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第1.5章 最終話「新たな旅立ち」

「ですから! そこにはノイスマン准将が行ったら宜しいでしょう!!」


「儂にあんな東の果てへ行けと申すか! 辱めも甚だしい!」


「こんな時にフェルメール少将はどこへ………! すぐに呼び出……いや、やはりいい」


「ふむ。だが、せっかく見つけた手がかりなのだ。それをみすみす潰すというのは、仁義に反するのでは………」


「オーギュスト殿、貴公はどちらの味方かっ!」


グランヴァール城、会議室。


そこには今、国を代表する士官達が顔を並べていた。

言わずもがな、その誰もが、将軍という職務につく豪傑達である。


エリザのように、中には参席していない将軍もいるが、ほぼ全ての将軍が席を連ねている。


議題は、マクスのレントール遠征に関するもの。


遠征とはいえ、レントールはどこの国にも属せず、同盟も結ばぬ中立国であり、内容は無論、元に戻る術を探すための旅である。


マクスが定時会議でそれを報告したことから、この騒ぎが起きた。


理由はどうあれ、将軍が1人席を外すのだ。


その空いた穴をどうするのか。

更には、護衛は誰をつけるのか。


その2つが、将軍達をこれほどまでにヒートアップさせている。


早い話が、誰も行きたがらないのだ。


ロストンは行ってもいいと思っていたが、ちょうど外せない執務と重なっており、行くことが出来なかった。


渦中のマクスはというと、テーブルの隅っこでふんぞり返って欠伸などしているというのに、この温度差は何なのだろうか。


「はぁ。何もここまでいろいろ言うこたぁねえだろ。俺1人で行ってこれるってのによ」


マクスが、隣の席の少女へ向かって話しかける。


フードをすっぽりと被り、顔が半分ほど隠れ、かろうじて覗くさらさらとした茶の髪と口元しか見えないこの少女、名はフィーネ=アルバーン。


あどけない様子と無口な態度から一見迷子に間違われかねないが、れっきとした准将の名を冠された猛者である。


「…………皆、マクス……心配」


「はっ。いいかフィーネ。あれはな、ただ面倒ごとを押し付け合ってるだけだ」


「……………?」


可愛らしく小首を傾げるフィーネの頭を、「お前にはまだ早いか」、と撫でるマクス。


傍から見れば、親子にも思われかねないだろう。


だが、何故これほど無垢な少女が将軍などという位にいるのか。

それは、彼女の目的と力に関係しているのだが―――――それはここで話すべきことでもないため、割愛させていただく。


「ちっ。こんなことなら、リュネかバルク辺りに頼んでおくんだったぜ………」


2人なら喜んで護衛を引き受けてくれるだろうが、生憎と2人共今帝都にはいない。


実質、この将軍達の中から誰かを連れて行くしかないのである。


「なら、私が行きます」


戸口からそう凛とした声が響き、喧騒は嘘のように静まり返る。


しかしすぐに、それは困惑のそれへと姿を変えた。


それもそのはず。

一緒に行くと申し出たのは国の女王、レインシア=リ=グランヴァールその人であったのだから。


マクスですら、驚きと呆れに声も出ない。


「………な、なりませぬ、女王陛下!」


漸く、いち早く我に返ったロストンが、すぐさま諌めにかかる。


しかし、レインシアはそれでも頑なな態度を崩さない。


「私は決めたのです。マクスの力になると」


「いや、しかし…………」


「ロストンのおっさんの言うとおりですよ、女王陛下」


「お、おっさ…………!」


一応は皆の前であることを承知しているので、敬語でマクスもロストンの援護に回る。

それでも口調の節々に軽さが目立つのが、いかにもマクスらしいと言えようか。


おっさん呼ばわりされたロストンが身を震わせながら固まっているが、尽く無視した。


「俺だけで足ります。俺が抜けた穴だって、他の将軍方がなんとかして下さいますし」


「で、ですが…………私だって、マクスの役に立ちたいのです……」


マクスに実際に聞こえたのは「ですが」までで、俯きながら消え入るような声で発せられたその後の言葉は彼には聞き取れなかったが。


しかしそれでも、マクスはレインシアへ向けて思いを語った。


「お気持ちは大変嬉しいんですけどね。でも、これは俺の問題ですし、第一国の元首たる陛下が帝都を離れては、隣国ベルネールに好機を与えることとも成りえましょう。それはさすがに拙いですから」


「…………はい。すみません」


いえ、と返しながら、マクスは改めて感心した。


やはり、出来た娘だ。


マクスが言った言葉だけで、彼女がやるべきことを、彼の言葉の真意の示す其の先まで理解し、渋々ながら受け入れてくれた。


この娘は聡い。将来は、さぞ聡明な女王と相成るだろう。


「………じゃ、トレンジア将軍。結局護衛には、誰を据える気かなぁ?」


間延びしたような声音でそう訊ねたのは、マクスの反対側、ちょうど向かい合うようにして座っていた若い男、名をガウス=トレットマイヤー。


青紫色をした髪に短髪、加えて眼鏡をかけており、周囲からは〝博士将軍〟と揶揄される、少し風変わりな性格の持ち主だ。


しかしてその実質も、帝国武器開発部の部長。博士そのものである。


彼の問いにマクスは、そうだなぁ、と考え込んだ。


しかし、それがすぐに浮かべば彼自身苦労はしない。


第一、今はすっかり静まり返っているが、先程の騒ぎを引き起こした目的がまさしくそれ

なのだ。


再び喧騒が沸き起ころうとした、その時―――――。


「…………私、行く」


「ほう」


おずおずと手を挙げるフィーネへ一斉に視線が集まり、それに彼女は小さく「ひっ」と声を上げ、びくりと肩を震わせる。


「アホ。こいつは将軍なんてやっちゃいるが、中身は見たまんまの子供だろうが。薄汚ねえ目で見るんじゃねえ。無垢が穢れる」


「ねえトレンジアしょうぐーん。それ、ひょっとして僕も入ってるぅー?」


「当たり前だ、マッド野郎が」


「酷いなぁー」


身を捩じらせながら苦笑しているガウスを無視し、マクスはフィーネへ向き直る。


「………いいのか、本当に?」


「…………外の世界、見てみたい」


「そうか」


彼にしては珍しく優しく微笑み、マクスは他の将軍達へ向け、高らかに宣言した。


「そういうわけだ。護衛は、フィーネへ頼むこととする!」


「そ、それでは彼女の協力で進めている、魔物の研究が………」


「んなもんそこのマッドにでもやらせとけ。一々こんな女の子捕まえてきてやることじゃねえだろが。異論は聞かねえからな。以上、解散ー」


そういかにも面倒だという様子で強引に纏めながら、フィーネを伴って去っていく彼に、その場の誰もが何も言えず、ただぽかんと見送るのみ。


「やれやれ。トレンジア将軍も相変わらずだねぇー」


ガウスのその声が、満員の会議室に妙によく響き、やがて消えた。

















「さて、準備はいいか?」


「…………」


マクスの問いに無言で頷き、フィーネは肯定の意志を示す。


今、マクス達は準備を終え、ここグランヴァール帝都の玄関口にやってきていた。


一生懸命整えたのだろう。

小柄な可愛らしいバッグを手で軽く持ち上げたフィーネに、マクスは頷いた。


「よし、それじゃあ早速………と、言いたいところだが」


首を傾げるフィーネを他所に、マクスはつかつかと歩いていく。

門の近くに、不自然に置かれた茂みへ向けて。


そしてその茂みへ向けて、無造作に拳骨を放った。


すると。


「あいたぁっ!」


ぽかん、と小気味いい音が辺りに響き、同時に少年のまだ高い声が聞こえてくる。


「………ったく、気配でバレバレだっつーの。どうしてこんなところにいる?」


「あいたたた………そ、それは勿論、マクスについていくために決まってるじゃないか!」


元気よく胸を反らせて言うことか、とマクスは呆れたように言い、未だに痛そうに患部を擦っているファインを見やった。


「遊びで行くんじゃねえんだぞ?」


「解ってるよ、それくらい! マクスがいよいよ元に戻れるかもしれないっていうのに、じっとしてなんかいられないって!」


ファインの言葉に、マクスは複雑な表情を浮かべる。


先程はああ言ったが、実はファインの身の心配はあまりしていなかったりするのだ。


先の旅で彼もそれなりに成長した。今回旅に連れて行けば、間違いなくまた成長することだろう。


彼の心を占めているのは、ただ1つ。


(俺に、子連れ旅でもしろってのかよ…………)


そのつもりが本人になくても、子供のお守りはごめんだとマクスは思う。


早い話が、面倒臭いのである。


ちなみに彼の中で、フィーネは〝子供〟とカウントされていない。

フィーネは身体は子供でも雰囲気が落ち着いているし、他人の言うことに素直だ。


ファインのように、感受性のよすぎる人間とは訳が違う。


だが。


「はぁ………解ったよ。解ったが…………邪魔にだけはなるなよ?」


「う、うん! ありがとっ!!」


駄目だといっても、この子供はついてくるだろう。


それほどに、この〝目〟の光は強い。

それだけ、彼の決意は固いものなのだと、マクスは理解したのだ。


(ここで断っていちいち付きまとわれるよりは、こっちの方がいろいろと簡単だからな)


そう打算的なことを考えながら、一方でマクスの顔は微笑みに綻んでいた。

なんだかんだで、新しい旅の道連れに、心の奥底では嬉しく思っているのだろう。


「さて、そうと決まったらさっさと行くぞ。明後日の昼には港に着いていたいからな」


「うん、解った!」


「…………ん」


元気のいい声と消え入りそうな返事が空に響き、マクスの新しい旅が始まった。

















ゴポ、ゴポ。


幾つもの音を立てて、気泡が培養器の中を弾けては消える。


ここは、研究所の一室。

帝都から遠く離れた―――――否、そもそもグランヴァール帝国ですらない場所に建てられたその研究所の暗く不気味な部屋で、白衣を纏った男が試験管をじっと睨んでいる。


髪は肌は相当な期間洗っていないのか不健康に脂ぎり、薄汚れた眼鏡が、計器類の放つ光を僅かに反射している。


正直に言えば、不潔。


清潔感で言えば、変人といわれているグランヴァール帝国の博士将軍の方が圧倒的に上であろう。


―――――その性格は、ともかくとして。


「首尾はどうです、グレル?」


と。そう男にしては流麗な高音を発して現れたのは、別の1人の男―――――否、青年。


暗がりから姿を現したその青年の身なりはとてつもなく豪奢であり、それが、彼がかなりの地位に立つ人間であることの証明となる。


グレルと呼ばれた男は振り返らずに「ヒッヒッヒ」と気味の悪い笑い声を上げると、青年の質問に答えた。


「上々ですよ。後はこの研究成果が、実戦に役立ってくれるかどうかだけです」


「珍しいですね。貴方がそんな弱音を吐くとは」


「吐きたくもなるというものです。何せ、相手は全世界の科学者の力をもってしても、未だその全てを解き明かせていない究極的代物。私1人の力では手に余るというもの」


「それは理解しています。ですが、貴方は我がベルネール公国屈指の天才科学者。その銘を踏みにじられたくなければ、励むことです」


「ヒッヒッヒ、公王殿も無茶を言う。私は神ではない」


「だが、今は一番それに近いところにいる」


「否定はしません」


公王と呼ばれた青年の言葉に、グレルは肩を竦めた。


敵わない、とアピールしたいのだろうが、実際そんなこともないことは、青年がよく解っている。


彼が発明した機械技術の多くは国に多大な利益を齎し、今では生活のほとんどは彼の発明品によって成り立っているといっても過言ではないかもしれない。


そんな奇跡的発明王であり、科学者であるこの男であれば、必ずや自分の望む結果を齎してくれる。公王はそう信じていた。


「………しかし。貴方はもう少し、自身の身なりに気を遣った方がいい。いくら寛大な私でも、これ以上は貴方を隔離する他ありませんよ?」


そう言って、公王は鼻を塞ぐ。


先程からしきりに臭いを気にしていた公王だが、そろそろ限界だったらしい。


するとグレルは不気味に笑いながら、楽しそうにこう答えた。


「ヒッヒッヒ。それは出来ません。せっかくヴェノムやティタニア達が、アレのデータを集めて帰ってきてくれるというのに、おちおち風呂になど入っていられますか」


「限度があると言ってるんです。研究を命じたのは私ですが、悪臭は公害ともなりえます。それに、こうして面と向かって会わねばならない私のことも考えてください」


「ふむ、これは失敬。以後、気をつけます」


そう、また大仰に頭など垂れて見せる男に、公王は呆れると同時に思った。


これは、絶対直らないだろうな―――――と。


「ところで、そのヴェノムとティタニアの2人はどこです? 2人にも挨拶をと思ったのですが―――――」


「ああ、あの2人なら仕事です。ヴェノムはテスト、ティタニアは例の木偶の行方を追っています」


「例の木偶………報告書は読みました。脱走とは、難儀な話ですね」


「全くです」


彼らにしか解らない内容の話を展開しながら、グレルは目の前のキーボードに指を走らせていく。


凄まじい速度で文字が流れていき、培養器の気泡の出る頻度が上がった。


「………どうしました?」


「何、ただの誤差の範囲ですよ。数ヵ月後には実戦テストも終えて、実戦投入の検討に入れるかと」


「急いでください。我々には未来がない。我々人類を解放するためには、貴方の研究が必要不可欠なのですから」


「お任せ下さい。これまでの無能な連中と同じ轍は踏みません。必ずや、ご期待に沿ってみせましょう」


「頼みますよ」


言い残し、公王は研究室を後にした。


魔法陣を足元に構築し、転移の術式を描き出す。


「…………そう。〝解放〟しなければならない」


誰に言うでもなく、男は呟く。


それが自らを鼓舞するべく零した1人言なのか、それとも別の何かなのか、それは彼自身にしか解らない。


「今度こそ、私の手で。そして、この世界を……………」


全てを言い終わる前に、青年の姿は描き出された転移魔法陣の中へと消え行く。


青みがかった銀色の暗い通路の中に残ったのは、術の行使に僅かにこげた床だけだった。


~神の黄昏~


神崎「最近なんだか長い話が書けないんだ。どうも、神崎です………」


マクス「のっけから何テンション低くしてんだよ。よっ、3ヶ月ぶりだな。マクスだ」


神崎「月1更新にするつもりが、なのはの完結やクリスマス~正月の関係でこんなに遅くなってしまいました………。読者の皆様、申し訳ありません」


マクス「安心しろ。これだけ放っておいたんだ、もうとっくに忘れられてるぜ」


神崎「まあ、だろうね………。さて、そんなわけで今回は、マクスの新たな旅立ちと、ちょっと他のサイドについても触れてみました」


マクス「他のサイドって………あれはどう見ても……」


神崎「言うな、見せ方が悪いのは自覚してる。で、君はレントールへ向けて発進した、と。新たな旅に出、いよいよ次回から2章突入! マクス、ファイン、フィーネの3人旅の行方は!? 次回も、楽しみに読んでいただけたら幸いです」


マクス「よし。それじゃ、そろそろ次回予告へいけ」


神崎「はーい」




新たな旅立ちの時を迎えたマクス。


しかしそれを前に目撃するは、国にはびこる、新たな火種。


それをその手で刈り取りながら、彼らはただ悲願へ向けて進み続ける。



次回、『第2章 第1話「抗う者達」』



―――――秩序は敷かれた。抗う者よ、前へ進め。

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