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真由美ちゃんと別れた後、私は走って部室へと戻った。しかし、音楽室ににしとねちゃんとユリカちゃんの姿はなかった。ギターとドラムは私が出ていった時と同じ場所に置かれていたままだったので、おそらくトイレに行ったか、飲み物を買いに購買部へ行ったのだろう。
もう少し待っていくれていてもよかったのに。私は少しだけ不満に思いながらも、隣りにある音楽準備室へと入った。二段になった棚の上に置かれていた練習用のベースをつかみ、ケースの上に薄っすらと積もったホコリを手で払う。
どうせ世界は滅びる。音楽室に戻り、ベースのチューニングをしながら、ふと真由美ちゃんの言葉を思い出す。今の私は、世界を救えるだけの練習もしていなかったし、世界が滅びた後、どうやって生きて行けばいいのかもわからなかった。それに三人で練習すること自体は好きだけど、プレッシャーのかかる本番はそれほど好きではない。世界も終わらず、文化祭当日もやって来ず、ずっとずっと今みたいな日々が続けばいいのに。
私は音楽室の壁にかけられた時計へ視線を向けた。時計は十二時十分前を指し示し、一秒間隔で一秒だけ秒針を進めている最中だった。真ん中の下にくり抜かれた四角いカレンダー窓には、今日の日付が表示されている。こちらの事情も考えず、ただただ設計された通りに針を進める時計に少しだけ腹が立つ。私は椅子の上に立って壁から時計を外し、一時間だけ針を巻き戻してやった。しかし、一時間だけ時間を遅らせたところで何になるのかと考え直し、思い切って、さらに一日分針を巻き戻した。カチリという機械音とともに、カレンダー窓の中の日付が昨日の日付に変わる。私は時計を壁にかけなおす。ちょうどそのタイミングでしとねちゃんが部室へと帰ってきた。
「おかえり」
「戻ってたんだ」
しとねちゃんは自販機で買ってきたいちごオレを机の上に置きながら言った。それからしとねちゃんは壁の時計へと目をやり、そして小首をかしげた。
「あれ、まだ十一時?」
「そうだよ」
私は笑いながら返事をする。しとねちゃんは納得いかなそうな表情を浮かべ、自分のスマホを取り出した。スマホの画面と時計が示す日時を交互に見比べた後、しとねちゃんは肩をすくませ、渇いた微笑みを浮かべて見せた。
「ちょっと疲れてるかも。時間どころか日にちも勘違いしてた」
しとねちゃんは部室においていたギターを手に取る。私はこっそりと自分のスマホを取り出し、画面を確認する。画面には音楽室の時計と同じ時刻と日付が表示されていた。