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いらっしゃい。
12話
ファンバーが退屈だと言って稽古をつけてくれることになった。止まったり死んだりすると走れ、避けろ、耐えろ、相殺しろ、見極めろ、死ぬなら足掻いてから死ね、被害を最小限に抑えろ、見抜け等などひとつの目的を与えてはひたすらに死守させる。
「飽きた…お前弱過ぎるな、勇者の寝首どころか生まれたての龍に負けるぞ」
話によれば生まれたての龍はゴブリンより弱いらしい。歳を取れば取るほど力を増し寿命がない為、真に歳の差が絶対の力となるらしい。それを魔族は年齢の高い龍を倒す事は四天王になる事と同じ名誉であると語った。初めての長話であった。
「壊れない武器を遣る」
「…太刀?直剣?」
変に歪曲した剣を投げ付けられた。
「お前には合わないな、刀ってなんだ?」
「……もしかして心とか読めます?」
「記憶を読んでるだけだ、騒ぐな」
「……」
え?過去って昔に忘れたんだけど。
「こんな感じか、お前の世界は退屈だな、昔の武士とやらの方がマトモだな」
いきなり重さが変わった直剣を見れば鞘と鍔が付いた正に日本刀があった。
「忍びの方が今のお前向きか」
「おぉー!俄然やる気が満ちてきた!」
「仕込み刀か、これは俺の国にもあるが俺の国のは粗末だな」
「貰っていいんですか?!」
ファンバーをこんなに尊敬したのは初めてだ!
「お前は失格だからな、冥土の土産だ」
突如、魔力の制御が乱れて死を直感し逃げる気すら起きない敗北感と劣等感…間違いない魔王様だ。
強くなればなるほど魔王様が強い事が分かる。
「ファンバーよ、この契約物はどうだった?」
「はっ…勇者の足元にも及びません」
「そうか…お主名を言え」
「は、はい!えっと……」
名前が思い出せない…。
やばい早くしないとファンバーに殺され…ってもう首がもげ…てない?魔王様が止めたのか…。
「…名は有りません」
「ふむ…ではファンバーよ、こやつに名を与えてやれ」ファンバーはこちらを向きニヤリと今まで見た事もない笑みで迷いなく答えた。
「スレイブ」なんだまともそうじゃな……。
「うむ、お主は今からスレイブと名乗れよいな?」
「…はい」
「では、スレイブよ、お主に課せられた制約は果たした。基準以上の成果を持って神々にこう言え、十分満足ですとな」
「はい…!」
瞬間の出来事であった。
ファンバーも魔王様も消えて残ったのはスレイブと名ずけられた俺と仕込み刀1本である。
魔力によく馴染んで妄想が捗る。
取り敢えず走り込みから始めて肉体が限界を迎えるまで追い込み続ける。そして体が壊れたら取り替えて無茶な動きに対応出来るようにした。
できる限り魔力の制度を高めた。
遂に変形魔力に属性が付いた。
風属性である。
空間に溶け込む訓練から一転して遊び回った。
無論、興奮と楽しさから技の考案から始まり風の微細な操作までなんでもやった。
ウィンドカッターことカマイタチなど定番から風を操って透明な彫刻も作ったりした。
目を瞑って魔力感知を行うとそこには新たな世界が…!この楽しさに目覚めてからは目を開くことを忘れ魔力感知をフルに活用して妄想の具現化に勤しんだ。最初は我が家を作る為にソファーやディスクなどを作り出して小部屋を作ると一軒家が何となく欲しくなって、更に庭が、それならいっその事豪邸にしようということで風属性の壁や小道具と家具の差を付ける為に属性を変える発想でそうだ、等身大のプラモを作ろうと思い付き各部品に合わせた属性で配色したりと、かなりのソロプレイを楽しんだ。
その繊細な魔力操作は確実な進歩を遂げた。
魔王様やファンバーが帰ってこない事を悟ってから毎日現実逃避を繰り返して遂に最強になる夢は諦めた途端に神様がもう満足なんですね?と説いてくると未練は有りませんと答えた。
「俺は…弱かった」
その一言を最後に意識が遠のいて行くのをただ受け入れる。
(俺は、欲に塗れて浅はかな夢を追っていたらしいな……圧倒的な力を妬む心を抱くのは何も俺だけじゃない。現地人が異世界人に嫉妬するのは身近だからだ。勇者が受け入れられるのは横棒な態度を取らないから、ってのもあるが1番は身近ではないからだな。考え方も在り方も。だけど俺みたいな欲に塗れた何処にでもいる奴はチュートリアルすらクリア出来ず惨めなまま死ぬんだなぁ…)
悠長にそんな事を考えてると意識が急激に覚醒しているのが分かった。
「…弱々しい気配が3つ……なんだこの超越感」
心の底を抉るような快感が心を喰らおうとして一瞬、魔王様の気配を感じると一気に劣等感が襲う。
「…魔物ってやつか……一応魔王様の配下なんだっけ?たくっ……あれ?俺の相棒が無いぞ」
どうやら仕込み刀はないらしい。
「気を抜くな…油断させて殺しにくるかもしれん」
だとしたら逃げるしかないのか。
いきなり強敵に出会う事はない…と思いたい。
木の棒でも拾って目潰しとかに使えたら……あれ気配が消えてる。
念の為、凝固と魔力障壁を展開してるけどあんまし信用ならんのよなぁ。
なんだ、やっぱり逃げたな。
森の中、感知できる範囲に鳥や鼠が一匹も居ない。
偶にそこだと思ってウィンドカッターを放ったら普通の昆虫だし。
普通の昆虫に敵意や悪意なんてのがあるのか?
取り敢えず魔法は一瞬でも防げたら儲けものだな。
数日経ったのに出口が見当たらない。
目を瞑って魔力感知で周囲を認識して的確に障害物を避ける事はできるが…情報量が多すぎて疲れる。
虫1匹の魔力も鮮明に読み取ろうとして頭の処理が追い付かなくなる。土の中にも気配や魔力の塊などが散乱してるせいで立ち位置が狂ったりする。
あの白い空間には地面の下なんてのはなかった。
「難しい…」ただただ目の前の木々の葉すら鮮明に感知しつつ土の中で蠢く虫にも気を配って。
今は何が不要なのかが分からない。
流石に疲れたので切り株に腰を下ろして森の中を見渡すとある事に気が付いた。
「情報量が少ない……!」
確かに木の裏に何があるかなんて見えないし土を掘り返さなきゃネズミが眠ってる事なんて分かりようもない。さらに言えば自然の魔力が酷く濁ってて何となく大きな気配しか直感で感知出来ないので仮に罠が設置されてても魔力感知だけじゃ見えないだろう。
泥水の底を見ようと懸命に覗く感覚。
その中に動く何かがあれば何となく分かる。
動かなくても何となく輪郭が見えてくる。
魔眼ならこれらがしっかりと見えるのか…魔眼持ちが羨ましい。
「自然の魔力って胸糞悪いな」
てか、さっきからバレてないと思ってるのかね、監視は上手くやらねばな。油断…俺の事を舐めて掛かってるのか?確かに一目見ただけでは強いかは分からないけどさ、流石にテリトリーに入ってきたら相手の強さとかは多少なりとも分かるよ?
なんて言って声掛けよう。
勇者よりは弱いけど一般人より強い自身はある。
あの監視より強い自信もある。監視されるんだから一般人よりは強いと認識されてる筈。
…なんで監視されてるんだ?
はっ、魔法使おうってか?ふざけるなよ。自然の魔力か隠し魔力かの区別も付かんのか。
何を考えてるのか分からんが向こうが話しかけてくるまで気配を断つことに専念する。
体力温存である。
お疲れ様でした。




