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危険

 


 おいおい。2人してサイコパスでも見てる様な目をしているではないか。そんな奴がどこにいるってんだい?



 どこも何もお前(ドゥニーズ)だよ。



 私は後ろを確認すると、お爺ちゃん執事がいた。


 ふっ。この執事がサイコパスだって? 笑っちゃうね。


 私は両手を上げてやれやれと呆れて見せた。



 勉強が苦手なドゥニーズには人の考えを読み解く能力……即ち空気を読むという高度な技術を持ち合わせてはいなかった。



 テレーズがフランシスさんにこそっと耳打ちする。


「……お嬢様は生魚の危険性を知らないのかもしれません。そうとしか思えません」


 フランシスさんは「なるほど」と頷く。



 おやおや。この2人はいつの間に仲良くなったんだい? 妬けちゃうね。ひゅー。魚は焼かせないけどね。


 只今、魚が切れて調子に乗ってる私は心の中で口笛を吹いた。



 フランシスさんは真剣な表情で説明しだした。


「……魚には寄生虫が潜んでます。その寄生虫は生のままだと死滅しません。つまりは生魚を食べると生きた寄生虫まで食べてしまい腹痛、嘔吐などといった症状を引き起こす可能性があります。だから加熱して寄生虫を殺す必要があります。知ってましたか?」


 フランシスさん。私の事をなめてますね。それは仕方ない事ですね。無知な娘にしか見えないでしょう。



 無知の娘の方がまだマシだ。フランシスの中ではドゥニーズはやばい奴だと認識されている。




 ふふふふふふふ


 私は紙袋に突っ込んでおいたソレをフランシスさんに見せてあげた。明らかに顔を顰めるフランシスさん。


「これが、その寄生虫ですよね?」


 私はドヤ顔で3センチ程の白い糸の様な寄生虫を指した。


 フランシスさんは「ええ。確かにそうです」と納得いかなそうな表情で頷く。


「……知っているのに、しかも寄生虫が入っていたのに、生でこの魚を食べるのですか?」



「寄生虫は魚の内臓に潜んでます。魚が死ぬと寄生虫は筋肉へと移動します。つまり新鮮なうちに内臓を取り除く事で寄生虫も取り除く事が出来ます。こうして食中毒の確率が減ります」



 紙袋には寄生虫と共にサーモンの内臓が入っている。


 フランシスさんとテレーズは私に尊敬の眼差しを向けます。更にドヤ顔になる私。


「へー。初めて知りました。ところでお嬢様。食中毒の確率が減るだけで絶対では無いのですか?」


 ふっ。何を当たり前の事を訊くのかしら。


「もちろん。寄生虫が身に潜んでいる危険はあるわ。こうして薄切りにする事によって寄生虫が潜んでないか調べたわ。魚を細かく切り刻んで寄生虫を殺す方法もあるけど、身の弾力を楽しみたかったからやめたわ。それでも、安全とは言えないわね」


 安全じゃないと聞いてフランシスさんとテレーズは「やっぱダメじゃん」という視線を向けてくる。


 そりゃ危険ですよ。危険ですけど!


「美味しいものには危険が伴うものです。一か八かの賭けを愉しみましょう!」


 だって、生魚美味しいんだもん! 多少のリスクには目を瞑るべきよ!


 とことん美食を追求するドゥニーズであった。


 すると、お爺ちゃん執事が手を上げた。


「私はお嬢様の意見に賛成ですよ。はい。といってもこの先が短い老いぼれですからな。どうせならば美味しいものを食べて死にたいと思ってます。お嬢様。この老いぼれにその美味なる料理を出して頂けませんか?」


 へ? へぇえええ!?


 私はまさか賛同する者がいるとは思わなかった。驚愕だった。誰だって苦しみたくないだろうに。


「い、良いの? 美味しいけど、お腹痛くなるかも」


 お爺ちゃん執事は「良いですよ。はい」としっかりと頷いた。


 なんだろう。とっても嬉しいわ。仲間を得た気分。


 サーモンの刺身が盛られた大皿を持って私は考えた。


 別の世界の私は魚の寄生虫で食中毒になった事がある。あの腹痛は手術によって直ぐに良くなった。だが、この世界にあの最先端な手術ができるだろうか? ……無理だろう。時間が経てばあの腹痛は治る。しかし、大事な存在であるお爺ちゃん執事が腹痛に苦しむ姿を見たくはない。



 やっぱり、料理人は多少味が落ちようとも安全性を追求するべきよね。


 料理人歴半日未満のドゥニーズはおこがましくもそう思った。




「ごめんね。やっぱなし」




「おやおや。それは残念です。はい」



 お爺ちゃん執事に謝り、私はフランシスさんにサーモンの刺身が載った大皿を渡した。


「これ焼いてください」


 フランシスさんはほっと息を吐いた。


「はい。分かりました」


 テレーズもほっとした様で「良かったですよ。生魚なんて食べるなんて恐ろしいですよ」と胸を撫で下ろす。


 何を言ってるの?



「私は食べたわよ」




「「は?」」




「だから、食べたわよ。自分が食べれないものを人に出すわけないじゃない」



「「今すぐ吐けぇえええ!!」」




「絶対に吐くもんかああああ!」




 その後抵抗したのに強制的に吐かされた。解せぬ。




ご指摘がありましたので注意喚起させていただきます。


※魚の寄生虫ですが、−20度で24時間冷凍すると死滅するそうです。養殖で育てた魚は徹底した餌の管理により寄生虫を魚が食べない様にしてます。こうした徹底管理のお陰で、最近では安全にお刺身を食べれる様になったそうです。


筆者の知識はかなりアバウトなので参考にしないようにお願い致します。



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