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伐魔剣士  作者: ヌソン
二章 常夜桜編
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将棋の傍ら

 ―――武士が銭湯を去った後、しばらくして辰之助が風呂から出てきた。

(まだ誰も上がってないのか?)

 軽く待合室などを見たが誰も居なかったのでそのまま中に入って待つことにした。


 ボケーッとしながら待合室の中を見回す、決して大きいとは言えない部屋だったが、かつてはここで武士は誰かと話していたんだろうかと考える。

 ふと目に入った将棋盤を手に取り、その上に乗っていた四角い箱をひっくり返して盤の上に置き、おもむろに将棋崩しを始めた。

 いつの間にか見知らぬ老人が微笑ましそうにその様子を見ていた事に気付いたのは二十六手目で崩した瞬間だった。


 ガラガラ…!

「あー、崩れた…てか一人でやるもんじゃ…」

「…惜しかったですなぁ…」

「!!」

「ほっほっほ…随分とお若い方が来ていると気になってしまいまして…」

「…あぁ、なるほど…」

「良ければそちら、私と一局…どうですかな?」

「…あまり得意じゃ無いんだが…」

「構いません、私も老いぼれですので…きっと良い勝負になる筈です…」

「…」



 パチン…


 少し暗い部屋に静かな駒音が鳴る。

「…なぁ、聞きたい事があるんだが…」パチン

「何でしょうか」パチン

「昔の武士って…どんな奴だったんだ?」パチン

「…武士…あぁ…領主様ですか…」パチン

「領主…!?あいつ…そんな偉いやつだったのか…だからどこかで聞いた事が…」パチン

「えぇ、獅子藤 武士、彼は昔から大望を抱いて進む、落ち着きながらも熱く、誰よりも一途な方でした…」パチン

「…大望…」

「それは私には知り得ぬものではありません…しかし…ある日を境にその熱は消え…同時に華舞奇を作った」

「…」パチン

「今でさえこれ程までに貧富の差が広がっていますが…以前はどこもかしこも大賑わい、毎日が祭りかの様な日々…しかし…」パチン

「…?」

「彼はどこか冷めていた、この街に宿る熱狂すらも思惑通りの様な…そんな雰囲気を感じる程に…」

「…その熱が下がり始めたのって…?」パチン…

「ちょうど三十年ほど前…この街が出来る直前です、恐らく彼の恋人に何かあったのでしょう…」パチン

「…恋人…そういえば言ってたな」

「彼には昔…端美 香…という美しい恋人がおりました…どこか艶やか、それでいて明るい気質をもった桜の様に華やかで暖かい女性……彼女はここ辺りに住んでいたので彼が長く滞在した理由もそれなんでしょう」

「武士にそんな相手が…」

「お互いを想いあい、どこに行くのも一緒…まさに運命の人と巡り会ったと思える程…彼らの愛は深かった、ここにも頻繁に顔を見せてくれていました…」

「……」

「そんな彼女が突然、来なくなったのです理由を尋ねても答えてくれずに、ただ「店を頑張って欲しい」と言い、それ以降は暇があればここに通ってくれていた…」

「………それって…その言いたくないが…多分…」

「分かっていますよ、香さんは恐らく亡くなった…だから彼はこの店を思い出として残して欲しかったんでしょう」

「……」パチン

「…私も彼の事を大事に思っています、だからこの街に残り、彼の為にこの店を残していました…」パチン

「その言い方からして…もうこの店は閉めるんだな…」パチン

「これ以上は厳しくて…年齢的にも…金銭的にも」パチン

「…そればかりは仕方がない…」

「…ですがそれ以上に…私は彼が汚れ続けるのを見たくないんです」

「……汚れる?」

「風呂というのは体だけでなく心も綺麗にする事が出来ます、しかし香さん亡き後の彼は…決して落とせない汚れに自ら浸かり、この街に根付かせしまった…」

「もしかして…この街の何かを知っているのか?」パチン

「そんな気がしているだけです…だから店を占めるのです…」パチン

「……」

「彼自身の手で、彼の思い出を汚さないように…」

「………」

「……お願いします、あの子が何かしていたら…止めてあげてください…旅人さん」

 老人は頭を下げ、少し震えた声で懇願する。

「…私からの…最後のお願いです…」

「……」

「…………」

「……やれるだけの事は…する…」

「ありがとうございます…」

「ところで…」

「……何ですかな?」

「…これ、詰みだよな…」

「ほっほっほ…まだまだ私も捨てたもんでは無いでしょう?」

「くそ!もっかいだ!」

「良いでしょう、何度でもお相手致します」


結局、二人の対局は女風呂の三人が風呂から上がるまで続き、辰之助は見事なまでに全敗を喫した。

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