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建国作戦会議(春会議)

 

「では建国作戦会議をここに開催します!」


「バチン」と手のひらをテーブルに叩き付けてエドガーが宣言した。


 リビングのヒビが入ったテーブルに、台所のテーブルをつなげた。

 部外者だと考えていたヴィオラはエドガーの隣に座っている。

 逆側に座ったミリエルは、可愛らしく微笑んでいる。


「はい!」

「ミリエル」

「”落とし子”ギルドタワー大臣にエドガー様を推薦します!」

「賛成です!」


 完全に二人の茶番になっている……。

 だが、教会送りの”落とし子”を集める事を、私もずっと考えていた。


「魔術師ギルドは王国に縛られる存在ではありませんよ。協力関係ですから。新たな魔術師ギルドを創設してタワーをもう1本建てましょう」

「賛成します!」


 子供たちは大臣の肩書きにはこだわりはなさそうだ。

 あっては困るけど。


「では、錬金術師タワーの建設を提案します!」

「却下します!」


 エドガーがヴィオラの意見を即却下する。

 ミリエルが「フッ」と勝ち誇った顔をヴィオラに向けた。


「だな。錬金術師なんて奴隷階級にふさわしい」

「滅茶苦茶なヤツだな。禿げは二級市民にでもするか?」

「馬鹿を言うな!俺は軍務大臣だ!俺しかいない!」


 ロマッリは建国に加わるつもりらしい……。

 大臣とかこの人は子供以下か?


「許可します。ロマッリさんを軍務大臣に任命します!」

「任せろ!なら、ケリマは~、酋長だな。少数部族のドコカノ酋長だ」


 ケリマは無言でロマッリの頭を「バシバシ」叩いていた。

 とてもいい音がする。


「肩書きより、まずはどうやって建国するかを話し合いませんか?」

「バイオレットお姉さまに賛成します。軍務大臣と酋長の意見を下さい」


 酋長のケリマはエドガーを睨みつけたが、腕を組んで考え始めた。

 大臣ヅラしたロマッリが私に顔を向ける。


「さっき小娘が、いや小娘女王が言っていたことだが”王国の最果ての魔獣を倒して安住の地を得る”って話は無理だぞ。なぜだかわかるか?」

「敵の数が多すぎますか?戦力が足りない?」

「それもあるかもしれんな。じゃあ、ザインツの町にドラゴンが出たとする。10年間誰も寄り付かないほどの強敵だ。そいつをこの俺が倒したとしよう。そうしたらザインツの町は俺の物にしていいのか?」

「いけませんね。王国領ですし、ハーディング公爵家の所領でもあります」


 長年放置している魔獣の森も、王国領に変わりないということか。

 魔獣を退治したからといって領有権が移るはずはない。

 簡単なことに気が付いていなかった。


「ダンジョンだってそうだ。周辺の住民が避難しても領有権は揺るがない」


 ロマッリの言う通りだ。

 ダンジョンからモンスターを駆逐しても、そこに留まれば不法占拠だ。


「シューチョウコトバワカラナイ」

「ケリマは酋長を解任します!」

「めんどくさいヤツだな……。軍務大臣直属の隠密部隊のトップをくれてやる」

「仕方ないなぁ。お前は私がいないとなんにもできない、禿げた親父だからな」


 ケリマは上機嫌になって口を開く。


「魔獣やダンジョンのせいで所領だけでなく、その周辺にまで被害が及ぶ場合は領地を放棄することがある。小娘女王の実家も、他人事じゃないはずだけどな」

「コフィ!コフィにあるダンジョンのことですよね!?」

「コフィ?あそこはハーディング公爵領ですよ?」


 アンナとジーンは私を見て首を横に振った。


「セオドーラ様が亡くなってすぐに、コフィを放棄しました」



 幽閉されている間、カサンドラからいくつか所領を奪われたのは知っている。

 だが、放棄した所領の話は聞かされていない。

 なぜ母が関係するのだろう?



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



「セオドーラ様がエドガーお坊ちゃまばかり旅行に連れ出した理由がそれです」

「セオドーラお母様は私に跡を継いで欲しかったのです!思い出しました!」


 エドガーが頬を赤くして幸せな笑顔を浮かべた。

 思わず私は泣きそうになった。


「はい、そこまでぇー。思い出話の続きは明日」


 ヴィオラがエドガーの耳を塞いだ。

 デーヒラの薬剤のせいだ。

 弟はもどかしいだろうが、一気に記憶を取り戻すと大変な負担が掛かる。


「……。セオドーラ様は公爵領だけでなく、一族や友好的な各領主のためにダンジョンや魔獣の住処で魔法をお使いになられました」

「モンスターや魔獣の駆除完了後に、旦那様であるギディオン公爵がパレードなどを催されたのです」

「手柄は公爵が貰うのか?嫁の功績を奪って、さぞ誇らしかっただろうな」


 父が同行していたのは二人の仲が良かったから、というわけではないようだ。

 私の思い出の中にいる両親と、本当の姿は大きな違いがあるのだろう。



「お母様が亡くなってコフィのダンジョンは放置されたのですか?」

「コフィのダンジョンはかなり活発なダンジョンです。定期的にモンスターを排除しないと”ダンジョンホード”が発生します」

「”ダンジョンホード”?」

「ダンジョン内で溜まりに溜まったモンスターが、一気に溢れ出る現象だ」


 ケリマが顔を歪めて言った。


「ケリマは狩猟民族出身だから暗闇の中でも問題なく行動できる。ダンジョンに忍び込んで、”ダンジョンホード”が近いかどうか調べるのが得意でな」

「なるほど。モンスターの気配を感じ取る達人なんですね!」


 感激するアンナとは対照的に、ケリマの顔が歪んだ。


「余計な気を回すな。私たちの部族は帝国の奴隷にされた時期があったんだ。だから危険なダンジョンの偵察をやらされた」

「実際、適材適所だったけどな。こいつらの部族は音もなくモンスターに近付けるし、反乱を起こしたときは、誰にも気付かれることなく大勢の帝国兵を始末した」


 ロマッリが優しい表情でケリマに頷いた。


 ケリマは奴隷にされたことを恥じているのだろうか?

 軽々しく聞けることではない。



「コフィで”ダンジョンホード”が発生して、お兄様が周辺の所領まで放棄したのですか?」

「はい。ダンジョンのモンスターを減らそうにも被害が大きすぎましたし、”ダンジョンホード”が発生した後は、兵力を結集して周辺の村人や町人を避難させるので手一杯でした」


 ジーンは世間話をするように兄の失態を語った。

 母が亡くなった時点で予測がついていたのだろう。


「”ダンジョンホード”を抱えて、所領の境界線だけを維持することは?」

「コフィを放棄しないと外交問題が発生したはずです。西はニュエルソーン王国、北は森の民ホルスタの領地がほど近い位置にあるのです」


 コフィから国境まで距離があった気がする。

 だが、溢れ出たモンスターたちの行動範囲が広いのだろう。

 所領で発生したモンスターを放置することは領民の悪感情を生む。


 ましてや、それが隣国を荒らしたとあっては、国家間の火種になってしまう。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



「俺とケリマがお前らの王国に呼ばれたのは、コフィの”ダンジョンホード”が近いからだ。王国の直轄地まで被害が及ばないように王国軍や傭兵も駆り出される」

「私がダンジョンの偵察でそれなりに稼いで、”ダンジョンホード”が発生したら適当にモンスターを狩って賞金を貰う予定だった」


 ロマッリは腕を組んで、頭を真っ赤にして不機嫌になった。


「わざわざこんな寂れた王国に来てやったのに、約束の前金が払えないなどと抜かしやがって。王子の婚約式や結婚式が決まったとか、知るか!ご託はいいから今すぐ金を払え!」


 まるでそこに担当者がいるかのようにロマッリが大声を出した。


 ゲルルク王子の婚約式や結婚式だとすると、私のせいかもしれない。

 もちろん、婚約を承諾してないから私は悪くないはずだけど……。


「”ダンジョンホード”が近づいてるとして、いつぐらいに訪れるのです?対応するのは王国軍だけですか?」

「早くて来月中、遅くとも再来月中になるだろうな」

「国境線付近を守備することになるから、各国の王国軍は対応に追われることになるぞ。所領に面しているハーディング家かミラージェス家も私兵を投じることになるはずだ」


 コフィからすぐ南の所領はその昔祖父が発展させた土地だ。

 優良な所領は、カサンドラが真っ先に兄から奪っているはず。

 それならば、近隣の3カ国とカサンドラの軍が対応することになる。


「お兄様はコフィを放棄した後、”ダンジョンホード”を放置した責任を問われなかったのですか?」

「問われませんでした。そもそもコフィは、セオドーラ様が公爵家に嫁いで来られることが決定して、所領に組み込まれました。それまでは、各国に”ダンジョンホード”をもたらすだけの厄介な土地でした」


 コフィは、どこの国も所有する価値のない危険な土地だったのか。

 母が規格外すぎたのだろう。

 そんな土地を治めつつ、各地でモンスターを処理していたなんて。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



「ヴィオラ。エドガーから手を離してください」


 私はエドガーの耳栓を外した。


「我らの王国の最初の領地をコフィと定めます。建国の時期は、コフィの”ダンジョンホード”が終了してからになります」

「かしこまりました!コフィに我らの王国を建設することとします!」


 アンナとジーンが驚いた顔でお互いを見た。

 ロマッリとケリマは悪だくみをするような顔をしている。


「私バイオレットと弟エドガー両名に流れるハーディング公爵家の血筋は、ヴェルシナーク王国における王族の血縁者であることを証明するモノです。そこで、我々こそが正当な王家であることを宣言することとします。正統ヴェルシナーク王国もしくはハーディング王国、いずれかを呼称することとなるでしょう」

「は……、はい。正統ヴェルシナーク王国もしくはハーディング王国を呼称いたします」


 ロマッリが満面の笑みで口を開く。


「おいおい、いきなりヴェルシナークと戦争する気か?俺とケリマで大嘘をついて、国中の傭兵をかき集めることになるなぁ」

「それは、あとが怖すぎるだろ……」


 ロマッリには悪いが、言ってみたかっただけである。

 正統ヴェルシナーク王国と口にするのは気分がいい。

 もちろん、宣戦布告にしかならない宣言だ。


「時期尚早にもほどがある発言でした。訂正いたします。建国は皆さんの心の中に留めて置いてください」

「建国の訂正を認めます」

「私バイオレットの幽閉およびエドガーの教会送りという不当な行いの首謀者、兄クリフォードとその妻カサンドラを強く非難します。相続権すら奪われた我々は、放棄されたハーディング家の所領であるコフィに避難し、近隣諸国に助力を願うこととします。見返りは今後発生するであろう”ダンジョンホード”の阻止」


 まずは国家としてではなく、ハーディング家の内輪揉めから始めよう。

 いきなり王家に喧嘩を売る必要はない。

 そして、コフィを領地にするなら”ダンジョンホード”の阻止は当然である。


「内輪揉めが長引いて王国間の代理戦争になれば、なし崩し的に独立を認めてもらえるかも知れんな」

「コフィは最近ハーディング家が自ら放棄した所領だから、表立って非難をしてくる連中はいないだろう」


 ロマッリは建国をさせたくてたまらないようだ。

 ケリマは慎重に状況を分析していくタイプなのだろう。


 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



「次に人材確保として、建設大臣にモーリス男爵を推薦いたします」

「かしこまりました!建設大臣にモーリス男爵を任命します!ただし、大臣に着任するまでに、伯爵以上の地位を与えてください」


 大臣は伯爵以上が妥当かもしれない。

 だったらロマッリは?

 建国は先だから考える必要はないか……。 


 モーリスの名前を聞いてジーンが私を見る。


「モーリス様は、現在投獄されております」

「どんな問題を起こしたのですか?」

「クリフォード公爵の事業失敗の責です」


 ハーディング家の建設や鉱山開発にモーリスは欠かせない存在だ。

 責任をなすりつけて投獄するのは、自分の首を絞めようなモノ。

 ただモーリスが投獄されたとすると、私にメリットが発生する。


「じゃあ、人材登用に繰り出すしかありませんね」

「脱獄させるのか!スカウトが簡単にできていいな」

「ええ。しばらく賃金の交渉もして来ないでしょう」


 コフィを手にするには、最低限モーリスの確保が必要だ。

 使ったことのないミリタリー魔法<バンドルマイト>も練習しなければ。


「まだ領地もないのに建設大臣なんて雇用する意味があるのか?」

「必要です。次の”ダンジョンホード”を利用するには、彼を今月中に確保しないとなりません」

「ほぉ。周辺国が必死で抑えようとしてる災害を利用するのか!?」


 ロマッリは楽しそうに何度も頷いた。


「いいだろう。すぐに脱獄させてやろう。衛兵を皆殺しにすればいいか?」

「男爵は田舎の砦に捕らえられております。大勢死者を出したとあっては、ハーディング家の責任になりますから、皆殺しはおやめください……」

「じゃあ、私が深夜に忍び込んで、屋内の衛兵だけ全部殺せばいいか?」


 ケリマさん、それもほぼ皆殺しです……。


 お金にならない牢獄の管理なんてカサンドラがやるはずがない。

 だが、おかげで脱獄の難易度が一気に下がる。

 兄には悪いが、兄や部下たちの管理能力はかなり低いからだ。


 田舎の砦なら< ジェットブースター >で簡単に侵入できそうだ。


 それには、ズボンを履く許可が出るかどうかが大事かもしれない。

 許可が出なければ、ロマッリたちが大量虐殺を始めてしまう。


子供二人・使用人二人・部外者一人・謎の二人との建国会議でした。

コフィを抑えカサンドラたちと戦う準備のため、人材確保に乗り出すことになります。


次話は、ヘッドハンティグという名の脱獄の手伝いになります。


※ブックマークありがとうございます

まだ、本番への前準備ですがお付き合いくださいませ

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