表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/32

第1,5章 第4話「追跡劇と、意外な欠点 ―後編―」

「いねえ、か………」


再び大通りへ戻ってきたマクスとファインの2人は、イラストを元に通行人に不審者の情報を聞いて回っていた。


しかし、これといって有力な情報を得ることが出来ず、捜索は難航していた。


「おかしいなぁ。あんな目立つ格好してたんだから、誰か覚えていてもいいはずなんだけど……………」


ファインが、手に持った不審者のイラストをじっと睨みながら唸る。


ちなみにそのイラスト、ファインが描いたものである。

マクスが書いたものもあるにはあるが………どこの北欧神話の悪魔かと、思わずツッコミを入れたくなるような代物であるため、お見せすることは遠慮しておこう。

というか、書いてファインに大笑いされた後すぐ、マクス自身が神術で燃やしたため、見せようと思っても見せられないのであるが。


しかしながら、ファインが書いたそれも、充分に悪魔のような外見をしているため、あながちマクスの書いたイラストも、ベクトルとしては間違ってはいない。


「やっぱり見間違いだったんじゃねえの? 俺から訓練校に、もう少し訓練優しくしてくれるよう打診しとくから、もう今日は帰って休んどけ。な?」


「………なんか馬鹿にされてる気がする」


「冗談だ」


言い、マクスは考え込んだ。


ファインの見間違いである可能性も多分にあるが、もしかしたら、と、マクスは思い当たる節があるのを思い出した。


〝それ〟であれば、町の住人にその奇妙な姿が認知されていないのも、細腕で大きな荷物を背負うという怪力も、全て説明がつく。


それと決め付けるには1つだけ、腑に落ちない点があったが、事実、それが一番可能性が高いこともまた然り、であった。


「なあ、ファイン」


「どしたの? なんかいい方法思いついた?」


「………いや。もう1度、確認させろ。そいつ、本当にそういう格好に見えたんだな、お前?」


「だ~か~ら~、さっきからそうだって言ってるじゃん! しつこいなぁ!」


聞くと、頬を膨らませてファインが抗議する。


なるほど、嘘は言っていないように見える。


「じゃあ、お前がそいつを見たってのはどこで、周りのやつらの反応はどうだった?」


「ん~とねぇ………場所は、この大通り。ちょうど、あのハンバーガーショップの前辺りだったかな。周りは……うん、何か凄いものを見たような感じで驚いてたけど、そこまで奇妙なものを見た感じではなかったような…………。だから、余計に解らないんだけど」


そう言って、再びファインは考え込む。


それを聞いて、マクスはニヤリ、と笑みを浮かべた。


(な~るほど。そういうことか)


今のファインの話を聞くことで、マクスの中で先ほどの仮説が一気に信憑性を増していく。


(確かめてみるか………)


と、マクスが考えた、その時だった。


「あ、あいつっ!」


引き攣った声音で、ファインがある一点を指差していた。


そこにいたのは、イラストに瓜2つな、細腕をした悪魔のような外見の男。


丸々太ったボールのような胴に、機械のアームのように細い手足がくっついており、その背には巨大な荷を背負っていた。


「あいつか………」


マクスはあたりをつけ、男に近寄った。


露天商の品物を、口元を三日月状に歪めてにやけ顔で凝視している男の傍へ行き、声をかける。


「おい」


「………何デスカ、アンタハ?」


訝しげに、男はマクスの顔を覗き込んだ。


マクスも背が高い方なのだが、何せ男の方が倍以上の背丈があるため、必然的に男がマクスを見下ろす形になる。


「悪いんですがネェ、私は今忙しいんデス。後にしていただけやしませんカァ?」


厭らしい、聞く者によってはおぞましさすら感じる声音にマクスは僅かに眉間に皺を寄せつつ、我慢して二言目を放った。


「なぁに、その荷物が重そうなんでな。少し持ってやろうかと思っただけだ」


「お気持ちは嬉しいんですがネェ~。〝見てのとおり〟、私1人で事足りますヨォ~~~?」


それを聞き、マクスはにやりと笑みを零す。


何故なら男の言った言葉が、マクスの予測にぴったりと嵌るものだったからである。


そしてマクスは、最後の言葉を放った。


「………ほう、そうか。〝その細腕じゃ、その荷物を背負うのは大変だと思った〟んだがな。それは俺の勘違いだったってわけか」


それを聞き、明らかな驚愕の色に染まっていく男の顔。


それが全てを物語っていた。

今度こそ、マクスの中で立てていた予測は、完全に確信へと変わった。


次の瞬間、男は反対方向へ逃げ出した。


「待てっ! 追うぞ、ファイン!!」


「ちょ、ちょっと待って! まず説明してよ!?」


「んな暇あるか! このままだと逃げられるぞ!」


言い、マクスはファインが着いてくるのも待たず、男を追って路地裏へと駆け込んでいった。

















「………全く、何なんですか、あの男ハッ!?」


路地裏へ駆け込んだ男が真っ先に向かったのは、貧民街(スラム)だった。


そこならば、空き家や廃墟などいくらでもあるから、隠れる場所にはうってつけだと思ったのだ。


現在男は、隣接する建物と建物の間を〝屋根伝いに〟逃げている。


それは、熟練した身体能力を持つ人物でなければ決して不可能な芸当であり、また同時に、男のひょろ長い足では決して実現し得ないであろうものでもある。


それを平然とこなせている辺り、この男、只者ではない。


だが、男は知らなかった。


今現在、彼自身を追っている男もまた、〝普通〟のカテゴリーから大きく逸脱したものであることを。


「待ちやがれええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


今もまた、自分が先ほど飛び越えたばかりの建物の隙間を軽いステップで悠々と飛び越え、しかし顔はまるで鬼のような形相で追いかけてくる。


「こ、これでも食らいナサイ!」


言い、男は器用にも細長い腕を風呂敷包みへ突っ込み、走りながら、手に握ったものを後ろへ向かって投げる。


「おわっ、手榴弾だと!?」


僅かに目を見張る追跡者の姿を最後に、爆炎と黒煙が爆ぜ、振動がビリビリと大気を伝わる。


「あハハ、これで………」


助かった。

そう続けようとした男の目に、飛び込んできたのは、


「はっはっはぁーーーー! んなもんが、俺に効くかああああぁぁぁぁーーーーー!」


「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!?」


全くの無傷で突っ込んできた、マクスの姿だった。


いや、それどころか、ますます勢いが上がっているようにも見える。


「ほ、本当に何なんデスカーーーーーーーーーー!?」


もはや涙目になりながら、男は絶叫し、また1つ廃墟の屋上を飛び越えようとする。


しかし。

飛び越え、踏みしめるはずの屋上の石材の感触は、いくら待っても足に伝わってこない。


「………あレ?」


不思議に思い、男が下を見ると。


「…………ア」


そこにあったはずの廃墟は、尽く崩れ去っていて、もうその形を残してはいなかった。


「ああああああああれえええええええええええええええエエエエエエエエーーーーーー!」


奇声を発しながら真っ逆様に落下していく男が最後に見たのは、いつの間にか抜かれた長剣(ヴァイステイン)を右手に持ち、悪魔のような笑みを浮かべた、マクスの姿。


その時彼は、マクスが本来はあったはずの建物を爆破したのだという結論とともに、こう思ったのだった。


ああ。奴こそ、本当の悪魔なのだ、と―――――。

















「マクスーーーーーーーーーーーー!」


夕日の橙が辺りを覆い尽くす夕暮れ時の貧民街(スラム)の空に、ファインの叫び声が響く。


慌てて走ってきたのか、絶え絶えな息を必死に整え、ファインはマクスに詰め寄った。


「酷いよ! おいてくなんてっ!!」


「うっせえ、お前がついて来れねえのが悪ぃ」


マクスについてこれるやつなんて、いるわけないじゃないか!という、至極当たり前な抗議を背に受けながら、マクスはぺしぺしと男の頬を叩く。


「さあ、何で〝悪魔〟がこんな街中にいるのか。聞かせてもらおうか」


「えっ、悪魔!?」


マクスの言葉に、つい先程までの怒りもどこへやら、驚愕に目を見開き、鉄骨に縛られた男を見るファイン。


それに男は溜め息をついて、マクスを見上げた。


「………気付いていたのデスカ」


「ファインの話を聞いた時から、変だとは思っていた。そんな奇妙な姿をしておきながら、誰も不審に思うこともない。これは、本来の姿の上に幻視をかけて、姿を隠蔽する幻術の一種を用いているからしかない。幻術が使える人間なんて、今じゃほぼ0に近いからな。後は、そういう如何わしい秘術を何代にも渡って継承し続けている、魔族くらいしかいねえだろ」


「…………お見事デスネ。確かにワタクシは、貴方達人間に悪魔と呼ばれている者デス。尤モ、悪魔とは名ばかりノ、下級悪魔(デビル)ですけどモネ」


そう言って、悪魔は肩を竦める。


一瞬静寂が訪れたが、やがてマクスの無言の視線に悪魔は溜め息をついて、


「ワタクシがどうしてこの町にいるか、デスカ。大した理由ではありまセンヨ? 出稼ぎに来ただけデスシ」


「出稼ぎ?」


ファインが訝しげに声を上げると、男も頷く。


「悪魔は、本来人間と関わることのない種族デス。ワタクシの属する部族でもそうでしてネ、人間の町に住むことが禁じられているのデスヨ」


「ふぅん。………あれ? じゃあ、こんなところにいちゃ拙いんじゃないの? 人間と関わっちゃいけないんでしょ?」


「それは心配要りマセン。特別な能力………即ち、この悪魔の姿を隠す技術さえ持ってイレバ、特別に人間の町へ行く事も許されますカラ」


「なるほど、それでさっきの幻術なんだね」


と、ファインが言うと、悪魔は頷いた。


「…………もう1つ、聞きたいことがある」


先程までとはうって変わった真剣味を帯びたマクスの態度に、悪魔も相応の態度を以って返した。


「何でショウ?」


「いや、何。大したことじゃねえよ。ただ、アンタら悪魔なら知ってるんじゃねえかと思ってな」


「何をデス?」


「…………神の涙の、製造方法」


「「!!?」」


これには悪魔だけでなく、ファインも驚愕に目を見開いた。


神の涙。

それこそが、長年マクスが追い求めている、元の体に戻る可能性を秘めた秘薬。


確かに、人間ではない異種族であり、神獣(スピリチュア)の対極に位置する魔族であれば、人間の間で幻とされている秘薬のことも、何か知っている可能性が高い。


マクスがそう睨んだのだということは、悪魔にもファインにも容易に理解できた。


「…………何をお望みデ?」


「なぁに、ちょっと不死身になっちまった体を、元に戻したいだけよ」


「まさか………倒したというのデスカ、あの神獣(スピリチュア)ヲ!?」


「倒したのは俺の親父だがな。だが、今なら俺だって負ける気はしねえ。何故なら………」


言い、マクスは親指をびっ、と胸元に突きつける。



「俺が、最強だからだ!」


「…………どこから来るんデスカ、その自信ハ」


呆れが篭った目で、これでもかと胸をそらすマクスを見上げる男にはしかし、先程までの剣呑とした雰囲気はどこにもない。


むしろ、この男なら何かをしでかしてくれるかもしれない。そう思った。


神獣(スピリチュア)を倒したという事実も本来ならば信じられなかったが、先程の追いかけっこで見せた驚異的戦闘能力から、もはや疑う余地もない。


普通の人間なら、悪魔である彼の動きについてこれるはずがないからだ。


「解りマシタ」


男が言うと、マクスは歓喜に口を歪ませる。


「知っているのか!?」


「ハイ。しかし、先程も言ったトオリ、ワタクシは下級の悪魔。そう、多くを知っているというわけではないのデス」


「なら、知っている偉いやつに会わせろ!」


「だ、だめですヨ! 人間を悪魔の里に連れていったラ、私がどうなるか解りマセン!!」


「ちっ…………」


マクスは盛大に舌打ちした。


せっかく、元に戻れる手がかりに辿り着いたかもしれなかったのだ。

その落胆は、見た目以上に大きかった。


だが。


「デスガ、噂なら聞いたことがありマス」


「噂だと?」


その話に、すぐさま振り返って聞き耳を立てる。


「ハイ。東方の島国に、龍の祠と呼ばれる、様々な秘術を封印した場所があるそうデス。そこへ行けば、何かしらの手がかりは得られるかもしれマセン」


「東方の島国………確か、レントールとかいう国だったな。繋がった! 感謝するぜ、悪魔野郎!」


そう言ってパチン、と指を鳴らすと、彼を縛っていた縄が消え去り、悪魔の体を解き放つ。


「………エ?」


突然解放された悪魔は、何が起こったのか解らない、という顔でマクスを見つめる。


「聞きてえことは全部聞いた。お前にはもう用はねえ。どこへでも消えるがいいさ」


「…………い、いいのデスカ?」


「構わん。俺は今気分がいいんだ。俺の気が変わらないうちに、失せておくのが賢い対応だぜ?」


そう言ってにっ、と笑うと、悪魔は慌てて風呂敷を抱え込む。


「あ、ありがとうございマシタ!!」


そう、彼にしてははっきりと元気のいい声で頭を下げると、悪魔はいずこかへと走り去っていった。


彼が去っていったのを見計らって、ファインはマクスに声をかける。


「………マクス」


「ファイン。俺は今日、最高にツイてるようだぜ」


そう言い、東の空をじっと見つめるマクスの顔は、先行きの見えた希望に爛々と輝いている。


漸く、元に戻れるかもしれないのだ。

これで喜ばない方が無理だというものだろう。


「でもさぁ、そんなに簡単にあの悪魔の言うこと、信じていいのかなぁ?」


ファインの言うことも尤もだ。


悪魔という生き物はこれまで幾度も確認されてきたが、その度に彼らは大なり小なり、何らかの災厄を引き起こしていくのだ。


それは自宅の窓が割れたという小さなものから、後にヒモッチの反乱と呼ばれる、大悪魔クラスが町3つを滅ぼしたという大事件まで幅広く存在している。


ファインは今回出会った悪魔が最後に残していったその情報が、災厄の起こるジンクスと照らし合わせ、デタラメではないかと危惧しているのだ。


だがそれにマクスは動揺することもなく、


「なぁに、それなら簡単だ。もし嘘だったら、あいつのいる悪魔の里とやらをなんとしても探し出して、然るべき制裁を与えてやるまでよ」


と、しれっと言い放つ。


この男なら、本気でやりかねない。


そう思ったファインは、ただあの悪魔がくれた情報が、正しいものであることを祈るしかなかった。


~神の黄昏~


神崎「どうも~、神崎です!」


マクス「マクスだ」


神崎「さて、今回はいよいよ、マクスが元に戻れるかもしれない手がかりが出て参りました!」


マクス「レントールか。あそこには、まだ行ったことはなかったからな。なるほど、確かに盲点だったぜ」


神崎「さすがに150年かけてても、国1つ回るのが精一杯だったか」


マクス「まあ、ただ回ればいいってわけでもねえからな。しらみつぶしに探してかねえと。どこに転がってるか解ったもんじゃねえし」


神崎「なるほどね。さて、次回は最初会話があった後、島国レントールへ向けて出航するわけですが………道中も目的地でも、また個性的なキャラや事件を出すつもりでいます! 乞うご期待!」


マクス「ま、程ほどにしとけよ?」


神崎「では次回、『新たな旅立ち』にも、」


マクス「期待しとけ!」


神崎「……青年は、再び旅に出る。何のためでもない、ただ、自身の幸福を求めて………」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ