第1章 最終話「終結」
「うおらあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
また一度、マクスとドルザベールが互いの得物を激しくぶつけ合う。
もう何合打ち合っただろうか。互いに一歩も引かぬ攻防が繰り広げられている。
既に玉座の間は2人の戦闘により見るも無惨に破壊しつくされ、壁に開いた穴から強い日差しが差し込んでいる。
根本的差異はあれど、互いの実力は拮抗していた。
マクスは150年の経験と神の使者の強大な力。
ドルザベールは、類稀なる才覚によって得られた実力と、非力を補って余りある、ディヴァイライトにより遥かに向上している身体能力。
そう。互いの実力はまさに互角であった。
だが、そんな2人にも差はあった。
マクスの実力は150年もの間の歳月を経て完璧に制御することに成功している、神の使者の力によるところである。
しかし、ドルザベールは違う。剣術の腕はマクスの腕と同等、もしくはそれより僅かに低いものであると言えよう。だが、肝心のそれを引き上げるディヴァイライトがいけなかった。
本来ディヴァイライトとは、貴族の男がやってみせたように神術の触媒として用いられるのが常である。
神術を行使する際に消費する神力に特殊な作用を施し増幅させるのだが、それは大抵は体外で行われる。
それは何故か。
答えは簡単だ。人体では、個人差はあれど耐えられる神力の出力が決まっているからだ。たとえどんなに優れた神術師でも、限界を超えた神力を体内に取り込めば、体は自壊してしまう。
このことから、体内に眠る神力をディヴァイライトで増幅させようものなら、すぐに限界を迎え体は神力の出力に耐え切れず自壊する。
こうしてマクスと戦って尚、その体を保っていられるということ自体奇跡なのだ。
両者は一旦剣戟をやめると、互いに距離をとる。
すると、徐にマクスが口を開いた。
「なるほど、強ぇな、あんた」
「お前がそれを言うか。化け物のような力を持つお前がっ!」
そう言って、ドルザベールは一気にマクスに肉迫すると、剣を袈裟懸けに振るう。
「違うな。そういう意味じゃねえよ」
そう剣を受け止めながら溜め息をつくマクスに、ドルザベールは僅かに眉を顰める。
「覚悟だ。そんな今すぐ崩れてもおかしくねえ体で、あんたはそれでも目的を果たそうと戦っている」
剣を弾き飛ばし、マクスが追撃の斬撃を放つ。ドルザベールはそれを横にかわそうとするが、かわしきれず鎧の肩当て部分がすっぱりと切断される。
「当然だ。我の求めた国がもうすぐ実現するのだ。ならばそれを実現させることに、何を躊躇う必要があると言うのだ!」
「そうだな。だが、あんたは知らない。あんたのその行動で、涙を流すやつがいるってことをだ。それではたとえ理想を実現できても、残るのは虚しさだけだろうっ!」
再び2人の剣が交わる。互いの剣の神力が反発し合い、スパークが上がる。
「それでも我はこの国を変える! それが、この国にいいように利用された、我が家族へのせめてもの手向けだ!」
「ふざけるのも大概にしろよ、ドルザベール! 信頼してくれる人を裏切り、自分の身を削って国を変えて、それで満足する気か!? ふざけるな! そんなものはな、周りを少しも見ようとせず、ただ自分のエゴを押し通そうとする愚か者の考えだ!!」
そう言って、マクスはドルザベールを剣ごと吹き飛ばし、呪文を紡ぐ。
「神の威光よ、我が仇敵に四天の裁きを! ディヴァイン・カルテット!」
マクスが剣を逆手に構え右手を突き出すと、彼の眼前に四角形型の身の丈ほどの大きな神威陣が発生し、その四隅の円陣からそれぞれ、青い超威力のエネルギー砲撃が放出される!
「ディヴァイライトよ、我が呼びかけに応えよ。グラウンド・ゼロ!」
ドルザベールも同様に右手を前に突き出すと、ディヴァイライトが発光すると同時に神威陣が発生し、それら4つの巨大な閃光に負けるとも劣らない規模のエネルギー砲撃を放出する。
2つの砲撃はぶつかり合い、少しの間拮抗すると爆発する。
そして煙が晴れると、
「ならその愚か者を、己が手で止めて見せよ!」
ドルザベールが剣を腰だめに構え、
「この、頑固者があああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!」
マクスが剣を両手で持ち、
絶叫とともに、だっと走った。
「魔導神剣!!」
「神龍剣、5分の4っ!!」
青と黄、2つの巨大な神力刃が、激しくせめぎ合う!
「ぐううぅぅぅ……うおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
「なっ………押されてるだと!?」
徐々にドルザベールの黄色の刃が押し始めた事実に、マクスの目が驚愕に見開かれる。だが、それもドルザベールの姿を見た途端苦虫を噛み潰したような顔に変わる。
「ぬ、うううぅ………」
ドルザベールは、顔に苦悶の表情を浮かべながら、力を維持しようと必死に足掻く。
「無茶しやがって!」
「フ………多少の無理をせねば、貴様は倒せん! そうだろう、マクス=トレンジアぁ!」
「ぐっ!」
一層、黄色の神力刃が勢いを増す。
(くそっ、押し切られる…………だが!)
マクスはドルザベールではない、別の人物を見やった。
そこには、神力を集中させている、ファイン=カインツ軍曹。
「やれっ、ファインッ!」
「何っ!?」
気付くが、もう遅かった。
ファインは、きっ、とドルザベールを見据えると、銃の照準を合わせる。
狙いは力の源であり彼の体を蝕む原因、ディヴァイライト。
「くっ…………」
ドルザベールはファインの銃撃を防ごうとするが、出来ない。
少しでも隙を見せれば、マクスの刃がすぐにでも押し返してくる。それが解っているからだ。
「いけええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーー!」
「将軍…………僕は今、あなたを止める! フォトン・ブラスタァァァァァーーーーー!」
超威力の砲撃がドルザベールのディヴァイライトに直撃する。
少しの間耐えていた金色の宝石は、やがて粉々に砕け散った。
途端、ドルザベールの神力刃の勢いが急激に失せていく。
「ぐううぅぅぅぅぅぅ!」
「これで、終わりだああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!」
マクスは一息にドルザベールの神力刃を切り裂いて霧散させると、無防備になったドルザベール本体の腹を殴る。
「がはっ…………」
肺の中の空気を吐き出すと、ドルザベールは意識を手放した。
「おっと」
倒れそうになる彼の体を受け止め、マクスは床に寝かせる。
「終わった、か」
「しょ、将軍――――――!」
終わった途端、ファインが涙目でドルザベールの下に駆け寄る。
マクスは気を利かせたか、その場から離れ、レインシアに無言で目配せすると、2人で部屋を玉座の間を後にした。
その後の処理は、驚くほど早く進んだ。
元々クーデターのような行いに躊躇いを覚えていた兵は少なくなかったようで、関係者の拘束や事後処理は特に滞りなく進んでいる。
あとから聞いた話では、神の牙の勢力が加わったことで城門前の戦いもリュネ達が圧勝、指揮官のロストンは命令で動いていただけということで処罰は減給だけで済んだ。
ロストンや兵士達のように、他の仕官達においてもそれは同様であったようで、特に諍いも起こることなく、復興に向けて歩み始めた。
そして、2ヶ月程の時が流れ―――――。
「マクス、マクス!」
ぼーっ、と自分用に宛がわれた城の一室の窓からぼんやりと外の景色を眺めていたマクスは、隣にいたレインシアの自分を呼ぶ声に我に返った。
「はい、どう致しましたか、レインシア皇帝陛下?」
嫌味ったらしく言うマクスに、レインシアは頬を膨らませる。
「からかわないでください!」
「ははは、悪ぃ悪ぃ。いやあ、でもあながち冗談でもねえぜ? 立場はもとより、お前の格好いかにも皇帝、って感じだしな」
旅を終えたレインシアは、見慣れた旅装から姫のドレス姿になっていた。それは、これから行われる『ある行事』に出席する衣装なのだが、こうして見ると改めて彼女が王族であったのだと理解できる。
当の本人が気に入っているかどうかは別として。
「もう、マクスったら」
そう拗ねたように言うレインシアは、しかしどこか楽しそうだった。
「マクスも素敵ですよ」
そういわれると、今度はマクスが顔をしかめる番だった。
マクスも実のところ、格好が変わっているのだ。
それは、この国、グランヴァール帝国の中でも将軍職、加えて皇室親衛隊の人間のみが着ることを許される、青と白の軍服であった。
「こんな仰々しい格好はしたくねえんだがな。いつもの格好じゃなんでいけねえんだよ…」
マクス自身はいつもの格好がいいと申し立てたのだが、レインシアの侍女に即却下されたのだ。
さすがに、あのボロマントや胸甲で出席させるわけにはいかない、ということだそうだ。
「いいじゃないですか。似合っていますよ、とても!」
そう言って満天の笑みを浮かべるレインシアに、マクスは気取ったように髪をかきあげ、
「そうだな。俺は何を着ても似合ってしまう。ああ、自分の才能が恐ろしい!」
それに対し、くすくすと笑うレインシアの頭を撫でてやる。すると、彼女は気持ち良さそうにされるがままにされていた。
そんな風にしていると、やがてこんこん、とドアをノックする音が響くと同時に、レインシアの侍女の声が聞こえてくる。
「レインシア陛下、マクス様。式の準備が整いました」
「ん、了解だ。下がっていいぞ」
「はい」
マクスの返事に侍女が部屋から離れていくのを確認すると、マクスはレインシアを連れて、眼下で多くの群集が待っているであろう、城の最上階のテラスを目指す。
2人が到着すると、予想通り民衆がその記念すべき瞬間を一目見ようと押しかけていた。
しかし、
「多っ!」
マクスの言うとおり、その数は2人の想像を遥かに超えていた。
それを見たレインシアは震えていた。こんなに大勢を目の前にしたことがないからか、緊張してしまっているのだ。
あれほど部屋でマクスと話したはずなのに。
彼女がマクスの部屋を訪れていた理由はまさにそれであった。
それに気付いたマクスは、彼女の耳元でこう囁く。
「何、気にすることはない。ジャガイモがごろごろ転がっているだけだと思え。それが無理でも、大丈夫だ。俺がいてやる」
なんということはない言葉。だが、レインシアはたったそれだけで、全身から緊張が抜けていくような心持ちがした。
意を決し、レインシアが壇上に上がる。
その瞬間、新たな皇帝の最初の演説を聞き逃すまいと、民衆は静まり返った。
「皆さん、初めまして。私はグランヴァール第一皇女、レインシア=リ=グランヴァールです」
ゆっくりと、しかし凛とした声で、レインシアは話し始める。
「早速ですが、私はこの国の内情というものを、これまでまるで理解していませんでした。この城という箱庭に閉じ込められ、外の世界を知らぬまま、そこでぬくぬくと育ってきたのです」
彼女の背後の宰相が明らかに慌てた様子で必死にレインシアにサインを送っていた。
予定していた台詞と違うぞ、と。
本来ならば、宰相に渡された台本どおりの台詞を言うはずだったが、レインシアはその、いかにも民衆に媚を売っているような、脚色された文を嫌がっていた。そして遂に、
「あんなに脚色したような台本、私には言えません」
そう言ってマクスに相談してきたのだ。
それで、マクスはアドバイスした。自分のありのままの気持ちを伝えればよいと。
その助言に基づき、レインシアは続けた。
「しかし、此度のクーデターの折、仲間達と旅したことで、私は知りました。重税に苦しむ人々、飢餓に飢えて倒れる人々、そして、国に抑圧され行き場を失う人々。差はあれど、世の中にはこれほどまでに苦しんでいる人々がいることを知ったのです」
そこで、レインシアは一旦区切った。
誰も一言も発さないまま、ただ静かに彼女の話に耳を傾けていた。
「私は宣言します。この国を変えていくことを。この国を、必ずや全ての人々に暮らし易い国にしていくと。しかし、それはおそらく私のみの力では実現することは不可能でしょう。私の理想とする国を作り上げるには、皆さんの力が必要なのです。どうか、私に皆さんの力を貸してください! そして、皆一丸となって、理想の国を築き上げましょう!」
話が終わると、少しの間静まり返っていたが、ややあって拍手が起こると、それは怒涛の波のように全群集に広がっていき、やがて音の奔流のように響き渡った。
「頼んだぜー! 新しい皇帝ー!」
「この国をー!」
そんなことを叫んでいる者もいる。
マクスの助言は大成功で、レインシアはあっという間に民衆の気持ちを掴んでいた。
やはり、飾らない言葉が一番なのである。
皆、レインシアの演説に心打たれていた。
「………よくやったな」
壇の上で民衆に笑顔で手を振り、彼らの呼びかけに応えているレインシアの側にマクスがそっと歩み寄り、そう囁く。
その囁きは民衆の叫び声に解け、聞こえたのかどうかは解らない。
その時、確かに誰もが思った。この国は変わる、と。
そして。その歴史的瞬間に立ち会えたことを、誰もが心の底から喜んでいた。
第一章 ―完―
神崎「神崎はやてのぉ~!」
一同「神の黄昏、in SPIRITUAL ARMS~!」
神崎「さあ~、始まります、神の黄昏! 司会は私、神崎はやてと!」
マクス「マクス=トレンジアでお送りするぜ」
神崎「第一章完結記念! ということで今回は豪華にパーティメンバー全員集合!」
ファイン「どうも~、ファインで~す!」
レインシア「おめでとうございます!」
リュネ「いやぁ、漸く終わったわよ。でも作者さん、私とバルク、シルフィーの出番がないんだけど?」
シルフィー「うむ、私ももっと出たかったぞ!」
神崎「仕方なかったんだよ、どうも最後を綺麗に纏めたいってなると詰め込めなくて……」
バルク「なら仕方ないよね。でもちょっとなさすぎやしないかい?」
神崎「大丈夫、次回から日常編というものが始めて、そこで出す予定だから。それで数話おいて、2章目突入」
マクス「そうか。ま、何はともあれこれで漸く一区切りついたわけだな」
神崎「そうだね。皆にも感謝してますよ!」
バルク「さて、これまでこの作品を見てくださった皆さん」
レインシア「これまで、本当にありがとうございました!」
ファイン「これから2章目も全開で頑張っていくから、」
リュネ「応援宜しくね♪」
マクス「それじゃ、最後の行くぞ。せ~のっ!」
一同「ばいば~い!」