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不満

 

 ドンッ


 ジャンは自身の執務室の机を拳で叩いた。


「あいつは何でちっとも悔しがらないのだぁああ!?」


 ドゥニーズは婚約当初から可愛げがなかった。……いや可愛かったが可愛げがなかった。


『これからよろしくお願いします』と10歳のドゥニーズはのんびりとした口調で俺にぺこりとお辞儀をした。……可愛かった。


 いやいや、違う違うぞ。あいつは全然ヤキモチを妬かないんだ! 普通婚約者が他の女と仲が良かったら頬っぺたの一つや二つ膨らませるだろう! なのにあいつはのほほんと「仲が良いですねぇ」とニコニコしていた。可愛か……げふんっとにかく気に入らないのだ!



 ミラがニコニコと俺に紅茶を入れながら嗜めてくる。


「まぁまぁ。円満に婚約解消できてよろしいではないですか。本人が承諾してくれるのに越した事はありませんよ」


 ミラはひたすらニコニコしている。ご機嫌みたいだ。まぁ、カッコよくてナイスな俺と婚約出来たのだから当然の反応だな。


 自意識過剰でナルシストなジャンであった。外見が本当に良いのでタチが悪い。


「それもそうだな」


 ところでクレマンが部屋の隅の方でミラをちらちら見ては怯えているのだが、どうしたのだ?


「クレマン。もっと近くに来いよ。どうした?」


 クレマンは「ひぇぇ」と小さな悲鳴を上げる。


「御二方は次期国王陛下とその妃です。恐れ多くて近づけません」


 ……何言ってんだコイツ? 昨日まで、一緒に遊んでたじゃないか。


「何を今更。なぁミラこいつ変じゃないか?」


 ミラから何故か知らないが、冷気が漂ってきた気がした。


「そうですか? 当然の振る舞いに思いますよ。ねぇクレマン?」


「はいぃぃぃ!」


 え? そうなのか? クレマンが明らかにミラに怯えてるぞ。こいつらに何があった?


「……ミラ。クレマンと何があった?」


「大したことではございませんよ。クレマン様はドゥニーズ様に剣を振るいましたでしょう? 牽制の為とはいえ、ご令嬢に対して失礼ではないでしょうかと思ったので、注意しただけです」


 表面上はニコニコしているミラだが、クレマンに対する憎悪の念が身から溢れ出ていた。


 ドゥニーズサマヲキズツケルコトハユルサナイ


 憎悪の対象であるクレマンは「すいません!!」と泣き喚いた。


 一人蚊帳の外のジャンは虐められていたのにミラは優しいなと感心した。



 カッカッカッカッ


 ヒールの音が扉の外から響く。


 ダーーンッと扉が弾け飛びそうな勢いで開いた。そして、現れたのはドゥニーズの母レーヌだった。


 ドゥニーズとは似ていないしっかりとした女性で男相手にもはっきりと物を言うレーヌ。


 ジャンとドゥニーズとの婚約は政略的なものだ。ジャンは小さな頃から王様になりたかった。勉強は大嫌いでやる気にもならなかったが、それでも王様になりたい。父に相談すると、「ドゥニーズと結婚すればなれると思うぞ」と言われ、ならばとレーヌに頼み込んだ。すると、レーヌは仕方ないわねと頷いた。


 レーヌからしたらしつこく求婚しといて何勝手に破棄してんだよ!? だろう。


 ジャンは あっこれ死ぬかもと死期を悟った。


「お、おばさ」


「あ?」


「じゃなくて、お姉さん」


 険悪な表情からにこっと笑顔になるレーヌ。


「なあに? ジャン。相変わらずカッコ可愛いわねぇ。学校ではさぞモテたでしょう?」


 ……お姉さんって言うとご機嫌なんだよね。


「お久しぶりです。相変わらずお美しいですね。思わず見惚れてしまいました」


 褒めて婚約破棄の事をうやむやにしようとするジャンであった。


「あら、お上手ね。そう言ってそちらのピンクの娘を誘惑したのかしら? 婚約者がいたのに大胆ね」


 ……やっぱり、相当怒ってる!!


「違うのです。ドゥニーズは彼女が平民だからと虐めていたのです。俺は彼女を助けたまでです」


 そうだよね? とミラに同意を求めたが、何故か視線を逸らされた。……あれ?


「……ドゥニーズが、そんな頭を使う事をする訳ないじゃない。あの子は勉強で手が一杯なのよっ!? 空き時間があれば現実逃避してるに決まってるじゃないのっ!?」


 何故だろうか。やけに説得力がある。流石母親。


「その現実逃避に虐めるという行為が入っていたのでは?」


「だからっ! 虐めるってのは頭の良い者が出来る特権よ!? うちのドゥニーズにそんな芸当が出来るはずがない!」


 ……ドゥニーズを褒めてるのか貶してるのか分からない。


「ともかく。うちのドゥニーズと婚約破棄して無事で済むとは思わない事ね。せいぜい後悔なさい」


 ドンッ


 ふん! と鼻息荒く叔母さんは扉を勢い良く閉めて出て行った。


 ……終わった。あの人実は王位継承権第二位なんだよ。ドゥニーズは第三位。俺は第一位だけど、継承権を持つ二人を敵に回してしまった。終わったなこれ。


 叔母さんが出て行った直後再び扉がダーーンッと開いた。


 またか。


 叔母が戻ってきたと思ったが、違った。


「このぉおお! ばかもんがぁあああああ!!!」


 国王陛下こと父が血走った眼を見開いて叫んだ。


 うるさっ!


 あまりにも大ボリュームにキーンと耳が鳴る。耳を塞いだが既に遅かった。


「お前は何してるんだ! せっかくっせっかくっ次期国王としての地盤がととのいつつあったのに、それを自ら崩すとはアホかっ!? ドゥニーズはな! お馬鹿だが、お前よりかはマシなのだぞっ! それをたかが虐めたぐらいで破棄するな!」


「ち、父上。虐めはダメですよ。そんなのが王妃になってはなりません」


 だよねミラ? とミラに視線を送ったが視線を逸らされた。……あれ?


「ち、父上。ドゥニーズよりもミラの方が遥かに賢いです。王妃になるのは彼女の方が適任です!」


 すると国王陛下は考えた。


「……それは誠か?」


 父の目がきらっと光った。


「ええ。彼女の成績は常に次席。宰相候補であるディオンの次に賢いです」


「ほお。……野暮用を思い出した。失礼する」


 父はあっさりと出て行った。


 ……賢いのはウェルカムらしい。



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