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再会

 


 ドゥニーズとテレーズ、フランシスはウィスターソースで焼いた蕎麦の麺とサーモンのポアレを囚人達に配膳していた。


 フランシスは付いてきたドゥニーズに首を傾げた。


 囚人が怖いって言ってませんでしたっけ?


 フランシスの中のドゥニーズへの評価はサイコパスなのに、未だに嘘を信じているらしい。


「ドゥニーズさん。怖くないんですか?」


 唐突に話を振られたドゥニーズは「へ?」と首を傾げた。


「何がですか?」


「囚人が、です」


 ドゥニーズはキョトンとした。


「全然怖くないですよ」


 嘘を吐いた事すら忘れてる単細胞なドゥニーズであった。


 テレーズがため息を吐く。


「……お嬢様は普通の令嬢とは違って泰然としてますからね。蕎麦の麺を作りたかったから嘘を吐いたんですよ」


 フランシスはショックを受けた。


「……嘘だったんですね」


 ドゥニーズはショックを受けるフランシスを見て「あっしまったわ。忘れてたわ」とほんのちょっとだけ反省した。




 サーモンのポアレは囚人のみんなが普通に食べていたが、ウィスターソースで焼いた蕎麦の麺は見た事が無いので戸惑っていた。


 ドゥニーズをフォークで刺した囚人が「聖女様からの施しを断るわけにはいかねぇ」と言って率先して食べた。


 すると……


「うめぇ! うめぇよ! 病みつきになる!」


 と美味しそうに食べた。因みに、ドゥニーズがかつてストレス発散に校庭の木を切り刻んだものを、箸として差し出してみたが、誰も使ってくれなかった。


 そのウィスターソースで焼いた蕎麦の麺はドゥニーズじゃなく、テレーズやフランシスが頑張って味付けしていたので、ドゥニーズは美味しいと言われても特段嬉しいとは感じなかった。


 うーーん。微妙な気分ねー。


 結果的に囚人達に大好評だったが、ドゥニーズだけは不満であった。



 フランシスが監獄の中の貴族の為の特別な区間へ向かう。


「ドゥニーズさん達は先に厨房に戻って下さい。この先は関係者以外は立ち入り禁止なので」


 へー。そうなんだー。とドゥニーズは頷いた。貴族の囚人など全く興味がないので、今回は嘘を吐いて強行突破する事はしなかった。






 フランシスは貴族が監禁される部屋の扉をノックする。


 コンコン


「フランシス?」と扉越しに青年の声が響いた。


「はい。昼食をお持ち致しました」


「入って良いよ」と許可を得て扉を開いた。そこには顔色が悪い銀髪に碧瞳の青年がいた。全体的に線が細くて弱々しい印象だ。


 くたくたに茹でたパスタとハムが手を付けていない状態で残っていた。


 ……また残してある。うーん。


「少しは食べませんと元気になれませんよ」


 青年は困った様に笑った。


「食べる気が起きないんだよ。フランシスの料理は美味しいのにね。……何でだろう。可笑しいよね。あのシェフの料理が嫌でここに来たのに、結局食べれないなんて……」


 思い詰めた表情の青年にフランシスは悲しくなった。


「……私の力量不足です。申し訳ないです」


「気にしないでよ。昔は平気で食べれたのが不思議なんだ」


「……きっと昔は体調がよろしかったのでしょう。この料理もきっと食べれませんね」


 サーモンのポアレとウィスターソースで焼いた蕎麦の麺を一応テーブルに広げた。


「……何この茶色の麺?」


 ……そうですよね。囚人の皆さんはそういう反応でした。


「蕎麦粉で作った麺だそうです。その麺を作ったのは今日から厨房で働く事になったドゥニーズさんです。奇想天外な料理を作るので困りました」


 青年は口を押さえて震える。


 こんなに震えて可哀想に……。そこまで気弱な方でしたっけでしたっけ?


 青年は「え?」とか「彼なのか?」と一人混乱状態になった。


 ……ドゥニーズさん。あんなにめちゃくちゃな人だからこの方も知ってるのかもしれませんね。


 青年は息を吸って吐くという動作を繰り返し、フランシスの目をじっと真剣に見つめた。


「ドゥニーズは 俺 とか めんこい とか言ってなかったか?」


「は? ……失礼しました。言ってませんよ」


 この方が知ってるドゥニーズさんはどうやら男性の様ですね。……めんこいってなんだ?


 青年は「しかし……蕎麦を知ってるのは彼しかいない」と立ち上がり部屋から出て行く。


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


 フランシスは慌てて後を追った。





 ドゥニーズは皿を洗うテレーズを眺めていた。テレーズは見てるだけのドゥニーズに「手伝って下さい」と注意する。


 ドゥニーズは「うーーん」と唸る。


 テレーズは「どうしました?」と首を傾げた。


「それがね。皿洗いのやり方知らないのよ」


「……貴族の令嬢ならそれが当然ですね。……ちょっと待って下さい。お嬢様本当に料理した事なかったのですか? あの麺を作ったり、魚を捌いたり、どう見ても料理経験ありそうなのですが……てっきり学校で習ったのかと思いました」


「学校で料理は習わないわ。テレーズは知ってるかしら? 人には前世があるって」


「あー。東の方の宗教でしたっけ? 森羅万象? じゃなくて輪廻転生でしたね」


「そうそう輪廻転生。私ね。どうも前世の記憶が部分的に蘇ったみたいでね。その知識で料理したのよ」


「……到底信じられませんね。でもそうでないと辻褄が合いませんね」


「私だって信じられないわよ。手がね。どう見ても女性じゃないのよ」


「ほお」


「筋張ってるのよ。しわくちゃの手だった事もあるわ。不思議よね」


「……ドゥニーズ様の前世が男性だったのならば何ら不思議ではありませんよ? それにご老人になるまで生きていたという事では?」


「……やっぱり?」


「……私に分かる訳ありません」


「だよね〜」


 そんな事考えても仕方がない。ドゥニーズは気持ちを切り替えて次の料理をしようとした。が、扉がガチャッと突然開いて、この世にいる筈のない人物が現れた。


 弱々しい印象の銀髪の青年は観察するようにじっとドゥニーズを見つめた。


 う、うそっ!? サロモン様の亡霊っ!?


 足を見てみるが……あった。


 生きていたのですか? そ、そんなぁ。そんな事ってっ。


 涙が溢れた。嬉しいのに、何で私に生きてるって教えてくれなかったんだっという怒りで視界が白くなった。



 驚いたテレーズが代弁してくれた。


「……貴方は第一王子サロモン様ですか?」


 銀髪の青年ことサロモンは頷いた。


「ああ。そうだよ。次は私からの質問だ。ドゥニーズ。君は、彼なのか?」


 再会早々に一体どこの男をお捜しですか?


 ドゥニーズときて彼となると……前世の自分しかない。ドゥニーズは猛烈に気になった。


「……サロモン様は男性が好きなのですか?」


 サロモンは眉間にシワを寄せる。


「質問に質問で返すのはいただけないね。では質問を変えよう。君は何故蕎麦の麺を知ってる?」


 あー。イライラする。あー。もうムカつく。


 まさか、まさかの恋敵が前世の自分だなんてっ!


 あくまでドゥニーズの勝手な思い込みである。


 ドゥニーズは頬っぺたを膨らました。


「知らないっ! サロモン様なんてだーい嫌いっ!!」


 ドゥニーズは厨房から逃げたのであった。



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