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伐魔剣士  作者: ヌソン
二章 常夜桜編
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鬼桜の宿①

「……遅い…あいつ…何か面倒起こしてたら承知しないんだから…」イライラ…

「…あの状態の灯黎あかりさんを刺激したら駄目だよ…」ボソボソ…

「……見たら分かる…」ヒソ…

「そこ!聞こえてるわよ!!」

「「!!」」 ビクゥ!

「……ほらね…」ボソボソ…

「……ったく…!」イライラ…


 灯黎の苛立ちが限界に達しようとした頃、遠くの方から人混みを掻き分けて聞き覚えのある声が耳に届いた。

「おーい!!お待たせぇ!!」

 タタタタタタ…ズサァ…!


「…はぁ……はぁ……ごめんなさい、待った?」

「…あんたねぇ…!」ピキ…!

「?」

「待った?じゃないでしょ!?勝手に遠くに行って!こんな時間までお陰で町中探し回ることになったじゃない!!」

「…!!」

「前から思ってたけど貴方は少し自由過ぎる!前の街でだって…!」ガミガミ…

「ひぃぃぃぃいい…!」

「あれは長いね…」ボソ…


 ――数分後

「良い!?貴方みたいな若い子を守るのが私達の役目なんだから!ちゃんと目の届く所に居なさい!分かったわね!」

「は、はぃぃい!!」

「貴方達もよ!辰之助たつのすけ弥宵やよい!!」

「わかってるよ」

「うんうん」

「…ふぅ、よろしい、それでじんはどこ?集合場所を知ってるって事はあいつが見つけてくれたんでしょ?」

「………あ…」

「…ん?違うの?」

「……いや…その…えーと…」

「…まさか…何かあったの?」

「大丈夫…!大丈夫なんだけど…その…」

「……その…何?」

「…もう宿の方に…」

「…………」

「……」

「……………………」

「場所は……ここだってさ…」ピラ…

「「「……………………」」」

「「「は?」」」







 ―――鬼桜きざくらの宿 入口前


 街の最東端にある年季の入った小綺麗で奥に長いな建物。

 雑に打ち付けられた看板には「鬼桜きざくらの宿」と書かれ、周りの建物より赤い壁により少し豪勢に見える外観をしてはいるが、街の中心にある煌びやかで鮮やかな宿と比べると見劣りすると言わざるを得ない程、普通で庶民的な見た目の宿だった。


「こ、こちらでーす…あはははー…」

「…礎静町の宿を思い出す…あれより少し小さいが…」

「……変に豪華より、こういうのが良い…」ボソ

「………とにかく…中に…入りましょうか…」

 コンコン!


 タタタタ…

 ガラ!

勢いよく開かれたその扉の先には、見覚えのある男が立っていた。


「お前達か、遅かったな、待ちくたびれたぞ」

「…………」

「…中に入れ、女将が待ってる」

「……………迅…何か私に言う事無い?」

「………あぁ、金の事は問題ない、既に支払っておいた」

「…一応聞くけど、幾ら?」

「全部だが?」

「…………」プルプル…

「…どうした、震えているぞ?寒いんだったら早く入れ」スタスタ…

(…あ、これ…怒りすぎて声が出ない奴だ…)

「……し、失礼しまーす…」タタタ…

「イヤー、タノシミダナー…」スタスタ…

「………くわばらくわばら…」ボソボソ…

「……すぅぅぅ…………ふぅぅぅ……!」

 スタスタ…

「……ふん…!!」

 ピシャァ!!


 中に入り、靴を脱ぐとすぐ左には二階へ続く階段、右側は奥に続く細長い廊下があった。

 廊下の右側に見える木で出来た半開きの襖が手前と奥にあり、その先には下に降りる短い階段と廊下よりも少し幅が広く、同じ位の長さに作られている厨房が見えた。


 一番奥には六畳程の居間らしき部屋が見え、入口から一番遠い、部屋の右奥側に少し大きいちゃぶ台に手を置いて座る見知らぬの女性と、入口の反対側の庭に続いている襖の前に立つ迅の姿があった。


 灯黎が部屋に入った事で六人全員が揃い、ただでさえ広いとは言えない部屋がより窮屈になる。

 特に弥宵の持っている大きな何かがどこに置こうとも邪魔になっている。

「…弥宵、それ別の所に置いて来なさい」

「えー」ボソ

「そういえば…その大きい布…ずっと持ってるよね?何なの?」

「…私の武器、これが無いと殴るしか無くなるから必要」ボソボソ…

「…それなら、部屋の方へ…その階段を登れば幾つかございますので、お好きな部屋を使って下さい」

「ん、行ってくる」ボソボソ…



 ――数分後

「……ただいま…」ボソ

「…おかえり、どうだったの?」

「…………うん…まぁ…落ち着いてる感じの部屋だった…」 ボソボソ…

「そう…」

(狭かったのね…)


 帰ってきた弥宵が座るのを見計らって、女将が少し表情を歪めながら足を直して喋りだす。

「…それでは…自己紹介に移らせて貰います…私の名前は不知火しらぬい 絢華あやか…この「鬼桜の宿」の女将です…どうぞお見知り置きを…」

 美しい正座の姿勢から三指を合わせ、ゆっくりと頭を下げる。

「皆様の事は既に迅様から聞き及んでおります、私の命を救ってくれただけでなく、こんな寂れた街外れの宿にまで足を運んで頂き…誠に感謝致します…」


その後数秒間頭を下げ続け、顔を上げると同時に足元に置いてあった袋を重たそうに持ち上げてちゃぶ台に置き、向かい側に居る灯黎へと渡す。

「……これは…?」

「迅様が私に下さった金銭です、私にこれを受け取る資格はありませんのでお返しします」

「…いや、泊まるんだったらお金はお渡ししないと…」

「違います、私は彼に恩が…この人生を救われた恩があります、ここに泊まって頂くのはそれに対してのお返しです」

「……絢華さん…」

「どうか、受け取って下さい…私にはもう必要ありません」

「…ごめんなさい…ちゃんとした理由が無いと…こっちも受け取りたくないの…それにここが宿である以上はお金を貰わないと経営出来ないでしょ?」

「………私は貴方達を最後のお客様のつもりで迎えていますので…」

「…最後?」

「……あはは……実は…というか見ての通りここはもうずっとまともにお客様が来なくて…でも…父と母が遺してくれた唯一の場所だからと頑張っていたんです……貯金を上手く切り崩して何とか生活はしていました……だけど…一度だけ…止むを得ずお金を借りてしまって…それが良くない人達の組織だったみたいで…いつしか身に覚えのない返済に追われる毎日…特に今日は迅様が居なければ、本当に私は終わっていました…」

「……」

「……気付けば周りのお店も人も、皆逃げちゃってて…それはそうですよね…ここより少しお金を出せばマシな所は幾らでもある…わざわざこんな所に来る人達なんて居ないんですよ…そんな状態じゃ商売なんて出来る訳がない…」

「…………」

「だからもう思い出に縋るのはやめて…スパッと切り捨てようかなって…今日の出来事は神様がそうしろって言ってるんだと思います、だからこのお金は要らないんです」

「…そうですか…理解しました…」

静かに答えた灯黎はお金の袋を受け取った。


「…………」

 その様子を何も言わずに迅は見ている。

「…迅…言いたい事は分かるし…その気持ちも分かる…だけどね…」

「……」

「…彼女が決めたんだから、その決意を揺らす事はしないであげて…」

「……お前がそういうのなら…そうなんだろう……野暮な事をして悪かった…許してくれ、絢華…」

 迅が片膝を付き、絢華の方へ頭を下げた。

「いえいえ!!そんな…!こちらこそ…ご厚意を無下にしてしまい…本当にすみません……このお返しは…此度のおもてなしで…!」

 グギュルルルル…


「………あ、あはは、お腹なっちゃった…」

「麗…お前…空気読めよ…」

「仕方ないじゃん!生理現象だもん!!」

「……クス…そうですね…まずはご飯にしましょうか」

「私が作るわ、絢華さんは休んでて」

「え!?お客様に作らせるなんて…流石に女将として…!」

「その足じゃ、少し厳しいでしょ?」

「いえ大丈夫です!頑張れば何とか…いっ…!」

「…ほらね、無理して悪化したら大変だから…休んでて」

「じゃ、じゃあお手伝いをさせて下さい!お願いします!」

「………はぁ…じゃあ一緒に頑張りましょう、でも絶対に無理はしないで」

「はい!全力で手伝わせて貰います!!」

(…変なとこで頑固…碧良みたいね…)

「…食材は?」

「厨房にございます」

「ありがとう……ふふ…料理なんて久しぶりね…」

「……出来るの?」

「失礼ね、千彩や虚様には負けるけど昔は毎日作ってたのよ」

「……最近は忙しくて作れてない…って事?」

「…あえて答えないでおくわ」

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