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九ミリの私

作者: XI
掲載日:2023/08/17

*****


 たたっと駆けた。寂れた街に私のスニーカーのなんともこう鈍い音が響く――軽快には駆けられない。それは元より私の運動神経がイマイチだから――。「恰好悪いからせめてローファーにしなよ」と先輩からは言われるのだけれど、私はスニーカーがいい。当該先輩よりやはり脚力がないからだ。まったく羨ましい。彼女に筋力で敵うはずもない。どうやら先輩二人が敵を囲みこんでいるらしい。ほっと一息。「私の仕事は今日もなさそうだ」――というあたりに自らの愚かしさを感じた。本件はそもそも私が預かったはずだ。なのにどうあれほっとするだなんて……。


 そのときだった。私の目の前に、二十メートルはあるだろうけれど、敵と思しきチンピラ風の男が立った。


 先輩の男性〇〇さんが「馬鹿! じっとしてんな! 逃げろ!!」と咆えた。


 でもその様子は私にとっては異次元で――。


「○○!!」


 先輩男性にそう名を呼ばれとき、私はもう撃たれていた。

 先輩がその男に飛び蹴りをかまし、その男に九ミリを連射したのが見えた。


 うつ伏せに倒れた私の目線にかろうじて、先輩の顔が映った。

 駆けてくる、駆けてくる。


 そばまで来てしゃがんで、私のことを仰向けにして抱き上げた。


「おい、死ぬなよ、おいっ」

「それは運次第だと思います」

「くそっ……ああ、世の中はなんてくそったれなんだろうな」

「死にたくないです。どうか病院に……。まだ死にたくないんです」


 そんなことを言ったら、てっきり頬を引っぱたかれるだろうと思っていた。

 でも先輩はそんなこと、しなかった。


「早く来い、とにかく早く!!」

 ケータイで救急車の到着をせかした。


「ああ、くそっ、くっそ。おまえのこと、殴ってやりたくなんぜ」


 やっぱりそうか。


「でも、生きます」

「どうしてだ?」

「生きたいからです、〇〇さんにも迷惑はかけたくありません」


 ○○さんは口を歪め、だけど優しげに笑った。


 ○○さんは救急車へと肩を貸して運んでくれた。ストレッチャーで運ぶべきなのに――彼の優しさとせっかちさがそうさせたのだろう。


「ごめんなさい……」

「なにがだ?」

「だって、私は迷惑を――」

「いつか言ったな。俺の後輩はおまえだけなんだよ。かわいくないわけねーだろうが」


 素敵なセリフだ。

 こんなカッコいいセリフ、他に誰が吐けるだろうか。



****


 あるいはえらく近い距離でもターゲットを「()るという指示だった。だけど、たぶんかなり遠い距離だ、銃声が確かに聞こえた。護送車に移されようとしたその男性、確かに彼は顔面に弾をもらって死んだ。〇さんの仕業だと思い、私は慌てて逃げた。それは所定だ。まさにそういう指示を受けていた。


 急ぎ本部に帰ったのである。○さんも○○さんも○○さんもいた。ああ、なんだか申し訳ないなあと思った次第だ。


「なんだか申し訳ない。〇〇ちゃん、そう考えてるでしょ?」


 ○○さんにずばり言われ、私は身を正した。

 常に見透かしたようなところがあるのが○○さんである。


 スペシャル男性○○さんの「打ち合わせが終わったんだから、とっとと飲みに行こうぜ」という進言に対して、相棒である○○さんは「やだ」

 

「や、やだなのかよ」

「○○ちゃんが良いっていうならいいよ」

「だってよ、○○。どうしたい?」

「い、行きます」多少どもってしまったが、そう思いきった。「ご一緒させてください。お願いします!」


 先輩二人は顔を見合った。


「いいよ」とだけ、声を揃えて言ってくれた。



*****


 うまい焼酎を出す居酒屋。

 三人の好みが合うのが焼酎なのである。

 そもそもこういった店でしか会話も弾まないだろう。


「そもだよ、○○ちゃん」

「はい、なんですか?」

「おおぅ、いい返事だ。だけどだな○○ちゃん。きみと私たちとは、どうしたって住む世界が違うのだよ」


 私は少々むっとなった。


「確かに私の経歴は自衛官だったっていうだけです。でも、それなら○○さんだって警察官だけだったって話じゃないですか」


 言ってしまってから「失言だぁ」と思わされた。私は○○さんをとても尊敬している。元刑事だったからだろう。とても鼻が利くし、それに戦闘能力だって群を抜いている、卓越している。だからどうしようもなく申し訳なくなって……。


 すると最強女性先輩○○さんは「怒らないよ。この馬鹿も怒ってない」と言い、相棒である○○さんの頭を引っぱたいた。微笑ましく見えたけれど、失言の後悔は消え失せない。


「○○ちゃんよ、言っとくぜ。おまえがどれだけはっちゃけて、俺に迷惑かけようが、俺は絶対気にしたりしねーよ。これ以上の言葉が必要なら言ってくれ。クサい文言、考えてやんよ」


 私は泣きだしてしまった。つらくてキツい仕事だけれど、こういうヒトが先輩がいるから、私は際限なくがんばってやろうと思うんだ。それにしても、この男性はきっと、自分がどれだけ魅力的なのか、知らないんだ。それは損なことだろうと思うのだけれど、彼自身は未来永劫、やはり異性にモテたいだなんて思わないだろう。


 ほんとうに最高だなと思う。

 私のいまの職場環境は得難いものだと考える。


 でも、いまの私はまだまだ情けないから、九ミリを持つくらいがやっとだ。

 いつかもう少し大口径の銃を持たせてもらったとき、私はもっとクールになっているだろう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 登場人物がいぶし銀で魅力的でした。
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