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夢の知らせ

 ロザリーは夢を見る。毎晩のように夢を見る。


『助けて、ロザリー!』


 リディアーヌは泣いていた。


 泣いて、助けを求めていた。


 長い睫毛に縁どられた金の瞳は涙に濡れて。


 血の色がほんのり浮かぶ頬を溢れる涙が伝って落ちる。


(あぁ、胸が張り裂けそうに切ないっ)


「お姉さまっ!」


 叫びながら目覚めたロザリーの手は空を掴み、体はじっとり濡れていた。


 肌にはりつく白いネグリジェの感触に、ロザリーは体を震わせた。


(お姉さまは、助けを求めている)


 ロザリーの直感は、そう告げていた。


「だからといって……私に何ができるというの?」


(どうしたらよいのか、分からないわ)


 ロザリーは悩んだ。


 そんなロザリーの変化は周囲の人々にも目に見えて分かるものだった。


 朝食の席で、アーサーの姉であるエメリーヌは心配げな表情でロザリーに話しかけた。


「ロザリーさま? そんな沈んだ表情をされて、どうなさったの?」


「エメリーヌさま……いえ、なにも」


「ここのところ様子がおかしいけれど。もしかして、アーサーと何かありましたか?」


「いいえ。アーサーさまとは上手くいっています」


「それならいいですけれど……これから結婚の準備で忙しくなりますから体調には注意なさってね」


「はい。ありがとうございます」


 日常はアーサーとの結婚に向けて加速していくけれど、ロザリーの心は別ものに囚われていた。


*********************************************************

魔王の術中


 その夜もロザリーは夢を見た。


 夢の中で、ロザリーは一通の手紙を受け取った。


 手紙からは、薔薇の香りがした。


「どなたからの手紙かしら」


 不思議に思いながら封を開けると、中には便箋が一枚。そこには、こう書かれていた。


『リディアーヌを助けたくば屋敷まで来い。蔓巻く薔薇のある庭に』


「誰がこんなものを……」


 ロザリーには心当たりはなかった。


 だが、夜毎の夢に出てくるリディアーヌが助けを求める姿は、ロザリーの杞憂が生み出した幻のようには思えない。


「蔓巻く薔薇って……あの壁のようになった薔薇のことかしら?」


 ロザリーはつぶやく。


「確かに。お姉さまを見たのはあそこよ。幻なのか、本物なのかは、分からないけれど」


 危険なのは分かっている。


 年若い乙女が、ひとりで危険に飛び込むのは無謀なことは分かっている。


 でも、ロザリーは決断した。


「よしっ。決着をつけに行くわよ、ロザリー。お姉さまの屋敷へ」


 そう言葉にした途端、夢は覚めた。


「……夢?」


 ベッドの上でロザリーは目をパチパチさせた。


 夢にしては妙に現実味があった。


 手紙の感触も、心に踊った感情も。


 ベッドで上半身を起こし、深呼吸をする。


 部屋には薔薇の香りが漂っていた。


 夢の中で手紙からしていた香りと同じだ。


 じっとりと湿った肌にはりつくネグリジェの感触が気持ち悪い。


 謎をそのままにするのも気持ちが悪い。


(お姉さまの姿を見なくなって何日が経ったかしら?)


 こんな中途半端な気持ちでは、結婚式の準備どころではない。


 他にも気になっていることはある。


 リディアーヌの姿を見なくなった日から時間が経てば経つほど、周囲の人々の関心が薄くなってくこともロザリーは気になっていた。


(普通は逆では? 姿を消して時間が経てば経つほど、気になるものよ。一年二年と長期間に及べば別だけれど。まだ数ヶ月のことですもの。本当なら一番騒ぐ時期ではないかしら?)


 このままでは、誰もリディアーヌを気に掛ける人はいなくなってしまう。


 それは不思議なことでもあり、不気味なことでもあった。


(あの夢は……お告げかしら?)


 ロザリーは信心深いほうではない。だが、いま見た夢が普通の夢とは違うことには気付いていた。


 少なくとも何かの暗示のようにロザリーには思えた。


「よしっ。決着をつけに行くわよ、ロザリー。お姉さまの屋敷へ」


 夢の中で言ったのと同じセリフを、しっかりと目覚めた状態でロザリーは口にした。


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