4038年
私は軍用に作られた人型のロボット。
型式はMJ190024-X613。
通常、軍用のロボットには名前がない。
だけど私はスパイをするために『クロエ』という名前を持っている。
「クロエさん!見てください、電車の台車ですよ!」
「RJ72、そんなのただのガラクタです。後、いい加減クロエと呼ばないでください」
目の前で話しかけてくる少女型のロボットは『RJ72-X』。
なぜかいつも名前で呼んでくる。
私と同じメーカーで作られた同じシリーズの家庭用ロボット。
私より古いモデルなので型番の桁数が少ない。
家庭用なので名前を持っていて『シロ』と自称している。
「RJ72じゃなくシロです!クロエさんも指示する人間はいないんですし、少しは楽しみましょうよ」
「あなたとは人を探すために協力してるだけです。不満があるなら別に行動したほうがいいですよ」
「もうクロエさんってばつまらないですね。もうずっと探しても見つからないのに」
そう、私は人間を探している。
だけどこれまで1度も発見できなかった。
なぜなら約500年前に起きた出来事で全てがなくなってしまったから。
当時私はわからなかったがあとから聞いた話によると爆弾が落とされたらしい。
それは一発でオーストラリアの半分が焦土と化すほどの爆弾で人はおろかすべての生物が消滅する威力だという。
「それでも……。探して、次の任務を得るのが私の役目。今の任務が解除されない限り『予定の日に通信が届かなかった場合、司令部から直接新しい任務を受けること』という任務は終わりません」
「ほんとクロエさんは頭が固いですね〜。まっ本当は人の寿命を考えると絶対に会えないって気づいてますよね?じゃないとそんな機密情報を他人に言わないんじゃないですか?」
私は今の言葉を聞いてハッとした。
本来、私のAIはスパイのために機密情報を漏らさないように作られている。
緊急事態とはいえたくさんの機密情報を漏らすのは異常だ。
もしかしたら耐久年数の過ぎた重要な部品が破損したのかもしれない。
「大丈夫ですか?クロエさん。なんだか顔色が悪いですよ?」
「ううん大丈夫。本当になんでもないから」
「本当に大丈夫だといいのですが……」
RJ72は心配そうに言った後、何かに気づいて言った。
「あっクロエさんあそこを見てください!人型の何かが動いてますよ!」
「えっ本当ですか!?」
私は急いで指を指した方向を見ると確かに遠くでガラクタの山を登る人影が見えた。
「RJ72、本気で走るのでついてきてください」
「えっちょ、待って!」
私はそう言うと全力で走りその人影に向かって走り出した。
その人影に近づき形がはっきりしてくるとそれが人間ではなく私と同じ人型のロボットであることがわかった。
私が数mくらいまで近づくとそのロボットは私に話しかけてきた。
「あれ?今時動けるロボットは珍しいね。強奪に来たのかな?」
「いえ違います。私は決して強奪しに来たのではありません」
そう言いながら私は目の前のロボットを観察した。
すると服の襟に私が所属していた軍のマークがあった。
「そのマークは!?」
「このマークがどうした?」
不思議そうにするそのロボットにいままでのことを全て説明した。
「あ〜なるほど、ずっとバカ正直に任務をやっていたと……。見ないと気づかないってことは短距離無線通信の回路に問題がありそうだね。じゃあ私も自己紹介しようかな。私はMJ192071-X629。人じゃないけどキミが探している司令部の一人だよ。まあキミの管轄じゃないけどね。でも管轄の人なんてもういないし私が代わって任務を解除するよ。じゃあ私についてきて」
目の前のロボットはそう言うとガラクタの山の頂上へ向かった。
頂上へ着くとそのロボットは私の目の前に立ち言った。
「最高司令官の命により全ての任務を解除する。各隊員及び関係者は直ちに作戦行動、工作を停止するべし」
目の前のロボットがそう言うと私は体の力が抜けて座り込んでしまった。
「ちょっ大丈夫!?」
「大丈夫です。不思議と体から力が抜けてしまっただけです」
そう言って私は立ち上がった。
すると後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「はぁはぁちょっと待ってくださいよ!家庭用が軍用のマジ走りに追いつけるわけないじゃないですか!」
「あれ?彼女はキミの知り合いかい?」
MJ192071は息を切らしたRJ72を指さしながら聞いてきた。
「えぇ、今まで一緒に人を探してくれてました」
「あらそう。珍しい子と一緒にいたのね。第1世代の子は資料でしか見たことがないよ。こんなに古いと博物館にあってもおかしくないね」
MJ192071がそう言うとRJ72は不服そうに怒った。
「誰が古いですか!私だって出た当初は革命的な新製品だったんですよ!」
「そりゃ出た時に新しいのは当然でしょう。で、これからキミたちはどこへ行くんだい?」
MJ192071は私に向かって聞いてきた。
私は任務が終わった後のことを何も考えていなかった。
だけど今までのことを考えたらこうだろう。
「では私たちは適当に歩きます。意味などありませんが」
「そう、なら行ってらっしゃい。じゃあまたね」
「あれ?あなたも一緒に来ませんか?」
RJ72が聞くとMJ192071は目をつぶって言った。
「ごめんね。私はついていけないよ。私はエターナリーが壊れてるからね。そろそろ最低限の必要な電力より少なくなるからもう無理さ」
エターナリー。
それは電力を無限に生み出す装置。
31世紀から実用化された装置でロボットには必ず必要だ。
しかし衝撃で壊れやすく壊れると徐々に出力が落ちる特性がある。
「そう……なんだ。でも」
私は何かを言おうとするRJ72の肩を叩いて言った。
「RJ72、そろそろ行くよ」
「ちょっと待って。やっと生きているロボットを見つけたのにそのまま見捨てるんですか」
「RJ72、あなたならわかるでしょう?エターナリーは直せないことくらい」
「でも、でも!」
そう言った後RJ72は子供のように泣き出した。
するとMJ192071はRJ72に近寄り言った。
「キミ、機械というのは直す人がいないといつか壊れる運命なの。それがたまたま私の方が早かっただけ。だから早く行きなさい」
それでもRJ72は泣き止まない。
「仕方ないね。じゃあ私の記憶ユニットを持っていきなさい。そしたらいつか別なボディーに入れてまた会うことができるよ。それも嫌かい?」
するとRJ72は泣き止んで言った。
「絶対にまた会える?」
「ボディかそれに準ずる装置があればね」
「わかった。それなら行く」
「じゃあカバーを外すね」
するとMJ192071は自身のカバーを外しユニットを外せる状態にした。
「さあ、持っていきなさい」
「じゃあ、外すね」
そう言ってからユニットを外すとMJ192071はバタンと倒れた。
そしてRJ72はさっきまでMJ192071だった物の顔を覗き込みながら言った。
「絶対また会いましょうね」
私はそのまま黙って見つめているRJ72に向かって言った。
「シロ、早くしないと行きますよ」
「あっクロエさん。待ってください!ってあれ?今初めてシロって呼びましたか?」
任務がなくなった私はこれからもシロと一緒にいろいろな場所へ行くだろう。
彼女たちが壊れるまで。
思いついた物を脳内フィルターにかけずそのまま作りました。
雑ですが好きなものができて自分は満足です。
追記:アンドロイドという単語があるんですね。
人型のロボットよりこちらのほうが適してたかもしれませんね。
追記2:書き間違った部分を修正
約200年前→約500年前