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伐魔剣士  作者: ヌソン
幕間 彩の譚
29/80

復讐と愛

「………すん…すん…」

「…どうだ?」

「大丈夫です、すっきりしました…」

「それなら良かった」

「本当に…ありがとうございます」

「だから気にすんなって、どんなに時間が経っても消えない傷跡なんて山ほどある」

「……はい…」

「…それを誇示して人から助けられようとしているのはダメだが、それをひとりで抱える過ぎるのは余計にダメだ」

「…はい」

「それとこれからはもっと私を頼る様にって、灯黎(あかり)から…」

「……灯黎さん…」

「あいつ最初の印象と違い過ぎるんだが…」

「厳しい所もあって誤解されやすいですが、とても良い人ですよ?」

「…そんな気はしてる」

「本当に晃次郎(こうじろう)と血が繋がってるとは思えない程に…」

「……え?」

「え?」

「あいつと血縁なの?」

「はい…腹違いらしいですが…灯黎さんが姉で晃次郎が弟…」

「…初めて知った…」

「確かに全然性格似てませんもんね…」

「…それと聞きたいんだが…お前もしかして晃次郎の事嫌い?街に着いた時も何か空気悪かったよな?」

「嫌い…というより何だか苦手で…声でかいし、粗暴だし…私にとやかく言う癖に自分も突貫野郎だし…」

「………」

「勿論頼りにしてますよ、信頼もしていますし、腕っ節に関しては尊敬しています…だけど…」

「…だけど?」

「一緒に戦いたくないです、危ないので」

「じゃあ何でこの前は同じ礎静町(いしずちょう)に…?」

「虚さんから聞いた話だと、偶然近くの街で人助けしてた、らしいです」

「じゃあ不本意だったんだな…」

「援軍に来た時は知りませんでした、私は金菊邸(きんぎくてい)の中でしたし…」

「…結果的に、皆守れて良かったって事で」

「そこに関しては同意です、あいつも私もそこだけは同じ気持ちですから」

(…何かややこしいな…)


「……私からも一つ良いですか?」

「何だ?」

「辰之助さんが戦うのは、復讐だと聞きました…」

「…それに至った理由を知りたいのか?」

「……はい…」

「そうだな、俺はお前みたいに強くなかったから、復讐しか思い浮かばなかっただけだ」

「…?」

「お前は…父親や姉を殺した相手を殺したいか?」

「………可能ならば…ですが」

「……」

「それだけでは、誰も守れませんから」

「…俺はな、誰かを守りたいとかそういう感情で戦ってない」

「じゃあ礎静町では…!?」

「あれは偶然だ、街に着いて、困ってる奴がいて、助けたいと思ったから戦った」

「……」

「…それが偶然誰かを守る事になっただけだ、本来の俺は怒りのままに戦おうとしている、復讐という目標が達成出来るならそれでいい、極端な話…お前達を盾にしてでも殺せればそれでいい」

「!?」

「流石にそんな事はしない、だが…それくらいには俺は馬鹿だ、同情もするし、歩み寄ろうともする…」

「……っ…」

「だが、もし仲間を犠牲にして奴を殺せるなら、俺は容赦なくそいつを見殺しにするだろう」

「………」

「ははは…それなりに最低だろ?」

「……どうでしょうか…」

「?」

「…そう言われたら…私も自信が無くなって来ました…」

「……」

「意地を張ってるだけで、本当は私も殺したいのかも知れません、今は母との約束が心に残っていますが…それすら無くなったら…」

「……」

「私はただの復讐者へと成り下がってしまうかもしれません」

「…お前に限ってそうはならない、周りには頼れる人が居て、お前自身も強い、きっとその内間違いに気付いて止めるだろう」

「…貴方は?」

「俺は駄目だ、頼れる人達もその時全員死んだ、お前みたいな強さもない」

「いえ…」

「ん?」

「私が復讐者になった時、貴方は私を止めてくれますか?」

「……は?」

「…貴方と同じ復讐の渦に呑まれた私を、止めてくれますか?」

「………っ…」


「…私は、止めますよ」

「……!」

「何がなんでも止めてみせます、貴方がどれだけ高みに居ようと、追いついて止めて見せます」

「…どうやって?」

「それは…考えてません」

「たはっ…!なんだそりゃ…!」

「だけどもし止められる可能性があるなら…」

「……」

「………が…を……愛して…いれば…もしかしたら…」

「………………………ん?愛?何の話だ…?」

「あ!いや!その…!む、昔…父が母の呼び掛けで死の淵から戻って来た、みたいな話をしてて…えっと…だから…!」

「………?」

「……もし…我を忘れた人が…僅かに残った意識の中で思い浮かべるとしたら…きっとそれは一番大事な人だと思いまして…!」

「……?あぁ、そりゃあ…な…」

「…だから…た、辰之助(たつのすけ)さんにもそういう人が居たら…復讐を止められるかも…!」

「いや…まぁ……そうだな…もし全部終わったら考えてみるか」


少し寂しげにそう呟いた彼はどこか遠くを眺める様に目を瞑り、何かに想いを馳せている様に見えた。

一体何を思っているんだろうか、誰の事を想ってそんな声を発したんだろうか…

その思い出の中で欠片でも私の事を想ってほしいと考えてしまうのは、いけない事なのだろうか…


「いいなぁ…」

自分でも予想だにしていなかった言葉が口から小さく零れてしまう。

「なにがだ?」

「あ!…い、いえ!何でもありません…!」

「そ、そうか…」

(……ほっ…)

「じゃあ俺、道場の掃除してくる、しつこいがちゃんと寝ろよ」

少し優しい声色と共に彼が立ち上がる。

「あ、ちょっと待っ…て…!」

「ん?どうした?大丈夫か?」


やっちゃたぁぁー!勢いで止めちゃったぁぁー!

傍に居て欲しくて止めただけなのに凄い心配そうな顔してるよー!!

どうしよ…どうしよ…!どうしよ!!

何て言おう…やめてーそんな顔で見ないでぇ!!

お父様、お母様…こんな弱くてはしたない娘に育ってしまってごめんなさいぃ!!


「本当に大丈夫…」

「あの!!」

「!?」

「……………」

「…………千彩(ちさ)…?」

「…………………さい…」

「え?何か言ったか…」

「もう少しだけ…傍に居て下さい…!」

「…!」

あぁぁぁぁぁああ!!結局言っちゃったぁぁ!!


「わ、私が眠るまでで良くて…あ…また悪夢を見た時…迷惑をかけてしまうかもしれないので…!!」

「…………」

「だから傍に居てくれれば安心かなぁ…と思いまして…決してやましい思いは…!」

「…」

「えっと…その…だから…!」

「分かった」

「嫌なら断ってくれても…………へ?」

「約束したからな、「泣き止むまでここに居る」って」

「………」

「お前こそ嫌なら…」

「お願いします!!」

「お、おう…そんなに目を開いてたら寝れないだろ…」

「問題ありません!眠って見せます!」

「貴方の胸の中で泣いた私にもう怖いものはありません!!さぁ好きにしなさい!!///」

「何もしないから大人しく寝てろ」

「おやすみなさい!!」


―――数分後…

「スヤスヤ…」

(…普通に寝れるんだな)

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