【第22話】
優しい麻の匂い、微かに暖かな布、柔らかな朝日の中、私は目を覚ました。
「やっと起きたんだね?」
もう慣れた声、カイラが口にパンの食べかすをつけながら、私の方へ歩いてきた。木製のこぢんまりとした部屋の中で、私はどうやら眠っていたようだ。おそらくまだ村のなかで、小物などからここは村長の家の一部だと予測できる。
「君軽いねぇ、超簡単に持ち運べたよ、まあ引きずってだけど。前から気になってたんだけど、元女神ともあろうやつがなんでそんなしょぼくれた外見なのさ?神パワーフルだった時はそこそこだったけど」
しれっとディスられた。カイラは私が寝ているベッドに腰をかけ、ニヤリと笑って問いかけてきた。私も体を起こし、ため息をつく。
「そもそもこの姿は仮の姿で、それがこう……定着したというか……元々魔法主体だったからフィジカルはいらなかったの!神の力でどうにでもなったし!」
「ふっ、そうかい。じゃあお荷物でしかないねーー」
カイラはすっと立ち上がった後、伸びをしてくるりとこちらを向いた。
「ーー正直に言って、昨日の戦いで君は足手纏いだった」
「っ!でも私はちゃんと強化魔法をーー」
「それ以上に連携が取れてなさすぎる。君は人と一緒に戦ったことないのか?女神なのにあんなのもできないとか底が知れるね。大体魔王が発生したのも君の管理不足が原因だろうし……」
カイラが部屋をうろうろしながら口々に私を煽る言葉を発する。しかしぐうの音もでない。なぜなら、彼の言っていることはほぼ全て事実であるからだ。
「た、確かに連携不足は私の責任だけど……魔王は違う!あれは世界を作る上で仕方のないものなの!」
「そっかそっか、そんで生まれたのがあの化け物か、君と僕じゃ到底勝てる気がしないけどね」
「早々から諦めないでよ!まだこれから旅が続くわけだし、第一クリスタにもついてない!それにーー」
「だから言ってるだろう!昨日の戦いで確信した、君とは無理だ。大体かつての敵と組むみたいな漫画みたいな展開無理なんだよ、絶対僕一人の方が上手くいくさ」
「ぐぐぐぐ……何も言い返せない……」
だめだ、戦闘の実力もレスバ力も弱すぎる。カイラとしばらくこんな口論を続けていると、部屋のドアがガチャリと開いた。そこには優しい目をした村長がお茶を持ってきてくれていた。
「声がしたのでお目ざけと思いましてね。昨日はありがとうございました、お二人がいなかったらどうなっていたかと……」
「ふん、ほぼ僕のおかげだけどね」
「な、だからーー」
村長の前にも関わらず、私はカイラの挑発的な言動に乗ってしまった。本人に挑発のつもりはないのかもしれないけど。私がガタリとベットがら立ち上がり口論を再開しようとした時、村長が口を開いた。
「お二方、少しいいでしょうか」
「……!……すみません、ついカッとなってしまい……」
「……実は昨日の戦い、私も見ていたのですよ。もしあなたたちが自身らの戦いにまだ不安を感じるなら……いや、一度本来の目的地であるクリスタに行くのもいいのかもしれません。そしてまたここに戻ってくるといいでしょう。その時に話すべき話はします」
「……わかりました。今日含め2日間、数々のご厚意に感謝します」
「……僕からも」
珍しくカイラがちゃんと礼を言った。彼は目を瞑り軽く頭を下げた。一方私は深々ときちんとした感謝をした。
「いえいえ、この村を守ってくれたことですし。では、あなたたちの旅に女神クリスタのご加護が在らんことを……」
村長さんは改めて私たちを送ってくれた。彼私たちへ祈った加護……前まではその女神私なんだけどね!とか言えてたけど、今になっては私という存在の重要さを再確認させ、責任の重大さを思い知らされるだけだ。しかしそれは彼とは無関係、今はただ、その暖かな心に感謝しよう。
村を出た私たちは、昨日村長さんに教えられた道、方角へ向かって歩いている。雑にだが整備された道なりに進み、今は村長の言っていた森に差し掛かるところだ。
ある時、急にカイラが口を開いた。
「……そうだ、一応言っておくよ。“ありがとう”」
「何急に?怖いんだけど」
「昨日言ってたじゃないか。『少しは感謝しなさい』って」
「あ、ああ……」
怖い、マジで怖い。どうしたの急に?私はさりげなく横にいるカイラから一歩距離をとった。カイラは何事もなかったかのように無表情で前を向き、そのまま歩き続けている。
「……じゃあ私からも一つ言わせて。ごめん、私にもたくさん非があった。昨日の戦いがほぼあんたのおかげだったのも認めるよ」
「そ、じゃあとっとと行こう。もう少しで森を抜けるはずだから」
やっぱ怖い。いつもならここで「やっとわかった?わかったならとっとバフ魔法だけ練習しとけば?w」とか言ってくるはずなのに…… 以前としてカイラは表情を変えずに歩いている。やたらおとなしいカイラに困惑しつつも、私は彼と共に道を進み続けた。
しばらく進むと、次第に道がひび割れ砕け、ひどく荒れたものが多くなっていった。土砂が散乱し、まるで誰かが力任せに破壊したような風貌だった。
「ふん……おそらく魔物か何かが破壊したんだろう、ここら辺何かと活発だからね。仕方ないから森の中を通っていこう、王国の近くだから大して荒れてないはずだ」
「そうね、にしてもこの壊れ方……相当強力な魔物がいるみたい。前みたいにならないよう気をつけよう」
「前みたいにならないように?はっ、君がヘマしなかったら大丈夫なんじゃないかな?」
いきなりいつもの性格だな、うざい。私はムスリとしつつも、カイラに従って森の中へ進んだ。森の中は朽ちた木々が散乱しつつも、ある程度人の手が入っていたのか、斧で切られたような切り株がいくつもあった。おかげでとても進みやすい。
「予想通り、だいぶ綺麗だね。おかげですぐ着きそうだけど……地味に荒れている気もするな」
「確かに人の手が加わった痕跡はあるのに妙に荒れてるね。折れた木々も多いし……」
苔むした木々、ジメジメとした匂い……明らかに栄えた国の近くのそれではない。道から少し外れただけでこれか…… この異様な雰囲気が、私たちに何らかの異常がこの付近であったことを伝えてくれている。
「ま、いいんじゃない?木が少ない分見渡しも良くってーー」
カイラは立ち止まってゆったりと伸びをしたかと思うと、スラリと剣を抜いた。折れていた刀身は治っていたので、おそらく私が眠っている間に買い直したか打ち直してもらったのだろう。
「こういう魔物も簡単に見つかるしね!」
そのままカイラは自身の後ろに向かって斬りを繰り出した。横にいた私にもスレスレである。ちょうどその時、カイラが攻撃をした方向から私より少し小柄な物体が飛び出してきた。ガギンという音でカイラに弾かれたと思えば、それは中で身を翻し地面に四つん這い……いや、五つ這いで着地した。狼のような前足と後ろ足がそれぞれ2本と、3本、猿のような犬のような耳が4個に鷹のようなめが3つ、胴体は筋肉質で微かに透けて内臓が見えている。まさに化物、怪物だろうか。
「何こいつ!気持ちわる!」
「何こいつって、創造神なのに知らないのかい?」
「私がこんな化物作ると思う!?こんなの作った覚えないよ!」
私たちの話を遮るように、その怪物は飛びかかってきた。3つの後ろ足による推進力は一応そこらの魔狼よりはある。
「チッ、往なすしかないか!」
「いきなりあぶない、私も準備するよ!」
攻撃を避けられた怪物はそのまま着地する。私も杖を取り出し、怪物を視界にしっかりと捉える。
「今度こそ息を合わせるよ、いい?」
「はいはい、そっちこそ僕に合わせたら?w」
カイラはの目は、そう笑いながらも真剣だった。私たちの準備は完了、王国に着く前にもう一悶着ありそうだ。
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