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第1章 第2話「圧倒」

「ふわぁ、よく寝たな…………」


盛大に欠伸をし、マクスは目を覚ました。カーテンの隙間から、僅かに朝日が漏れ出してきている。


とそこへ、部屋のドアをノックする音が響き渡った。


「誰だ?」


「朝早く済みません、昨日助けていただいた者でございます」


「ああ、あの時の。何の用だ?」


「はい、マクス様、村長がお呼びです」


「村長………だと?」


「はい。マクス様に重大なご用件とか。ご案内しますので、一度集会所へお越し下さい」


マクスは訝しむ。


(この、全く面識のないはずの俺に用か………嫌な匂いがプンプンするぜ。だが、行ってみないことには何とも言えねえな…………)


マクスは勢いよく立ち上がった。


「よし、いいだろう。案内しろ!」


「はい」


マクスは青年とともに宿を出、集会所を目指す。少し歩くと、村の最奥に位置する場所の、大きな木造の建物に行き当たった。


「ここか?」


「はい。開けますよ」


ギイィ、と木の軋む音とともに扉が開け放たれる。


「失礼します、村長。マクス様をお連れしました」


青年が挨拶し、先に中に入っていく。

集会所の中にいたのは、一人ではなかった。道を作るかのように向かい合うように二列に並んで男達が座っている。どれも、50になるであろうかという初老の男である。

そして奥には、他の男達よりは少々上等な衣服を身に纏った、これも初老の男が、一際大きい椅子に座っていた。

男達が一斉にマクス達の方を見る。


「うむ、よくぞ連れてきてくれた。下がってよいぞ、ラサム」


「はい」


ラサムと呼ばれた青年は、奥にいる男にそう言われると、では、と小声でマクスに囁くと、そそくさと集会所を後にする。


「さて、マクスさんと言いましたかな? 私はこの村で村長をしている者でございます。ささ、まずはお入りくだされ。お掛けになって下さい」


マクスは無言で集会所に入り、自分のために用意されたらしい椅子にどっかと腰を降ろす。


「聞いたぜ? 俺に用があるんだってなぁ」


「そうです。…………単刀直入に言いましょう。山賊を倒してください。どうか、このとおりです」


「山賊、ねぇ…………」


「ええ。我々はずっと、山賊の恐怖に怯え続けてきました。これまでも何度か山賊討伐を依頼しましたが、誰一人として帰って来た者はおりません。しかし、昨日あなたは、見事山賊の子分達を叩きのめしてくださいました! お願いします、村を救ってください!!」


「俺にこの村を救えと?」


「だめでしょうか?」


「条件によるな」


マクスは立ち上がり、村長の目の前につかつかと歩いていくと、びっ、と人差し指を突きつけた。


「俺は高ぇぜ?」


「構いませんとも。それでこの村に平和が戻るのであればはした金でございます。しかし今は蓄えがございません。どうです? 山賊には懸賞金が懸けられております。それを、報酬の代わりとさせていただくというのは」


「いいだろう。俺にかかればあんな山賊共などものの数ではない」


「では、早速…………」


そう言った村長を手で制し、マクスは言い放った。


「待て。まだだ。まだスィーツを食っていない」


「す、スィーツですと?」


周囲の男達がどよめく。皆、「何を言っているんだ、この男は」とでも言いたそうな表情である。


「そうだ。俺はスィーツを食わなければ山賊退治になどいかん。俺に頼んだからには、俺の好きにやらせてもらうぞ」


そう言い残し、マクスは集会所を後にした。

















「で、ここに来たってわけね」


事の顛末を聞いた喫茶の娘は、呆れたように、だがどこか楽しそうにそう言った。

彼女の名はフューリー。昨日マクスの来店に応対した、喫茶店の看板娘である。


「悪いか?」


既に5個目のシュークリームにかぶりつきながら、マクスは訊いた。相変わらずの食べっぷりである。


「ううん、あなたって面白いんだもん。頑張ってね! あの山賊達手強いみたいだけど、あなたならきっと大丈夫よ! あんなに強いんだもの」


「当たり前だ。俺に倒せないやつなどいない。だが待て。まだその時じゃない」


「『その時じゃない』?」


「ああ、そうだ。ご馳走さん」


そうマクスが言うと、フューリーが皿を奥へと運んでいく。


「待ってろ。直に化けの皮を剥がしてやるぜ…………」


誰にも聞こえない声で、マクスは呟いた。


















夜。マクスは一人、宿の自室で盛大に鼾をかいて眠っていた。これでは、他の宿泊客はさぞ迷惑なことだろうというほどの大きさである。


そこに、一人の老婆が血相を変えて飛び込んできた。


「ま、ままままマクス様! 大変でございます!!」


「………ん…………誰だ、俺の安眠を邪魔する奴は…………。………ってあんた、喫茶の婆さんじゃねえか。どうしたんだ、一体?」


「孫が! 孫が山賊に攫われました!! 奴らは、あなたに一人で来るよう要求しています」


「ふん、そうか」

 

「そうか、って………もうちょっと驚いてくれてもいいじゃないですか!」


「こうなる可能性は十分にあった。驚く必要なんざねえ」


「じゃあ早く助けに行ってくださいよ!」


老婆が急かすと、身支度をしながらマクスはそれを手で制す。


「慌てんな。物事には順序ってもんがあるんだよ」


「そんな悠長な…………!」


「まあ待てよ。まずは下準備だ」


そう言ってにっ、と笑い、呆然とする老婆を残してマクスは自室を後にした。

















「さて。んじゃ、行ってくるぜ」


「お気をつけて。あの子を救い、必ずや山賊を打ち倒してください」


「任せとけ」


そう言って、見送りの村人達に手を振ると踵を返し、マクスは山賊たちのアジトがあるという山に足を踏み入れる。山賊とはいえ人が住んでいるだけあって山はなだらかで、比較的体力を消費することなく上っていくことが出来た。


しばらく上っていくと、開けた場所に行き当たり、その奥に、村長が山賊のアジトと言っていた、ちょっとした岩山があった。天然の岩肌に出来た洞窟を、そのままアジトとして使っているらしい。


「ほら、ご希望どおり一人で来てやったぜ? 出てこいよ!」


マクスが大声で叫ぶ。すると、洞窟の中からわらわらと山賊達が松明を持って洞窟から姿を現した。

その中でも一際体が大きく、筋骨隆々な男が口を開く。


「お前か、一昨日俺の子分共をこけにしてくれたって野郎は」


「ああ、そうだ。そしてすぐにお前達も同じ道を辿ることになる」


「はっ、これを見てもそんな減らず口が叩けるかな? おい!」


へい、と言って子分の一人が洞窟の奥から、縄に縛られたフューリーを引っ張ってくる。


「マクスさん!」


「よう、フューリー、だっけ? 生きてるか~?」


「マクスさん、私のことはいいからこの人達やっちゃって!!」


「はっ、解ってるかと思うが、この女の命が惜しくば無駄な抵抗はしないことだ」


二人の話に、まるで既にマクスに勝ったかのように、勝ち誇った様子で山賊の親分が割って入る。


「解ってる解ってる。んで? 何が欲しいんだ?」


さも当然のように言うマクスに対し、片やフューリーと山賊達は不意をつかれたような顔をしている。


「…………なんだと?」


「ん、何だ? 何かおかしいこと言ったか? 何か要求があるからこんな真似したんだろ。聞いてやるからさっさと言え」


少しの間呆然としていた山賊の親分だったが、やがて大声で笑い始める。


「ククククク………ハァーハッハッハ! こいつはいい。よし、いいだろう。まずは武器をこっちに投げろ」


マクスは腰から長剣を外すと、言われたとおりに山賊の親分に向かって投げる。

それを山賊の親玉は受け止めると地面に置く。


「ほう、随分上等な得物じゃねえか。こいつは高く売れそうだ。次は財布を投げな」


再び言われたとおり、マクスは財布を懐から取り出すと、男に投げる。


「ふん、傍若無人なお前にも人並みの情ってやつはあったらしいな。………さあ、もうお前は用済みだ。野郎共、子分達の借りを返してやれ」


「へい」


山賊の親玉が指図すると、下卑た笑みを浮かべながら、子分たちが各々武器をとり一斉にマクスの周りを取り囲む。


「ふぅむ、やっぱりこうなるか。予想はしてたがそれだけに拍子抜けだな。予想通り過ぎて面白味の欠片もねえ」


「ふん、ほざいてろ。いくらてめえでも、丸腰でこの数を相手には出来ねえだろ」


子分達が、じりじりとマクスに近づいてくる。


「馬鹿かお前は」


マクスはそう言って、右手を高々と上げる。


「俺は天才だ。これくらいの状況、切り抜けられないでどうする」


マクスは、上げていた右手の指を打ち鳴らした。パチン、という音が辺りに響く。すると、近くの岩陰から何かが投げ込まれる。


次の瞬間、投げ込まれた物―――――煙球による煙が辺り一帯を包み込んだ。


「な、何っ…………!」


突然の事態に冷静な判断を欠いた山賊達は、マクスがすかさず次の行動に移ったことも当然気付かない。


煙が晴れると、フューリーは山賊達の手から取り戻され、剣もマクスの腰に収まっていた。


「きっ、貴様ぁぁぁぁぁっ!」


山賊の親玉が怒りの形相でマクスを睨む。


「予想してたんだ。対策してるに決まってんだろ。………怪我はねえか、フューリーさんよ」


「う、うん。ありがとう」


マクスは、フューリーを先程煙球が飛んできた岩陰に連れて行く。すると、岩陰から一人の青年が姿を現した。


「ら、ラサム!?」


「フューリー! よかった、心配してたんだ!!」


「ラサム、フューリー連れて早く逃げな」


「はい。………あの、マクスさんは?」


「俺はあいつらにちょっと用があるんでな。後から行くぜ」


「解りました。お気をつけて」


「マクスさん!」


マクスが踵を返そうとすると、フューリーが呼び止める。


「絶対、帰ってきてね………」


「ああ、当たり前だ。俺を誰だと思っていやがる。無敵のマクス様だぜ?」


マクスがそう言って不敵に笑うのを確認すると、ラサムに連れられてフューリーはその場を後にした。


マクスは視線を山賊たちに移すと、彼らに向き直り、人差し指を突きつける。


「さぁて、ちょっと付き合ってもらうぜ。覚悟しな」


「てめえ…………ぶっ潰す!」


山賊の親玉の戦斧と、マクスの長剣。月の光をその銀の光沢できらりと反射させ、両者が激しくぶつかり合った。


両者は得物を離すと、後方に跳んで一旦距離をとった。隙を見て必殺の一撃を打ち込むべく、相手の出方を伺う。


「何だ、来ないのか? それなら………こちらから行くぜっ!!」


先に動いたのはマクスの方だった。尋常でない速さで、一気に山賊の親玉の眼前に迫る。


「くっ…………!」


山賊の親玉はマクスの勢いに気圧されながらも、かろうじて眼前の敵に向かって斧を振り下ろす。しかし、既にマクスが無意識に放つ覇気に中てられた闇雲な攻撃が当たるはずもなく、斧の刃が斬ったのは、素早く跳び退ったマクスが残した残像だけだ。


「どうした、んなへっぴり腰じゃ当たらねえぜ?」


「くうぅ、小癪な。野郎共、何ぼさっとしてやがる。やっちまえ!」


親分の言葉に、子分達は一斉にマクスに襲い掛かろうとする。自分を取り囲むように布陣する子分達を、まるで見世物を見物するかのような興味津々の笑みを浮かべてマクスは見つめる。


「かかれぇっ!」


親分の号令と同時に、子分たちは一斉にマクスに襲い掛かる。輪の中心にいるはずのマクスに向かって、得物が一斉に振り下ろされた。

山賊の親分は、間違いなく次の瞬間に血塗れのマクスの姿が拝めると確信し、笑みを浮かべる。だが、次の瞬間目の前に飛び込んできたのは、期待していたのとは全く違う光景だった。


「ど………どこへ行きやがった!?」


輪の中心にいたはずのマクスの姿がどこにもない。子分達の得物は皆、何もない宙を切っていた。


そして次の瞬間、子分たちは一斉に血飛沫を上げて屑折れた。


「ふわぁ………………」


不意に盛大な欠伸が背後から聞こえ、呆然としていた山賊の親分は驚きに振り返り、数歩後ずさる。動揺しているためか途中で足が縺れ、尻餅をついた。


「なっ…………て、てめえ! いつの間に俺の背後に………!」


「さっきからだよ。お前が俺をやったと思って馬鹿みたいに笑ってた、その時」


山賊の親分は、マクスの実力を思い知り、ただならぬ恐怖を感じ始めた。一瞬の内にこれだけに大人数による包囲を突破したばかりか、自分の背後に回られたのだ。下手をすれば、そのまま背中からざっくりと斬られていてもおかしくない。


勝てない。山賊の親分は、尋常ではないほどの実力の差を、今更ながらに思い知っていた。


「どうする? まだやるか?」


マクスは欠伸をしながら山賊の親分に訊いた。一見緊張感の欠片もないように見えるが、その構えはいかなる襲撃にも対応し得るもので、一切隙がない。

ここまで力の差があるのを認識すれば、対応は二択。ずばり、無理を承知で斬り込むか、逃げ延びる策を弄するかのどちらかである。

山賊の親分は、愚かしくも前者を選択した。


「くそ…………この野郎ぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーー!!」


山賊の親分は、怒りにまかせて斧を振り下ろす。だが、頭に血が上った一撃など、マクスには通じない。あっさりとかわして背後に回りこみ、首筋にきらりと光る銀の光沢を突きつけた。


「………諦めな。あんたの負けだ」


山賊の親分の額から、冷や汗が流れ落ちていった。


どうもです、ようやく2話目です。

いやぁ、マクス強いですね。やはり俺様キャラはこうでないと。


では、この辺で今回のキャラ設定をば。


フューリー


性別:女 

年齢:17

髪の色・瞳の色:茶・茶

髪質:長髪

その他:ジセル村の喫茶店の看板娘。天真爛漫な性格で、村人達からの人気も高い。


ラサム


性別:男

年齢:21

髪の色・瞳の色:茶・茶

髪質:単調な短髪

その他:村の一青年。ただそれだけ。


今回は特にメインキャラが出る回でもなかったので、こんなんになってしまいました。手抜きとか言わないでくださいね。仕方なかったんです。ええ。


それでは、また次回♪

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