21話(ルート2
いらっしゃいませ
大量の物資を取り敢えずリックに詰め込む。
風魔法が不発に終わる事に対して未練は無い。
執着しようものなら死ぬ。その予感だけが残る。
感覚頼りに、何となくで歩き出す。
目指すは安全な場所。
鳥の鳴き声や野生動物の足跡、糞尿を尻目に比較的安全な獣道だと確信する。
何より直感が危険を告げてくれる。
安心がない今、考えている事は一つである。
強敵との遭遇戦と避難経路の割り出しである。
囲まれない限りどこから襲われても逃げの一手をとれる様に移動し続ける。
直感に従って移動をし続けること数時間。
その間に状況を整理する。
肉片一つ残さず頭を吹き飛ばす化け物が存在する森からは一刻も早く逃げ出さなければならない。
物品が残っていたのを鑑みるに人でない可能性が高い。或いは敢えて記憶だけを奪った俺を残して犯人へと仕立て上げる算段なのかもしれない。
よってその犯人が存在する可能性の高い近場の人里へ逃げ込めない。罠も考慮せずに迂闊に死体に触れ、物色し続けた事を思い出し、今更ながらに何度死んでいたかを考えて、考えた上で考えるのを辞めた。犯人は俺を殺すつもりは無いのだとわかったからだ。或いは見せしめとして公式の場で殺される。
様々な危機を回避する手段を模索するも、その手段も想定されるべき危機もロクに思い浮かばない。
窃盗犯として、或いは山賊として、又は殺人犯として死刑か。其れだけは免れなければならない。
しかし、物品は手放したくは無い。唯一の文明を手放せば人間に戻れない気がしてくる。心の拠り所として持ち歩いてはいるが、投擲物としての役割の方が大きい。
「むっ……」
迂回した筈の気配に追い付かれ、さらに囲まれていた。敵の方が上手だと察する。魔法も今は思う様に使えないし降伏の作法も知らない。
「…」
待ち受けている…否、突っ立っている生物は深緑に肌を染めた男。包帯の様な布で全身を覆った人物がするりと歩み寄ってくる。警戒するも、危険を感じずに気が抜けそうになる。
「何用でここに居る」
優しい声が森の中に消えて行く。反響せず、自然の音に紛れる声だ。声として認識してなければ息継ぎすら聞き逃すのではないだろうか。
「…迷い込んでます、記憶が曖昧で……」
正直に答える。敵意が無いことを示さなければならず、引き返すにしても背中を狙わない事を約束して欲しい。
「ふむ、目を見ろ」
「ッー」
思考が支配される。過去をここに来る経緯をそのまま思い出す。そして、白い空間に立っていることを思いだすと目の前の男の息が乱れて一歩後退した。
「……っふむ、よろしい」
瞬間的に息を整え直した男がそう言って踵を返すと包囲網が解かれる。ただ、監視が幾つか残っているようだ。
「……?ついてこないのか?」
女性が1人木の上から静かに降りてきてそう言うと背中を見せて歩き出した。素で隙を晒しているのか、或いは危険性を判断する為に敢えて無防備でいるのか。
思考が落ち着きを取り戻し、素直な印象を与える為に素直になる。聞きたいことを聞いて、聞かれた事に素直に答える。「あ、あの、此処は何処なんですか?」
「うーん、君の荷物からしてアレだよね?賊を退治したの君でしょ?凄いね?」
「え?いや、あれは誰かに嵌められて…」
「誰か?誰に嵌められたの?どんな人物像?どんな性格?性別は?可能なら種族も知りたい」
「……ごめん、記憶が曖昧だから」
「…そっか、此処は最前線の村だよ、たまに来る商人がそう言ってるからね」
「商人?」
「まぁ、そのうち来るよ……それよりさ!良かったら私と暮らさない?」
「……」
「金銀財宝と貴重品とか持ってるから欲しいなーって」
「……なるほど」
「村がもうすぐ見えるから、そしたら私の同居人、彼氏とでも宣言してよ」
「えっ…と……」
「ほかの女に狙われるよ、そんな金と魔力撒き散らしてたら、男にも狙われるかも」
魔力という単語が頭にすんなりと馴染んで、反射的に魔力を認知する。そして無意識に魔力密閉まで行ってしまった。そのせいで命を奪われる。或いは魔力を撒き散らしていた為に危険と判断され殺されそうになったのか。
「分かるでしょう?!この男危険です!」
頭に刺さるはずの短剣が物理法則に逆らって空中で停止している。その異常性を前に誰も疑問を抱かない。
その原因である己の心が穏やかな事に運良く早い段階で疑問を抱けた。何かが狂ってる。
「ちっ…やるならもっと気配を消しなさいよ!」
「……申し訳ございません、条件反射で投げてしまいました、奇を衒うべきでした」
2人の女性が言い合う。草や土の匂いが少し強い。
手の届かない距離を保って話し合ってる2人の視線に照れる。身綺麗な美しい女性が凛と立っている。
隙も少なく土や草の匂いが鼻を突いて、生活感を感じさせない謎も想像力を掻き立てる。
或いはそれは、好意的な視線とは違う懐かしい気配を漂わせている。雰囲気が懐かしくも求めていた気にさせる。一方、好意的に接してくれる女性に対しては何とも思わない。敵意剥き出しの異性の視線に免疫がないのかもしれない。そんな事を考えていると、いつの間にか村についていた。想像に、思考に没頭するほどのことかと自身に落胆する。その程度の事で思考に囚われるとは。
その村は皆が皆、訓練を受けていた。
お疲れ様でした




