武器庫
「私は生きたいです」
「…」
「お二人共、どうか私に力をお貸し下さい…!」
真っ直ぐとした瞳で、絢華は二人を見据える。
「…了解した」
「私もだよ!一緒に戦おう!」
「ありがとうございます!」
二人の言葉を聞いた絢華は、礼の言葉と共に深々と頭を下げ、少し涙を零した。
「うん!……あっ、んー…」
その姿を見た麗は少し微笑んだと思えば突然、腕を組んで、首を傾げる。
「…どうか、されましたか?」
頭を上げた絢華が尋ねる。
「いやぁー、どうでもいい事なんだけどさ」
「言ってみろ、お前の閃きは馬鹿に出来ないからな」
「そうですよ、常夜桜の特性の時も凄かったじゃないですか!」
「…その…迅さんが矛だとしたら、私はどんな武器になるんだろうって思って…」
「………」
(……うん、本当にどうでも良かった…)
「…ふむ、そうだな…一撃の威力で捉えるのか…それとも大きさで捉えるか…確かにその辺りの考えまで至っていなかったな」
(迅さんも真面目に考え出した…と言うより”最強”の矛って、言わばただの肩書きだから、単純に別の肩書きにすればいいだけでは…?)
「………ふむ…弓矢…」
「おー」
「の矢じり」
「いやちっさ!!」
「だが、屍樂田姉妹は矢じりの形状に拘りがあると聞いたぞ」
「いやそうかも知れないけどさ!もっとこう…あるじゃん!?いい感じの奴!」
「……ふむ…では…」
「頼むよー…」
「包丁の…」
「…もう武器じゃないけど最後まで聞くね」
「峰」
「殴るだけ!!」
「侮るなよ、以前、間違えて峰で叩いたらまな板が砕けてしまったからな」
「それ貴方だけだよ!!」
「…えっとすみません…その、そろそろ行きません?」
流石に終わりそうに無いので絢華が止めに入る。
「いや、もう一つ聞きたい事があって…!」
「麗様、ふざけている暇は…」
「私と絢華さんが獅子藤 咲夜って人と戦うんだよね?」
「あぁ」
「私が負けた時、私は常夜桜の花?ぽいのを間近に出されて負けたんだけど、あれを何とかしないと同じ事の繰り返しになったりしない?」
「………」
「…」
「……あれ?無視?」
「コホン…その、麗様…」
軽く咳払いをしながら絢華が麗に近づく。
「?」
「そういう事は」ムニ
「!?」
「もっと、早く言ってくださいねー…!」ムギギギー!
「いひゃいいひゃい!|なんれほっへはひっはるほ《なんでほっぺた引っ張るの》!?」
「要らない事を喋って信頼を落とした罰です、あと柔らかそうだったから」パッ
「ひぃん」ヒリヒリ
「それと、その事に関しては恐らく問題無いでしょう」
「え? どうして?」
「香さんから、少し力を貰いましたから」
「……力を貰う…って、そんな事できるの?」
「…分かりませんが、そんな気がするんです」
「…迅さん、できるの?」
「……妖魔が他種族に力や生命を与える、極めて稀だが出来ない事は無い」
「見た事あるの?」
「かつて似た様な敵を一度だけ見た…力を継いだ際に俺が倒したが」
「…人と戦ったの?」
「必要とあらば打ち倒す、そもそも妖魔の力を得て、行使した者は自ずと体も妖魔へと変わっていく、力を手にした時点で人である事をやめると同義だ」
「じゃあ、この世界はもっと妖魔が居たりしないの?もし誰かが無差別に力を与えたら…」
「そんな事は滅多に怒る事は無い、讓渡は妖魔側の自我や命を犠牲にし、なおかつ与える者と心を通わせないと出来ないからだ。
そして妖魔の大半は人の負の感情から生まれた意思なき怪物、例え意思があろうと人への強い恨みや無念から生まれる事が殆どだ、人に力を与える…ましてや分かり合うなど普通は有り得ない」
「…じゃあ、今、その珍しい事が目の前で起きてるんだね」
「あぁ、そしてあの桜に残っていた香の自我も恐らく消えているだろう、あれはただの心無き怪物に成り下がった」
「心置きなく…はちょっと無理だけど…ぶっ飛ばし易くはなったね!」
「いや、俺達はあくまでも獅子藤夫婦を叩く」
「え?常夜桜はどうするの?」
「端美の話からして、根元に本体…つまり端美の体がある」
「うん、だから今からそっちに行こうって…あ、でも場所が分からないのか…」
「それもあるが、そう簡単にあの二人が通してくれるとは思えない、それに絢華はともかく俺達は根に近づく事は出来ないだろう、下手に近づき過ぎたら今度こそ廃人になってしまう」
「じゃあどうするの?他に……他の…人…」
「…もしかして…!」
「あぁ、灯黎達に任せる、事情を知らずともあいつらは常夜桜討伐に動くだろう」
「でも、灯黎さんの方は辰之助もいるし…人が二人なんて私達より…!」
「あちらには弥宵がいる、何とかして本体の元まで行かせられたら問題ない、その方法も灯黎なら導き出せるだろう」
「…要は、人任せって事?」
「そうとも言うな、適材適所の方が聞こえは良い」
「…それ程までに…獅子藤 武士は強いのですか?」
「直接会った事が無い以上、下手な事は言えないが…この街に来てから感じていた血なまぐさい匂い…ここに来た事で一層濃くなったのに加え…その中に獣の気配が混ざりこんで来ている」
「…獣臭いって事?」
「麗様…それは違うと…」
「そうだ」
「そうなんですか!?」
「…それは冗談だが、間違ってはいない」
「ややこしいですね…!」
「匂いではなく気配、その捉え方はそれぞれだが、俺にとってはこれが最も重要な感覚だ、本能…と言い換えてもいい、それ程に鋭く、臆病な感覚…それがここに来てからずっと何かを感じ取っている」
「……それが強さの指針になるの…?」
「少なくとも俺にとっては無視すべき相手かどうかが分かる、つまり獅子藤 武士は無視できない存在、俺しか相手出来ない存在だ」
「そんなに…」
「あぁ、強い…そして傷付いてる…深くえぐられ、引き裂かれ…それでも尚、毅然と立ち続けている」
「…聞いた限りボロボロじゃん…本当に強いの?」
「奴は今、追い詰められた傷だらけの獣だ…いつ死んでもおかしくない程に……だがそれ故に手強い、”死ぬ気”でなどと温い覚悟では無い、”死ぬまで”…いや”死んでも”向かってくるだろう、この首を噛みちぎるまでな」
「怖い!!」
「だから俺も覚悟を決める」
「…そんな人に…勝てますか?」
「それこそ、そちら次第と言ったところだ」
「え?」
「お前達が獅子藤 咲夜を倒すまでの時間稼ぎ、それが俺の役割だ…それにそちらが終わればこっちも自ずと終わる」
「……その言い方だと…本来の力が出せればすぐに勝てる…という事ですか…?」
「すぐかどうかは分からない、だが勝つ、殺し合いとあれば俺も加減は出来ない」
「どうであろうと、私達に掛かっている…ということですね」
「…うぅ…やっぱりさっきのお札…迅さんに使えば良かった」
「…それは悔やんでも仕方がない、少なくとも脱獄出来たのだから無意味では無かった」
「…うん、そう思う事にする、というかこれから役に立つ用頑張る」
「その意気だ、行くぞ」
「はい!」
「おー!…あ、待って!私武器ない!宿に置いてきちゃった!」
「……徒手空拳の心得は?」
「無いよ!?別に刀も無いけどさ!」
「…武器庫…いや何でもいいから探すしかないな、少し急ぐぞ」
「うん!」
二人が走り出そうとする後ろで絢華の足は微動だにせず、その表情はどこか虚ろで何かを見透かしている様な顔をしていた。
「…どうした? また乗り移られたか?」
「……いえ…すみません…少し待って下さい…」
「?」
「…………っ!見えました…!」
「何が?」
「武器が置いてある場所です! ついてきて下さい!」
というと二人が進もうとした方面の反対へと走り出す。
「あ!待ってぇ!!」
その後を二人は引っ張られるようについて行った。
―――??? 武器庫前。
彷徨う様に絢華は所々灯りの点いた通路らしき道を走り続け、数分の内に武器庫らしき部屋の前に辿り着く。
至って普通の木で作られた両開きの扉。
鍵穴に先程奪った鍵を幾つか試していくと、その内の一つがピタリとハマり、少し固く錆びた音を立てて鍵が開いた。
ガチャ……ギギィ…
「…うわ…暗っ…!」
後ろで吊り下げられている弱々しい照明の光が僅かに差し込んでいるが、それでもかなり薄暗く、奥行きが分からぬほどには視界が悪い。
仕方なく吊られていた照明を取り、武器庫の中へと小さな光を頼りにして迅を先頭に進んでいく。
「…は、離れないでよぉ…!」ビクビク
「そこまで広い予感はしない、怯えるな」
「で、でもぉ…」
ガゴォン!ガシャァン!!
「ひょぇあぁぅぃいっ!?」ドサ!
「!!」ビクッ
「きゃっ…!」
突然、斜め後ろに置かれていた箱の山の一つが崩れ、中に入っていた工具が大きな音を立てて散乱した。
「……びっくりしたぁ…大丈夫ですか?」
腰を抜かしてその場へと倒れ込んだ麗の手を絢華が取って立ち上がらせる。
「怖いぃ…!幽霊怖いぃ…!」プルプル
立ち上がりはしたが足が震え、倒れそうになるのを絢華の体にしがみついて堪えていた。
「死にゅぅ…!」
「っと…死にませんよ、ほら、あの箱が倒れただけです」
「その箱の中から幽霊が出て来て、呪われて肉餅にされるぅ…!」ギュゥゥゥ!!
「大丈夫ですから…少し…離れて…」
「ヤダ!幽霊居なくなるまで離れないもん!!」ギギュゥィィ!
「いや強く掴み過ぎですよ…!服がしわになっちゃいますから…!」
「むぎぎぃー…!!」ギュゥ!!
「…あー、もう…! 迅様も何か言ってあげて…」
「……」
「迅様?」
「…? あぁ、問題ない…」
「……そういえば、さっき凄くビクッ!ってなってませんでした?」
「………何の事だ?」
「いえ…別に普通ですから恥じる事は…」
「何の事だ?」
「…私としては意外な一面が見れて嬉し「何の事だ?」
「………いえ…」
(何で認めないんだろ…この人…)
「…まだ居る? 幽霊居る?目開いても大丈夫?」
「麗様…ですから幽霊は元から…」
『……誰…?』
「!!」
突然、何処からか幼い少女の声が絢華の耳に入る。
「…………麗様…今何か喋りましたか?」
「え…私…何も喋ってないよ?」
「……」
「……ぇ…え!? 怖い怖い!!冗談でもやめてよ!!悪霊退散!南無阿弥陀仏!忘れろ光線!!にゃんにゃんにゃん!!」
「…絢華は何か聞こえたのか?」
「……はい、何処からか…少女の声が…」
「ひぃぃぃいん!! 誰!? 」
「…確か…後ろから…」
最初に声が聞こえた方へ、ゆっくりと振り返ると。
『……お姉さん達…誰?』
「……聞こえ…て…」
しがみついている麗の足元に、ほの暗く出来た異形の人影が伸びている。
「……え…」
恐る恐る影を生み出した犯人へと目をやると、そこに居たのは
「…嘘…!?」
木で出来た人型の怪物「木霊」だった。
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