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第1章 第4話「強敵手」

「マクスさん、あれは何です?」


「あれはアイスクリーム屋の屋台だな。金を払えばアイスが買える」


「ではあれは何です?」


「あれは大道芸だ。いろいろな見世物をやってるぞ」


「わあ…………ちょっと見てきていいですか?」


「ああ、行って来い」


マクスの返事に顔を輝かせると、レインシアはわくわくした様子で大道芸の人だかりへ駆けていく。


マクス達は現在、旅の準備をするべく、町に買出しに来ているところだった………はずなのだが。


「あの…………」


「ん、どうした?」


「僕達、旅の準備に来たんだよね?」


「当たり前だろうが。ついに頭までおかしくなったか?」


「んなわけないでしょ! ていうかついにって何だよ、ついにってっ!!」


「そんなに怒るな。血圧上がるぞ」


「大きなお世話だっ! ていうかそうじゃなくてっ!」


「じゃあ何なんだ、暑苦しい」


「決まってるでしょ! さっきから必要なものも買わず観光ばっかり! おまけに殿下をあんなに無防備に大衆の眼前に晒して! あんた本当に守る気あるわけ!?」


ふうぅ、と面倒くさそうに溜め息をついて、マクスは答えた。


「当たり前だろうが。俺はやる気にならない限りどんなこともしないが、一旦やる気になったものは最後までやりとおす主義だ」


「じゃあどうして…………」


「さっき、この町を一回りしてみて解った。結構大きな商業都市にも関わらず、姫さんやお前の手配書が一枚もない。やつらも、まだ姫さんを指名手配するに至ってないってことさ。そんな状態で、真昼間にこそこそしててみろ、逆に怪しまれるぞ? 木を隠すなら森の中、ってな。これだけ人が多けりゃ、そう簡単に見つからねえだろ。さ、そうと決まれば観光だ。行こうぜ」


マクスはそう言うと、大道芸に向かって盛大に拍手をしてはしゃいでいるレインシアの元に駆けていく。


「解らなくはないんだけど………。何か納得いかないなぁ。じゃあ何で買い物しないんだよ………」


マクスの後姿を見つめながら、複雑な表情でファインは呟いた。

















「起きろ、レインシア、ファイン」


小声で体を揺すられ、レインシアとファインは眠気眼でゆっくりと起き上がった。


ここは、町の宿屋の一室である。昼間中観光して回った一行は、程よく辺りが暗くなってきたところで宿をとったのである。襲撃を受けても対応出来るよう、ファインの反対を押し切ってレインシアも同室で寝かせていた。


「何なのさ、マクス。まだ夜中じゃないか。もう少し寝かせてよ…………」


心地よく寝ていたところを起こされ、不機嫌そうにファインは言った。


「馬鹿、行くぞ」


「行くって、どこへです?」


レインシアが寝ぼけた様子で訊く。寝起き姿ですら高貴な美しさが感じられるのは、さすが王族といったところであろう。


「決まってんだろ。買うもん買って、とっととこの町出るんだよ」


「何かマクス、盗賊の親分みたい」


「ええ、マクスって盗賊だったのですか!?」


「ふざけんな。ていうかてめえも信じるな! とにかく行くぞ」


3人は宿を出ると、夜の繁華街へと繰り出した。


「わあ、夜なのに結構賑やかですね…………」


「まあ、商業都市だしな。夜だって結構やってる店とかは多い。よし、昼間と違って観光している暇はねえからな。ちゃっちゃと済ませるぜ」


そうして、一行は食料などを主に買い込む。だが…………。


「ねえマクス、それって剣、だよね………?」


「当たり前じゃねえか。これが剣以外の何に見えるってんだよ? ついに頭までおかしくなったか」


「だからなってないっての! ていうか何さり気に疑問系じゃなくなってるんだよ! 確定か、確定ってか!?」


「うるせえな。じゃあ何だってんだよ?」


「何で剣なんか買ってるのか、って訊いてんの!」


そんなことも解らないのか、といった表情で睨み、マクスはファインの問いに答える。


「そんなの決まってるだろ。お前達の護身用だ。いいか、俺は天才だし世界最強なのは重々解っている」


「うわ、何て自意識過剰」


「だがな、それでもてめえらを守りきれなくなった万が一の場合に備え、お前達に持っていてもらわねばならない。分かったか?」


「あの、マクス…………私は、人殺しは………」


歯切れ悪くレインシアが言った。その意を察し、マクスが珍しく優しい様子で諭す。


「いいか、俺はな、何もお前に人殺しをしろと言ってるわけじゃねえ。ただ、おまえ自身の身を守る盾として、こいつを持っていて欲しいと言っているだけだ。お前が望めば敵を倒す剣としてではなく、必ずお前を守る盾となってくれる。………解ったか?」


「…………はい」


マクスから剣を受け取ったレインシアは、その重みを確かめるように、そっと剣を撫でた。


「さて、お前にも渡しておくぞ。ほら」


「あ、ありがとう。しかし以外だなぁ。あんたがあんな言い方も出来るなんて」


「美しい女性限定だがな」


「…………褒めて損した」


「まあそう言うな。さ、行くぞ! 早いとここの町出て、帝都を目指すんだ」


「はい!」


「あ、ちょっと待ってよ!」


こうして3人の、帝国の帝位継承を巡る旅が始まったのであった。









「あやつ、こんなところまで来ていたか………」


夜の闇に紛れ、男が一人、マクス達の方をじっと見つめていた。帝国の軍服を身に纏い、その上に鎧を着込んでいる。


「何やら一人増えているようだが………まあいい」


男はそう言って、腰に挿していたサーベルを抜き放つ。


「場合によっては奴の血肉、我が剣の錆にしてくれるわ」


暗闇の中で、男の口元が笑みに歪んだ。

















「どうしたのですか、マクスさん?」


突然立ち止まったマクスに、レインシアは不思議そうに小首を傾げながら尋ねる。その一挙一動が、一々愛らしい。


「しっ。静かにしろ」


人差し指を口元に当て、マクスは小声で返す。しきりに辺りを見回した後、何食わぬ顔で振り返った。


「よく聞け、この先にちょっとした丘があって、そこに大きな木が一本たってるはずだ。お前達、とりあえずそこまで先に行ってろ」


「マクスはどうするのさ?」


「俺、ちょっと忘れ物」


そう言い残すと、マクスは足早にもと来た道を戻っていった。


「え、ちょっとマクス!?…………ったく、仕方ないなぁ」


「ファイン、一緒に行かなくてもいいんでしょうか?」


「平気でしょう。それにあの男のことだ、どうせ本当に忘れ物しただけですって」


「…………そうでしょうか」


不安そうに、レインシアは顔を曇らせる。


「そうですよ。さ、我々も先に進みましょう」


ファインに促されるようにして、レインシアはその場を後にした。

















「驚いたな。まさか我の追跡に気付くとは。並の使い手ではないとみたが、どうだ?」


「そうだな。俺は世界最強の男だ」


マクスは今、先程町で一行の様子を伺っていた男と対峙していた。


「ハハッ、面白い男だ」


「お前が俺達の様子を伺っていたのは、町にいた時から気付いていた。お前の目的は何だ?…………ま、訊くまでもねえか」


「そのとおり。はっきり言おう。あの少女を渡してもらおう。そうすれば、貴様の罪を帳消しにしてやってもいいぞ?」


「はっ、ふざけんな。いいか、よく聞け。あいつは俺の目的のためになくてはならない女だ。あいつを奪おうとするなら、俺はお前を殺してでも守りきるぞ」


「……………仕方がない。ならば、死ねっ!」


男はサーベルを抜き放ち、マクスに斬りかかった。マクスはそれを、長剣で迎え撃つ。キィン、と金属同士がぶつかり合う音が響く。


「いいねぇ、いい腕だ。だが、俺には通用しねぇっ!」


マクスは押し返すと、少し強めに力を込めて剣を振るう。男はそれをサーベルで受け止めるが、力で押し負け、立っていられずに地に跪く。そして、サーベルの刃が途中からベキン、と折れてしまった。


「さあどうだ? これ以上やるなら容赦しねえぜ?」


勝ち誇ったようにマクスが言う。


「フフフ、大した奴だ。これは私も本気を出さねばな」


マクスは異様な気配を感じ、咄嗟にその場から身を退いた。次の瞬間、さっきまでマクスの頭があった空間を赤紫色の光で煌く刃が一閃する。あと一歩回避が遅ければ、顔が真っ二つになっていたことだろう。

男は膝をついた状態のまま、別の長剣を抜刀していた。


「驚いたな………。魔法剣か」


マクスは、驚いているというより珍しいものを目にするかのような好奇の目で目の前のそれを見つめた。


「フ、その通り。我が自慢の名剣だ。さあ、とくと味わえ!」


男はそのまま、縦横に剣を振るう。マクスはその一撃一撃を的確に避けていった。


「ほう、我が剣をかわすか。面白い!」


「はっ、これからもっと面白くなるぜっ!」


マクスは自分も剣を構えなおすと、男の斬撃に応戦していく。

袈裟懸けの一撃を身を退いてかわすと、すぐさま踏み込んで必殺の一撃を見舞った。しかしそれも、男の刃に阻まれ、男の体に傷を負わせるには至らない。


そのまま両者は、目にも留まらぬ斬撃の応酬へと突入していった。斬っては受け、かわし、また斬ってはかわすという、まさしく一進一退の攻防が続く。


その力の均衡を先に崩したのは、マクスだった。

手にオーラのような光を溜め込み、必殺の拳を叩き込む。不意を突かれた男は、その一撃をまともにくらい、バランスを崩す。その機を逃さないように、マクスはなにやらぶつぶつと唱え始めた。


「天の威光よ、我が力となりて降り注げ! シュトゥルムヴェインッ!」


マクスが頭上に手を挙げると頭上に無数の光球が出現し、手を振り下ろした瞬間、美しい軌跡を描いて男に襲い掛かる。


「何っ…………!」


光球が着弾し、次々に爆発を起こす。辺りを砂埃が覆った。


「やったか………?」


マクスは注意深く、砂埃の中を凝視する。手応えはあった。だが、目の前にいる男はマクスですら油断できない力を秘めているのだ。

やがて砂埃が晴れると、男の姿が再び現れた。膝をつき、体中に傷を負っているが、未だその目には光が宿っていた。


「神術か。油断した。全く、驚かせてくれる。まさか我をここまで追い詰めるとはな」


神術とは、人体に流れる神力と呼ばれるエネルギーを使用することで超常現象を引き起こす技である。その発動は、基本的には詠唱呪文に神力を乗せることで可能となる。


「何を白々しい。そっちこそ、とんでもねえ隠し玉じゃねえか。相手の神力を弾く魔道鎧か。やってくれるぜ」


一瞬、両者の間に緊張が走る。だが…………。


「くっ………」


「「ハハハハハハハハハ!!」」


二人は共に、大きな声を上げて笑った。


一しきり笑った後、男が先に口を開いた。


「全く面白い男だ。お前が殿下のお命を狙う者の一員なのではないかと思ったが、杞憂だったようだな」


「………何? ちょっと待て、お前があいつの命を狙ってたんじゃねえのかよ?」


「違う。我は殿下のお命をお守りするためにここまで来たのだ。数少ない手がかりを頼りにここまで来ると、町で殿下やファインと同行するお前を見つけ、密かに私の元に来るようお前だけに解る程度の殺気を飛ばしたのだ」


「…………信じてやるよ。あんた、まだ本気を出していないだろ? もし本気であいつを殺しに来てんなら、本気で俺を消しにかかるだろうからな」


「ほう、それもお見通しか。だが、それはお互い様だろう? お前とて、まだ真の力を発揮してはいまい」


「はは、ばれてたか。………そっちの話は信じる。だが、あんたは何故俺があいつを殺さないと断言できる? 俺がどんな人間かなんて解んねえだろう」


「解るのさ。こうして剣を交えてみればな。ある程度はその人間の人柄や考えといったものが太刀筋に現れる。それを読み取れば、大抵は解る。お前は信頼できる奴だ」


「…………本当かよ」


思いっきり『死ね!』とか言ってなかったか? と密かに心の中で突っ込み、マクスは言った。


「殿下の下に案内してもらいたい。………と言いたいところだったが、その必要はないようだ」


「みたいだな」


二人は、一斉に同じ方向を見やった。少し離れたところに、こちらに走ってくる少女と少年が確認できる。


「マクスさん!」


大きく手を振りながら、レインシアが叫ぶ。その後ろから、息を切らしてファインが続いた。


「お前達、丘の木のとこで待っとけって言ったろ?」


「ごめんなさい、私胸騒ぎがして。…………あら? あなたは………」


男はレインシアに向かって跪いた。


「皇女殿下、ご無事で何よりでございます」


「ど、ドルザベール将軍閣下!」


ファインは男―――――ドルザベール将軍の存在に気付き、慌てて敬礼するが、あまりの驚きにあたふたとし、手を逆にしてしまい慌てて直している。


「なんだ、知り合いだったのかよ、お前ら。しかも将軍って…………!」


マクスが驚いたように言うと、ドルザベールは照れたように頬を掻く。


「ドルザベール将軍といったら、6年前の大戦時に、敗北寸前のこの国を救った大英雄なんだよ! 今回の一件でだって、殿下を逃がすのに体を張ってくださったんだ。閣下、生きていてくださってとても嬉しいです!」


「ありがとう。お前も殿下の護衛の任、ご苦労だったな。我もお前達を逃がした後、すぐに城を出たのだが、ちゃんと逃げ切れているか心配になってな。こうして後をおってきたというわけだ」


ファインが顔を輝かせながら興奮気味に捲くし立て、ドルザベールはその勢いに半ば気圧されるように、苦笑いをしてそれに答えた。


「しかし、こうして殿下の無事が解った以上、ここに我がいる必要はないだろう。早急に次の段階へ移る必要がある」


「次の段階だと?」


「そうだ。実は宰相の動きが少々活発になってきてな。奴の動向を探る必要があるのだ。本来ならば我が殿下の護衛をするつもりだったのだが、お前がいるならその必要もなかろう?」


「ええ~、将軍行っちゃうんですか?」


ファインが明らかな抗議の声を上げる。どことなく、子供が父親にだだをこねる光景のように見えなくもない。


「そう言うな。無事にことが終わったら、何か奢ってやろう」


「本当ですか! やったぁ、約束ですよ!」


途端に元気になるファイン。厳禁なやつめ、とマクスは呟き、舌打ちする。


「マクス、とかいったな。殿下を頼んだぞ」


「任しとけ。この俺に任せておけば何も心配はいらんぞ」


「フ、やはり面白い奴だ。では、任せたぞ」


そう言い残し、ドルザベールは夜の闇へと消えていく。


「はあぁ、やっぱりかっこいいな~、ドルザベール将軍は!」


「ふん、底の知れねえ野郎だ。あんなやつ久しぶりだぜ…………。さあ、俺達も行くぞ。さっさとこの暗闇に紛れて抜けちまわねえと」


マクスの言葉に異を唱えるものはいなかった。


当初の予定通り、丘の大きな木を通り過ぎ、しばらく歩いていくと、ちょうどよく森に行き当たった。木が辺りを覆い隠している。


「よし、時間も時間だし、今夜はここで野宿だ。薪を拾いに行くぞ、ファイン」


「うん、解った」


「私もご一緒します!」


「あんたに手伝わせるわけにいかねえだろ。大丈夫、すぐに集めてきてやるさ」


森という条件もあってか、マクスの言ったとおり、薪に使う木はすぐに集まった。


「よし、火、点けるぞ。トーチッ!」


マクスが神術で、マッチ程度の小さい火を発生させ、薪を燃やす。

敵に位置を知らせることにもなりかねないが、焚き火は夜の寒さを凌ぐだけでなく、猛獣をよけるためにも必要な行為である。マクス程度なら襲われても問題はないが、戦闘力のないレインシアが襲われてはひとたまりもない。


「これでよし。さあお前達、寝た、寝た!」


マクスに促され、二人は横になる。マクスはその隣で、一人焚き火の番を始めた。

神崎「神崎はやての後書きコーナー! 神の黄昏 in SPIRITUAL ARMS、   始まり、始まり~!」


マクス「のっけからそのハイテンションは何だ。ていうか、inって何だ」


神崎「ん、いや、ディケイドの方でもこれやったから、区別の意味も込めて、ね」


マクス「なるほどな。んで? 今日は一体何をするんだ?」


神崎「今回はね、新キャラが登場したんで、予定を変更してこの方をお呼びしています! どうぞ!」


ドルザベール「こんにちは」


マクス「おお、誰かと思えば将軍閣下かよ」


ドルザベール「マクス、失礼するぞ」


神崎「では将軍、軽く自己紹介をお願いします♪」


ドルザベール「ああ、解った。我の名はシュリフォン=ドルザベール。グランヴァール帝国で将軍をさせてもらっている」


マクス「それだけじゃねえだろ。ファインが言ってたじゃねえか。6年前の大戦時では、敗北寸前の帝国を救った英雄なんだって?」


ドルザベール「おだてても何も出んぞ、マクス? それに、あれは我一人の力で成し遂げたものではないさ。兵達一人ひとりの力がなしえたものだ。ちなみに、ファインは私の部隊に所属している」


マクス「ふん、まあ、そういうことにしといてやるよ」


神崎「おっと、もうこんな時間ですね。では、また次回まで、ばいば~い!」

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