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第1章 第13話「血塗られし過去 ―後編―」

「おやマクス様、こんな時間に、いかがなされました?」


俺の目の前で、気の良さそうな老兵がそう話しかけてくるのが見える。

見える、と表現したのは、俺の体が俺の支配を離れ、その映像をまるで体の内から眺めているような、そんな感覚だったからだ。


事実、俺の体は俺の意思で動いてはいない。力を入れても、まるで魂と体の結びつきが途切れたかのように、体は動いてはくれず、感覚だけが神経を通して伝わってくる。


「! ま、マクス様、そのお怪我は、一体………!?」


老兵が、俺の傷を見るなり明らかにうろたえ始める。

そんなに酷い傷だったのか―――――。


俺がすまない、と声を出そうとした。だが、俺の体は俺の意思に従わない代わりに、とんでもないことを始めようとしていた。


望んでもいないのに、口の端が吊り上り、さらに右手に力が入る。


そして右手には、親父の剣。


待て、何をするつもりだ。


「………マクス、様?」


俺の雰囲気がおかしいことを感じ取ったのか、老兵が畏怖と憂慮とが入り混じった表情で俺を見る。


次の瞬間、俺の右手は老兵に向かって振り下ろされていた。


老兵は、何が起こったのか把握する暇もなく、胴を深く切り裂かれて絶命する。


「う、うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


タイミング悪く近くを通りかかった他の警備兵の悲鳴が辺りに木霊する。


俺の体は標的をその警備兵へと移したのか、移動を始める。


だめだ、止めろ、何をするつもりだ! 

彼は敵じゃない! 止まれ! 俺の体っ!


「う……うわあああああぁぁぁぁぁぁぁ!」


だが、俺の命令も聞かず、俺の体はその警備兵も後ろから切り裂き、命を散らせる。


そこから先は、地獄絵図だった。城中の人間を追い回し、殺し、それでも飽き足らず、俺の体は町へ出て数多の命を屠った。


意識がないのなら、まだよかった。俺が人々を追いたて、追い詰め、蹂躙する光景が、そのまま俺の意識に流れ込んでくる。さらには人を斬る感触までもが、腕の神経を通して伝わってくる。


夢だと思いたかった。親父を殺されたショックによる、悪い夢だと。だが、俺自身の支配を離れた体が一方的に送ってくる感覚が、一層目の前の惨状が真実であるという事実を突きつけてくる。


これは、現実。俺は、殺人鬼と化したのだ。


「こ、これでも喰らえっ!」


もはや公子と見ることも忘れたか、数人の兵士がバズーカを持ち出し、俺を取り囲む。


これは、死んだか。そうだ、殺せ。俺は殺人鬼だ。俺は……死ぬべきだ。

おそらく俺の体は、神獣(スピリチュア)の血を飲み強大なその力を制御できず暴走しているのだろう。以前文献で読んだことがあった。自分の力で制御できないなら、誰かの手で―――――。


バズーカが一斉に火を吹き、俺の体を貫き焼き尽くす。繋がる感覚が、激痛をもたらす。焼けるような痛みが全身を襲う。


誰もが俺の死を確信した。これで生きている人間など、いるはずはないと。


だが、予想は大きく裏切られた。


バズーカ弾は確かに全弾当たったはずだった。実際、俺の体はあちこちが見るも無惨なほどに焼け焦げ、弾け飛んでいる。これで生きていられたら奇跡だろう。


だが、その『奇跡』が起こってしまった。


俺の体は光とともに瞬く間に再生していき、ついにはまるで何事もなかったかのように傷は全て元通りになっていた。


「なっ………」


「ば、化け物ぉ!」


バズーカ砲を投げ捨て、代わりに腰に携帯していた機関銃を取ると、滅茶苦茶に乱射する。


対して俺は、無数の銃弾の雨を掻い潜り、尋常でないスピードで兵士達に迫る。


「うっ、うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


恐怖に顔をぐしゃぐしゃにし逃げ惑う兵士達の背中を、無情な凶刃が切り裂いていく。


誰一人として、この時の俺を止めることは出来なかった。そしてその後、目の前の惨状に耐え切れなかった俺の意識は再び闇に呑まれていった。

















「ん……ここは………」


辺りの眩しさに、俺は目を覚ました。山の際から太陽が昇り始めている。どうやら朝になっていたようだ。


俺は起き上がり、瞬間、頭に痛みが走る。


俺は生きているのか―――――。そんなことを考えていた、矢先だった。


「気がつきましたか」


声のしてきた方向を見やると、そこには考えもしない人物の姿があった。


「ユー、クリッド?」


今はここにはいないはずの弟が目の前で足を組んで椅子に座っている。


「お前………神術学校に行ったんじゃ…………」


「非常事態と聞いて飛んで帰ってきました。父上のことは………残念に思っています」


「そうか………。お前が帰ってきてくれたなら、この国も安心だな。また一緒に頑張ろう! 同じベルネールの兄弟として、精一杯………」


「ふざけないでください」


静かな、それでいて多大な覇気を含む声音に、俺は言葉を続けることが出来なかった。


「何が一緒に頑張ろう、ですか。町をこんなにして、この町の皆を………あまつさえ父上さえも殺した! そんなあなたと!! 殺人鬼と!!! 協力しろと言うのですか!!? はっ、とんだ血迷い言だ!!!」


「違うんだユークリッド、俺は!」


「言い訳だ! あなたの顔などもう見たくもない!!………出て行ってください。この町……否、この国から! 今すぐにっ!!」


「…………っ!」


完全な拒絶。


当然、解っていたことだ。これだけのことをしたのだから。


だがここまで嫌悪されると、衝撃は並のものではない。


俺はいてもいられず、荷物を掴み走り去った。


とにかく走った。


自分でも訳が分からなかった。


ずっと続くと思っていた日々。


弟との確執はあったが、それでもいつか昔のように暮らせると信じていた。


そんな幸せが………一晩で崩れ去った。


「う、うあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」


都の近くの気高い丘で、俺は一人、絶望に絶叫した。

















「その後、俺はこの国に流れ着いた。それからはずっと流浪の日々だ」


マクスの話を、レインシアは黙って聞いていた。微かにすすり泣く声とともに。


「お前………泣いているのか?」


レインシアは無言のまま頷く。


「何故お前が泣く。自業自得だろ、俺の場合。無謀なことと知らず、突っ込んでいった結果がこれだ」


「でもっ……あなたのせいじゃ………ないです」


「否、俺のせいだよ。………今でも夢に見る。戒めの夢を。罰があたってるんだよ。永遠の時を生き、永遠の悪夢に苦しむ、生き地獄。それを以って、俺は罰を受ける」


「でもっ」


「ああもう、五月蝿いな!」


マクスは立ち上がり、レインシアに人差し指を突きつける。


「お前な、俺がただ後悔するだけのタマだと思ったか?」


「どういう……ことです?」


未だ涙は目に溜めているが取り敢えずは泣き止み、レインシアはマクスの顔を見上げた。


「旅の途中で会ったおせっかいな爺さんが教えてくれた。殺した人に罪を償おうとするなら、殺した人の人生の分まで、たっぷり人生を楽しむことだ、ってな。だからこそ俺は決めた。この不死の体からおさらばしてやろうと。そしてその希望を捜し求めて旅をしている。………今はな」


「マクスさん」


目に溜まっていた涙を拭い、レインシアが凛とした表情でこちらに向く。


「何だ?」


「今一度聞きます。あなたが私に求める褒賞とは、一体何なのですか?」


「…………神の涙」


「えっ?」


思いがけない答に戸惑うレインシアに、マクスは続ける。


「神の涙。一滴であらゆる傷や病を治すと言われている伝説の秘薬だ。それさえあれば、俺は元に戻ることができるかもしれない。まあ、存在したかも解らない伝説の代物だがな。それが、俺が追い続けているものだ」


それを聞き、レインシアは俯く。


マクスはその様子を見て、大きく溜め息をついた。


「………無理はしなくていい。俺のような他国の人間、ましてや殺人鬼になど頼まなくても、お前を助けてくれる人間などいくらでもいるだろう。俺は消える。今晩限りで、お前の目の前から」


「もう一つだけ………訊かせて下さい」


レインシアは俯いたままそう切り出す。


「あなたは、あなたの幸せを求めているのですね? 罪を償うために」


「笑ってくれていいぜ。大罪人が、人並みな幸せを求めるなど許されることじゃない」


そう自嘲気味に呟くマクスだったが、レインシアの顔には彼には思ってもみない表情が浮かんでいた。てっきり、軽蔑や畏怖の念が浮かんでいるものと思っていた。だが、それは違った。


微笑み。


彼女の顔に浮かんでいたのは、いつもの彼女と同じ、自愛に満ちた花のような笑顔だった。


「それを聞いて安心しました」


次の瞬間、マクスの目が驚きに見開かれた。


マクスとレインシア。二人の体の距離がなくなった。


「普通に生きて………幸せになって、よいのですよ?」


「…………っ!?」


瞬間、マクスの中で何かの枷が外れたような気がした。


目的のものが伝説級だからというだけではなく、罪に縛られることによる諦めという名の枷を、マクス自身も知らず知らずのうちに作っていたのかもしれない。


それが今、なくなった。


無論、罪は罪、消えることはない。

だが、マクスは確かにこの時、救われたのだ。


「幸せ、に………」


「はい」


「俺は………」


「マクス、泣いてます」


「お、俺は泣いてなど…………」


マクスは否定する。が、彼の頬には、一筋の雫が光っている。


「参ったな、こりゃ。俺にもまだこんな感情が残されていたなんて………」


そう言って、マクスは天を見上げる。


満天の星空が、以前彼女と見上げたものと全く変わらない、美しい輝きを湛えていた。


神崎「神崎はやてのぉ~!」


一同「神の黄昏、in SPIRITUAL ARMS~!」


神崎「さあ、張り切って参りましょう、神の黄昏! 司会は私、神崎はやてと!」


マクス「マクス=トレンジアでお送りするぜ」


神崎「今回はレインシアをゲストに迎えています。よろしくね!」


レインシア「宜しくお願いします!」


神崎「いや~、よかったねえ、マクス!」


マクス「全く、こいつは予想外な答を返してくれるな。おかげでペースが乱れたぜ。ったく」


神崎「まあまあ、いいじゃない。おかげで丸く収まりそうなんだからさ」


マクス「まあ、そうなんだがな」


レインシア「はい、皆で力を合わせていきましょう!」


マクス「しかし、ようやく第一章ももうじき終わりか。長かったな」


神崎「部数的にはまだまだ少ないんだけどね。まあ、ようやくかな」


レインシア「ようやくお気に入り登録してくれる人も現れたことですし、これからですよね!」


マクス「感想は未だに一個も入んないがな」


神崎「ちょ、そういうこと言わない! そりゃ確かに感想があるに越したことはないけど、読んでくださってる読者様がいれば今は満足さ」


マクス「そういうものかね………」


神崎「そうそう。さて、じゃあ今回はこの辺で! ばいば~い!」


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