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蔓巻く薔薇の向こう側

 蔓巻く薔薇の内側でいつもと同じように暮らす人々をリディアーヌは不思議に思いながら眺めていた。


 使用人たちは屋敷のなかと同じように忙しく立ち働く。


 親族たちは、いつもと同じように文句をいいながらそれを見ていた。


(本当に変わらないのね。外での生活と。魂しか動いていないとは思えないほど、普通だわ)


 笑ってしまうほど変わらない。


 一族の者たちも、使用人たちも、笑ってしまうほど普通だ。


 同じ夢の中でグルグル回っているような不思議な光景だというのに。


 例えるならオルゴールの上で踊る人形。


 だが、ココで繰り広げられる光景は規模が全く違う。


 芝居小屋に入りきらない壮大な芝居を見ているようだ。


 ヴェロアン侯爵家の屋敷もあれば、一族の他の邸宅もある。


 薔薇の外側と違うのは、その距離の近さだ。


 隣近所に屋敷が林立しているわけなどないのに、その点に疑問を持つ者などいないのが逆に疑問だった。


「リディアーヌ」


 魔王の声に振り返ると、リディアーヌは軽く礼をとった。


「ココでの暮らしには慣れたかい?」


「わたくしは、慣れませんわ」


 リディアーヌか意味深に視線をやれば、その先に広がる光景に魔王はうなずいた。


「それは仕方ない。ここで事情を理解している人間はキミだけなのだから」


「そうですわ。体がない状態で暮らしているのを知っているのは、わたくしくらいです」


 リディアーヌは薔薇のアーチの向こう側を見た。


 蔓巻く薔薇の内側にも、薔薇はこれ見よがしに咲き誇る。


 薔薇のアーチは境界線だ。その向こうに人の体は置いてあった。


「それは仕方ない。魂が入ったままだと首にある薔薇の生育が早まるのだ」


「ええ、お聞きしましたから。理解はしております」


 首筋から芽生えた薔薇は育っていた。


 ぷっくりとしていた部分から少しだけ緑のものが飛び出してきている。


「あれが育ってしまったら、私たちは魂ごと命を失うのだ」


「……分かっております」


「なら、いい」


 魔王もリディアーヌを愛していた。


 だからこそ、彼女の願いを叶えてやりたいと思っていた。


 リディアーヌの愛が自分にだけ注がれていたのなら話は簡単だ。


 だが違う。


(ロザリーとやらは、かなり魅力的らしい)


 魔王はロザリーに興味を持った。


*******************************************

魔王の策略



 魔王はロザリーがヴェロアン侯爵家の庭に来るように、そっと運命を操った。


 それからほどなく、ロザリーは婚約者のアーサーを伴って庭を訪れた。


 魔王は、リディアーヌが喜ぶと思ったのだ。


 それが逆効果になるとは誰が思うだろうか。


 魔王は本気で戸惑っていた。


 あの日から、リディアーヌは泣いてばかりいる。


 久しぶりに自分の肉体に入ってロザリーに会い、キスまでしたというのに。


 彼女は満足するどころか、自分の部屋で泣いてばかりいる。


「どうしたらいいのだ」


 魔王はつぶやいた。


 長らく薔薇の内側で過ごしている魔王にとって、大切なものなど無に等しい。


 大切なものと言えば最近手に入れた花嫁だけだ。


 このまま薔薇に絡みつかれて死んだとしても、消滅に近い終わりを迎えても後悔はない。


 恋をして、愛する者を手に入れたのだ。


 だがリディアーヌは、それで満足するとは思えない。


 彼女にとっては、自分だけでは足りぬのだ。


 魔王は苦笑を浮かべた。


 こんな苦みのある思いすら愛しいのだということを、彼女に伝えるべきであろうか。


 魔王は迷った。


 何を。

 どう。

 どれだけ。


 それが魔王には分からない。


「人間とは、複雑なものだな……」


 魔王は独り言ちた。


 そして考える。


 愛する人を幸せにするには、どうしたらよいのかと。

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