第1章 第11話「帝都潜入」
「ああ~、出口だぁ~~~~♪」
帝都のとある路地裏のマンホールから出た途端、開口一番にそう歓喜の声を上げ、ファインは大きく伸びをした。その後から、リュネ、レインシアと続き、最後にマクスがおっかなびっくりなシルフィーと共に上がってくる。シュペイゲルは、ことが終わるまで貧民街で保護してもらうことになったため、置いてきた。そして何故シルフィーがいるかというと、本人曰く、「レインシアと一緒に行きたい、何よりこれ以上下水にいるのは耐えられん!」だそうだ。後者が理由の大部分であることは明らかである。
「眩しい~~~!」
暗いところから急に明るいところへ出たため、日の光の眩しさに、手で目を覆う。一行が眩しそうにする中で、マクスだけは平然としていた。
「さて、ぐずぐずしてる暇はねえな。見つかったら最後、警備がかなり厳しくなるだろう。奴らが外に目を向けてる今が正念場だ」
「うん、そうね。じゃあ早速城に急ぎましょ」
「ちょっと待て、その前に…………」
そう言って、マクスは振り返る。
「なんでてめえがついてきてんだ?」
一行が振り返ると、そこにいたのはちょうどマンホールから這い出てきたところだった、バルク=レイモンドその人だった。
「何言ってるんだい、マクス? こんな国の一大事に、参加するなって方が無理だろう」
しれっとしていい笑顔で言い放つバルクを尻目に、この上なくじとっとした目でマクスは一行を睨む。
「ぼ、僕です…………」
ゴン! いきなりマクスの拳が、恐る恐る名乗り出たファインの脳天にぶちあたった。
「い、いきなり何するのさ~!」
「うっせえ! いいか、情報ってのはどこから漏れるか解らねえ! 今回はこいつだったからいいようなものを、敵と繋がってるやつだったらどうするつもりだ!」
「うっ………ご、ごめん」
正論で怒鳴られ、途端にしゅんとして俯くファイン。
「ま、今回は特別に許してやるが、いいか、次はないと思え!」
「は~い…………」
涙目のファインを苦笑しながら見やり、マクスに視線を戻すとリュネは再び問いかける。
「じ、じゃあ、改めて城に向かいましょうか?」
「ああ。………とと、その前に宿に行くぞ」
「宿? 何故宿なのじゃ?」
シルフィーの問いに、尤もだという様子で一同は頷く。
「言ったろ? 何事も下準備が肝心なんだ。ま、見てな」
そう言うが早いか、マクスはさっさと宿へ向かって歩いていき、一行は疑問に思いつつも後を追った。
帝都に聳える大きな城。かつて、全生物の祖であった一族、ケリオン族の一人であり、大いなる闇より世界を救い出したという言い伝えの残る英雄、ガイルが建造したとされる城である。
しかし、ガイルが生きていたとされるのは数千年もの太古。それほど昔の建造物が何故現存するかといえば、この城の材質である特殊な魔力を多く含むミスリル鉱石と、城に幾重にもかけられた保護神術によるものが大きい。前者は現在では非常に希少価値の高い鉱石で、硬度や神力伝導率に優れている。そして後者は建物のいたるところに張り巡らされた、対象を傷害から守る役割を持つ神術である。さらにいえば、前者は現在ではこの種類のミスリル鉱石を加工する技術はケリオン族が生きていた時代の末期に失われており、再現は不可能。さらに後者は、おそろしく難解な暗号が組み込まれた術式のもとに成り立っており、よほど優秀な神術士でない限り、解くことは不可能。
以上のことから、この城は歴史、文化に加え、技術的な面でも非常に高度であるために、よく研究のため科学者が方々から集まってくる。
そして、そんな事情を持つ城の城門を、二人の兵士が槍を持って番をしていた。
「…………なぁ」
片方の兵士が、眼前に広がる帝都の町並みを眺めながら呟く。
「何だ?」
もう片方の兵士が、同じく真っ直ぐに帝都の町を眺めながら返す。
「………暇だよなぁ」
「………同感だ」
そう、城の門番というのはおそろしく暇なのであった。
敵の侵入を防ぐための番兵ではあるが、前線の兵が屈強なグランヴァール帝国において、基本的にそこまでの事態になることは滅多にない。双子要塞にあったような神力サーチ用の機器などによって、スパイの検挙率もほぼ100%。どこにも死角はない………はずだ。
「しかしよぉ、こうして見ると、平和そのものだよなぁ」
「でも、隣のベルネール公国とはまだドンパチやってんだろ?」
片方の兵士が、隣国との紛争を引き合いに出す。
「そうなんだよなぁ。まあ、あれも国境で小競り合いしてるくらいものだから、そんなに心配することはねえだろ」
「そうか? まあ確かに、あんなところで止められてるような相手に、あの双子要塞が突破できるはずねえからな」
「だろ? おっと、客だ」
そう言って正面を見ると、城門前の大きな階段を上がってくる数人の人影が見え、門番は姿勢を正す。
「失礼、あなた方は何者か」
片方の兵士が問いかけると、先頭にいた男が答える。
「私はこういう者だ」
そう言って男が取り出したのは、一枚の会員証のようなものだった。
「こ、これは、国軍の………」
「私は帝国軍第8師団所属第12小隊隊長、バルク=レイモンド大佐だ。宰相閣下とお会いする約束をしている。通してはいただけないだろうか」
「し、失礼致しました。さ、どうぞ。お通り下さい」
兵士は門を開き、
「ああ、ありがとう」
と言って、バルクとその周りの兵士の鎧を着ている者達は、ともに入ろうとする。
「お待ち下さい。大佐、この後ろの者達は何者ですか?」
「彼らは私の護衛の兵で、ともに宰相閣下への謁見が許可されている。通してやってくれ」
「そうでしたか、失礼致しました」
そう言って、兵士はバルク以外にも道を空けた。
「ありがとう。さあ皆、行こうか」
一行は、城に足を踏み入れた。
「ふぅ、なんとか入れたね。もういいよ、皆」
一行は城の中に入ると、バルクの声に従い兜を脱いで一息ついた。
「ああ。お前がいてくれてよかったな。こんなあっさり入れるとは」
マクスも兜を脱ぎ、ふてぶてしい笑みを浮かべる。
「でも、あんたが軍にいたのってもう大分前なのよね? どうして信じてくれたの?」
「俺のいた第8師団第12小隊っていうのは、帝国軍の中でもかなり扱いが悪い隊でね。いつも目立つことがなかったから、俺がやめたのを知っているのは、当時の俺の部下だけさ」
「そうなのか。のぉ、さっきから気になっておったのじゃが、マクス殿はバルク殿を連れて行くつもりはなかったのじゃろ? では、どうやって城の中に入るつもりだったのじゃ?」
「当然!」
マクスは立ち上がり、大きく胸を反らせ、
「強行突破(殴りこみ)だ!」
自信たっぷりにそう言った。
―――――バルク(さん)が来てくれてよかった………。
一同の頭に浮かんだのは、等しくその一言だった。
「さて、ここでこうしていても始まらねえ。レインシア、謁見の間に案内しろ。宰相の野郎もどうせそこだろう」
「はい」
一行は兜を被りなおし、レインシアの案内のもと、謁見の間へと歩を進める。
「しかし、この城には初めて入ったが、見事なもんだな」
歩きながら、マクスはそう呟く。どことなく神秘な様子をかもし出す壁の、薄い青がかかった白の外見は、建築という名の芸術ともとれるほど素晴らしいものだ。誰もコメントは出来なかったが、外観も相違なく壮麗であり、設計者のセンスが伺える。
「英雄ガイルが建築してから数千年経ってるのにね。僕も初めて来た時は驚いたよ」
「そういえば軍人だったな、お前」
「………マクス、いい加減怒るよ?」
「いいぜ? 返り討ちにしてやる」
ファインは未だに不満そうな顔をしていたが、マクスには勝てないことを悟ってか、押し黙る。
「まあ、でもそのとおりよね。これも、ケリオン族の技術のおかげね」
「これならベルネール公国の軍勢がかかってきても、まず大丈夫だよ!」
リュネの言葉に、ファインが満面の笑みで同意して付け足す。
「ベルネール、か………。この国と長年に渡って大陸の覇権を争い小競り合いが絶えない隣国………」
「マクスさん、どうしたのですか?」
「否………なんでもない。あの国も、つくづく戦争が好きな国だと思ってな」
「そうだよね。でも、今のような姿勢をとるようになったのは今の公王になってからだったと思うよ? 前の公王が死んで、唯一の息子だった公子も失踪して、それで今のディードレッド公王になってから、軍備が強化されて、よくこっちにちょっかい出してくるようになった。150年も前の話だけど」
「150年も生きておる人間がおるわけなかろう。どうせガセネタじゃ」
ファインの説明を聞き、呆れたようにシルフィーがそう反論する。
「でも、そう伝えられているんですよ? 実際、今の公王の名前はディードレッドっていうらしいし」
「たわけ、偽名かもしれないじゃろう。ていうか絶対そうじゃ。ま、伝説とも言われた神の使者が実在するのであれば、話は別だがの」
「確か、神獣を倒してその血を飲んだものは無限の魔力と不老不死の体、神獣の加護を得た特別な武具を手に入れる、でしたっけ? それこそ伝説じゃないですか。ま、僕だって150年はさすがに生きすぎだと思いますけど。でも、生きていると思ったほうがロマンがあっていいじゃないですか」
「何がロマンじゃ。全く、男の考えることは理解できん」
そんなことを話していると、一つの扉の前に行き当たった。
「ここか?」
「はい」
「よし、開けるわよ」
リュネが、謁見の間の扉を開けた。
中に宰相はいなかった。代わりに、上等な着物を纏った男が二人、椅子に座ってにやけた顔でこちらを見ている。
「ようこそ。来ると思っていたぞ」
「お前らはっ………」
言いかけ、マクスの口がそこで止まる。そして、
「………誰だっけ?」
男二人が椅子からずり落ちそうになる。慌てて姿勢を正し、
「こらっ、忘れるな! ジサラ村でアクログラントを使い、ディヴァイライトを集めていた貴族だ!」
と、男のうち歳をとっている方の男が怒鳴る。おそらくはあの偽神父であっただろう男は、その隣で引きつった笑みを浮かべていた。
「あ~、すまん、あまりに雑魚キャラだったんですっかり忘れてたわ。最近物忘れが酷くてな」
「…………マクス、わざとやってるでしょ?」
わざとらしくそう言って頭をかくマクスの横で、ファインが呆れた様子でそう突っ込み、バルクが「やはり相変わらずだな」と呟いて溜め息をついている。
「ぬうぅ………上流階級のこの私をこけにしおって……」
「生憎だが、いい意味でも悪い意味でも、俺は身分なんかに振り回されない性質でね」
「今ならまだ間に合います。不正はもうやめてください」
レインシアの言葉を貴族の男は鼻で笑い、言い放つ。
「ふん、、これを見ても、まだそんなことが言えるかな?」
そうして男が見せたのは、光り輝く金色の鉱石をはめ込んだ指輪。
「何?」
「それは………」
僅かに眉を顰めるマクスに、驚きの表情を浮かべるバルクとリュネ。どうしたのかとファインが訊く前に、答えは元偽神父から飛んできた。
「ハハハ、そのとおり。これはディヴァイライトを加工したものです。神力を極限まで増幅する、兵器としてね!」
「まさか、そんなばかな! ディヴァイライトを加工するなんて、有り得ない………!」
リュネが驚愕した様子でそう言う。
「どうして有り得ないの?」
「ディヴァイライトの加工法は、この城に使われてるミスリルの加工法とともに抹消されている、ケリオン時代の秘術だからだよ。普通にそのまま使っても、神術の媒介として使用して神力を増幅することは出来るが、加工品はそれを遥かに上回る増幅量を誇るらしい」
ファインの問いに、驚愕の表情のまま、バルクが問いに答えた。
「ククク、その通りだ。だが現実を見ろ。『これ』は確かに、私の手にある。さあ、どうする? 大人しく皇女を渡すのであれば、手荒な真似はしないが」
「生憎だが、俺は目的のためなら手段を選ばない性質でね」
「それが、命に関わることであってもですか?」
「有り得ねえな、俺の命が脅かされることなど。俺は世界最強で、不死身の男だぜ?」
不敵な笑みを浮かべ、マクスは剣を抜き放つと、貴族の男に向ける。抜刀された剣は、戦いの始まりを告げるかのように、青く淡い光を放ち始めた。
「そうか………ならば、死ね」
男は近くに立て掛けてあった杖を掲げた。たちまち、マクス達をいくつもの雷撃が襲い掛かる。戦えないレインシアやシルフィーを庇うようにして、雷撃から身をかわす。雷撃が着弾した床は焼け焦げ、小さなクレーターのような窪みが出来る。
「ど、どうなってるの!? 最下級神術が、しかも無詠唱でこんな威力なんて!」
「だから言ってるだろ! 神力が増幅されてんだよ! ちっ、面倒なもんを………」
マクスは舌打ちし、突撃をかける。
「クク、無謀な」
貴族の男は追撃するように、連続して神術を打ち続ける。雷が落ち、マクス達がそれを避ける度に、床のクレーターはその数を増やしていく。
「ふん、ちょこまかと、すばしっこい奴らだ」
「うおらあああぁぁぁぁぁぁっ!」
マクスは雷を避けながら確実に貴族の男に肉迫すると、剣を渾身の力で振る。
貴族の男はそれに対し、杖を前に掲げ、障壁を作り出し剣を受け止めた。
「くっ……………!」
男の顔が苦悶に歪む。だが―――――。
「ぬうああああぁぁぁ!」
「何っ…………ぐあっ!」
突然障壁が破裂し、マクスはその爆風に吹き飛ばされる。
さほどダメージは大きくなかったのか、マクスは空中で一回転すると、華麗に着地する。
「マクス!」
ファインの声が後ろから聞こえてくる。が、返事をしている暇はなかった。再び雷撃が、マクスに降りかかり始めたのだ。
「ディヴァイライトで強化した我が障壁を以ってしてもあれほど押されるとは。さすがと言ってやりたいが、この石がある限り私には勝てんよ。フハハハハハ!」
「はっ、石の力に頼らなければ何も出来ない盆暗が!」
「言うことだけは大層だが………実力が追いついてなくては意味がないな!」
「同感だ。だがその言葉、そっくりそのまま返してやるよ!」
マクスは再びだっ、と一気に前に踏み込んだ。そして神速の速さで抜刀し、居合いに似た斬撃を繰り出す。
「ふん、何度やっても同じだ!」
男は再び、マクスの目の前に障壁を発生させる。だが―――――。
「何っ!?」
マクスの姿が突然消え去り、男は周囲を見回す。
「どこを見ている?」
男は声に気付き、後ろを振り向く。そこには、既に剣を振りかぶったマクスの姿があった。
「くっ、ディヴァイライトっ!」
ディヴァイライトが黄金色の光を発し、先程より数段厚い障壁を発生させる。障壁とマクスの剣がぶつかり合い、神力同士がスパークを起こす。
「無駄だ、貴様一人程度の攻撃、びくともせぬわ!」
「………俺一人だけなら、な?」
「何だとっ…………!?」
気付いたころには、リュネとバルクがそれぞれの神力を込めた得物を手に、男の目の前まで肉迫していた!
「行くわよっ、爆牙拳!」
「うおおおおっ、豪炎斬!」
爆発的な神力を纏ったリュネの拳と、炎を纏ったバルクのダガーが、男へ両側面から襲い掛かる。
「ぐっ……ぬうううううううあ!」
男は、さらにリュネとバルクの攻撃に対し追加で障壁を発生させ、受け止める。
「嘘っ!」
「なんて力だ…………!」
リュネとバルクの目が驚愕に見開かれる。
「皆! よ~し、僕も!」
ファインはそう言うと、ガンホルダーから銃を取り出して、ゆっくりと神力を込め始める。
(使ったのは、あの時だけ。上手く出来るかはわからない。でも………)
ファインはきっ、と目を見開き、眼前の敵を見据える。
(僕だって、皆の………マクスの役に立ちたい!)
ファインは銃を構えると、トリガーを引いた。
「うああああああああっ、ギルファー・バーストーーーーーーっ!」
黄色の神力の奔流がレーザーと化し、怒涛の勢いで貴族の男に迫る!
「くっ…………」
男はそれをも障壁を展開し、防御しようと受け止めた。しかし、たとえディヴァイライトを使用しているとはいえ、それを操るのは男一人。
4人もの強力な同時攻撃を、防ぎきれるはずがなかった。
「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!」」」」
「ぬうっ、馬鹿な、ディヴァイライトの加護を受けた、この私が!? ぬうぅ………ぐあああああああああああああっ!」
やがて障壁は粉々に消し飛び、その衝撃で双方共に吹き飛ばされた。
「ぐぅ……皆、無事か?」
バルクが呻く。
「なんとかね…………」
とリュネ。
「ははは、やった、僕も出来たぞ…………!」
「ああ、上出来だ」
達成感から喜ぶファインに、珍しく賛辞を送るマクス。
煙が晴れる。そこに立っていたのは―――――。
「何っ!」
「馬鹿な!」
大きな傷を負ってはいるが、未だに立ち上がる貴族の男の姿だった。
「おのれ………許さんぞ! 私の体に傷を負わせるなどと…………! だが、残念だったな。最後に勝つのは………この私だ!」
そう言って杖を掲げる男の様子に、マクス達は再び身構える。
だが、そこで予想外の出来事が起きた。
「ぐっ、な、何だ!?」
突然ディヴァイライトが強く発光し始め、男の姿を包み込む。そして―――――。
「ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
ディヴァイライトが膨大な神力とともに爆発し、男を巻き込んだ。その悲惨な光景に、思わずレインシアとシルフィーは目をそらす。
「あ……ば、馬鹿な…………何故………」
ぼろぼろの体で、男は呆然とする。そこへ、元偽神父が嘲るように笑いかける。
「くっくくく………ハァーっハッハッハッハハッハッハッハ!」
「なん……だ、何が………おかしい!」
「これが笑わずにいられますか? フハハハハハ、これは傑作だ」
「どういうことだ、何故……このディヴァイライトがあれば、やつらを倒せると言ったではないか!」
「ええ、確かに言いましたね。ですが…………」
一旦言葉を切ると、未だ嘗て見せたことのないほどの狂気の笑みで、元偽神父は言い放った。
「それが本物だとは、一言も言ってないはずですがね?」
「なん……だと?」
男の目が、驚きと怒りがない交ぜになったような色で見開かれる。
「まだ解らないんですか? はっきり言いましょう。あなたに渡したのはよく出来た模造品です。完成品には程遠い、粗悪品だ」
「貴様、騙したのかっ………!」
「ふっ、騙した? あなたが勝手に勘違いしたのでしょう? 私は、それをディヴァイライトと言って渡しただけです」
「貴様ああああぁぁぁぁぁーーーーーー!!」
「黙りなさい」
元偽神父の表情が、嘲笑うような笑みから冷酷なまでに無表情なそれに変わる。そして、彼の手から放たれた神力の鋭い刃が、貴族の男の胸を刺し貫いた。
「ぐ……がっ…………」
「喚くなど、目障りなだけですよ。あなたはもう用済みです」
そう言って、元偽神父は神力刃を一息に引き抜いた。貴族の男は数回の痙攣を繰り返した後、それっきり動かなくなった。
「お休み、伯爵」
「ちょっとあんた! 何も殺すことはないでしょう!」
「その方は、あなたのお仲間ではなかったのですか!?」
リュネとレインシアが相次いで怒りを露わにすると、元偽神父はしれっとした様子で、
「仲間? まさか。こんな能無しが私の部下など、あるわけないじゃないですか」
と答えた。その顔には、先ほどの嘲るような笑みが戻っている。
「彼には私の………いえ、我々の計画に利用させていただきました。我々にはどうしても、大量のディヴァイライトが必要でね。スポンサーが欲しかったのですよ。ですが、こうなった以上はもはや用済み。消えていただきましたよ。あの宰相殿にもね」
「じゃあ、ドルヘッドをけしかけたのも………」
「全て私です。簡単でしたよ? 前皇帝に毒を盛り、加えて皇女を殺せばあなたがこの国の皇帝になれる。そうけしかけたら、面白いようにのってくれました。いやはや、人間というのは、扱いやすい生き物ですねえ」
「てめえ…………!」
マクスが、怒りの形相で男を睨む。他の面々も、同じ様な面持ちで、眼前の男を睨んだ。
が、当の元偽神父はそれにも動じず、狂気の笑みを保っていた。
「おやおや、あなたは違うと思っていましたが、まだ人間らしい感情などが残っていたのですね」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味ですよ。あなたは人間ではない」
元偽神父の言葉に、一瞬ピクリと反応するが、マクスは表情を崩さず言い返す。
「何のことだ?」
「とぼけても無駄ですよ。知っていますよ? あなたの出自は」
そこまで元偽神父が言うと、神速でマクスは神父に詰め寄り、剣を振るう。それに対し元偽神父は、再び手から神力刃を展開して迎え撃つ。神力同士が激しくスパークを散らす。
「それ以上言うんじゃねえ…………!」
「ほう、よもやあなたのような方が怒る、などとは。意外ですね」
「五月蝿いっ!!」
これまでに見せたことのないような怒気を含み、マクスは連続で剣を振るう。そしてそのまま、鍔迫り合いに突入していった。
「どうしました? 剣筋が乱れてますよ?」
「ちっ…………!」
マクスは明らかに動揺している。そして元偽神父はその様子を面白がって、煽り立てている。
そう、その様子を見ているレインシア達には感じられた。
「マクス…………」
「どうしちゃったの?」
心配そうな表情で見守るレインシアと、戸惑った表情でその光景を見つめるファイン。無理もない。これまでどんな時も不敵な態度で切り抜けてきた彼が、怒っている。それは心底忌み嫌うものに触れたような、真なる怒りだった。
「マクス! あんた、どうしちゃったってのよ!」
リュネが叫ぶが、聞こえていないのか、一向にやめる気配は見えない。
そして、次の瞬間、マクスが大振りになったところを見計らって、元偽神父が無駄のない動きで彼の後ろに回りこむ。
(しまっ…………)
上っていた血が一気に下がり、しまった、と思うが既に遅い。
次の瞬間、凶刃がマクスの背を深々と切り裂いた。
「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
「いやあああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
レインシアが悲痛な叫びを上げて屑折れる。
「さあ、もっと切り刻んであげますよっ!」
そう言って、倒れ伏し、血が吹き出るマクスの背中に向けて、再び神力刃を振り上げる元偽神父。だが―――――。
「そのくらいにしておけ」
突然聞こえてきた声に、その場にいるものは全員、そちらを見やった。特にレインシアとファインは、驚きに目を見開いている。
次の瞬間、謁見の間の脇から、一人の鎧を着込んだ男が姿を現した。
「おやおや、このような場所に。いかがなされました?」
「皇女殿下がここまで辿り着いたと聞いたのでな。ご挨拶をと思ってな。それよりヴェノム、少し悪趣味が過ぎるのではないか?」
「彼はこのくらいでは死にませんよ。あなたもそれは解っているでしょう?」
「そうだな」
「なんで………そんなっ…………」
「どうしてっ…………!?」
ファインとレインシアが、驚きに言葉を失いつつもかろうじてそれだけを紡ぎ出す。
ドルザベール将軍閣下。元偽神父の隣にあったのは、紛れもない彼の姿だった。
神崎「神崎はやてのぉ~!」
一同「神の黄昏、in SPIRITUAL ARMS~!」
神崎「さあ~、やってまいりました、神の黄昏! 司会進行は私、神崎はやてと!」
リュネ「特別アシスタントのリュネ=バルカートンでお送りするわね♪」
神崎「今回はマクスが重傷、ファインとレインシアがショックで動けないので、代わりにリュネさんに来ていただきました!」
リュネ「リュネで~す♪ でも私も正直かなり驚いたわよ?」
神崎「まあそうだよね。書いといて自分で驚いてるもん」
リュネ「それは………ちょっと」
神崎「…………ですね」
リュネ「あ、そういえば。はい、バレンタインチョコ! 余り物で悪いんだけど」
神崎「お、ありがとう!………うん、美味しい!」
リュネ「ありがとう! あ~あ、早くマクスも起きないかしら?」
神崎「大丈夫、詳しくは言えないけどすぐ起きるよ。心配しなくても」
リュネ「ならいいんだけどね………」
神崎「では今回はこの辺で! ばいば~い♪」