援軍
ねっむ
――礎静町
「オラァ!!」
雷鳴が幾多もの能蜂を切り裂き、止まることなく駆け巡る。
(何匹切った!?流石にキツくなってきたぞ!!)
恐らく百体は下らない数を切り刻んできたが、それでもまだ数のそこが見えない、更に礎静町全体を走り回りながらの戦いに寄って晃次郎の体力のそこが見え始める。
ブブブブ…!
再び大群を見つけ、億劫になりながらも突っ込もうと踏み出し、最前の一体へ刀を振り下ろした瞬間
バサァ!
「!!」
(切った感覚が…!)
まるで埃の塊を斬った様な手応えに晃次郎は困惑する。
目の前に居る能蜂は確かに真っ二つに切れているが、鳴き声一つ発さずにサラサラと消えていく。
おかしいのはそいつだけでは無い、その場に居た、いやこの街全ての能蜂達の動きが止まり灰の様にバラバラになって消えていく。
能蜂達の遺灰は空へと舞い散り、それすらも粉々になって完全に消滅した。
皆が困惑し、動きを止めるがある一人の零れた様な言葉
――勝った…
それを皮切りに全員が歓喜の叫びを挙げる。
全員が涙を流し、その場に座り込んで泣く者も入れば、仲間や家族と抱き合い生存を喜び合う者、動けずとも涙を流して笑う者も居る
その涙に一切の悪感情は泣く、全員が喜びに満ちた涙を流していた。
疲れから一旦その場にへたり込む晃次郎の元に虚がてくてくと歩いてくる。
「…どこ行ってたんだ?」
『避難の助けを少々』
「…そうか」
「…そういや、あの二人…結局来なかったな」
『いえ、先程この街に着いて皆さんを守っていましたよ、今は何処かに行きましたが』
「……どっちにしろ遅せぇよ、あー、疲れた」
晃次郎が大の字で寝転び、その腹の上に虚が乗って丸くなる。
虚の手足に夥しい傷と泥が付いている事に気づいた晃次郎だが、何も言わずに暫くその場で虚の敷布団として寝転び続けた。
金菊邸 裏・大広間
蜂子が死んだのを確認した天姫は、残った二人の方へと視線を移す。
美しくも射殺す様なその視線に、麗は縛られたように体が動かなくなる。
蜂子を殺した相手だが、感謝の言葉が出てこない、何故なら。
「貴方達も、まぁまぁ楽しかったわ」
次の標的はこちらなのだ、捕食者にお礼を言う獲物はいない、ただ一方的な死のみが与えられる。
ましてや消耗しきって動けない麗は、天姫からしたら「殺して下さい」と願っている様なものだった。
スタ……スタ…
どんどんと死の足音が近付いてくる。
薄黒い布越しの顔には期待に満ちるあまり舌なめずりをする美しい女の顔が浮かんでいた。
麗は虚勢を張る事も出来ず、千彩に覆い被さる形で上半身を屈ませる。
前は見えないが、視界にはその影が近づく様がはっきりと写っていた。
一際黒く濃い羽の影が、ほんの少し閉じられながら足音と共にその影は近付いてくる。
一つの目的を達成し、漸く前を向けると思った矢先に訪れた確実なる惨殺の足音。
間近に迫る終わりに、麗は息の仕方を忘れたかの様な浅く荒い過呼吸に陥り、視界が白黒になって耳鳴りが鳴り始める。
その間に、黒い影が麗の視界を完全に覆った。
何かを上げるような衣ずれの音が耳鳴りのする最中に聞こえ、間もなくその手が…
「まてぇい!!」
「…っ!!誰!?」
謎の声に驚いた事で、振り下ろされる事は無かった。
あまりにも突然の事に驚き、麗と天姫は声の聞こえた方をみる。
天姫が空けた天井の穴から月に照らされた二つの小さな影が映る。
「ようし!何とか間に合ったのぉ!!」
まだ若い少女の嬉しそうな声が、おばあちゃんの様な口調で響き渡る。
「ひ、比那ぁ…!まずいって…!殺されるよぉ…!!」
「大丈夫じゃ!安心せい、お姉ぇ」
映っていた影が動き、小さな方が少し大きい方の腕を掴む
「え!?ちょ!高いよ!無理無理!高いの無理ぃ!!」
「行くぞぉぉ!!」
「ぎゃああああああ!!」
勢い任せに二つの影が月に照らされた穴へと落ちてくる。
一人は美しく着地を決め、もう一人は後ろの方で尻餅を付いて涙目になっている。
「ひぃん、痛いぃ…」
「お姉ぇは本当にビビりじゃなぁ」
「比那が活発すぎるのぉ!!」
「褒めても何も出んぞぉ!なっはっは!!」
快活に笑う少女の姿は、白色の前髪以外が首周りまで伸びた灰色の髪と、狐を思わせる細く少し目尻の下がったツリ目と八重歯。
顔の右側には目や髭が赤と白で塗られた黒色の狐の面をかけて、右目の部分を隠している。
赤紫の羽織に袖を通し、薄い素材で腰辺りでちぎれた様にボロボロになっている赤色の服を纏い、腰辺りまで焦げ茶色の薄くザラザラした布が少女の足にピッタリと張り付いている。
そして何よりも目を引くのは、彼女の右手と両足に見える鋼の義肢。
右腕の肘から先、右足の膝から下、左足の足首から先に施された精巧な義肢が月明かりを受け鈍く光っている。
その右手には弓を携え、左肩から矢の羽根部分が見えている。
「誰?貴方達…」
「んー、面倒だから教えん」
パシュン!
目にも見えぬ速度で弓を引き、正確に天姫へと放つ。
「!!」
ドス!
その速さに反応出来ずに天姫の肩に矢が突き刺さり、驚きと突然の痛みに僅かだが顔を歪める。
「…これで分かったじゃろ?お主より儂の方が強い」
「……ふふ…えぇ、そうみたい…」
脂汗を流しながらも不敵に笑い、肩に刺さった弓を抜いた後に真ん中を握ってへし折って、一度深呼吸をして口を開く。
「何だか、面倒臭くなっちゃった、帰るわね」
「なーに言っとるんじゃ、負けるのが嫌だから逃げるんじゃろ?」
「…何とでも言えばいいわ」
天姫が羽を広げ、その場に屈む。
「じゃあね、糞餓鬼」
「あ?やっぱり怒ってた?」
バシュン!!
少女の言葉へ返事を返さず、とてつもない速さで天井を突き破り、二つ目の大穴を作って天姫はどこかへと飛び立った。
「……まぁ、あれだけ痛め付けたら、暫くは大人しいじゃろ」
気だるそうに少女はつぶやき、思い出したかのように麗と千彩の方へと近づく。
「おーい、大丈夫かー?」
麗は一連の出来事を処理出来ぬまま、呆然としていた。
話し掛けても返事がない麗を心配したのか、もう一人の少女が顔を近づけて話しかけてくれる。
薄い金色の肩の下辺りまで伸びた髪が優しく揺れ、少し困っている様な眉と幼げな丸めが心配そうな顔で麗のことを見つめる。
顔の左側には耳を隠すような位置で白い兎の仮面を付け、片方とは違い目を隠していない。
もう一人の少女と似たような服装だが、こちらはしっかりした素材で股下まで丈が伸びて、腿の真ん中辺りまである白色の足袋を履いている。
「だ、大丈夫ですか?」
少し震える声で優しく聞いてくれる姿を見て、麗は安心から一気に気が抜けて、凄まじい疲労感に意識が一瞬で遠のき、倒れかけた所を薄金髪の少女が咄嗟に支える。
「どわぁ!大丈夫ですか!?死にましたか!?」
「不謹慎な事言うな」
「…………………て…」
「え!?何ですか…!?」
「……千彩さん…を……助け…て…」
最後にそう言い残した麗の意識は、そこでプツリと切れた。
キャラが増えて混乱してきました、こんな出す予定無かったんだけどなぁ…
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