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伐魔剣士  作者: ヌソン
序章 最初の決意
3/79

宿

「いやぁ、助かった!また来てくれよ!」

「もう勘弁してくれ…」

仕事が終わり、店の前で歳典(としのり)と談笑している。

仕事自体にやりがいは感じたが、死ぬほど疲れた。

街の真ん中の路地裏に歳典の仕事場…というか何でも屋があった。

色々な人がその店に入り、荷物を預けたり、依頼をしたり、仕事を貰ったり、物を売ったり買ったり、世間話だけをする人も居た。

俺は町の飛脚としての仕事を与えられ、預けられた荷物を言われるがまま、街の端まで届け、また戻って端まで届け、途中火事にあった家を見つけて消火作業を手伝ったり、遊郭区域に入ったら昼なのにめちゃくちゃ女性から誘われて、それを断るのに時間がかかったり、最後の方は何故か店番を頼まれたりした、もうめちゃくちゃだった。


「がっはっは!ほらよ、駄賃だ!」

銭が入った袋を渡される。

「ん?あれ?多いな」

聞いていたよりかなりの金額が入っている、そこそこいい所に泊まれそうな位の。

「頑張ってくれたからな、それを含めてちょっと色をつけた、ついでにこれもやるよ、俺の贔屓にしてる所だ」

そういうと何かの紙と町の地図を渡してきた、招待券というか許可証の様な紙だ。

地図の方は歳典の店から、赤い印で宿の場所が書かれている。

「ありがとう、感謝する」

「おう!その紙見せれば入れてくれるからな

お前みたいな奴は、何時でも大歓迎だぞ!」

大笑いしながら、最後まで手を振って送り出してくれた。

最後まで賑やかな男だったが、お陰で楽しい仕事が出来た、疲れたけど。

もうとっくに日は落ちている、もっというと消火が終わった位の時間からかなり暗かった。

さっさと教えてもらった宿に向おう。

(さて、宿の場所は…)

渡された地図と今の位置を確認しつつ、町を歩く。

夜も昼と変わらず人が行き交い、忙しなく街が動いて居る。

騒がしいが、ずっと森の中を歩いているとこういうものが恋しくなる。

偶に人にぶつかりそうになりながら、その喧騒を楽しんで歩いていると、目的の宿屋に着く。


大きな二階建ての飯屋で、どうやら2階が宿として運営しているようだ。

店番をしていた女性に貰った紙を見せ、呼ばれた女将が奥から出てきて、店の正面奥の方にある階段から二階へ案内される。

左曲がりの階段を上がると、細長い通路と客用の部屋が左右四部屋、廊下奥の正面に二部屋並んでいた。


「いや〜、珍しいわ〜、宿の方に今日だけで若い人が二人も来るなんて〜

ここの宿を使う人なんて、いつもは歳典さんの知り合いのおじさんしか居ないんだから〜」

案内されている途中、明るい女将さんが嬉しそうに話し始める。

「二人?」

「えぇ、今朝ね…『止まる宿を探してるんですがお金が無いので、一日ここで働く代わりに泊めて下さい』って子が現れたのよ。

服はちょっと整ってるけど、髪はボサボサだったの、でもよく見たらとっても可愛らしい綺麗な子でね、このまま野宿も可哀想だから、体を洗わせた後に働いて貰ってるのよ」

「朝から…?」

「この子が、もうすっごく真面目で、覚えは早いわ、料理も上手いわ、酔っ払いの対応も完璧だわで、一生働いて欲しいくらいよ〜」

そんな会話をしながら、1番奥の部屋に着く。


襖を開けると六畳の大きさの部屋で、真ん中にちゃぶ台と座布団が置かれている、反対側には窓があり、そこから街道を見下ろせる、至って普通の部屋だった。

「今、休憩で隣の部屋にいるから、良ければ見ときなよ、気に入るかもよ?」


部屋に荷物を起き、座布団に座りながら話を聞いていたら、隣の襖が開く音が聞こえる。


「あら、千彩(ちさ)ちゃん、丁度いいわ」

「はい、何でしょうか?」

女将に小さく手招きされ、隣の部屋から出た女性が部屋の前に現れる。

「この子がさっき言った、千彩ちゃん」

「…あんたが…」

…確かに綺麗だ、肩の下辺りまで伸びた長い艶のある黒髪に凛としつつも幼さの残る顔つきの女性、服装は女将と同じ質素な服だが、それでも一際目を引く容姿をしている

「ご紹介に預かりました、千彩、と申します。今日一日だけの居候の身ですが、よろしくお願いします。」

優しく微笑み、足を折りたたんで、三指を付いて頭を下げる。

「あぁ…よろしく…お願いします」

何故か慣れない敬語を使い、此方も軽く会釈を返す、その後、女将さんが仕事に戻り、少しだけ二人で話し合った。

どうやら千彩は、ある用事があってこの街に来たらしいが、来る途中に資金が無くなってしまい、止むを得ずこの宿で働いていた様だ。

用事が何かとか、お金を何に使ったとかは聞けなかったが、話の中でまだ十七と聞いた時は驚いた。

自分と一つしか変わらない年齢なのに、かなりの苦労を重ねている様で、佇まいや雰囲気は自分よりも歳上な感じさえした。

色々と話している間に四半刻程があっという間に過ぎ、話に一区切り着く。

「千彩ちゃーん!来てくれなーい!?」

それと同時に、女将さんの声が下の方から聞こえる。

「あ、はーい!

ではそろそろ行きますね、お話出来て楽しかったです

では、ごゆっくり」

千彩が丁寧に一礼をし、忙しなく階段に向かう。

その姿を見送り、襖を閉めようとした瞬間

「…っ…」


階段の方から謎の圧を感じる、見ると階段から見えなくなるギリギリの位置で、千彩がチラリとこちらを見ていた、その目付きは睨む様な、威嚇する様な目付きでこちらを見ながら、すぐに階段の下に消えた。

千彩が下に降りてからも、ほんの少しだけ、その場から動けなかった。


あの気配は…何だったのか…


いくら考えても、その答えは分からない。

話している時は普通の娘だった千彩から、どうしてあの一瞬だけ、あれ程の威圧感を感じたのだろうか。

気のせいじゃないのか、ただの勘違いなんじゃないのかと自分に言い聞かせる。

しかし、それは違うと本能が理解している。

運ばれてきた食事を食べる時も、風呂に入る時も、ふとした時にあの感覚が全身によぎる。

(…疲れた)

要らない考えをし続けた弊害か、宿に来る前より疲れてる気がする。

(寝るか…)

敷かれた念願の布団に寝転び、目を瞑る。

幸い、元から肉体労働で疲れていたので眠りに入るまで、あまり時間はかからなかった。

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