ドゥニーズの過去1
ドゥニーズは涙が止まらなかった。
サロモン様が亡くなったと聞いた時、凄く悲しかった! なのに生きていた! 何で? どうして?
何よりさっきのサロモン様の態度が許せなかった。
昔は仲良かったのに! 何で!? 冷たいよ!
昔のサロモン様……
『君は……彼じゃないね。ごめん。今忙しいから遊んであげられない』
んんっ? 冷たい! 冷たいよっ!? あれー?
優しいと思ってたのに、優しいサロモン様が記憶にない。
ドゥニーズは途方に暮れた。
〜〜〜〜〜〜
(ドゥニーズの知らない過去)
冷たい地面にお尻を強く打ち付けて俺は目覚めた。突然広がる目の前の世界。先ず初めに見たのは黒いフロックコートの30代の外人の男だった。白い肌に茶色の髪、鼻は高くてヨーロッパ系の顔立ちだった。そして、思った。
かっけぇ。絵になるぅ。ヒュー。
内心口笛を吹く俺だった。だが、目の前の外人の様子がおかしい。俺に殺意を向けてる。
「Ne m'en veux pas」
外人の手にはナイフが握られていた。俺はめちゃくちゃ焦った。
何だか知らないがピンチの様だ! どうしよう! 本当どうしよう!
「ウェイトウェイト! ちょっとまちな!」
言葉が分からん! というか俺の声が高い! まるで少女! それどころか幼児! えっ! ちょっと! 身体小さくない? 意味が分からない!
自分の全身を見ると可愛らしいワンピースだった。しかも小さい。
外人はピクリと米神を動かした。
「Quoi ?」
え? え? ちょっ!? 不機嫌にならないでぇ! てか! その言葉知ってる! 確かフランス語か!?
俺はなけなしの語力で外人を宥めた。
(↓これより日本語に訳しております)
「ちょっと待って。俺が何をした? 何故命を狙う?」
外人はピタリと動きを止めた。
「……3歳児だとは思えない言葉使いだな。それに俺だと?」
当たり前だ! 俺は80ぐらいまでは生きているからな! その後の記憶は認知症の所為か朧げだがな!
「俺はお爺さんだ」
「は? 何を言ってる?」
ああ。フランス語のボキャブラリーが少ない。辛い。日本人いないのここ?
辺りを見渡すとヨーロッパの歴史遺産になってそうな屋敷がある。そして、慌てた外人の60代ぐらいの燕尾服の男性が現れた。
「お嬢様!?」
おお! 歳が近そうな人が来た! 目の前の若者をどうにかしてくれ! 最近の若いのは恐ろしいぞ!
「助けて!」
俺は必死に叫んだ。すると、目の前のおっかない若者は「チッ」と舌打ちして逃げた。
燕尾服の男性が俺を抱き上げた。
「ご無事で良かったです! もう2度と目を離しません!」
涙ぐむ命の恩人の頭を俺は撫でた。
えらい。えらい。おっ白髪が多いな。俺はわりと黒かったなぁ。外人って色素薄いからハゲやす……ゴホン。
「この老いぼれを労ってくれるのですか? 何と優しい! まるで女神様です!」
おおっと。リアクションが大袈裟だな。流石外人。シャイな俺にはそのリアクションは無理だ。
ずっと黙ってる俺が不思議なのか、命の恩人は首を傾げた。
「お嬢様? ショックのあまりに言葉が出ませんか?」
そのお嬢様って俺の事だったんだ。確かにショックだ。色々とショックだ。
俺は素直に頷いた。命の恩人は大袈裟に涙ぐんだ。
「お可哀想に。この執事めがしっかりとお嬢様をお守り致します。ご安心下さい」
それは、安心だ。もう、命を狙われるのは勘弁してほしい。
「ありがとう」
「はい!」
屋敷の中へと俺は運ばれた。外観も綺麗だったが、内装も素晴らしかった。
……掃除が行き渡っている。そして色々と高そう。うろちょろすると高価な家具や美術品が傷つきそうだ。
俺は執事にしがみついた。執事が「おやおや」と和んでいる。
エントランスには5歳ぐらいと3歳ぐらいの幼児2人がいた。5歳児は銀髪で3歳児は金髪だ。天使の様に可愛らしい。
外人の子供はめんこいのぉ。……ハッ!? いかん! 俺はジジイじゃないぞ! ジジイ言葉は使わん! 俺は若い! 若いんだ!
しかし、うっかり「めんこいのぉ」と口走っていたそうで、執事と幼児達は首を傾げた。
銀髪の幼児がおずおずと口を開いた。
「ドゥニーズ。大丈夫だった? 変な人がいたから心配したよ」
金髪の幼児が元気良く喋る。
「おい! 勝手に居なくなるのダメなんだぞ!」
めんこいのぉ。ひ孫じゃ。儂結婚しなかったからひ孫欲しかったんじゃ。……ハッ!? いかん! 俺は若い! 若いんだぁああ!!
「ごめんね。心配かけました」
俺はぺこりと頭を下げた。
「お嬢様。サロモン様がこの執事めにお嬢様が危険だと知らせてくれたのですよ」
そうなんだ。こんなに小さいのに偉いなぁ。ところでだ。
「サロモン様はどっちですか?」
金髪の幼児が笑いこけた。執事と銀髪の幼児が「え?」と驚く。
いや。だって、初対面だから。
銀髪の幼児が「私だよ」と手を上げた。
「サロモン様ありがとうございました」
改めて俺はぺこりと頭を下げた。
ところで、このサロモン君なのだが、幼児の割にほっそりしてない? 肉があんまり付いてないから、大人びて見える。
「サロモン様はご飯ちゃんと食べてますか?」
サロモン君は驚いた。
「……あんまり」
やはり。栄養不足だな。ここは命の恩人の為に一肌脱ぐとしよう。