第1章 第16話「突入 後編」
「将軍! どうしてこんなことを!?」
ファインは叫んだ。
「言ったはずであろう? 我はこの帝国に絶望している。このまま進めば、我が帝国に未来はない」
「だから、いっそのこと壊してしまおうってか? それで苦しむ者がいてもどうでもいいということか。ははっ、えげつねぇな」
挑発めいた口調で言うマクスの言葉に、僅かにドルザベールが眉を顰める。
「我とて、最初からこんな力ずくの方法を選んだわけじゃないさ。ただ、中から変える無謀を知ったまでだ」
「将軍! レインシア皇女殿下が皇帝となれば、きっとこの国を変えてくださいます! どうか、どうか道を誤らないで下さい!!」
「信じられるか! 他力本願はろくなことにならんと我は今までの人生で学んだのだ!」
「ふん! 俺から見れば、あんただってよほど信用ならんがな」
「何………?」
飄々とした態度で言い放つマクスを、ドルザベールは睨みつける。
「我は誤らんよ。この手でこの国を変えるのだ!」
「こんな多くの屍の上の変革を、国民が受け入れると思うのか!」
「理想のためだ。多少の犠牲は仕方がない」
「お前という奴は…………」
マクスは許せなかった。
ファインが呼びかけているのに、それを信じようとしない彼に。
それを知ってか知らずか、ドルザベールは剣を抜いた。
「さて、もう話すことはなかろう。決着をつけようではないか」
「………………いいだろう。お前をぶっ倒して、無理矢理にでもファインの話を聞いてもらうぜっ!」
マクスはそう言って、ヴァイステインを頭上に振り上げる。
「詠唱省略! シュトゥルムヴェインッ!」
無数の大砲ほどの大きさの光球が、真っ直ぐにドルザベールへと殺到する。
だが、ドルザベールは動こうとはしなかった。
待ち構えたようにその場を動かず、光球が次々に直撃する。
一瞬白煙が視界を遮る。だがすぐにそれは晴れ、未だ健在の将軍の姿を晒した。
「やはり………魔導鎧」
「フッ、そうと解って尚神術を使うか。理解できぬ男だ」
「確かめたんだよ。お前の意思ってやつをな。………本気なのか」
「愚問だな。屍を踏み倒す覚悟がなくば、王の資格はない。我を止めたくば………倒してみせよ! 異国の王子よっ!」
再びドルザベールはマクスに肉迫すると、神速の剣を叩きつけるように大上段から振り下ろす。
「ぐっ!」
マクスはそれを横っ飛びに回避し、ヴァイステインを横薙ぎに振る。
ドルザベールはそれを剣を引き戻して受け止めると、剣ごとマクスを弾き飛ばす。
「何っ!?」
マクスは空中で易々と体勢を立て直し着地するが、その目は驚愕に見開かれている。
体勢を立て直すと、両者は一気に距離を詰めた。剣と剣が交錯し、火花が散る。
「はぁっ!」
「ぬぅんっ!」
激しく、そして目にも留まらぬ剣戟の応酬。鍔迫り合いに突入した2人のところから、金属同士のぶつかる独特の音と、スパークがひたすら上がり続ける。
常人では、とてもではないが目で追い切れないだろう。
マクスは埒が開かないと見たか、後方へ大きく跳んで一旦距離をとった。
「てめえ、俺の動きについてこれるだと?………まさか」
「フッ、気付いたか。そう、我もこれの加護を受けているのだよ」
そう言って、ドルザベールは腕に装着されたブレスレットを示す。そこには、金色に輝く1つの宝玉が埋め込まれていた。
「ディヴァイライト………!」
「そう。それもあの男が持っていたような紛い物ではない。正真正銘、加工品の完成品だ」
「それを使って、身体能力を上げていたというわけか。だが、そんなことをすればお前の体は………」
「取るに足らぬ問題だ。言っただろう? 変革には犠牲がつきものだとな」
「自らの体も、目的のための犠牲と称するか…………」
マクスは何を考えたか、剣を下げる。
そして、
「クククククク………ハァーッハッハッハッハッハッハッハッハ!」
大笑いを始めた。
その様子を、その場の人間は呆気にとられて見守る。
「面白い、面白いぞ、ドルザベール! ハッハッハッハッハッハ!」
この男は自分と似ている。
経過こそ違えど、同様に無情な世界に絶望し、無力な自分に絶望した。
そして、自分を犠牲にしてでも果さなければならない思いを手にした。
似ている。しかしその実、2人の道は交わらない。
これが笑わずにいられようか。
こんなにも似ているのに、こんなにも分かり合えない。そんな世界の滑稽さに。
「ならばお前の覚悟、見せてもらおうか」
そう言って、狂喜の笑みで、剣を構える。
もはや彼の意思など関係ない。
この男に、ファインの思いを必ずや届かせる。たとえ力ずくとなろうとも。
「………無論だ」
そうして、2人は再びぶつかり合った。
「はああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
リュネがまた一人、目の前の帝国兵の腹を殴り気絶させる。
リュネとバルクは依然、城門前にて戦闘を続けていた。
既に大多数の兵士は2人の活躍により意識を手放していたが、未だ相当数の兵士が残っていた。
2人は背中合わせに陣取ると、周囲を取り囲む敵を伺う。
「バルク、神力残ってる?」
「騙し騙しって所だな。スタミナの方もやばい」
「はは、私も。どうしたものかしらね、この状況………」
圧倒的物量の前に、2人は苦戦していた。
早くも切れかけている体力に、乾いた笑いを浮かべざるを得ない。
「大人しく投降したまえ。この物量をまだ相手にするつもりか?」
城門のところで指揮をとるロストン=オーギュストがそう勧告する。
「ああ言ってるけど?」
「聞くわけないでしょ!」
「ふん………ならば望みどおり、ここで消えるがいい!」
ロストンの命で、2人を取り囲む兵達が一斉に銃を構える。
「くっ………ブルールレイン!」
リュネは咄嗟に、防御神術を発動しようとする。だが、度重なる戦闘で費やした神力は、彼女の想像を大きく超えていた。
構築されかかった障壁は、神力不足により完全構築されることなく消滅してしまった。
「やばっ…………」
遮るもののなくなった2人に、一斉に銃弾が浴びせかけられる。
やられる! そう思い、2人は目を瞑る。
だが、いつまで経っても痛みは襲ってこなかった。
恐る恐る目を開けると、そこには巨大な身の丈ほどの盾を構えた大男達が、ぐるりと周りを取り囲んでいる。
「えっ…………」
2人が一瞬何が起こったか解らず唖然としていると、大男達をかき分けて見知った顔が現れる。
「よう。間に合ったみてえだな」
「べ、ベリアル………!」
思わぬ増援に驚きを隠そうともせず、リュネは彼の名を呼んだ。
「助太刀するぜ」
「でも、いいの? 神の牙は、私を………」
「ははっ、問題ねえさ。そりゃ確かにまだお前を憎んでる輩は多い。だが、皇女のための戦いと言ったら、喜んで皆力を貸してくれたさ。俺としてはお前を信じてもらいたいところではあるんだが、とりあえずは信じてくれていいぜ」
「……………ええ!」
深呼吸をし、再び活力を漲らせる。
途端、目の前の軍勢が酷く脆弱に見えた。
~神の黄昏~
神崎「神崎はやてのぉ~!」
マクス「神の黄昏、in SPIRITUAL ARMS!」
神崎「さあ、今回はいよいよ最終決戦中盤!」
マクス「戦いが本格的におっ始まったぜ」
神崎「とりあえず、ようやくマクスの強さに追いつける人物出せたよ」
マクス「それでも勝つのはこの俺だがな」
神崎「ああ、期待してるさ。さあ、今回は裏話キャラ設定シリーズ第4弾。リュネ=バルカートン!」
マクス「あいつか。あいつに裏話なんてあるのか?」
神崎「ぶっちゃけそんなにないです。ただ、見た目のモデルが『ファイアーエムブレム 暁の女神』のワユだってことくらいかな」
マクス「そのモデルが解る奴がどれだけいるかが疑問なんだが」
神崎「いるでしょ。何人かは。さばさばしてそうなとことか、イメージにぴったりだったんだよね」
マクス「そうか」
神崎「では次回、いよいよ最終決戦も終盤に突入。マクスは全身全霊を以って、ドルザバールと語り合う。ファインの叫びが、謁見の間に木霊する………」
マクス「次回、『想い』」
神崎「玉座が望むは、反逆か。それとも………」