には大したダメージは見受けられなかった。


「ふはははは! 無駄だ! こいつも先程の魔物と同様、羽毛に対神力コーティングを施してあるのでな!」


「ちっ、全く厄介なもんを…………」


マクスは毒づく。いかにマクスといえど、独力で空は飛べない。跳躍して届かない距離でもないが、支えのない空中では攻撃をかわすことは出来ないし、薙ぎ払われるのがオチだ。


「くくく、では、さらばだ………!」


魔物が向きを変え、空の彼方へ飛び去っていこうとする。

すると、次の瞬間―――――。


ドキュン!


下方から一陣の閃光が放出され、魔物の胴を貫く。それが銃撃によるものだと気付くのに、さほど時間はかからなかった。


胴を打ち抜かれた魔物は断末魔の声を上げて絶命し、執政長官の男をその背に乗せたまま落下する。


「ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!」


長い悲鳴を上げながら、執政長官は地面に落下した。どうやら魔物の上にいたおかげで魔物の体がクッションとなり助かったようで、衝撃に呻いている。


「お~~~い、マクス~~~~~~!!」


突然の出来事に二人が唖然としていると、下から元気のいい少年の声が聞こえてきた。その声で我に返ると、破壊された壁の縁の駆け寄り、崖下を見下ろした。落下した執政長官の近くで、ファインとレインシアが手を振っているのが見える。


「お、お前ら!」


「へっへ~! どう? これで僕でも役に立つってこと、解ったでしょ?」


「お前な………。いいから、そこでじっとしてろ! すぐ行くからな!」


そう言うと、マクスはリュネの体を抱え………。


「え、ちょ、マクス!?」


「ちょっと我慢してろよ」


そのまま、壁の穴から外へ飛び降りた。


マクスは人一人を抱えているとは思えないほど綺麗に、地面に着地した。


「ああ、初体験でないとはいえ………久しぶりにされるときついわー」


平然としているマクスの横で、リュネが一気に疲れたように項垂れている。


「しっかりしろ。温い万屋稼業で、肝っ玉が鈍ったんじゃねえか?」


「…………かもね。マクスと一緒だと、スリルという点ではこれ以上ないってくらいのもの味わえるし」


「だろ?」


(………まあ、あんたならどんなスリリングな出来事でも安心できるんだけどね…………)


口には出さず、敢えて心の中でそう密かに思うリュネであった。


「マクス! リュネさん!」


「あっ、姫様!」


レインシアが、笑顔で駆け寄ってくる。だが―――――。


「危ない!」


「え…………きゃっ!」


魔物の背中の上で呻いていたはずの執政長官がいつの間にか魔物の背中から降りて、レインシアを背後から拘束したのだ。


「姫様!」


「動くな!………この娘の命が惜しくば、抵抗しないことだ」


レインシアの首筋にナイフの刃が突きつけられていることに気付き、腰のガンホルダーに向かっていたファインの手が止まる。


「くっ………卑怯な!」


「くくく、何とでも言うがいい。それにしても………娘、貴様随分高価なネックレスとしておるな」


そう言って執政長官が手で持ち上げたペンダントは、中央に紅い宝石がはめ込まれていて、確かに随分と高価なものに見えた。


「は、離して下さい!」


「ふん、そういえば姫様とか聞こえたが、もしや、帝都から逃げ出した皇女とは貴様のことか? ちょうどいい、貴様を連れて行き、帝都の上層部に私をとりなってもらうとしよう」


「させると思うか?」


マクスが剣を構える。だが、レインシアを盾に取られたこの状況では虚勢もいいところである。いくら傍若無人のマクスでも、誰でも構わず死んでもいいなどと考える狂人ではない。ましてや、それが自分の目的のために必要な女であるならば、尚のことである。


「やめておけ。皇女様の首を血に染めたくなければな」


「卑怯者! あんた、町の統治でも今回も、何かにすがらなければ何も出来ないの!?」


「くはははは、負け惜しみだな、侵入者よ。どんな形であれ、勝てばいいのだよ。くははははははは!」


そう言って、執政長官はレインシアを盾にして三人を牽制しながら少しずつ後ずさる。


「嫌っ! 離して下さい! 離してっ!!」


レインシアは必死に、執政長官の腕の中でもがく。


「ええい、暴れるな!」


執政長官も負けじと抑え込もうとする。


すると、事態は唐突に起こった。


「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~!」


レインシアのペンダントが強く発光する。その光はやがてレインシアの体全体にまで拡大し、少しずつ辺りの闇を侵食していく。それは、マクスとリュネが使う神術のオーラによく似ていた。


「ぐっ、何だ!?」


あまりに強い光に、執政長官は目を覆う。

やがてレインシアが一際強く発光すると、強い衝撃波が彼女の周囲を襲い、執政長官はそれによって吹き飛ばされた。


「ぐあああああぁぁぁ!」


やがて光が収まると、レインシアは気絶した。倒れそうになる彼女の体を、駆け寄ったマクスが寸前で支える。


「今のは、一体…………。おいファイン、今のは何だ!」


「わ、解らないよ。僕だって、何が何だか………」


「とにかく、一件落着ね」


リュネが、近くの岩に激突して伸びている執政長官を見下ろしながら言う。


「そうだな。よし、とにかくこいつらを運ぶぞ!」


ファインとリュネは事態に困惑しながらも、マクスの言葉に頷いた。

















「どうだ、姫さんの様子は」


女性用の部屋に寝かせたレインシアの様子を見に行って帰ってきたファインに、マクスは尋ねた。


「ぐっすり眠ってるよ。………ほんとに何だったんだろ、あれ」


「ぱっと見の判断だが、あの光は神力という可能性が高ぇな」


「本当?」


「そうね、確かにあれは私達が使う神力によく似てたけど、ちょっと違わない?」


リュネが考え込みながら言うと、マクスは頷く。


「そうだな。まずオーラの質が違う。あれをただそのまま神力と判断するのは、早計かもしれねえな」


「そうなんだ…………」


「ま、今はそんなことはどうでもいい。今俺達がしなければならないのは、姫さんを無事帝都へ送り届け、帝位を継がせることだ。違うか?」


「そう……そう、だよね………」


未だ心配そうな顔をしているファインのところへマクスはつかつかと歩いていき、ぽん、と肩を叩く。


「今はゆっくり休んでおけ。明日からまた出発だ。お前の仕事は、姫さんを護ることだろう?」


「…………うん、そうだね」


ファインはまだ納得していないようだったが、マクスの意思を汲んだのか、大人しく男部屋に戻っていった。


「………ねえ、マクス。いいワインあるんだけどさ、久しぶりに一緒に飲まない?」


ファインが部屋に戻ったのを確認すると、リュネは立ち上がり、棚を漁り始める。


「おっ、いいねぇ。俺達は大人の時間を楽しむとしようぜ」


「な~にが大人の時間よ。あたしはともかく、あんたは見た目も歳も一応まだ未成年でしょうが」


「うっせぇ、心は立派なアダルトだ」


「ふふっ、はいはい」


リュネはくすくすと笑いながら、ボトルの封を開け、二つのグラスにそれぞれワインを注ぎ、一つをマクスに手渡す。


そして、二人は微笑み合いながら無言でグラスを打ち鳴らした。そしてそのままグラスを口に持っていく。ぷはぁ、と息を吐くと、ワインの甘ったるい香りが辺りに広がる。


「乾杯………は、無事に事が運んだ時にとっておくか」


「そうね。………そっかぁ、ついにあんたの願いが叶う時が来るんだ」


「願いなんて、そんなロマンチックなもんじゃねえさ。俺のは単なる足掻きだよ。それにな、叶うかどうかはまだ解らないぜ? もしかしたら、姫さんの力でも手に入れられないかもしれない。俺が探してるのは、そういう伝説級の代物なんだからな」


「それは解ってるけど。でも、お姫様の力でも手に入らないようなものがあんたに手に入れることが出来るわけ?」


「それはそうなんだがな。まあ、確かにかなり近くなったことは間違いないな。ふん、そうなりゃ俄然やる気が出るってもんだ。帝国軍でも何でも来いってんだ」


そう言うと、マクスはグラスのワインを一気に飲み干す。


「おかわり、いる?」


「ああ、もらおう」


マクスの差し出したグラスにワインを注ぎながら、リュネは呟いた。


「仕方ないわね。そういうことなら、いくらでも協力してあげるわよ。まずどうするの?」


「まずは、お前が昔いたギルド…………神の牙、だったか? あいつらに接触する」


「ええっ、あいつらぁ~~~!?」


それを聞くと、リュネは明らかに嫌そうな顔をし、不満の言葉を口にする。ギルドとは、様々な人々からの依頼を請け負う、所謂何でも屋のようなものであり、その仕事内容はギルドによって違う。リュネが所属していた神の牙は主に行商人などのキャラバンの護衛や魔物の退治などを請け負うことを生業としたギルドであった。数年前に訳あってリュネはここを脱退し、今ではそのギルド時代の経験を活かし、同じ様な仕事を請け負う万屋を営んでいたのである。


「何だ、嫌なのか?」


「う~ん…………別にあいつらが嫌ってわけじゃないんだけど、辞めたあたしが今更あそこに行くってのが、ちょっとさ………」


「…………それだけか?」


「………え?」


「それだけじゃねえだろ。お前まさか、まだあのことを気にして………」


マクスの言葉に、リュネの顔が一瞬引きつる。しかしすぐに笑顔になる。その笑顔はいつもの彼女のものではなく、不自然なまでに明るいものであった。


「そ……そんなわけないじゃん! やだなぁ!」


「そうか? ならいいんだが…………」


「……………あたしももう寝るね! じゃ、お休み~」


そう言い残し、リュネはそそくさとその場を後にする。


「………………一人で抱え込みやがって」


そう忌々しげに呟き、マクスは一人、ワインを啜った。



神崎「神崎はやてのぉ~! 神の黄昏、in SPIRITUAL ARMS! 始まりま~す! 司会進行は私、神崎はやてと!」


マクス「マクス=トレンジアでお送りするぜ。さてと、作者さんよ。今回はこの作品の制作裏話だったか?」


神崎「うん、そうだよ。今日のお題は、こちら! キャラクター設定!」


マクス「ほう、キャラ設定か。てことは、俺達の設定がいかにして生まれたか、それを暴露するわけだな?」


神崎「うんうん、そういうこと。さすがマクス、飲み込み早くて助かるよ。さ、まずは主人公、マクス=トレンジアから!」


マクス「俺か。ま、俺はパーフェクトなんで、説明することありすぎて困るだろうがな♪」


神崎「そうしたいんですけど、ネタバレという規制があるので、話せるのは今出てる設定の裏話のみになります」


マクス「何だ、つまんねえ」


神崎「まあまあ、そう言わないで。マクスの大雑把な設定は以前書いたんで解ってるとは思うけど、まあ長剣使いなんだよね」


マクス「まあ、王道ファンタジーの定番だろ、そんなの」


神崎「まあそうなんだけど、作者がメインで書いてる小説の主人公が、双剣使いなんだよね。だから、たまにはスタンダードな武器使いでも出してみるか! ってことで長剣に決定しました。他の武器にするという選択肢もなくはなかったけど、やっぱり剣かなあ、と」


マクス「安直だな」


神崎「うっさい。んで次、甘党の件。これは、最初期の設定にはなく、当時見た漫画でクールなのに甘党、ってやつがいてインパクトがあったので、『じゃあ俺様キャラで甘党にしても面白くなるのでは?』という考えで甘党にしました」


マクス「まさに日常からアイディアが出る、ってやつだな」


神崎「そうだね。さて、もっと話したいとこなんだけど、これ以上はネタバレ入ってくるからお話できません。以降の更新をお待ち下さい」


マクス「次回は、新たなキャラをゲストに迎えるぜ」


神崎「では、次回更新まで、ばいば~い♪」

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