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ドゥニーズの過去2

 


 それにしても、大きな屋敷だなぁ。みんな中世ヨーロッパの様な格好だし、それがまた様になってる。うーん。……俺はひょっとして昔のフランスの国民に生まれ変わったのだろうか? 生まれ変わるが必ずしも未来とは限らないしな。うんうん。


 そう勝手に結論づける事にした。そして、気になるのは自分である筈のこの女の子。サロモン君がドゥニーズって呼んでたので恐らくそれが名前だろう。ドゥニーズについて、あれこれ聞きたいが、サロモン君について聞いた時の反応からして、あまり質問するのは得策では無さそうだ。頭大丈夫か? となって心配されるのは面倒である。


 俺はとりあえず流れに身を任せる事にした。和を重んじる日本人な俺に、ここに馴染むという芸当は不可能ではない筈だ。


 執事が俺のお尻を見て顔を顰める。


「お召し物が汚れてます。お着替えしましょう」


 ……そういえば、お尻から地面に転んだ。


 お尻に掌を当てると、土が付いていた。見えなかったから気づかなかった。


 金髪の幼児が「汚い!」と言って俺のお尻を指差す。純粋な目がまんまるで可愛かった。


 ……悪意を感じない。純粋な幼児、良いな。


 静かに感動する俺。執筆は金髪の幼児を「これ、人に指を指して笑ってはいけません」と嗜める。


 金髪の幼児は逃げてサロモン君を盾にした。サロモン君は「駄目だよ?」と背後に隠れる幼児を嗜める。


 叱らなくても良いのになぁ。子供に甘々な俺はひょっとすると、育児には向いてないかもしれない。サロモン君の方が向いてそう。まだ5歳児なのに……。


「ささっ行きますよ」と執事が手を差し出すから俺は反射的に手をのせた。


 あー。良かった。誘導してくれると助かる。どこ行けばいいか全く分からないからな。……俺は認知症の爺さんかよ。






 執事に連れられたのは、屋敷の中にある誰かの私室であった。そして、お姫様ベッドがあった。


 メルヘンなお部屋だな。畳み好きな俺には辛い部屋だ。


 執事が着替えをメイド服のお姉ちゃんに頼んでいた。


 おー。メイド服。スゴイスゴイ。背景に合うね。若い頃は良いかも、と思ったが、トラウマのせいで、20代ぐらいの女の子苦手なんだよね。


「執事が良い」


 俺は執事の服の端を掴んだ。執事が「おやおや」と和んだ。


「仕方ありませんね」と執事が服を着替えさせてくれた。……気のせいか? メイド服のお姉ちゃんの顔が一瞬歪んだ。……トラウマのせいで悪く見えるのかな? ぶるりっ。


 執事が姿見に掛かる布を取り払う。そこには……何という事でしょう。ブルネットの可愛らしい幼女がいました。目は深い碧い瞳です。肌は白くて頬はほんのりピンクでございます。


 ほっほっほっほっ。これまためんこいのぉ。儂は3人の曾祖父(ひいじい)さんじゃ。幸せじゃ。


 背後から鏡を覗き込む執事も目を細めて和んでいる。同志よのぉ。


 ほのぼのしていると、メイドが「もうすぐ、お昼ご飯のお時間です」と知らせてくれた。


 水を差すとは、空気の読めんメイドよのぉ。……ん? また、ジジイ言葉になってる!? ……まぁ、いっか。


 俺は執事の手を掴んで、連れて行ってくれ! と暗に告げた。


「はい。では行きましょう」


 執事は和んだままの表情で俺を誘導してくれた。……俺は認(以下同文)






 広い部屋だった。脚の長いテーブルは机も横に長い。奥に腰掛けるのは三十路の男性だった。髪の色がドゥニーズと一緒だ。顔立ちは……おかしいな日本人顔に見える。あれ? ここって日本人いるのか?


 俺は日本語で「すいません。貴方は日本人ですか?」と尋ねてみた。すると、別の椅子に腰掛ける三十路の女性が「え?」と俺を一瞬見た。しかし、再び疲れた顔に戻る。「気のせいね」と首を振るった。


 まさかの。そっちが日本人なのか!?


 その三十路の女性は金髪に碧い瞳の如何にもヨーロッパ系ですという見た目だった。


 ……しかし、俺はその歳の女性が苦手なんだよね。暫く様子を見よう。


 日本人顔な男性は「どうしたドゥニーズ? 頭を打ったのか?」とフランス語で話してきた。姿はフロックコートであるが、普通のちょっと地味な日本人顔である。


 頭じゃなくてお尻を打って、おかしくなりました。と言えたらどんなに楽だろう。


「何でもありません」と俺は誤魔化した。


 食事の席にはあの幼児2人もついていた。


 これで、何でサロモン君が少食なのか分かるかもな。


 サロモン君が「レーヌさん。ドゥニーズが変な人に狙われました。危ないです」と女性に説明する。


 ……サロモン君。優しいのぉ。儂嬉しくて泣いちゃう。ドゥニーズちゃんをしっかりと守るのだぞ。よっ! 男の子!


 儂はちょっと演技してみた。「怖かったぁ」と涙を浮かべてみた。


 か弱い女の子を守る事でサロモン君よ。自信をつけるのじゃ!


 レーヌさんは目を見開いて俺を凝視した。俺は顔を逸らした。


 怖いヨォ。女性怖いヨォ。演技なんてしちゃいかん。


「……ドゥニーズ。執事から離れてはいけませんよ」


 レーヌさんは真剣に俺に注意します。俺は全力で頷きます。


 頼むから、あんまり見ないで下さい。怖いんです。


 執事が「旦那様には到底及びませんが、この命をかけてお嬢様をお守り致します」と俺を守ってくれた。


 ……同志よ。頼むぞ。


 俺は感動して涙ぐんだ。


 レーヌさんは「あの屑野郎め。ぶっ飛ばしてやる」と小声で物騒な事を言ってます。怖いです。


 そんなこんなで、お昼ご飯が運ばれて来ました。メニューはじゃがいものグラタンでした。フランスパンと人参を甘く煮たグラッセも付いてます。ドリンクはミルクです。美味しそうですね。


 早速食べてみました。チーズが伸びますね。スライスされたじゃがいもがバターが効いて美味しいですね。フランスパンは……固い……歯が小さいから食べれないです。気付いた執事が牛乳に浸してくれました。人参もバターと砂糖の味が染みて甘くて美味しいです。牛乳も美味しいです。御馳走様でした。


 そして、完食して思った。乳製品多くない? フランスではこれが普通なの?


 首を傾げて周りの人を見ると……サロモン君がお皿に全然手をつけてません。俺を見て「フォークの使い方上手だね」と感心してます。


 いやいや、それよりも食べなさいよ。大きくなりませんよ?


「食べないの?」


 サロモン君は「お腹痛くなるから嫌なんだ」と言います。


 そうなんだ。お腹痛くなる原因が目の前にある気がしてならないぞ。


「何を食べると痛くなるの?」


「……よく分からない」


 5歳児に分かる筈ないよね。これは儂が悪かった。大人に聞いてみるか。レーヌさんは苦手だし、日本人顔の人は名前が分からないし……同志に聞いてみるか。


「サロモン様は何を食べるとお腹が痛くなるの?」


 側に控えていた執事は「……私にも、分からないのです。サロモン様の体調が優れないので、自然豊かな旦那様の屋敷に療養しに来たのです」と申し訳なさそうに答えた。


 体調が悪くて療養しに来て、この味付けの濃いメニューですか? ちょっと、おかしくない?


「……病気になっても、この料理を食べるの?」


「そうですね。はい。栄養化の高い食べ物で病気を克服するのが常識です」


 ……なんじゃそりゃ? 確かに栄養をとって免疫力を高めて病気を治すのは、間違ってはいない。間違ってないが……それは食べれたらの話だ。


 決めた! 曾祖父さんはサロモン君の為にお腹に優しい料理を振るうぞ! 任せておけ! 儂こう見えて料理経験は豊富じゃから!


「厨房に行きたいな」


 執事は焦った。


「それは……何故でしょう?」


「料理するの」


「お嬢様がですか? 無理です」


「無理じゃない」


 本当に無理じゃない。


「それが……貴族は料理をしてはいけないです。旦那様はともかく、奥様が赦しません」


「…………貴族?」


 貴族って誰が?


「お嬢様は貴族ですので駄目です」


 貴族だったのか!? だでか! だで豪華な屋敷なのか! だで執事いるのか!?


 ドゥニーズちゃん。君は偉い身分の子なのだね。儂、寿命縮んだよ。多分一回死んでるけど。


 そして、サロモン君は、やはり食べる気が起きないそうだ。儂頑張るぞ! めげないぞ!


「食べたいものがあるからシェフに頼みたいな」


「え? まだ食べれますか? それ大人の量ありましたよ?」


「うん。まだ食べたいの!」


 貴族ならば、多少の我儘は通る筈だ。貴族って偉いって事以外よく知らないが……。


 執事が「かしこまりました」と、シェフを呼びに行った。



読んでいただきありがとうございましたm(__)m

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