15話
いらっしゃい。
ユクナの体は半年経った今でもしっかりと成長している。肉体は無事だ。胃の中に入った食物も消化されるし便だって出来るようになった。
後は意識を取り戻すだけだ。
「ユクナ…狩りに行ってくる」焚き火をして火と煙を嫌がる虫は寄ってこない。
薬草系は取ってないけど、虫の嫌がるハーブ?をユクナに匂いが届かない様に配置する。
風でユクナが匂いを嗅がないように風魔法で空気の流れを常に変えている為、空気が腐る心配も酸素不足になる事もない。(風属性万々歳である)
「おはよう…ユクナ……?!」
日課となったユクナへの挨拶と朝食を食べさせようとした時である。さっきまで姿を確認していた筈のユクナが消えていた。
テリトリー内の空気の流れが強風と共に微かに乱れた。それを合図にその周辺の魔力を風属性へと変換し風を起こした本人へ攻撃する。目的は足止めである。しかし、既にその場に何も無かった。「ユクナ……!」強風に混じって微かにユクナの匂いを嗅ぐ。風の流れてきた方向へ全力でかけ出す。生きているのなら確認しなければならない。
数キロメートル先の奴から感じた魔力と気配は何処かユクナに似てる。だから、知りたかった、ユクナが何者であるか。
「……スレイブ」
スレイブが駆け出した1メートル先でユクナは座り込んだ。
「こうすること以外に…助すからなかった……」
孤独と孤立を繰り返してきたユクナにとって自らの意思で深い森で暮らす彼に興味が湧いた。
名をスレイブと言い、半身を失った僕が負けて仮死状態になった僕の面倒を見てくれていたお節介な人だ。
魔王の息子で有りながら魔王の一族を汚し醜態を晒した罪から追い出され、人間の味方をした事から命を狙われるようになった。聖剣の力で不正に力を付ける勇者なる存在を忌み嫌う彼ら魔族の由緒正しき血族が勇者の味方をする。魔族の逆鱗に触れたのだから当然の事である。勝ち目のない戦いから逃げ続けてこの森に入ったのである。
「スレイブなら…許してくれるよね?」
スレイブの駆け出した先に居るのは直族最下位の魔族である。正式な直族とは呼べずあくまで憧れた魔族達が殺し合い勝利した地位。
直族301位のランガー。腕力と防御力が自慢の魔族で、心身共にタフで簡単には死なない。
「ありがとう……ユクナって次から名乗るね」
ユクナは静かに歩き出した。
「なっ…何でお前が……」
そこに居るのは人間の女をいたぶるユクナの仇だった。「あっ?あぁ、コイツらの仲間ってやつか?」
ニヤニヤと笑みを浮かべて精神の崩壊した男にナイフを渡して自害させる。それを見た女達が悲鳴を上げて或いは気を失ったり。魔族に媚びる者まで。
「ユクナ…ユクナは何処だ?」
「そんな名前の奴はいねぇな?あ、あの死体の中に居るかもな?」挑発的な発言をキッカケに目の前の魔族のテリトリーを侵略する。
「俺は…お前を許すことはない…!」
笑みが消えた魔族はふらりと立ち上がると明確な殺気を飛ばしてくる。「殺す」その発言と共に魔族がブレると心臓、頭、顔面、右足、左肩へとフェイントを入れながら攻撃に転じる。
それにゆっくりとされど目に止まらないスピードで魔族にカウンターを決めて、手応えを感じながら首を切り裂いた。
「…何で……」目の前の魔族は傍から見れば自分の首を自分で切り裂いた様に見えるだろう。
「ユキっ?」イキナリ女性が抱き着いてくるとそのまま胸を擦り付けてくる。
焦点はあってないが、生存本能に従って居るだけの人形に見えた。
「……ぁあぁあああ」痛くないように引き剥がし魔族の首や頭を念入りに踏み潰して、肉体を焼く。
「……居ない」ユクナの死体が無いことに安心して捕まった人間達を解放する。
「ねぇ!なんで?なんで求めないの?!」
捕まったばかりの女が身を隠しながら聞いてくる。
「…」情報があると期待して立ち止まってそれ以上の事が無いと判明して再び、歩き出す。
「……ユクナって…誰?」
……殺そうかと思った。
痕跡を残さないように彼女を追い抜いて姿を消す。
雑魚だった…。こんな雑魚に負けるなんて事は有り得ない。
ギャッーと微かに響いた声を聞いて奴がまだ生きていると考えた。
「おいおぃ、俺の配下が死んでんじゃねぇか」
さっき殺した魔族の数百倍は強い気配を察知する。
「てめぇか?」直後、残像を凝視していた事に気が付いて寸での所で、攻撃を躱す。
顔が溶けそうな程の熱気を受けながらあと半歩前で止まっていたらその時点で勝機を失っていた。
「あ?運がいいんだか悪いんだか…」
地面が急激に暑くなり、視線が下を向いた瞬間、上空から猛スピードで落ちてくる無熱の業火。
いつか見た罠。
本能的に股抜けで回避した。
スライブの3倍もある図体だからこそ成功した回避方法である。
「面白い……」聴覚を含めた五感を限界まで強化してなお微かに聞き取れる音声が木裏から聞こえた。
伏兵であると考えた瞬間、状況フリを悟って逃げに徹する。設置した地雷を顔色ひとつ変えずに踏み抜いて追い掛けてくる仇へ渾身の一撃を入れる。
空中戦で使う踏み台を拳に見立てて全力で当てる。
直後、腕が折れる感触を感じて当たり一体の魔力が蒸発した。「ランガー!用事が出来た、戻るぞ」
そのセリフが耳元で聞こえた。
左の鼓膜が破れたのを感じながら距離を取る。
「ほぅ、まだ何か隠し持っていますね?」
全力を出し尽くした後である。
ランガーと呼ばれた魔族を手で制す、魔族と思われる男の瞳が紅く輝いた気がした。
「ランガー、 帰りますよ」
「はぃ……」圧倒的な気配を漂わせていたランガーの気配が弱々しくなる。男が相殺する理由は分からないが、以前にユクナも同じ事をしていた。
「私は直属300位のバラールです。貴方は?」
「……スライブ」答えた瞬間、薄れ行く意識の中で何かされたのが分かった。
お疲れ様です。
(本編です)




