第1章 第12話「敵国の王子」
将軍の登場に、その場にいた誰もが驚愕した。
「どうして………どうして将軍が!?」
「ファインか………お前には感謝している。お前という存在のおかげで、誰にも邪魔されることなく実権を握ることができた」
「そんなっ……………」
「ファイン、今はいいですから、早くマクスさんをっ! でないと、マクスさんが死んでしまいますっ!」
「そうだ、マクスっ!」
涙声のレインシアの叫びを聞き、治癒神術を使えるリュネが、マクスに駆け寄ろうとする。が、その前にヴェノムと呼ばれた元偽神父が立ちはだかった。
「行かせませんよ」
「どいてっ!」
「心配せぬともよいぞ。これくらいでは死なん。マクスよ、お前もそろそろ寝たふりはやめておけ。白々しいぞ?」
「えっ………………」
呆然とする一行の目の前で、血の海からゆっくりとマクス=トレンジアは立ち上がった。
「あ~、痛ぇ。効いたぜ」
「ま、マクスっ!?」
「嘘っ………!」
「あの傷で無事なんて………有り得ぬ!」
気だるそうに首を捻るマクスを前に、レインシア、リュネ、シルフィーが相次いで驚愕の声を漏らす。
「やはりそうか」
「驚いたな、俺の真実に辿り着く奴がいるとは。褒めてやるぜ、反逆者さんよ」
「ど、どどどどどどどどうなってんの!?」
あまりの驚きに舌が縺れたとしか思えないほどの上ずった声を上げるファインに、ドルザベールはさらなる驚愕の事実を投下した。
「簡単なことよ、ファイン。この者は、人間ではない」
「どういう………ことです?」
レインシアが恐る恐る訊くと、ドルザベールはさらに続ける。
「この者は人間であって人間でない。この世に数えるほどしか存在しない崇高なる生き物、神獣。それを倒し、血を飲み、無尽蔵の神力、体力、不死の体、そして、神獣の加護を受けた武具を賜った伝説の存在…………神の使い(スピリチュアル・サーヴァント)だ」
「あの伝説の………神の使い(スピリチュアル・サーヴァント)!?」
「マクスが…………」
「そうだ。俺は神の使い(スピリチュアル・サーヴァント)だ。だが、それを知って何になる? お前をここでとっ捕まえて姫さんを玉座に座らせれば、全て終わる」
「そのとおりよ! さあ、覚悟しなさい!」
マクスの言葉にリュネが意気込み、他の仲間も我に返り身構える。
だが、事実はそれだけではなかった。
「………そうだな。だが、お前達否応なしにそやつとともにいるわけにはいかなくなる」
「どういうことだ!」
バルクが怒鳴ると、ヴェノムが嘲笑を浮かべ、更なる驚愕の事実を淡々と告げる。
「ふふ、この方は、この国の人間ではないのですよ。そうですね? マクス=トレンジア。…………否、『マクス=G=ベルネール』?」
「ベルネールって…………」
再び驚愕に目を見開くレインシア達。
ヴェノムの口から語られたその姓は、未だに紛争を続けている隣国の王族のものであったからだ。
「本当、なのですか、マクスさん………?」
マクスは答えない。沈黙し、じっと目の前のドルザベールとヴェノムを睨み付けている。
その沈黙が、答の全てを物語っていた。
「どうだ? その公子は敵国側の人間。何を企んでいるか解らん。それでもまだ、この男に味方するか?」
「くっ………………」
ドルザベールの冷酷な言葉に、何も言い返せない。そんな自分が、レインシア達は悔しかった。
「………1つ、訊かせて下さい」
戸惑いを露わにしつつも凛としたレインシアの言葉に、ドルザベールは表情を変えずに答える。
「いいでしょう」
「何故、あなたはこのような真似をなさるのですか? あなたは先の大戦時、多くの戦果を上げた英雄なのでしょう? 地位も名誉も手に入れたあなたが、これ以上何を望むのです?」
レインシアの言葉に、僅かだがドルザベールの表情が変わる。それは欲にまみれた男の顔でも、ましてやレインシアの賛辞に低頭した風でもない。
それは、怒り。何に対してかは解らないが、その顔には明らかな怒りの色が浮かんでいた。
「…………レインシア殿下。あなたは逃亡中、この国の内情をご覧になりませんでしたか?」
「えっ?」
「罪もない民が、役人の勝手な言い分で金を毟り取られ、虐げられていく………。そんな現場を目の当たりにしなかったのかと聞いているのです」
それを聞いたレインシアは、悲しげに俯く。
「………はい」
「私は貧しい猟師の家庭に生まれました。金はなかったが、それでも家族揃って細々と生きてきた」
これには皆が驚いた。当然だ、この帝国を救った英雄であり、レインシアが言ったように地位も名誉も全てを手に入れた男が、貧しい平民出身だったというのだから。
「我らは幸せだった。家族で一緒にいられれば、貧しさなど大した問題じゃない。そう思っていた。だが、そこへ貴族がやってきた。聞けば、戦争のために男は兵、女は給仕として欲しいという。言うことを聞かなければ土地を差し押さえるといわれ、我ら家族は仕方なく要求を呑んだ。父と兄は兵として、母は給仕として連れて行かれた! 騎士となった今でも、未だに家族は発見できていない。何故か解るか? 売られたのだよ、奴隷としてな! くだらん貴族のたかが小遣い稼ぎのために、我の家族は利用された! 何故! どうしてっ! こんなことが許される!? この帝国は腐っている! ならば修正せねばなるまいッ!!」
そこまで一息に、途中から感情を込めて語ったドルザベールは荒くなった息を整えると、落ち着いたところで再び話し始める。
「だから我は決めた。この帝国の実権を握り、この腐った国を変えてみせると!」
「それが………将軍の戦う理由なんですね」
「そうだ、ファインよ。お前はいい子だ。我も出来れば、お前を斬りたくはない。我の下につけ。さすれば、悪いようにはせん」
「僕はっ…………」
ファインは答えることが出来ず、俯く。将軍の裏切りと、マクスの真実。ショックが大きすぎて気持ちの整理がつかないのだろう。
そしてリュネとバルクは、そんな光景を危惧を以って見つめていた。
「バルク…………」
「ああ、これでは戦うどころではないな………」
マクスは怒りと悲しみが見え隠れする、非常に彼には似つかわしくない複雑な表情でドルザベールとヴェノムを睨み、レインシアとファインはあまりの出来事に呆然としている。これでは、到底二人を相手に戦うことなど出来ないだろう。
「よし、逃げるぞ、リュネ。タイミングを合わせてくれ」
「解ったわ。…………今よっ!」
「そらっ!」
バルクはダガーを抜き放つと、神力弾を発生させ、床にぶつける。すると、大きな音とともに辺りに煙が充満した。
「むっ」
「目眩ましですか。小癪な」
「今の内に逃げるぞ、マクス!」
「…………ちぃっ!」
マクスは一瞬躊躇したが、さすがは彼である。舌打ちし、すぐさま撤退を開始した。呆然としたままのレインシアとファインも、リュネとバルクに連れられていく。
「逃がしません!」
「放っておけ」
追撃しようとするヴェノムを、ドルザベールが呼び止める。
「よろしいので?」
「今追わずとも、奴等は必ず戻ってくる。尤も…………」
ドルザベールは言いながら、もう用はないとばかりに煙の晴れた謁見の間に踵を返す。
「その気力があればの話だがな」
「皆、いるか?」
バルクは、草臥れた表情でそう尋ねた。だが、声は返ってこない。
現在一行は、城を離れバルクの秘密の隠れ家だという町の一角の空き家に来ている。見つからないようにという彼の咄嗟の判断だったが、その判断は正しかったようで、彼らのいる窓の外では兵士達が忙しなく歩き回っているのが見える。
ややあって、重い空気に耐えかねたリュネが話し始める。
「あ、あはは、でも、びっくりだったわね~、まさか将軍が黒幕だったなんてね~」
リュネの言葉に、ファインとレインシアがぴくりと反応するが、事態の打開には至らない。
「……………あ、あははは………バルク、あたし、なんかこの空気耐えられない………」
「…………同じくだ」
リュネとバルクは、あまりに重い空気に、ただ苦笑いをするしか出来なかった。
「少し出てくる」
無表情のまま、マクスはそれだけ告げて部屋を後にする。
「マクス、ちょっと!」
「大丈夫、彼なら見つかるようなことはないさ」
「あの、リュネさん、バルクさん」
それまで沈黙を保っていたレインシアが、おずおずと話し出す。
「何?」
「どうしてお二人は、そんなに平然としていられるのですか? お二人はマクスの友人なのでしょう?」
リュネとバルクは顔を見合わせると、ぷっ、と吹き出した。
「うん、まあ、最初は確かにびっくりしたわよ? あたしだって。でも、あいつの正体が何であろうと、あいつが私達を裏切るなんてことは決してない。断言してもいいわ」
「そうだな。彼は多少性格は滅茶苦茶なところはある。ですが、それだけではない。それに見合うだけの実力、何より強い信念を持つ男です。彼は、自分で言っている以上に強く、信頼できる人物ですよ、殿下」
「そう…………ですか」
煮え切らない声で、レインシアは相槌を打つ。
マクスは結局、夜まで帰っては来なかった。
熱い。
体中を熱い何かが包んでいる。
赤い。それはどろどろとした、嫌な赤みを帯びていた。
重い。自分の上に何かが覆いかぶさっている。
これは、人―――――?
その『人』に、手を伸ばして触れてみる。
触れた自分の手は、熱い血潮の赤に染まっていた。
「うわああああぁぁぁぁっ!」
悲鳴をあげ、マクスは目を覚ました。
「…………くそっ」
体中、嫌な汗をかいている。額に手を当てて、荒れた呼吸を整え、水を一杯飲む。そうしていると、段々と落ち着いてきた。
(また、あの夢かよ…………)
マクスは心の中で毒づいた。
『あの日』から幾度となく見続けた悪夢。
完全に忘れたつもりでも、それは幾度となく現れ、戒めを結ぶがごとくマクスを追い詰める。
「くそっ!」
二回目の悪態をつくと、マクスはマントを羽織り、部屋を出た。
建物の外の人目につかない場所に腰を降ろし、マクスはじっと空を見つめる。
雲ひとつない夜空。普段なら全く恐れることのないそれも、今のマクスには全てが吸い込まれそうで嫌なものだった。
そこへふと足音を感じ、マクスは剣の柄に手をかける。
だが、
「あっ……………」
杞憂だった。
足音の主、レインシアは一瞬驚きの表情を浮かべる。おそらく、人がいるとは思わなかったのだろう。
だがすぐに、強張った表情になる。
「どうした、こんな夜遅くに。兵士の奴らに見つかったらどうするつもりだ?」
マクスはそう言って、構えを解いた。
だが、レインシアは顔を強張らせたまま答えない。
そのまま少しの間二人の間を静寂が支配する。
だが、ややあってレインシアが重い口を開いた。
「マクスさん。話していただけませんか。あなたの真実を」
「どこまで知りたい?」
「全てです。あなたの全てを」
「知ってどうする? 真実を知ったところで、俺が敵国の人間である事実は変わらん」
マクスの言葉に、レインシアは悲しげに俯く。
「解りません。ですが、私は真実を知りたい。知って、あなたがどんな人間なのかを理解したい。あなたの闇を。答を出すのは、それからでも遅くはないと思います」
そう切実に訴えるレインシアの瞳には、明らかな悲しみが映っている。
彼女自身は気付いていないかもしれないが、そこには信じていたものが崩れるかもしれない不安と、信じていたものを疑わなければならない葛藤、そして、信じていたものを否定しなければならなくなるかもしれないことへの恐怖が、ありありと滲み出ていた。
マクスは大きく溜め息をつく。
(なまじ俺のような人間を信じたばかりに…………)
自分のような人間を信じてしまったがために、この少女は今苦しんでいる。ならば、その苦しみから解放することもまた、自分の役目。今のままでいいはずはないが、続きはリュネやバルクが引き継いでくれるだろう。
マクスはそう考え、決心した。
「いいだろう、全てを話す。俺……マクス=トレンジアが、どんなに血塗られた過去を辿ってきたのかをな」
それは、真実が明らかになる瞬間だった。
神崎「神崎はやてのぉ~!」
一同「神の黄昏、in SPIRITUAL ARMS!」
神崎「さぁ~、始まりました、神の黄昏! 司会進行は私、神崎はやてと!」
リュネ「特別アシスタントの、リュネ=バルカートンでお送りしま~す♪」
神崎「今回も主要メンバーが大変なことになってるので、ダメージの少ないリュネに来て頂いてます」
リュネ「それより作者さん、今回更新遅くなかった?」
神崎「ごめんなさい、軽いスランプに陥ってました。書く文章が全然浮かばなくて………。おまけに書く気まで失せてくるし……。ああ、今回こんな駄文で本当にごめんなさい」
リュネ「一番のシリアス場面が駄文でどうすんのよ!」
神崎「ごめんなさい、あとでしっかり修正します。読者の皆さん、どうか今回はこれで我慢してください」
リュネ「読者の皆さん、本当にごめんなさい」
神崎「さて、今回のお題は、ずばり『キャラCVを決めろ!』」
リュネ「あ、それってKyo先生との話で浮上したのだったわね」
神崎「そうそう。マクス達に声を吹き込むとしたら、声優さんは誰か、って話だね。と言うわけで! 読者の皆さん! 『この人なんか合うんじゃない?』ってのがありましたら、メッセージか感想にてお寄せ下さい! この際なので、全てのキャラを考えていただきます。もし最優秀に選ばれた方には!」
リュネ「か、方には?」
神崎「僕が一話、お好きなSPIRITUAL ARMSキャラの番外ストーリーを書きます!」
リュネ「大丈夫なの、そんな約束して?」
神崎「大丈夫だよ。………たぶん」
リュネ「今思いっきりたぶんって付いたわよね!?」
神崎「気にしない、気にしない。というわけで、応募待ってます! 最後になりましたが、このような駄文をお気に入り登録いただきました方々、ありがとうございます、光栄です」
リュネ「これからも、SPIRITUAL ARMSをよろしくね!」
神崎「では、また次回まで。ばいば~い!」