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第1,5章 第2話「はじめてのお遣い? ―中編―」

「えと……………」


とある街中のとある一角。


古びた裏道に、場所に似つかない、簡素ながら綺麗な召し物を身に纏った少女が1人立っていた。


「ここは……どこなんでしょう?」


言うまでもなく、彼女こそレインシア=リ=グランヴァールである。


アイスクリームを食べ終え、再びハンバーガー店を探し始めたレインシアだったが、進めど進めど見当違いな場所へ出てしまうのだった。

何をどうすればそんなに迷えるのか、と言われても文句は言えまい。一休みしたところでそうそう上手くとは限らないようだ。


「はぁ………おかしいですね。確かに地図のとおりに進んできたはずなのですけど」


もう一度、地図をよく見る。


しかし、そもそもの現在地が解らなくなっているので、せっかくの地図もただの紙切れと化していた。


「とにかく進んでみましょう。進めばきっと、いつか辿り着けるはず!」


地図が役に立たない以上、もはや城に変えることは不可能。


それであれば、目的地に辿り着くことが出来れば、地図を見て再び帰ることも可能なはず。少なくとも、現在地は特定されるのだから。


そう思い直し、レインシアは再び意気揚々と歩を進めた。

















一方その頃、マクス達は―――――。


「姫さんーーー! おーい、どこだーーーーーー?」


「レインシア陛下ーーーーーーーー!」


帝都の中で、声を張り上げて練り歩いていた。


「いねぇな、おい」


「ふむ、大通りは粗方探したな。マクス殿、もしかしたら陛下はここにはいないのでは?」


「んなわけあるか。ハンバーガー屋はその大通りにあるんだぞ? この辺にいなくてどこにいるってんだよ」


「それでも、迷っておられる可能性もあるだろう?」


「それは、まあ、な………」


マクスは以前町に寄った時のことを思い出していた。


その時、彼女は脇目もふらず周囲の景色にすっかり心奪われており、しっかり見張っていないとあらぬ方向へふらふらと歩いていってしまうことがよくあったのだ。

だからというわけではないが、彼女がこの解り易い帝都の町中で迷ってしまったとしても、マクスは不思議には思えなかった。

ましてや、彼女は今まで生まれてこの方1人で城の外へ出たことがなかったのである。


マクスの脳裏に、旅をしていた時の街中での彼女のはしゃぎようが鮮明に映し出される。


「あの時は大変だったな……………」


「む? 何か申されたか?」


「あ、否、なんでも」


好奇心旺盛な姫を繋ぎとめておくには、かなりの体力がいた。


そのことを思い出し、マクスは憂鬱から大きく溜め息をついた。

















そして、再び場所は移る。


レインシアはもはや歩くのを諦め、近くに打ち捨てられたベンチに腰を降ろし―――――。


「ううぅ、見つかりません…………」


―――――項垂れていた。


「どうしてこんなに見つからないのでしょう………」


レインシアは疲れたように椅子にもたれながら、頭上に広がる青空を見た。


どこまでも澄み渡っている青が、建物の合間から顔をのぞかせている。


「ああ、空を飛んでいくことが出来たらどんなにいいでしょうか」


空を飛べれば、空から店を探すことも出来るだろうに、と、ついそんなことを考えてしまう。


と、そんな現実逃避をしているレインシアの足元に、何か丸いものが当たった。


「あら、これは…………」


レインシアはそれを拾い上げる。


その丸い物体の正体は、瑞々しいオレンジだった。


「まあ、おいしそうですね」


普段帝国城で口にするのは、クラムジュエリーと呼ばれる南国名産の果物で、このオレンジのような果物を口にすることはそうそうない。当然、レインシアも知識としては知っていても見るのは初めてだった。


レインシアがオレンジを珍しげにしげしげと見つめていると―――――。


「待あてえええええぇぇぇぇぇぇぇ!」


耳をもつんざく低音が、彼女の耳に飛び込んできた。


と同時に、全速力でこちらに向けてかけてくる1人の少年の姿が見える。


「あ、それ!」


少年はレインシアの持っていたオレンジを指差しながら駆け寄ってくる。


「これですか?」


「そうそう、それ! それ、おいらのなんだ。返しておくれよ」


「そうだったのですか。はい、どうぞ。もう落とさないで下さいね」


「ああ! ありがとな、お姉ちゃん!」


「こぉら、待てっ!」


「あっ、やばっ…………」


レインシアからオレンジを受け取った少年は、再び走っていこうとするも、背後から聞こえたドスの利いた声にびく、と身を震わせて動きを止める。


「おうおう、もう逃げられねえぞ、このクソガキ!」


少年の周囲を、数人の柄の悪い男達が取り囲む。


「ほら、さっさと置くもん置いていきな!」


男達の内の1人が少年の胸倉を掴む。見た目どおり、乱暴な人間のようだ。


そして、そんな光景にこの人が黙っていられるはずがなかった。


「待ちなさい!」


レインシアが少年の前に庇うようにして立ち、男達をにらみつける。


「なんだてめえ。そいつのこと庇おうってのか?」


「いい年の大人がよってたかって何事ですか!? この子が一体何をしたと言うのです!?」


「ふん、知らねぇなら教えてやるよ。そいつはな、あろうことか俺達が兄貴に献上するはずだった大事な大事な食料をだ、盗みやがったんだよ!」


男の言葉に、レインシアはちら、と背後の少年を一瞥する。少年もそれに気付いたか、すぐにばつの悪そうな顔で俯いた。


どうやら、男の言っていることは間違っていないらしい。


「…………解りました」


そう言って、レインシアは懐を探り、男にある物を手渡した。


「なっ………!」


「こりゃぁ…………!」


手渡されたもの―――――少年に奪われた食料など取るに足らないほどの札束―――――を見るなり、男達の表情が驚愕一色に染まる。


「代金です。これで文句はありませんね?」


「あ、ああ……………」


呆気にとられ、先ほどまで勢いづいていた男は相槌を打ってしまう。


「行きましょう」


「え? あ、あの…………」


呆気にとられるどころか目の前で何が起こっているのかすら理解できていなかった少年は漸く我に返り、訳の解らないままレインシアに手を引かれてその場を後にした。

















「さっきは助かったよ、お姉ちゃん。おいらはバギってんだ。よろしく」


「こちらこそ。私はレイ………」


本名を喋りそうになり、咄嗟に口をつぐむ。


危なかった。


こういった状況に遭遇した時、濫りに本名を名乗ってはならないとマクスに教えられていたと言うのに。


「レイ………?」


途中で名乗りをやめたレインシアに、少年は不思議そうに小首を傾げる。


「レイファン。そう、レイファンと言います!」


「ふぅん、レイファンか。いい名前じゃん!」


「そ、そうですか?」


無垢な笑みを向ける少年に、レインシアは安堵の溜め息を漏らしながら聞き返す。


よかった、ばれてはいない。


「そうさ。それで? レイファン姉ちゃんはどうしてあんなところにいたんだい?」


「どうしてそんなことを訊くんです?」


「だって、あんな金ぽんと出せるってことは、それなりの身分なんだろ? そんな人が貧民街(スラム)に来る用事なんて………思いつかないし」


「…………え?」


「………もしかして、知らずにここへ来たの?」


数秒の沈黙。


「い、いえ、もちろん知ってましたよ! ええ、もちろん!」


「…………知らなかったんだね」


「……………う」


レインシアの精一杯の虚勢は、あっさり見破られた。


「で? どこへ行こうとしてたのさ? さっき助けてもらったし、帝都はおいらの庭みたいなもんさ。案内できるところならお礼に案内してあげるよ!」


「本当ですか!」


迷いに迷って、帰り道すら解らなくなったレインシアには、まさに渡りに舟だ。


この申し出を断る理由は、今の彼女には1つもなかった。


「宜しくお願いします!」


「あいよ。で、どこなんだい?」


「あ、はい。このお店なのですが」


そう言って、レインシアは懐からハンバーガー屋のチラシを取り出す。


瞬間、少年の顔つきが驚愕のそれに変わった。


「? どうかしたのですか?」


「いや、世間は狭いなぁって思ってね」


少年の言葉の意味を、この後レインシアは身をもって知ることとなる。

















その頃、帝都貧民街(スラム)のとある廃屋。


そこには、数人の柄の悪い男達が屯していた。


その廃屋の扉が、開かれる。


「ただ今~」


「おう、帰ったか。それで? 食いもんは手に入ったか?」


廃屋の奥の方の大きな椅子にどっかと腰を降ろしていた大柄な男が、廃屋に入ってきた子分に問う。

言わずもがな、この子分とは先ほどバギを追い掛け回していた男達である。


「そ、それが…………」


男の反応が恐いのだろう。歯切れ悪く、時に少々の脚色を交えながら子分は男に事の顛末を説明した。


男はしばし無言で聞いていたが、やがてはぁ、と溜め息をつくと、


「てめえら、揃いも揃って馬鹿揃いか! ええ!?」


一喝した。


「で、でも兄貴! こんな大金いきなり渡されたら………」


「しかも妙に威圧感のある女で………」


「馬鹿かてめえは! 大金渡されてはいそうですかで帰ってくる馬鹿ギャングがどこの世にいるってんだ。あぁ!? それにな、ただの女にびびってて悪が務まるか、馬鹿たれが!」


言い終わる前に、男は近くに立て掛けてあった大刀で子分たちを横薙ぎに薙ぎ払った。斬るのではなく、あくまでも刀身で殴っただけだが、それでも子分たちは軽く数メートルは吹き飛び、壁を粉砕して外の地面へと投げ出された。


当然その衝撃に子分たちのような雑魚が耐え切れるはずもなく、外で大の字になって伸びていた。


「で? どうするんです、兄貴?」


今まで事の成り行きを静観していた別の子分が口を挟む。


「決まってんだろ。その女を捜す。それほどの金持ちなら、さぞたんまりと身代金をせしめられるだろうよ。女自身は売り飛ばしちまえば問題ねえだろ」


「さすが兄貴!」


感激した、といった様子で、また別の子分が握り拳を作る。


「くはははははは! あったりめえよ! いいねえ、金の匂いがしてきやがった! ははははははははは!」


男の高笑いが、人気のない貧民街(スラム)の片隅の空に木霊していた。

~神の黄昏~


神崎「皆さんこんばんは! そしてお久しぶりです。神崎です」


マクス「本当、久しぶりだな。マクスだ」


神崎「さて、遅くなりましたが続きを投稿です。そしてすみません。はじめてのお遣い?はまだ続きます」


マクス「予想以上に長くなって苦戦してるようだな」


神崎「そうなんだよ。しかも当初は完全ギャグにするつもりだったのに、いつの間にかそうでもなくなってきてる………」


マクス「予定は未定、か。当てはまりすぎて逆に笑えねえぞ」


神崎「全く仰るとおりで。じゃあ今回はこんなとこかな。ではマクス」


マクス「OK。じゃあ次回、『はじめてのお遣い? ―後編―』に」


神崎「ご期待下さい」

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