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第1,5章 第3話「望んだ力、望まぬ力 ―前編―」

「ふぅ、よっこいしょっと」


どこまでも澄み渡る青が天空を支配する、とある昼下がり。


帝都から大きく離れたのどかな山間の道を、1人の女性が簡素な荷物を片手に歩きながら、伸びをした。

明るい赤の短髪が、さらさらと風に揺れる。


女性―――――リュネ=バルカートンは、その翡翠色の目で真っ直ぐに前を見つめ、再び歩き出した。


人口の音などほとんど耳にも入らないほどの自然。

こんなド田舎中のド田舎と称しても全く遜色のないような場所に何故リュネがいるかといえば、とある依頼を受けたからである。


「山賊を退治してくれ、か。最近多いわよねー、こういうの」


リュネはそう言って、懐から一通の書簡を取り出して広げた。


レインシアに皇帝が代替わりしてそれなりに時間が経った。


国民は皆、彼女のことをよい皇帝であると信じて疑わないし、彼女自身もマクスやロストンの補佐の下、彼らの期待によく答えている。


が、それでもクーデターの折、混乱が全くなかったわけではない。


事実、それからというものこうした賊による被害件数は多くなっている。クーデター後の町やその事後処理に追われる政府の混乱に乗じて、盗みをやらかす輩が出てきたのである。


「全く、全部あんたらのためだっていうのに………何やってんだか」


いっそ、あんなことに協力すべきじゃなかったかも。


そんな風に一瞬考えるも、すぐに考え直す。

人道的に見たとしてもあのクーデターは止めるべきであったし、理屈の上でも、あのままドルザベールが皇帝になっていたとしたら、それを操っていた謎の人物に国をのっとられていた恐れもある。


マクスの真実を知っていた辺り只者ではないのは間違いないのだから、その危機を脱することが出来ただけでも、あの戦いに意味はあったと言えるだろう。


「何者なのかしら、あいつ…………。ま、考えてても仕方ないか」


考えるには、今は情報が少なすぎる。


そう思い、リュネは考えるのをやめた。


しばらく歩いていくと、目的の村の入り口が目に入った。


「あそこね…………」


それを見、一層早足になってリュネは村に足を踏み入れた。


村に入ってすぐ、リュネは依頼主であるこの村の村長を探すことにした。


数人に場所を聞いて回り、漸く村長の家に辿り着く。


「ここかぁ」


よし、と自身に喝を入れ、意を決してドアを軽くノックする。


ややあって、はぁい、という少し間延びした返事が返ってきた。


「どちら様ですかぁ?」


「失礼します。依頼を承りました、万屋の者ですが」


「依頼?…………少々お待ち下さい」


ぱたぱたという足音が遠ざかっていき、待つこと数分。


再び足音が近づいてきて、ドアが開いた。


「お待たせして申し訳ありません。村長はすぐにお会いになるとのことです。どうぞ、こちらへ」


出てきたのは、自分と同じくらいの年齢と見える、黒髪の家政婦だった。

大して手入れもされていないであろうボロボロの服を見て、リュネの表情が曇った。


(この娘、もしかして………)


リュネの脳裏に、かつての自分の姿が浮かび上がる。


が。


「あ、あの。どうかなさいましたか?」


少女が心配そうな顔でこちらを伺っているのが目に入って、


「あ、すみません。何でもないですよ」


と平静を装った。


少女はそうですか、と言ってほっとしたようにした。


(何を考えてるの、私…………しっかりしないと!)


今回の依頼は、おそらく戦闘になる。


余計な雑念が入っていたら命取りだ。


そう気持ちを引き締めなおし、リュネは少女の後に続いた。

















「失礼します」


連れられてきたのは、村長宅の中でも一際大きな扉の前だった。


山賊に襲われていたというのに、やけに豪勢な建物だ。

それが、リュネの第一印象である。


少女がノックをすると、中から野太い男の声で


「入れ」


という簡潔な答が返ってきた。


少女は扉を開け、中へリュネを招き入れる。


中は思ったより広かった。

否、この屋敷の大きさから考えれば、あくまで予想通りといったところか。


床には大きな毛皮の敷物。

壁中に赤々とした掛け物。

そして、磨かれてピカピカと輝いている、やけに大きなテーブルの最奥に、2人の人物が座っていた。


おそらく正面に座っている男こそが、今回の件の人物だろう。


「誰かね? 今日は面会の予約は入っていなかったはずだが………」


不機嫌な様子を隠そうともせずに言い放つ男。


リュネはその様子に苛立つものを感じたが、必死にそれを押さえ込んだ。


ここで揉め事を起こしては、せっかくの依頼がぱあになる。


それは、万屋稼業を始めた時に予め覚悟していたことであり、また実際に仕事をしていくうちに嫌というほど身に染みた教訓でもある。


まあ、それでもよほど理不尽な依頼はきっぱりとお断りさせてもらっているが。


リュネはポーカーフェイスを保ちつつ、事務的な笑顔を振りまいて話し出す。


「突然の訪問をお許し下さい。山賊討伐の依頼をされた、ギネガー様でいらっしゃいますね?」


「いかにも、私がギネガーだが………そうか、では君が!」


「はい。お初にお目にかかります。リュネ=バルカートンと申します」


名乗り、ぺこりと頭を下げると、ギネガーの顔がみるみる内に笑みを帯びていく。


「おお、それは失礼した。いやしかし、なんという奇妙なことか。噂は聞いていたが、まさか本当にかの『紅蓮の閃光』が女性だったとは。これはたまげた」


紅蓮の閃光。

いつの間にやらついていた、リュネの通り名。


組織的に、社会に認められ働いているギルドとは、仕事を選ぶことが多い。

例を挙げるならば、神の牙は要人の警護や魔物退治など、荒事を主に生業としたギルドであるので、デスクワークや物の調達といった仕事は専門外である(強い魔物を討伐してその牙等を手に入れてほしい、といった依頼は討伐依頼として数えるため、時々受けていたが)。


しかし、リュネがやっている万屋は、基本制限はない。

それは万屋とは個人で営業していることが多く、食い扶持を否応なしに自分で稼がなければならない事情があるからだ。当然人によっては出来ない仕事もあることからある程度の制限が生まれる場合もあるが、リュネほどになってくると、もはや依頼は何でもありとなる。


それこそ、ペットの犬探しから要人の警護、もしくは暗殺まで。


汚い仕事もそれなりにやってきた。


そんな彼女についた裏社会での通り名が、紅蓮の閃光。


朱を基調とした服を常に着ていて、閃光のように相手を一瞬で叩き潰すことから付いたらしいが、彼女自身は不名誉だとしか思っていない。


だからだろうか。少し引き攣った笑みを浮かべ、


「その名前は出さないでいただけます?」


「ははは、そう嫌がるな。君の腕前を信頼していると言いたいのだ」


「あの、あなた?」


豪快に笑う男の横に座っていた女性が会話に割り込む。


あなた、と呼んでいるということは、この男の妻だろうか。


「何だ?」


「私、聞いておりませんことよ? 大体、このような者にあの山賊どもを蹴散らすことが本当に出来るんでございましょうか?」


彼女の言葉に、リュネはむっとすると同時に悪寒が背を駆けるのを感じた。


見た目はどちらかというとお嬢様のそれだ。というより、見た目と実年齢が同じであれば、目の前の髭を生やした男とは明らかに年齢が釣り合っていない。

ただ口調だけは、いかにも語尾に『ざます』とか付けそうなマダム風の女性なのである。


リュネは、このようなねちねちとしたタイプの女性が苦手なのだ。


そんな彼女の気持ちを察してか、ギネガーは


「まあ、そういうな。腕は確かだよ。私が保証しよう」


「ふん。まあ、あなたが仰るのであれば私は別に構いませんが。信頼は出来ませんがね」


そう言って、相変わらず信用ならない視線を送ってくる。


何なの、この女!!?


そう叫んで、今すぐにでも愛用のナックルで殴りかかりたいのを必死に堪える。


「と、とにかくだ。今夜はここへ泊まっていくといい。来客者用の寝室を用意させよう。ネフェリー、リュネ殿をお連れしなさい」


「は、はい」


後でずっと事の次第を静観していた少女―――――ネフェリーは返事をすると、来た時と同様リュネを先導して歩いていこうとする。


と、部屋を出ようとした時。


「ネフェリー。それが終わったら窓拭きです。休みことは許しませんからね!」


強い口調で命令する奥方の言葉にびくり、と身を震わせ、ネフェリーは、


「………はい」


と、弱々しく返事をした。


部屋を出、しばらく互いに無言のまま歩いていくと、大きな客間へ通された。


「ここがお客様用の寝室となります。お食事やご入浴の際には、我々使用人にお申し付け下さい」


「ありがとう」


「では、私はこれで………」


「あの!」


立ち去ろうとするネフェリーに話しかけると、ネフェリーは再びびくり、と身を震わせた。


「な、何でしょうか………?」


「そんなにびくびくしないで。………大丈夫。私はあなたの味方だから。辛かったら、いつでも頼っていいのよ?」


「…………っ!?」


瞬間、ネフェリーのまだ幼さの残る顔がなんともいえない表情を形作る。


が、それも一時のこと。


「し、失礼します」


それだけ言い残して、ネフェリーは部屋を出て行った。


「………やっぱり、そうなんだ」


必死に隠そうと彼女は努力していたようだ。


が、リュネは見てしまった。


服の下に垣間見える、多くの痣。


そして、立ち去る時の彼女の目に浮かんだ涙を。


それが彼女の悲しみから来るものなのか、はたまた別のものなのかは解らない。


ただ1つ、解ることは。


「やっぱり、昔の私と同じなんだ…………」


ベッドに勢いよく倒れこむ。


リュネの脳裏に、かつての自分の姿が鮮明に映し出されていた。

~神の黄昏~


神崎「神崎はやての!」


リュネ「神の黄昏、in SPIRITUAL ARMS!」


神崎「さあ、やって参りました神の黄昏。司会は私、神崎はやてと」


リュネ「今話から少しの間主人公になります、リュネ=バルカートンでお送りします!」


神崎「今回は少し短いですが、導入部分です。次回から、リュネの過去編に入ります」


リュネ「まあ、過去っていっても神の牙に入る以前の話だけどね」


神崎「それでも、結構重要な話です。それと1,5章には珍しいシリアスなので、皆さんどうかお覚悟を」


リュネ「何に?」


神崎「シリアス加減に」


リュネ「あ、そ。でも、今回も特に語ることないわね~」


神崎「なんだよね~。というわけで、これを読んで下さっている皆様! 何か質問等がありましたら、感想やメッセージで遠慮なくお寄せください!」


リュネ「お待ちしてま~す♪」


神崎「それでは次回、『望んだ力、望まぬ力 ―中編―』に、」


リュネ「ご期待ください!」

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