20(ルート2
いらっしゃい。
痛みと寒気で体を震わせる。
全身汗まみれだった。
何があったか思い出せないが、何かがあったことは周りを見ればわかる。死体が散乱している。
3人の死体と疲れきってはいるが生きている己。
「俺がやったのか……?」
名前が思い出せない。
「ふぅ、なんだ、本当に……人を殺す事に慣れているのか?死体を見ても何とも思えない」
普通じゃない気がしたが、勘違いだったかもしれないと頭を振る。
「川か、血を落と…返り血は浴びてないのか」
大した怪我もないことを確認してフラフラと立ち上がる。「ってて、すゥー、はァー」
改めて周り、周辺の状況を見渡す。
「森?こいつらが追い手?それとも俺が?」
ふと止った視線の先には背を向けて倒れてる人を見つけ近寄って、結論を出す。
「俺が追い手か」或いは…と捨てきれない可能性を閉ざす。「取り敢えず、物色かな」
なにか見つかるかもしれないと期待する。
「なんだ……金銭の類いか?かなり持ち歩いてるな」
装備とは不釣り合いな程の硬貨らしきものが大量に集まった。「うぇ、悪趣味な服だな」女装の趣味でもあるのか、かなり際どい服を幾つか抱えて頭が吹き飛んだ死体を前に1歩後ずさる。
「いい指輪と…なんだこれ?」
ほぼ全ての死体に彫られた印が目につく。
脇の下にある複雑な模様。
「魔力の残滓はまだ残ってるな」
「…抱えきれんなこんな量は」
価値があるのか怪しい物も含めて20キロは有りそうだ。「金と後は雑多な服と、バックと…着替えは嵩張るか…武器は、鉄製の槍かな、牽制に使えればいいか」「このプレートって何か意味あるのか?全部同じ文字…名前?が彫られてるが」
人の、急いで逃げるような足跡を辿り、見つけた死体を片っ端から物色していく。
「沢山抱えてるな」
冷えきった死体を避けて歩いて水のたまっている大穴を通り過ぎて少し進んだ先に武器も持たずに大きなバックを抱えた頭の無い死体が倒れているのを見つける。
「流石にここまで来ると俺がやったとは思えないな」
むしろ無関係なのではないかと思い始める。
そもそも頭を吹き飛ばすその手段が思いつかない。
そして道中、片手間に探していた頭だった肉片も見当たらない。
「俺じゃなければ誰がやったんだ?」
記憶に無いと頭を悩ませる。
「謎が謎を呼び、その謎を手繰り寄せた本人もまた謎に包まれてしまった!」
死体の前でおどけてみせるも、反応は無い。
「当たり前か、動き出す事を期待したんだがな」
内心ホッとしつつもそんな事をいってみる。
「で、これからどうすればいいんだ?」
抱えた荷物の厳選をしようと腰を下ろして身に覚えの無い物事が頭に浮かぶ。
水に溺れて苦しくて一か八か水流に逆らって脱出する妄想。
「魔法ってどうやって使うんだったか」
風魔法を発動させようとして何故か不発に終わる。
「あれ、おかしいな」
風の起こし方が分からない。
思い出せない。それは死活問題だと直感が訴える。
「……死」風が起こせない。連想される死と恐怖が延々と脳内を駆け巡る。
わけも分からず死ぬ。
心臓を射貫かれる。
頭を潰される。
熱で体が蒸発する。
炎の煙で酸欠にされたあと足先から焼かれる。
全身の毛を抜かれ、皮を剥かれ、主要な神経と血管だけを残して肉を削られる。
苦痛だけを救いにされ、ひたすらに拷問される。
自分の指や足や腹や太腿やその他歯の届く範囲の全てを骨の髄まで食わされる。
何度も何度も何度も何度も自殺を繰り返す。
痛みにまるで慣れることの無い恐怖。
痛みや息切れで心拍数を上げる度に痛覚が敏感になる状態で拷問を受け、トラウマを作っては慣れさせ、挙句飢えて死ぬ。
その元凶が飽きた様子も見せず淡々と毎日、それらを繰り返す。
毎日同じように繰り返す。何をしても殺される。
そして死なない事に甘え、そして何度も後悔する。
乱れ狂って、やがて思考は常識を重んじるようになる。
どれだけ拒んでも意志とは無関係に体が動く。
その記憶が妄想として脳裏を鮮明に巡る。
「ッ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はあぁはあっ、はぁふぅ、」動悸が、明確に浮かぶ恐怖と死と痛みが急激に和らぎ、冷静さを取り戻すと同時に波風ひとつ立つ事のない平穏に思考が飲み込まれる。
「さて、厳選する前に安全地帯を探さないと」
あらゆる妄想が事実だと訴える直感を無視する。
嘘であって欲しいという感情がわかない。
嘘でも本当でも既に終わった事だと割り切って一応の事実として理性が受け止める。
「ここでいいかな」
ただ、少し気が狂いそうだ。
お疲れ様です。(魔王様が主人公を最低限戦える精神にする為に考えた特訓の1部の内容です)




